18.加入
街に戻ると、何度か見知らぬ冒険者に
声をかけられた。どれもエイルがかつてお世話に
なったパーティのようだ。
不思議なことに、追放されたどのパーティの
メンバーともエイルは仲は良さそうだった。
この感じだと、本当に実力不足だけで
追放されたらしい。それを人は追放と呼ぶのか。
もっと、戦力外通告とかでいいのでは。
そんなことはさておき。
「多分、そろそろシェルとアンも帰ってるから、
4人でリベンジしよう」
「ミノタウロスにっスか?」
「いや…あれはちょっと勘弁…」
「アタシがいい感じの依頼探しとくんで、お二人を呼んできてくれませんか?」
「分かった」
――
シェルとアンを連れて冒険者ギルドまで戻る。
「おーい、エイル、連れてきたぞ」
「あ、ベルデさん、ちょっと来てください」
エイルが手をひょいひょいと手招きする。
「これっス…」
エイルが指差したのは1つの依頼。
そこに書かれていたのは…
魔獣討伐B級 討伐対象:ミノタウロス
「え?じゃあ、俺らが受けたD級の
デカい牛討伐は?」
「それなんスけど、アタシ、ベルデさんに
担がれてる時にやけに大きい牛を見たんすよね…」
「あ…」
つまり、俺達は討伐対象を勘違いして惨敗したということか。これは俺の勘違いに責任がある…が、
もっと、こう、挿絵とかあっても良かったんじゃ
ないだろうか。
「そういうことなんで、今度こそこの
デカい牛討伐をやりましょう!」
「そうだな」
―移動中、シェルとアンにミノタウロス戦で
分かったエイルのことについて伝えた。
本人の事情でまともに魔法が撃てないこと、
それでも、治癒魔法の腕は確かなこと。
「そういえば、俺に治癒魔法をかけた時、
詠唱ってしてたか?」
「ふっふっふー!いいところに気づきましたね
ベルデさん!それがアタシの特性っス!」
おお、ということは、無詠唱というやつか。
治癒魔法は詠唱時間が必要なのがネックだから、
これはかなり心強いぞ。
「アタシの特性は、【無声唱】!」
【無声唱】?【無詠唱】ではなく?
聞き間違いだろうか。
「もっかい言ってくれるか?」
「だーかーら、【無声唱】ですってば!」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
「詠唱を口に出して唱えなくてもいいんス!
頭の中でちゃんと唱える必要はあるっスけど」
「つまり、時間短縮は?」
「あー、無理っスね」
ならば、逆にどういったメリットがあるのだろうか。隠密とかか?エイルは、到底そういったのが得意
そうな性格には見えないが。
「結構便利っスよ。そりゃ無詠唱には
負けますけど、長い詠唱も噛んだり詰まったり
するミスもなくなるんで」
なるほど、メリットはあるのか。
そんな話をしているうちに、目的地についた。
途中、シェルがミノタウロスに戦いを挑もうとした時
は焦りに焦ったが、それ以外は特にトラブルも
なかった。
「で、そのデカい牛はどこにいるんだ?」
シェルはミノタウロスを見てから闘志を
抑えられていない。
「あー、アレじゃねえか?」
アンが遠くを指差す。俺たちには何も見えない。
「これがアンさんの【極視】ってやつスか?」
「そう、凄いだろ?」
「凄いっていうか、アタシ何も見えないんスけど」
「俺もだけど、アンには見えてるんだよ」
「へぇー」
「じゃ、行こうか」
「シェルさんもう行ってますけど」
「あ、あいつ…!」
今回の趣旨はエイルを見ることなのに、戦闘狂め。
たどり着いた時には意外にもまだ戦闘前だった。
「待っててくれたんだな」
「いや、もう1匹やった」
こいつ。
今回の討伐依頼は10匹だ。まだ9匹残っている。
「エイル、魔法撃てそうか?」
「いやぁ、ちょっと…」
うむ。魔法が撃てないとなると、どうエイルの力を
見ようか。流石に怪我してもらうわけにもいかない…
今考えてもしょうがないか。
「シェル、今度は俺にやらせてくれ」
シェルが一歩引いてくれたのを見て、剣を抜く。
【魔剣】刀身=炎
最近、ファイアブレードが優秀すぎるあまり、
他の魔剣を使っていない。強いなら強いで別に
構わないのだが、他の属性にも何か活用できる
方法を見つけてやりたい。
突進してくる牛をひらりとかわす。
デカい牛は、そこまで強くもない。
動きも遅くて隙だらけだ。
一度斬り、距離をとる…いや、斬るか?
迷っている時間がもったいない、斬ろう。
もう一度斬りつけ、すぐに後ろへ跳ぶ。
炎が牛の体に燃えうつり、牛が暴れる。
隙を見てもう一度斬ると、牛は動きを止めて倒れた。
(…弱い)
別に俺が強くなったわけではない。
俺なんかよりもシェルの方がずっと強い。
それでも、一度ミノタウロスと戦った俺は、
メンタル面で大きく成長したはずだ。
「ベルデ、なんか強くなったか?」
「どうだろうな」
どうやら、シェルの目から見てもそう映るらしい。
心に余裕ができたからか、焦らず的確な判断ができる
ようになったのだろう。惨敗したのも、良い経験
だったのかもしれない。
牛が煙となったのを確認して、魔石を拾い上げる。
すると、エイルが近づいてきた。
「ベルデさん、なんで2撃目を入れるか
迷ってたんスか?」
迷ってた?いや、確かに迷ったけど、そんなの
一瞬で他の人間に分かるほど硬直があった
わけでもない。
「元から1斬りしたら退がるっていうスタイル
でやってたから癖で退こうとしたのかな」
「なるほどっス」
それだけ聞くと、アンの方に行ってしまった。
気になってシェルに尋ねてみる。
「なあ、俺が2撃目を撃つ時、迷ってるように
見えたか?」
「いや?ベルデにしては珍しい動きだなとは
思ったけど、スムーズだったぞ」
「そうか、ありがとう」
「?」
剣士が本業のシェルにさえ見えていなかった。
どうやらエイルは優れた観察眼を持っているようだ。
――
結局その後エイルが何かすることはなく、
俺とシェルとアンがデカい牛を討伐して終わった。
エイルは明らかにしょぼくれている。
ただ、この依頼の中で俺たち3人はエイルの
観察眼の凄さを各々感じ取っている。
「それで、その、今日一日アタシと依頼やって、
どうでしたか?パーティ加入の件…」
そういえば、まだ言っていなかったか。
この1日で確かに問題があるのは分かったが、
かといってパーティに入れないというほどのもの
ではない。
シェルとアンが、まだ伝えていなかったのかという
目で俺を見つめてくる。もとはといえば、
俺が朝加入を認めることを伝えるはずだった。
2人の突き刺すような視線が痛い。
そしてその視線が作り出す空気により加入させて
もらえないと勘違いしたであろうエイルは
気まずそうに下を向いている。
「こほん、エイルくん」
「…はい」
「あなたは今日から俺たちの仲間だ!」
エイルがキツネにつままれたような顔をする。
「ほ、ほんとっスか!?」
「仲間を疑うのか?」
「疑わないっス!」
エイルは嬉しそうに跳び、抱きついた…アンに。
「ちょ、離れろよ」
「いいじゃないっスかー、仲間っスよ仲間!」
「あのなぁ…」
アンも口では拒否しているが、顔は満更でも
なさそうだ。
それにしても、2人はいつの間に仲良くなったの
だろうか。後衛だし、俺の知らない間に話とか
してたのか。よく考えればアンはずっと女子1人
だったしな。色々負担とかかかってたかもしれない。
そういう点でも、エイルの加入は意味を
持つだろう。
シェルがパンと手を打つ。
「それじゃ、エイルの加入を祝して飲みにでも―」
「いや俺たち金欠だろ」
エイルのことで意識があまり向いていなかったが、
俺たちはスリにあってから今日を生きるための
収入を依頼により得ている状況だ。大きな不便は
今のところないが、宵越しの銭は持たない。
まさに江戸っ子状態だ。
「お金なら、アタシ結構持ってますよ」
「マジ?」
「マジっス」
とはいえ、今仲間になってもらった人間相手に
いきなり金をせがむというのもどうだろう。
「ちょうどアタシもお酒飲んでみたかったんス、
入れてもらったお礼…ってわけじゃないっスけど、奢りますよ」
「ガチ?」
「ガチっス」
――
エイルがオススメの酒場があるということで、
そこに連れていってもらうことになった。
ご馳走様です。
「あら、エイルちゃん、いらっしゃい。
今日もジュースでいいかしら?」
「いや、アタシは今日はお酒飲みます!」
入った店は、酒場というよりバーのような
感じだった。なんだかムーディだ。
バーテンダーらしいお姉さんもセクシー系だし。
「…またパーティを追放されたからって、
やけ酒は良くないわよ」
「やけ酒じゃないっス!今日は仲間と飲みに
来たんスよ!」
「本当?今度はどれくらい続きそう?」
「今度こそ本当の本当にずっと続きます!」
「ふふふ、そうだといいわね。そちらがお仲間?」
各々が軽く自己紹介をする。
「私はこの酒場のオーナー。エイルちゃんとは
昔から仲良くさせてもらってるわ。」
「腐れ縁の間違いっスよ」
「…ミステリアスを売りにしてるから、これ以上は
何も話せないの。ごめんなさいね」
ミステリアス…まさに妖艶な美女って感じだ。
「エイルちゃん、前にお酒はそこまで美味しそうに
飲んでなかったわよね?」
「それは過去のアタシっス!今は違うっスよ!」
「へぇ?」
美女が背にある棚から一つ瓶を取り出し、コップへ
と注ぐ。そして、そのコップはエイルの前へと
置かれた。
エイルがコップをもち、ちょびちょびと飲む。
どうみても美味しそうには飲んでいない。
かなり渋い顔をしている。
「無理せず、ジュース割りとかにしましょうか」
「…お願いします」
アンがトントンと俺の肩を叩く。
「お前もジュース割りにしてもらえ」
「なんでだよ、俺は別に酒飲めるぞ?」
「…まだそんなこと言ってるのか?お前酔うと
酷いんだから薄めてもらった方がいいぞ」
「え、俺そんな酷い?」
「ああ」
割とショックだが、思い当たらない節がないわけでも
ない。酒飲んだら前後の記憶は丸々消えるし。
「すみません、俺もジュース割りでいいですか?」
「いいわよ」
しかし不思議だ。こんな魅力的な女性がいる
にも関わらず、この店には俺たちしかいない。
別に、見つけにくい場所でもないと思うのだが。
「こちらがお飲み物になります、エイルお嬢様」
「…それいい加減やめてください。怒りますよ」
「そんな怖いこと言わないで、ちょっと
からかっただけじゃない」
「もっと別のからかり方してください」
「はいはい」
「ベルデさんも、こちらになります」
「ああ、どうも」
「アンさんとシェルさんは、普通のお酒で
よろしかったですか?」
「はい」
「では、こちらです」
「よーし、それじゃ、乾杯するぞ!」
割とアダルトな空気だったが、そんなもの
お構いなしにシェルは椅子の上に立った。
別に俺たち4人しかいないのに。
「エイルのパーティ加入を祝して…」
『かんぱーい!』
今回は、酒場での意識は割と残っている。
ジュース割りにしてもらったのもそうだが、
酒があまり美味しくなかった。
これがあまり他に人がいない理由かもしれない。
冒険者にとって、どれだけ魅力的な女性がいても、
重要なのは酒のうまさだ。
女性とのそういった欲求を満たすためのお店は
充実しているし。
ただおつまみのように出てくる料理は
信じられないほどに美味しかった。高級フレンチ
みたいなものばかりで久々に舌が肥やされた
感覚があった。
それと、エイルが実はかなりテーブルマナーに
優れていた。そうは見えないが、非常に上品に
食事をしていた。ただ、酒が効いてくるとその
テーブルマナーも段々と崩れてくる。最終的には
テーブルに突っ伏しながら話していた。
あとは…あまり覚えていない。
やはり、俺の酒癖は悪いようだ。
――
相変わらずベルデは酒を飲むと酷い。
ウチの提案でわざわざジュース割りにしたのに
もう寝てしまった。シェルももう落ちそうだ。
エイルは…酒がかなり回っているみたいだけど、
まだ寝そうにはないか?
さっきまではシェルと楽しそうに冒険者という職の
自由さについて語っていたのに、いつの間にか
すっかり勢いがなくなってしまった。
「…アンさん、アタシ、こんなのはじめてです」
「酒をはじめて飲んだらみんなそうなる」
「お酒もそうっスけど、なんというか、心が
満たされてる感じっス。ここまで安心できるのは、
今までほとんどなかったというか…」
「…良かったな」
「はい」
エイルにとって、ここが居心地の良い場所であるのは
いいことだ。
バタンッという音がしたと思うと、どうやら
シェルも寝てしまったようだ。コイツら、
誰が宿まで運ぶと思ってるのやら。
「シェルさんもベルデさんも寝ちゃったみたいね」
話しかけてきたのは酒場のオーナーだ。
「そしたら、秘密の女子会でもしちゃいましょうか」
何を言い出すかと思えば、案外乙女みたいな提案だ。
別に断る理由もないけれど。
「ねえ、エイルちゃん、アンさんに聞きたいことは
ないの?」
「聞きたいこと…?そうだな…やっぱベルデさんとかシェルさんとかとはそういう関係なんスか」
いきなりとんでもない質問だ。
相当酔っているらしい。
「ウチはそんなこと考えたことはねーよ。
一緒の施設で暮らしてたし、家族みたいなもんだ」
「へー、家族…ってことは、恋愛対象には
ならないんスねー」
「まあ、そうだな」
なんでこんなことを聞くんだろう。
女子会といっても、他に話題くらいありそうだけど。
エイルの顔を覗き込むと、やけにニマニマしている。
これはまさか、まさかなのか。
気があるとすればシェルか?割とイケメンだしな。
でもエイルってあんまりシェルと喋ってないし…
ということはベルデ?アイツが?ないない。
「エイルちゃん、ベルデさんのこと好きでしょ」
オーナーがかなりぶっ込んだけど、
エイルはどう返すんだ?
「ななな、何言ってんスか!あんな人のこと、
微塵も、これっぽーーーっちも興味ないっス!」
こりゃ、まじか。
「そっかー、ふーん、エイルちゃんにもついに
春がくるのかー」
「だから、違います!」
にわかには信じられない。あんなやつのどこが
いいんだろうか。
その後の女子会は、平和に続いた。
―ほら、帰るぞ、2人とも起きろ」
2人の頭を叩くが、起きる気配はない。
「エイル、運ぶの手伝ってくれるか?」
「はい、任せてくだ―」
「はー、よく寝た」
ベルデが起きた。これは、マズイ。
きっとまだ酔いは冷めていない。寝ていてくれれば
安全だったのに、起きてしまえば何を
するか分からない。
「ベルデ、帰るぞ」
声をかけても聞こえないのか、辺りをキョロキョロと
見回している。しばらくして立ち上がり…
「エイル、ちょっとついてこい」
「ええ!?あ、は、はい!」
そのまま行ってしまった。エイルがいるから
宿に帰ってくることはできるだろうが、
少し不安だ。主にベルデのせいで。
オーナーは遠のく2人に手を振っている。
そういえば支払いはエイルを
頼りにしていたんだった。どうしよう。
「代金はゼロでいいわよ、面白いものも見れたし。
これからもエイルちゃんとよろしくやってあげてね」
「はい、ありがとうございます」
シェルを担ぎ上げ、店を出る。
…重い。
――
エイル達が帰ってきたのは真夜中だった。
ベルデは帰ってきたと思えばすぐベッドに
倒れ込んだ。エイルもなんだか満足そうだ。
(なら、いいか)
2人が寝たのを見て、ウチもベッドに潜る。
4人となると、宿も一部屋では狭いだろうか。
今度、みんなに相談してみよう。
とりあえず今日は疲れたし、また明日、考えれば―




