19.迷路
エイルがパーティに加入して数週間が経った。
本人曰く今までの中で最長らしい。
この数週間の間で、エイルにもある成長があった。
魔法が使えるようになったのだ。とはいえ、
実戦で使えるわけではない。日常で何かを
照らしたり、水を生成して飲んだりといったことは
何の躊躇いもなくできるようになっていた。
戦闘面で使えるようになる日もそう遠くない
かもしれない。
そんなこんなで色々ありつつ、俺たちは今日
とある場所に来ていた。
「ここがCランクダンジョンか…!」
前回のダンジョンとは違い、完全に地中に
埋まっているのではなく、石でできた小屋が見える。
おそらくこの小屋の中に地中へと続く道が
あるのだろう。
扉を開けようとノブに手をかけるが、回らない。
押しても引いてもピクリともせず、かといって
鍵穴も見つからない。
「ああ、それはっスね…」
エイルがひょいと横に並んだ。そしてノブを握り
しばらくすると、扉がひとりでに開いた。
「Cランクダンジョンからは、入る時に扉に
魔力を込める必要があるんス。」
「そうなのか」
エイルは、俺たちの中でもかなり知識のある人間だ。
幅広いパーティで色々なものを見てきたからだろう。
扉の中へと進むと、そこにはまるで生活感のない
空間が広がっていた。8畳ほどの室内に不規則に
配置された光源、そして地下へと降りるための梯子。
梯子の下を覗くとうっすらと地面が見える。
そこまで深いわけではなさそうだ。
基本は前から俺、シェル、エイル、アンの順で
ダンジョン内を進むことになった。
梯子を降り、炎魔法で周囲を照らす。
敵も罠もなさそうだ。上に問題ないと合図する。
前回のダンジョンはゴブリンと虫だった。
今思い返してもワイルドな組み合わせだ。
今回のダンジョンも油断できない。
全員が降りたことを確認して、俺は前を照らしながら
前方にある長い坂を下る。すると、うってかわって
明るい部屋に出た。目の前には3つに分かれた道が
ある。
「なんか変っスね…」
「そうなのか?」
「そうっスよ。こんだけ開けてれば、魔獣の
1匹や2匹はいるはずっス。もしかしたら曲り角
とかにいるかもしれないんで、
警戒していきましょう」
「分かった…ちなみに、どの道に進めばいいかとか
分かるか?」
「いやー、わかんないっスね」
「さすがにか…」
迷っていると、シェルが一歩前へ出てきた。
「こういうのは、真ん中を突っ切ればいいんだ!」
うーむ。まあ、何も分からない以上、そういった
迷信に従うのもたまにはありかもしれない。
アンとエイルの表情を見ても、大方俺と同じことを
考えているのだろうと分かる。
「それでいこうか」
今は情報が少な過ぎる。成功すればラッキー。
失敗したって誰も悪くはない。
エイルの忠告に従い曲り角を警戒しながら
中央の道を進む。だが、特に危ないものはなかった。
しかし、その先の光景に、俺たちは息をのむ。
道はさらに二手に分かれ、どちらの道も
複数の道へ枝分かれして繋がっている。つまり…
「迷路ってことか…!」
予想していなかったダンジョンの形に胸が鳴る。
不安が大きいが、同時に好奇心も押し寄せてくる。
「次はだなぁ…」
シェルはもう次に進む道を考えているようだ。
止めるべきか、放っておくべきか。
「一旦戻って考えないか?」
アンがシェルを止めた。
「む…ま、それもそうだな」
というわけで、最初の部屋まで戻ってきた。
「それで、どうする?」
「はい!アタシ、一回っスけどこのタイプの
ダンジョンは経験あるっス!」
なんと。うちの癒士はなんて優秀なんだ。
「みなさんも気づいてると思うっスけど、
多分このダンジョンは迷路になってます。
アタシが前行ったダンジョンでは、いわゆる
『お邪魔虫』が迷路を徘徊してました。」
アンが青ざめた顔をする。
いや、多分「お邪魔虫」は必ずしも虫じゃないぞ。
「お邪魔虫は倒せなくもないんスけど、狭い道で
戦うのは難しいから基本見つからないようにするか
逃げるかっス。」
「つまり、お邪魔虫を避けながらゴールを
目指すと」
「ですです。で、アンさんにお願いしたいことが
あって…」
「なんだ?」
「道を進む時、左手側の壁に炎魔法で焦げ目を
つけて欲しいっス」
「迷わないようにするためか」
「そうっス」
「じゃ、ウチらは別れ道は左を選びながら
進むんだな」
シェルに目をやると、イマイチ意図がよく
分かっていなさそうだった。あとで説明してやろう。
――
「…つまりは『確実にゴールする方法』じゃなくて『迷子を防ぐための方法』ってことだな?」
「だいたいそんな感じだ」
これで、全員の準備が整った。
「よし、出発だ」
アンが指先を炎に変えて壁に跡をつける。
エイルが言うには、この跡をつける作業にも
手を壁から一定距離離さないと火傷を負う
だとかの注意点があるらしいのだが、アンの
【発火】はそれらを考慮しなくて良いという点でも
非常に便利だ。
体感100mほどか。そこそこの距離を進んだ先で、
俺たちは例の「お邪魔虫」の存在を目にした。
それは、以前対峙した時よりも強固な装備に身を
包んだミノタウロスだった。
鼓動が速くなるのを感じる。息を潜めてソレを
見ていると、俺たちの進行方向とは別の道へと
姿を消した。
エイルと顔を見合わせる。
「あれって…」
「ミノタウロスっスよね…」
しかも、前回はほとんど裸体だったのに対して
今回は金属製の鎧をこしらえ、その両手は
150cmはあろうかという大斧をがっしりと
掴んでいた。今の俺たちではどう足掻いても勝てる
相手ではない。さすがのシェルもその異常性を
察知したのか、額に汗を浮かべながら聞いてくる。
「ミノタウロスって、前2人が戦ったやつだよな…
どうするんだ?」
「どうするもこうするも、見つからないように
するしかないだろ」
「だよな…」
その後も、何度かミノタウロスを見つけたが、
俺たちが見つかることはなかった。
またしばらく進み、十字路に出た。中央は金網に
なっており、下にも道が見える。そして、
十字の四方向それぞれの床にはスイッチと思わしき
凹凸がある。周りに罠がなさそうなことを確認し、
試しに土魔法で作った重りを置いてみた…が、
びくともしない。重さが足りなかったのだろうか。
不思議に思ったのか、エイルが足をスイッチに
乗せる。すると、スイッチはそのまま沈み、
カチッという音を鳴らした。
やはり重さが足りなかったようだ。重りを
作り直そうと一度前に作ったものを壊す。
土の塊は分解され砂になったかと思えば、目には
見えないほどの粒となり消えた。けれど、スイッチは
依然押された状態のままだ。
「ア、アタシが重いわけじゃないっスよ…!」
エイルが足をどけると、スイッチは再び上昇する。
「なっ…!」
(うーん…)
なんだか違和感がある。俺も、足先で優しく
スイッチを押してみる。なんと、スイッチはほとんど
反発を感じさせず再びカチッとはまった。
なるほど、どういった原理かは分からないが
人が乗ることで反応するスイッチのようだ。
隣でエイルがほっとした顔をする。
つまりは、4人が同時にそれぞれのスイッチを
押す必要があるということだ。そうすれば、
おそらく何かが…というか、この金網が開いて
下への道が開くのだろう。
特に意味があるわけではないが、最も離れた
スイッチのある場所へと移動する。
こういうほとんど変わらない4択の時、その中では
1番面倒臭いのを選んでしまうのは俺が腐っても
日本人だからだろうか。
他の面々も察したのか、特段言葉も交わさず
それぞれが別のスイッチへと移動を始める。
よく考えれば、このまま下に降りたとて何か意味が
あるのだろうか。下にゴールがある保障はない。
それでも押して損はないはずなのに、どうしてか
「やめた方がいい」と思っている自分がいる。
来た道にはエイル、その向かいに俺。エイルから
見て右側にシェル。既にスイッチの上に立っている。
アンが、今まさにその足をスイッチの上に
乗せようとしている。
「なあ、やっぱりもう少し―」
そう言って俺がスイッチから足を離す前に、
アンが先にスイッチを踏んだ。
爆発音のような音ともに、十字の中央部分から
柱のような塊が落ちてきた。それは丁度金網が
あった場所と天井を繋ぐように、通路を塞いでいる。
表現が難しいが、つまるところ、俺たちは、
化け物の徘徊する迷路で分断されてしまった…!




