11.ダンジョン
ついに、俺たちはこれからダンジョンに挑む。
心情としては、緊張が6、好奇心が4といった
ところだ。
本来はシェルが先頭だが、まだ魔法が上手く
使えないということで、俺が先頭で炎魔法を使い
ダンジョン内を照らしながら進むことにした。
暗闇のせいで、今まであてにしていたアンの
【極視】は使えそうにない。
常に、どこかしらから俺たち以外の出す音が
聞こえてくる。
そうして進むと、比較的明るい場所を見つけた。
(人…あるいは魔獣か)
歩みを進めると、その場所に辿り着いた。
意外にもそこには誰もいない。
最初に見た時は気が付かなかったが、天井から
吊らされているランタンらしきものが放つ青白い光
が室内を照らしている。
さらに奥へと続く道があるが、それ以降もランタン
は吊らされているようだ。
「ここからって感じだな」
音はちょっと前よりも明らかに大きくなっている。
明かりがあるとはいえ、まだ薄暗い。相変わらず
俺が先頭で進む。
「今、誰かそこ通らなかったか?」
アンが前方を指差す。
俺とシェルにはよく見えない。
「魔獣か?」
「いや、靴が見えた。人だと思う。声かけてみるか?」
「うーん…」
「声かけてみよう」
シェルは能天気そうに言う。
「まぁ、任せるよ」
ことが起きたらその時考えよう。時には大胆さも
大事だ。
「すみませーん、誰かいますかー?」
シェルのその声が反響するばかりで、奥からは何も
聞こえない。
耳を澄ますと、カツ、カツ、と誰かが歩く音が
聞こえる。
その持ち主は、こちらに近づいているようだ。
(人っぽいな…良かった)
安堵の息をつく。
「さがれ!」
途端、アンが叫ぶ。
驚いたが、アンに従い後退りをする。
(アンには何が見えてるんだ…?)
その正体は、すぐに俺の視界にも現れた。
人型で、長い耳、垂れた鼻、短身。そして、
緑色の肌。
(ゴブリンか…!)
ゴブリンは俺たちの前に立つとじっと静止した。
そして俺たちの体を舐めるように見た後、
踵を返して、来た時よりもずっと速い速度で
闇へ消えていった。
「なんだったんだ…?」
「さぁ?俺の剣で斬っとくべきだったか?」
「でも…無害そうだったぞ?」
「そうだな…とりあえず、先進もう」
ヤツが何をしたかったのか分からないまま、
俺たちは前進した。
するとすぐに大きな部屋に出た。ゴブリンの姿は
ない。
まだ戦闘はしていないにも関わらず、息が上がって
しまう。
今までの魔獣討伐は、自分たちで選んだフィールド
だった。しかしダンジョンは違う。
どんな魔獣がいるのか、どれだけの部屋があるのか、
ここでは、魔獣たちに分がある。緊張するのも
無理はない。
カサカサッ
何か、嫌悪感と聞き馴染みを感じる音がする。
アンの方を向くと、ある一点を見つめて
顔面蒼白の状態で固まっている。
その視線の先には…魔獣がいた。
姿は、ムカデにそっくりだ。
サイズは全長2mくらい。
「キャーーー!」
甲高い悲鳴を発したアンは、そのまま何度も
デカムカデに炎魔法を撃ち込んだ。
「あの…アンさん…」
「うるさい!」
まだ魔法を撃っている。とうの昔にデカムカデは
霧となったのに。
アンもそれに気付いたのか、撃つのをやめる。
「ふぅ、悪かった。行こう」
いや流石にクールキャラを保つのは無理があるだろ。
突っ込んではいけなさそうなオーラを出している
ので、進むことにした。
相変わらず一本道だが、定期的に道の脇に部屋が
あり、そこから虫系統の魔獣が出てくる。
今日はアンの本領が見れるかと思ったが、
難しそうだ。
アンは使い物にならないので、俺とシェルが魔獣を
倒す。
この魔獣が落とす魔石は、そこそこ純度が高い。
川にたまに落ちてる石くらいは綺麗だ。
「ゴブリンが出てくる気配はないな…」
「アイツらが来ればウチはボコボコにして
やれるのに…!」
負け惜しみめ。
魔獣を倒し、先へと進むと今までで1番大きな部屋
に出た。さらにいくつかの部屋に繋がっている
ようだ。
ドドドド…
地鳴りがする。
「な、なぁ、虫ってこんな音出せるか?」
「いや、無理だろ」
シェルにバッサリ斬られる。
虫じゃない。虫じゃない…ということは。
地鳴りの原因は、もうすぐ近くに来ていた。
「ゴブリンの群れだ!」
ゴブリンは、魔獣の中では知性があると前に
ロウさんに教えてもらった。
おそらく、最初に出会ったゴブリンは偵察をしに
来たのだろう。あの時倒しておくんだった。
とりあえず、逃げるわけにはいかない。
「戦うぞ!」
「分かってる!」
「ゴブリン相手なら…!」
俺とシェルは前、アンは後ろから魔法でサポートだ。
(試してみるか)
【魔剣】刀身=火
(さぁ、どんなもんかな?)
魔剣をゴブリンに叩きつける。
もちろん、土や氷と違って斬ることはできない。
燃えた棒で殴っているだけだ。
(あんまし魔剣って感じじゃないか…)
ただ、武器としては優秀だ。
燃やされたゴブリンは、死にこそしないものの
戦闘はできそうにない。
「この数…きりないぞ!」
ゴブリンを薙ぎ倒しながらシェルが言う。
「2人とも伏せろ!」
「っ!」
アンの声を聞き、地面に伏せる。
直後、後ろから俺たちの頭上を大きな炎の柱が
通過した。
放たれたアンの強力な魔法は、あっという間に
ゴブリンを焼いてしまった。
立ち上がり、アンの方を振り返る。
「すごいな。【発火】ってそんなことも―」
「っ!馬鹿、後ろ!」
反射でアンの方に跳ねる。
が、当たった。
アンの魔法により焼け死んだかと思われた
ゴブリン達は、まだ生きていた。
(油断した…!)
右腕をナイフが掠めた。
俺の肘上に、赤い線が走っていて、そこから血が
じわじわと出ている。
ゴブリン達は生きているといえど瀕死だ。
死に損ないを、俺とシェルで片付ける。
「こんなもんか」
シェルが剣をしまう。
多くはないが、出血は止まらない。
痛い…というより、恐ろしかった。
この程度の怪我は、前の世界で何度もしたことは
ある。
けれどこの傷は、冒険者という職が、常に危険と
隣り合わせであることを教えている。
とりあえず水魔法で傷口を洗う。
やはり浅い。大丈夫だ。やれる。
「ごめん、油断した。行こう」
俺だけでなく2人も怖気付いたのか、顔が少し
青ざめている。
「あ、あぁ。そうだな」
俺たちがしているのは、遊びじゃない。最悪、
誰かが死ぬかもしれない。
分かっているつもりだった。俺たちはまだ
甘かった。
――
その後は、先ほどと同じように道を進んでいった。
ゴブリン達が出てくる気配もない。
「アン、さっきの炎、【発火】が関係してるのか?」
「あぁ。ウチの【発火】は、体が炎になる以外にも、
炎魔法が強くなるらしい。だから、火力調整が
難しいんだ」
「魔獣相手なら、全力で撃てばいいじゃないか」
「そう簡単な話じゃない。火力が高いと、
精度がぶれやすくなるんだ。後衛としては
使いずらい」
なるほど。上限は上がったものの、それを存分に
活かせるわけではないのか。
能力というものは、案外面倒くさいものなのかも
しれない。
さらに進むと、魔獣が現れなくなった。
「静かだな…」
また、響いているのは俺たちの足音だけだ。
油断はしない。一歩一歩前へ進む。
(この光景、既視感が…)
また、広い部屋に出た。
今度は、3つの分かれ道がある。
(これって、夢の…!)
夢の中では、俺たちは左を選んだ。
そして、その奥には大きな扉。
個人的には、あれが本当なのかを確かめたい。
「なぁ、左に行かないか?」
「どうした?左に何かあるのか?」
「少し…確かめたいことがあるんだ」
「アンはいいか?」
「ウチはどれでも構わない」
「じゃあ、左にしよう」
左の道を進む。この道にも、既視感がある。
やはり、夢で見た通りだ。
(夢だと、もう少しで…)
そこにあったのは、大きな扉。
(あれは予知夢だったのか…?)
「ベルデ、すごいな」
シェルが嬉しそうに言う。
「何がだ?」
「大扉の場所を当てちゃうなんてさ」
「大扉?」
この扉は、そんなに有名なのだろうか。
アンも、よく分からないといった顔をしている。
「2人とも知らないのか?」
シェルが呆れた顔をしている。
「この大扉はな―」




