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W  作者: ちーす
はじまりの街編
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12/22

10.アクセル

―そんなこんなで、俺たちは

初めてのちゃんとした依頼を終えた。


俺は1人で冒険者ギルドに報酬を貰いに来ていた。


魔獣討伐ということに浮かれて報酬をよく見て

いなかったが、貰えたのは銀貨5枚だった。


(2日に3回くらい依頼を解決すれば、

 食い繋いでいくことはできそうだな)


自立…とまでは言えないが、圧倒的な金銭不足は

脱却したと言えるだろう。


また、依頼の報酬の+αで魔石の買い取りも

してくれるらしいが、俺たちが手に入れた魔石は

純度が低すぎるあまり買い取ってもらえなかった。


「魔獣、倒した、のか?」


外には、ダルクルさんが立っていた。


(この人いつも知らぬ間にそばにいるよな)


「はい、そこまで苦戦もしませんでした」


「そうか、なら、良かった。あれに、苦戦、

しないなら、お前ら、Dランクには、すぐ上がれる」


「本当ですか?」


「ああ、Cランクも、きっと、そう遠くない」


「ちなみにBランクってなると…?」


「それは、分からない。冒険者、Bランクからが、

本番。一筋縄では、いかない」


(やっぱそうか…)


「ちなみに、どうやったらランクって上げられる

んですか?」


「基本的には、そのランクのダンジョン、

攻略する。あとは、何か大きな功績、残せば、

ランク、上げてもらえる。けど、それは、稀。

期待しちゃ、ダメ」


(ダンジョン攻略…!)


「お前ら、一度、ダンジョン行くといい。この

ダンジョン、そこまで、難しくない。もう少し経験

積んだら、行ってみろ」


ダルクルさんは掲示板の依頼を指差す。


「ありがとうございます!今日中に仲間に相談して

みますね」


ダルクルさんはニッコリと微笑んで去っていった。


――


ダンジョンについて相談すると、

2人とも快諾してくれた。


「ダンジョンなら、ウチの【発火】も存分に使える

だろうしな」


(そうか…この辺は緑が多いからアン得意の火魔法

だったり能力(スキル)の【発火】が使えなかったりするのか)


つまり、アンはダンジョンの方が実力を発揮できる

ということだ。


(俺の【魔剣】も、外じゃ土か氷しか使えないし、

ダンジョンで炎を試してみてもいいかもな)


本当はもっと様々な魔法で剣を作りたかったが、

魔法の成形が難しくて水や風は断念した。


炎は扱いは難しいが、その2つと比べればまだマシ

なので、戦闘では使えるだろう。何より最も武器 らしさがある。


―相談の結果、依頼のダンジョンには

来週挑戦することになった。


――


翌日、俺はある物を探していた。


(お、これ良さそうだな)


直径5~10cm、長さは1mくらいの金属の棒。


「すみません、これいくらですか?」


「そんなもの買うのかい?銀貨5枚だよ」


(まぁそんなもんか…)


「じゃ、これで」


「毎度あり!」


(【魔剣】を使うのに、

 木の棒じゃ不安だからな)


もっと金銭面に余裕が出て、俺が剣を買うまでの

間はコイツが文字通り俺の相棒になるだろう。


早速、魔獣狩りにでも行こうか。


手頃な依頼を探して、2人を誘う。


昨日は10匹で1時間くらいだったので、

今日は30匹に増やした。


――


今日やりたいことは、相棒の使い心地を試すだけ

じゃない。


「シェル、ちょっとこっち来てくれ」


遂に、俺の能力(スキル)【時計(クロック)が開花した。

それのお披露目会だ。


「なんだ?」


「そのままじっとしてろよ…」


シェルの前に手をかざす。


【加速(アクセル)】


「おっ?」


「ちょっと動いてみろ」


シェルが走る。


「なんか体が軽い!」


シェルの【瞬発】ほどではないが、僅かに走る速度が

上がっている。


【時計】の真の力は、時間の操作にあった。



ただ、シェルの言う通り「体が軽くなった」程度の

効果しかない。おまけに、複数人にはかけれない。


本当は俺が使いたかったが、魔獣討伐においては

行動回数の多いシェルに使った方がいいだろう。


「あっちに一匹いるぞ。試してきたらどうだ?」


流石アンだ。目も気も利く。


「行ってくる!」


シェルは満足しているようで何よりだ。


―しばらくして討伐を終えたのか、

シェルが戻ってくる。


(昨日よりは確かに速くなってるな)


そこまで大きくなくとも、確実に効果はあるようだ。


「次は俺にやらしてくれ。コイツを試して

みたいんだ」


「木の棒となんか変わるのか?それ」


「耐久性が違うじゃないか」


「別に木の棒くらいどこにでも落ちてるだろ」


「……ほら、愛着とか」


「ふーん」


アンは明らかに納得していない。いいもん、別に。


「ほら、あっちだ」


もはやアンはレーダーだな。


【加速(アクセル)】


アンが指した方向に飛ぶ。


(うーん…まぁ速いか)


標的の近くまで来たところで…


【魔剣】刀身=土(テラブレード)


やはり他の魔法と比べて土は成形が楽だ。


魔獣めがけて振りおろす。


氷の時よりかは深く入った…が、土の場合ここから

何かできるわけじゃない。


(普通の剣より傷は浅いし、

 これじゃシェルの劣化版じゃないか…)


土魔法を切り、刀身=氷(アイスブレード)に変える。


(もう一回…!)


先ほど入れた傷を狙ってもう一度振る。


(当たったら一気に…!)


魔獣を氷漬けにする。相手の大きさにもよるが、

今の俺たちが討伐するような魔獣ならだいたいは

これでどうにかなるはずだ。


(こりゃ、しばらく土の出番はないな)


魔獣が霧となったのを確認して、アン達のところに

戻る。


「あれ?シェルは?」


「お前が遅いからもう1匹狩りにいったよ」


「へへ、土魔法があんまり魔剣に合わなくてさ…。

そんなことより、アンは魔獣倒さなくていいのか?」


「ウチはもう2匹倒した」


「2匹!?」


俺が苦戦している間にそんなに…。


慣れによるものか、みんなペースが上がっている。


(これは、思ったよりすぐに終わるかもな)


――


(銀貨18枚…!)


今日の依頼はかなりウハウハだ。


…が、かなり疲れた。


それは俺だけではなく2人も同じようだ。


想定ではもう少し余裕があるはずだったが、やはり

多少緊張するだけでも体力は食われるのだろう。

誤算だった。


(明日は…少し軽めにするか)


そうして数日冒険者として生活していると、

ダンジョンに挑戦する2日前には30匹倒しても

体力がまだ残るほどになっていた。


そして迎えた前日。


街とダンジョンとの移動には、丸一日必要との

ことだ。移動手段はもちろん徒歩。


野宿のためのセットも運ぶ必要があるので、荷物は

かなり重い。


道はあるとはいえ、整備はされていない。途中で

魔獣が出てくる可能性もある。


(こんな荷物持った状態じゃまともに戦えないな)


「本当は、荷物持ち(バックパッカー)にこういうことは

やらせるんだけどな…」


シェルが汗を垂らしながら語る。


(バックパッカーっていうと、どうしても世界中を

旅してる人を思い浮かべてしまうけど…)


「そういう役職があるのか?」


「いや、役職としてもあるかもしれないけど、

基本的には雇うかな」


(まぁ、流石にそうか)


役職:荷物持ち、なんていかにも追放されそうだ。


「ていうか、荷物持ち(バックパッカー)を雇う以前の問題だ。

シンプルに人手が足りなすぎる」


前にも話したが、パーティはだいたい4〜6人で

構成されるものだ。なんなら4人でも少なくて不便

なくらい。


「今メンバーに欲しい役職ってなんだ?」


そう聞くと、シェルは少し考える素振りを見せた。


「そうだな…今1番欲しいのは癒士(ヒーラー)だな。

後は…ベタだけど盾士(タンク)もいいな」


(癒士(ヒーラー)と盾士(タンク)か…。

盾士は立ち回りがかなり変わりそうだし、もしもの

時のために今度治癒魔法くらいは調べてみよう)


そう会話している間にも、アンは何度か魔法を

発動している。


おそらく魔獣を倒してくれているのだろう。


(アンを身軽にして敵を倒してもらう作戦…

結構良さそうだな)


アンが突然立ち止まる。


「この先に、魔獣の群れがいる。そんな強そうでも

ないけど…迂回するか?」


こんな荷物を持ったまま戦うのは愚策だ。


「そうだな、遠回りして―」


「突っ切ろう!」


(!?)


シェルの頭が狂ってしまった。流石に戦闘狂すぎる。


「いやいや、流石に―」


「いいんじゃねぇか?」


アンまで乗り気だ。


俺がマイノリティになってしまった。

2人は行く気満々だ。


(だから民主主義は嫌いなんだ!)


しぶしぶ、魔獣の群れを突っ切ることにした。


―いいか?3、2、1、GOで行くぞ?」


2人が首を縦に振る。

本当に分かっているのだろうか。


「3、2―」


「GO!!」


シェルが飛び出した。知ってた。逆に驚くことが

ない。


シェルの後を追う。


思っていたよりかはずっと量が多い。


全てを倒すことはできないので、邪魔になりそうな

魔獣だけを魔法で撃退する。


シェルは先頭を突っ走り、前に立つ魔獣を容赦なく

斬りつけている。


倒せてはいないが、道を開けることはできている

ので問題ない。


ただ、シェルと俺との距離は段々と空いている。


アンは飛行魔法がシェル並みの速度を出せる

から問題ないとして、俺はこのままじゃ置いて

行かれてしまう。


少し後ろにいたはずのアンがもう横並びだ。


「お前、なんで【加速】使わないんだ?」


(あぁ、そうか)


【加速】


【加速】を使って、ようやく俺はシェルと

同じくらいのスピードを出せた。


こうやって思いっきり走ると、やはり楽しい。


魔獣に囲まれて決して安全な状況でないことは

分かっているが、自然と頬が緩む。


体全体で風を感じる。


(気持ちがいい)


このまま、どこまでも―




―気がつくと、もう周りに魔獣はいなかった。


「はぁ、はは、楽しいな、これ」


「だろ?」


シェルがニヤリと笑う。


心なしかアンも上機嫌に見える。


あまり乗り気ではなかったが…まあ、

終わりよければ全て良しだ。


――


先頭を行くシェルが、何かを見つけた。


「アレじゃないか?」


指の先には、石でできた入口らしきものがあった。


中は暗くてよく見えないが、明らかに異質な空気を

放っている。


距離的にも、ここがダンジョンで間違いないだろう。


「もう夜だ。寝て、明日入ろう」


今にも入ってしまいそうなシェルを引き止める。


持ってきた荷物を下ろして、テントを組み立てる。


そのまま、携帯食を手に取る。


硬めのパンを数個と、干し肉数枚。


少し抵抗感があったが、口に入れてしまうと

味は案外気にならなかった。


「明日に備えて、今日はもう寝よう」


【時計(クロック)】によると、もう10時だ。


アラームを朝の7時にセットして、

俺たちは眠りについた。


その晩、俺は変な夢を見た。


暗い道を、俺、シェル、アンの3人で歩いている。


しばらく歩き続けると、三又の道に出た。


話し合いの末、左の道を選んだ。


足音が反響する。


俺たち以外には誰もいない。


とても静かだ。


道を抜けた先に、大きな扉があった。


その扉に手をかけて―


目が覚めた。


朝の7時だ。


「おい、2人とも起きろ」


アンはすぐに起きたが、シェルはなかなか

起きようとしない。


顔に水魔法をかけると、ようやく起きた。


「っは!何だ?!」


「朝だ。準備しろ」


「ダンジョンか…!」


寝ぼけながらも、嬉しそうな声だ。


シェルは急いで準備を始めた。


どうも、夢が頭から離れない。


どうでもいいはずの夢なのに、どうしてだろう。


(明晰夢ってやつか…?)


深くは考えないことにして、俺も準備を始めた。


(待ってろよ、ダンジョン…!)

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