第3話 「首席令嬢と、最弱召喚獣の学院生活」1/3 ──夕暮れの帰り道
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「以上をもって、本年度『成人の儀・生召喚契約式』ならびに召喚獣適性検査の全日程を終了する。」
学院長アルフレッドの厳かな声が講堂に響く。
その宣言を最後に、張り詰めていた空気がふっとほどけ、生徒たちは一斉に席を立ち始めた。
「おめでとう!」
「これからよろしくな!」
「卒業試験、一緒に頑張ろう!」
あちらこちらで笑顔が咲く。
新たな契約を結んだ召喚獣たちは主人の傍らに寄り添い、誇らしげに胸を張る者もいれば、嬉しそうに主人へ頬を擦り寄せる者もいる。
未来への期待に満ちた光景だった。
だが、その輪の中へ入れない女学生が一人だけいた。
リシェル・フォン・アストレア。
講堂の最後列近くで静かに立ち尽くし、誰にも気づかれないように小さく息を吐く。
その隣には、小さな鍋を抱えたジュージュー仙人が、いつもと変わらぬ穏やかな笑顔で立っていた。
「行こうかのう。」
「……はい。」
リシェルは微笑もうとした。
けれど、その笑みはうまく形にならなかった。
学院を出ると、西の空は茜色に染まっていた。
白亜の校舎も、石畳の道も、黄金色の光に包まれている。
本来なら、学院で最も美しいといわれる夕暮れだった。
だが今日は、その景色を楽しむ余裕などなかった。
二人が歩き始めると、自然と周囲の話し声が耳へ届いてくる。
「ほら、あの子だ。」
「首席候補だったリシェル様……。」
「本当にEランクだったんだ。」
「学院史上初らしいぞ。」
「判定水晶まで壊したって聞いた。」
「でも結局、最弱だったんだろ?」
「期待してたのに残念ね。」
「公爵家も大変だな。」
悪意ばかりではない。
同情もある。
好奇心もある。
しかし、そのどれもが、今のリシェルには鋭い棘となって胸へ突き刺さっていた。
彼女は俯いたまま歩く。
銀色の長い髪が、その表情を隠していた。
(分かっていた。)
(こうなることは……。)
適性検査でEランクと告げられた瞬間から、頭では理解していた。
けれど、実際に浴びる視線は想像以上に重い。
今まで「首席候補」と呼ばれ続けた少女は、一日で「最弱召喚獣を引いた令嬢」へと変わってしまったのだ。
その隣では、ジュージュー仙人がぽてぽてと歩いている。
「ほう。」
「夕焼けはええ色じゃのう。」
のんびりと空を見上げ、どこか満足そうに頷く。
「明日も晴れそうじゃ。」
まるで周囲の空気など、まったく気にしていない。
リシェルは思わず苦笑する。
「仙人様……。」
「なんじゃ?」
「……どうして、そんなに落ち着いていられるのですか?」
「何がじゃ?」
本当に分からない、といった顔だった。
リシェルは少しだけ視線を落とす。
「皆さん……笑っています。」
「私のことも。」
「仙人様のことも。」
ジュージュー仙人は足を止めることなく答えた。
「そうじゃのう。」
「笑っとるのう。」
「……悔しくないのですか?」
少しだけ間が空いた。
やがて仙人は、空を見上げたまま穏やかに笑う。
「笑えるということは、元気な証拠じゃ。」
「え……?」
「本当に心が苦しい者はな。」
「他人を笑う元気すら残っておらん。」
リシェルは思わず仙人を見つめた。
その言葉には不思議な重みがあった。
長い年月を生きてきた者だけが知るような、静かな実感が宿っている。
「だからの。」
「笑われるうちは、まだええ。」
「その笑顔も、いつか誰かを支える笑顔になるかもしれん。」
リシェルは返事ができなかった。
胸の奥で固く結ばれていた何かが、ほんの少しだけほどけた気がした。
やがて二人は、学院から女子寮へと続く緩やかな石畳の坂道へ差しかかる。
その坂を上り切れば、女子寮が見えてくる。
しかし、その坂道は同時に、現実を突きつける場所でもあった。
前方では、数人の生徒たちが嬉しそうに話している。
「卒業試験、誰と組む?」
「俺たちはもう決めたぞ。」
「五人そろえば、今週中に仮登録しよう。」
「早い者勝ちだからな。」
その言葉に、リシェルの足が止まる。
卒業試験――《最終踏破試験》。
学院生活最大の試練。
卒業資格を得るためには、五人一組のパーティーを結成し、王国が管理する古代迷宮を踏破しなければならない。
しかも、登録期限は三か月後の十一月一日まで。
実力者ほど早く仲間を集める。
だからこそ、多くの生徒は今日、この日から動き始めるのだ。
リシェルは小さく唇を噛んだ。
(今日から……始まる。)
(でも、私は――。)
Eランクの召喚獣を従えた自分を、誰が仲間に選ぶだろう。
その問いが、心を重く沈めていく。
隣を歩くジュージュー仙人は、そんな彼女の横顔をちらりと見て、小さく目を細めた。
だが何も言わない。
夕暮れの風だけが、静かに二人の間を吹き抜けていった。
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(第3話 2/3へ続く)
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次の投稿は、明後日7月28日朝7:00
次回もお楽しみに!ジュー!ジュー!!ジュー!!!




