8.歓迎会
「おいベルデが吐いたぞ!」
「ギャハハ、何やってんだお前ら!」
(…なんだこの地獄は)
それは、遡ること2時間前。
――
歓迎会の話を2人にすると、アンはどちらでもよい
というような反応だったが、シェルは食いつきが
すごかった。
「俺、そういうことやってみたかったんだよ!」
目を輝かせるシェルは、俺たちから
「歓迎会に行かない」という選択肢を消させた。
そして、酒場に到着すると…。
(一気に騒がしくなったな)
中にいる冒険者の1人が声を上げる。
「おーい、新入りが来たぞー!」
皆の視線が俺たちに集まる。
「おおー!昨日の朝よりもかなり冒険者らしく
なったな!」
「酒飲めるか?」
「名前なんて言うんだ?」
「どこ出身だ?」
いきなり色々なことを言われると返答が
追いつかない。
あたふたしていると、聞いたことのある声が
響いた。
「お前ら、急に、騒ぐな。コイツら、困ってる」
(巨体さん…!)
巨体がそう言うと、他の冒険者達は静かになる。
「急に、うるさくして、悪かった。とりあえず、
2人は、ここ」
俺とシェルを指差して、巨体は席を引いた。
「ウチはどうすれば…」
「お前、上の階で、女子会」
「そ、そうか」
元々男女比は男が多かったが、確かにこの酒場には
女性が1人もいない。
アンは女子会というワードに胸を弾ませながら
小気味のいいステップで階段を上がっていった。
「それじゃ、お前ら、自己紹介」
巨体に促され、シェルが前に出る。
「シェルです!役職は剣士で、山超えたところに
ある施設から来ました!」
シェルは勢いがあるが、体がガッチガチだ。
「ベルデです!役職は…まだ悩んでます。同じ施設
から来ました!」
冒険者達は拍手喝采だ。
彼らは非常にノリがいい。
(実は俺もこういうノリかなり好きなんだよな)
その後は本格的に宴会が始まった。
一応歓迎会ではあるが、各々が好きなように
飲み食いしている。
俺達のテーブルは、俺とシェルと巨体さんと、
あとその連れの4人だ。
巨体さんの名前はダルクルというらしい。
しばらくはジュースを飲みながら他愛もない話を
して過ごしていた。
ダルクルさんはなぜかカタコトだが、話は非常に
面白い。
「2人とも、酒飲めるかい?」
隣の席の男が声をかけてくる。
「いや…飲んだことはないです。せっかくですし、
今日飲んでみますか…!」
今までは肝臓に悪そうだと避けてきたが、
この場の熱に流されて言ってしまった…
この世界はあまり推奨はされてはいないが
子供でもお酒を飲んでいいらしいし。
(もう、どうにでもなれ!)
シェルも飲酒には乗り気だ。
「ほらよっ!」
割と大きめのジョッキになみなみと酒が注がれて
いる。
「それじゃ、人生初飲酒、いきまーす!」
わざとらしく立ち上がり、一気に酒を飲む。
「おぉ、ベルデがいったぞ!」
(これは…!)
味は正直そんなに美味しくない。美味しくないが…
頭中を何かが駆け巡るような感覚に襲われる。
(うおぉぉぉ!)
これはアル中が生まれるのも分かる。なんだか目が
冴えている。
(今の俺ならなんでもできる…!
これが酒の力か!)
視界の端でシェルも酒を飲んでいるのを見て―
いつのまにか今に至る。
(なんだこの地獄は…)
シェルは向こうで完全にダウンしている。
俺は吐いてしまったことをひたすらに謝る。
周りの先輩達は俺の姿を見てゲラゲラ笑っている。
(冒険者には優しさが必要なんじゃないのか!?)
こうなったら頼れるのは…!
「だるくるさぁん」
「お前、俺はダルクルじゃねぇよ!
あっちだあっち!」
よく見ると、身長が170くらいしかない。顔つきも
なんだか違う。
「なんか雰囲気変わりましたねぇ」
「コイツ俺の話なんも聞いてねぇぞ!」
周りが笑いの渦に包まれる。悪くない気分だ。
――
「ねぇねぇアンちゃん、なんで魔法使いでやろうと
思ったのー?」
「ウチ、ちっちゃい頃に魔法の上手い先輩に
憧れてたんです。それで、ずっと魔導士になるのが
夢で…」
「えー!魔導士!アンちゃんすごーい!」
女子会ではは至って平穏に時が流れていた。
下の階からは食事とは思えないような物音が
聞こえてくる。
「すごいだなんて…。まだ、実践経験もないし、
全然です」
「謙遜しちゃってー!あ、そうだ!今度私が色々
魔法教えてあげよっか?」
「いいんですか?」
「うん!任せて!」
今話しているサラという人は、なんだか安心できる。
どことなく、雰囲気がレナリアに似ているからかも
しれない。
「てゆーか、アンちゃんがいいなら今から
魔法トークしようよ!」
「やりたい!…です」
サラさんがニヤニヤしてる。
またボロを出してしまった。
「―なんだよねー」
「サラさん、魔法学校行ってたんですね」
「うん!成績は良くなかったけどね…」
「やっぱり、魔法学校は行ったほうがいいですか?」
「うーん…。一概には言えないけど、魔導士
目指してるなら、短いコースだけでもいい経験には
なると思うよ」
「そっか、じゃあ―」
「アンー、そろそろかえるぞー」
振り返ると、今にも倒れそうなベルデが扉に
寄りかかっていた。
(アイツ…酒飲んだな)
ベルデは酒を飲むとああなる。
本人はすっかり記憶にないらしいが、前に一度酒を
飲んだことがあり、まさにあんな感じになっていた。
「アーンちゃんっ」
ベルデが眉をクイクイさせている。
(ウザい…)
「お迎え…大丈夫?部屋まで着いて行こうか?」
「いや、大丈夫です」
バタッ
ベルデが倒れた。
「…やっぱお願いします」
「ははは…任せて」
――
日の光で目が覚めた。
(気持ちのいい朝だ)
さぁ、起きよう。体を上げようとした瞬間。
ズキンッ
「うぐっ」
ひどい頭痛がする。
昨日は…歓迎会をやると聞いて、
酒を飲んで………どうしたっけ?
酒を飲んで吐いてようが裸踊りをしていようが
そこまで問題ではないが、金を払った記憶がまるで
ない。
(まずい…)
そう思っていると、部屋の扉が開いた。アンだ。
「ベルデ、起きてたのか」
「あぁ、ちょうどな」
アンがガサゴソと荷物を漁っている。
(何してんだ…?)
手に持ったものを、こちらに突きつけてくる。
「ほら、これ」
なにやら袋のようだ。
袋を開けると……金貨が大量に入っていた。
「アン…」
「なんだよ…」
「窃盗はダメだ」
「してねぇよ!」
冗談のつもりだったが、アンに怒られてしまった。
(にしても、この金貨は一体…?)
「それさ、ダルクル?さん達がウチらにくれるって。
始めたばっかの冒険者にはそうやってサポート
するんだとよ」
「へー、そうなのか!」
ざっと30枚くらいはありそうだ。
あの場にいた人数を考えると…平均して1人1枚以上
は出してくれている。酒の力により、もう顔と名前は
忘れてしまったが…ごめんなさい。
これで、しばらく野宿生活をする必要性は
無くなった。
(とはいえ、早急に自立はしなくては)
ある程度の稼ぎを得るためには、やはりそれなりの
報酬がある依頼をこなさなくてはならない。
そのためには……
――
「うぉぉ!」
俺たちは、少し大きい屋敷の庭の草を刈っていた。
(疲れはないけど、メンタルが…)
「なあ、これウチが燃やしちゃダメか?」
「ダメに決まってるだろ!」
始めてから1時間して、ようやく4分の1だ。
(ペースも落ちてくだろうし…あと4時間は
覚悟しなきゃだな…)
―結局草刈りを終えるまでに6時間かかった。
アンは案外余裕そうだが、
シェルは明らかに疲弊している。
俺も2度と草刈りはやりたくない。
(次からは、低報酬でパッと
終わるやつを選ぼう)
時間的に今日はまだ一つくらいなら依頼を
受けれそうだったので、掲示板まで行く。
(やっぱ短いと報酬も少ないな…)
今は金銭面に余裕があるので、銀貨数枚程度の 差ならなんとかなるだろう。
その後は、ひたすらに依頼をこなした。
――
「これでついに…!」
シェルが嬉しそうな声を上げる。
「依頼10個達成だー!」
他8個の依頼で得られたのは銀貨10枚にも
満たないが、簡単なものを選んだおかげで4日で
全て終えることができた。
(後半は、シェルも楽しそうに依頼をこなしてたし、
大丈夫そうだな)
「お前たち、10個、終わったのか。おめでとう」
いつのまにか後ろにダルクルさんが立っていた。
シェルが喋りかける。
「これで俺たちこの掲示板の依頼をこなしても
いいんですよね?」
「あぁ。でも、その前に、パーティ登録」
(パーティか)
俺らも、正式に仲間になるというわけだ。
今のままでも十分絆はあるけど、
やはりこういう通過儀礼はそれをより一層
深めてくれる。
よし、行こう。と振り返ると、シェルの姿がない。
もう冒険者ギルドの中に入ってしまったようだ。
「まったく…」
アンがやれやれといった感じにため息をつくが、
その顔は満更でもなさそうだ。
「はやくはやく!」
シェルが急かしてくる。ウッキウキだ。
受付のお姉さんは優しい笑みを浮かべている。
(多分シェルみたいな人って多いんだろうな)
「パーティ登録されるのは、シェルさん、アンさん、
ベルデさんでお間違いないですか?」
それぞれが頷く。
「登録が完了しました。みなさんのご活躍、
期待しています」
――
パーティ登録を終えたものの、
シェルはなぜか不機嫌だ。
「どうしたんだよ」
「いや…パーティ名とか決めれると思ってたん
だけどさ…俺たちじゃまだランクが足りないん
だって」
(パーティにランクなんてついてるのか)
依頼の内容も多種多様だし、確かにそちらの方が
理にかなっている。
「ランクがいくつならパーティ名を登録できるんだ?」
「Bからだってさ」
「俺たちのランクは?」
「俺たちのランクは―」




