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W  作者: ちーす
はじまりの街編
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14/22

12.大扉

「大扉ってのはな、ダンジョンの主がいる部屋に

繋がってるんだよ」


「主…」


要は、ボス部屋ということだ。


「その主を倒すとどうなるんだ?」


「倒せば、部屋の中に魔石が落ちる。その魔石に

触れると、ダンジョンが消えるんだ」


「ダンジョンが消える!?」


「そうだ」


ダンジョンはずっとそこにあるものだと

思っていたが、違うらしい。


ボスと戦うのであれば、それなりの用意はした方が

良いだろう。


というわけで、作戦会議だ。


「ダンジョンの雰囲気的に、主は虫かゴブリン

だろう」


「虫ならウチは役に立てないぞ」


「はいはい…」


「とりあえず俺とベルデが前衛だ。で、アンは後衛。

取り巻きがいるなら、そいつらを優先して

倒そう。数が少ないならアンだけに任せてもいい。

ベルデは俺に【加速】を使って欲しい。体力が

キツくなったタイミングで交代しよう」


「ウチの魔法は何がいい?」


「とりあえずは炎だな。汎用性が高い。何か他に

有効打が見つかればその時変えよう」


普段はテキトーというか、行き当たりばったりな

シェルだが、この作戦会議では頼もしく思えた。


「よし、行こう」


軽くその場でジャンプする。俺たちなら、できる。


そうして、大扉を開いた。ゆっくりではなく、

道場破りみたいに、足で蹴ってバーンと。


すぐに構える。


今までの何倍もあるだろう部屋だ。


学校の体育館2つ分くらいだろうか。


その奥にいたのは…デカいゴブリン。


「ジャイアントゴブリンだ!」


「よし!」


アンがガッツポーズをする。まだ勝ってもいない

のに。本人にとっては、虫じゃなければなんでも

いいのかもな。


取り巻きはゴブリンが10数匹。


「まず取り巻きだ。ベルデは右から!」


「了解」


【魔剣】刀身=氷(アイスブレード)


今のところ、アイスブレードが1番強い。比較的

傷は深くなるし、魔力を込めれば一気に凍る。


1匹、また1匹と氷漬けにする。


強いて言うなら霧になるまで時間がかかることが

弱点だろうか。


ゴブリン達は知性があるといえど、道具が使える

程度。よく開けたこのフィールドなら、そこまでの

脅威ではない。


仕留め損なったゴブリンはアンが燃やして

くれている。


取り巻きは、もう残り数匹だ。


ジャイアントゴブリンとやらは、動かず、その場に

座っている。


(余裕なのか、慢心なのか…)


俺の方の取り巻きは片付けた。シェルの方も

順調そうだ。


(手を貸す必要はなさそうだな)


ジャイアントゴブリンを睨む。縦にも横にもデカい。

3m越えのワガママボディだ。


目が合った。


確かにこちらを向いているが、立ち上がる様子は

ない。


距離を詰める。俺1人で敵う相手かは分からない。


「待ったか?」


シェルが合流する。


「いや、今来たところ」


超ベタなセリフを返すが、こちらの世界にはない ようでシェルは「そうか」とだけ言って剣を構えた。


「疲れてるだろ、先に俺がやる」


アイスブレードで相手の腕を斬る。


(硬いっ!)


否、硬くはない。柔らかすぎるのだ。


切れ味の悪いこの【魔剣】では、衝撃を吸収され

切り傷をつけれない。


(それなら…)


【魔剣】刀身=炎(ファイヤブレード)


もう一度、腕を狙う。だが、避けられた。

動けるデブだ。


アンの魔法が飛ぶが、それも避けられる。俊敏な

上に、適当な攻撃では無効化される。


シェルが近づき、剣を振る。また避けられた。


(すばしっこいな…!)


俺の魔剣は通用しないので、魔法で応戦する。


速度の出しやすい土魔法を練る。相手の動きをよく

見て…


(今っ!)


気付かれた。にも関わらず、避ける気配がない。

ジャイアントゴブリンは俺の魔法を真正面から

その腹で受け止めた。傷ひとつついていない。


(クソデブめ…!)


俺たちの攻撃が一度止むと、今度はむこうから 動き出した。


(俺に来る!)


速いといえど、避けられない程ではない。

武器は持っておらず、拳を俺に叩きつけようと

している。


ギリギリまで引きつけて、サイドステップで躱す。


ボン、と地面を殴ったとは思えないような音が響く。


(あんなの当たったらひとたまりもないぞ…!)


集中を切らさないよう、避け続ける。単純な

攻撃ばかりだ。


(けど、こっちが攻撃する暇がない!)


このまま体力が尽きれば確実にやられる。デブは、

その顔に気持ち悪い笑みを浮かべている。


が、シェルに背中を斬られたことで、その笑顔が

崩れる。


「こっち来い!」


(よし、シェルの剣なら攻撃が通じる!)


今回のメインアタッカーはシェルだ。となると、

デブの攻撃は俺が対応した方がいいだろう。


アンは魔法を撃ってはいるが、

なかなか当たらずに苦戦している。


もうちょいジャイアントゴブリンのスピードを

落とせば命中率も上がるだろう。


(つまり俺のやるべきことは、デブの気を引きつつ

アンの攻撃が当たりやすいようにサポートして

適切なタイミングでシェルに斬らせる…!)


頭がパンクしそうだ。


ただ、観察していると敵の癖が見えてくる。

基本的にパンチは右腕だ。予備動作も大きく、

アンの距離からでは魔法が当たらないだろうが、

近接でならなんとかその隙をつけるだろう。

おそらく、足も右利きだ。


それと、動きが鈍らない。アンの魔法は当たって

いるものもあるし、シェルの先ほどの一撃は

そこそこのダメージがある。地面をあれだけ

叩きつけていれば反作用でかなり腕も痛みそうな

ものだ。


(痛覚が鈍いのか…?)


よし、とりあえず作戦を思いついた。後は実行のみ。なんとかならなければその時どうにかしよう。


シェルがつけた傷口を狙ってファイヤブレードで

殴る。


「シェル、俺が引きつける!隙見て斬れ!」


ジャイアントゴブリンが振り返る。気持ちの悪い

笑顔ではなく、鬼のような形相だ。


(上手くいくかな…?)


途中までは同じ。ギリギリまで拳が近くに来るのを

待つ。


サイドステップっで避ける。そして、相手の足

めがけてファイヤブレードを…


ガンッ


とりあえず当てた。相手の反応がないので、

あまり手応えを得られない。


また拳が迫る。避ける。殴る。迫る、避ける、

殴る…もう一発殴る。


こちらの動きに余裕が出てきた。


調子に乗って二発殴ってしまった。

ジャイアントゴブリンが突然姿勢を変えた。


俺を殴ろうとしている。


今までのように上から下に拳を叩きつけるのでは

なく、正拳突きのように、正面からだ。

イレギュラーに反応が遅れた。


(しまった!避けれない!)


魔剣を両手で持ちガードする。なんとか直撃は

免れた。


バキッ


(嘘だろっ!?)


俺の魔剣が、ふたつに割れてしまった。それと同時、

伝わってきた衝撃で俺が後方に吹き飛ばされる。


「うぐっ!」


地面と衝突する。動けないほどではないが、

全身が痛みの信号を発している。


「リスキーな隙の作り方だな!」


シェルがジャイアントゴブリンの背をもう一度斬る。


「わざとじゃねぇよ!」


叫ぶと体がミシミシと痛む。


(あのデブ、まだ倒れないのか!?)


俺はもう戦えそうにない。


ダメ押しで、よろけたジャイアントゴブリンの

足に土魔法を撃つ。


(直撃だ!)


「シェル、後は頼んだ!」


「任せろっ!」


シェルに向き直ったジャイアントゴブリンは

以前より明らかにスピードが落ちている。

アンの魔法がどんどん当たる。もうヤツはまともに

戦えない。


(そのために、スネばっか狙ってやったんだぞ…!

弁慶さんが泣くんだ。あんなデブが耐えられる

はずない)


ジャイアントゴブリンは、その場に倒れる。


「トドメだっ!」


シェルが、脳天に剣を思いっきり刺す。


ズブッという音と共に、ジャイアントゴブリンは

動きを止めた。そして、霧となる。


(勝てた…!)


地面に倒れたまま、笑みを浮かべる。

アンが俺に駆け寄ってくる。


「立てるか?」


差し伸べてくれた手を取る。


「あぁ、ありがとう」


シェルもこちらに来る。


「やったな!」


とても嬉しそうだ。初めてのダンジョン攻略だし、

無理もない。俺だって体が無事ならとっくに

飛び跳ねている。


ただ、体の自由が効かないので笑顔で頷く。


「よし、帰るか」


シェルが魔石に触れる。

俺の視界が光に包まれた。


――


気がつくと、ダンジョンの外にいた。今日の朝までは

あったはずのダンジョンの入り口が消えている。


(なんか、夢でも見てたみたいだな)


ズキッ


体の痛みが、夢ではなかったと訴える。

分かってるよ。比喩だ比喩。


そして、シェルの手の中にはキラリと輝く魔石が

あった。透明…とまではいかないが、半透明で、

奥の景色が透けて見える。


日はもう落ちようとしていた。

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