第2話・③ 「焼豚仙人、最弱認定される。」
第2話・②のつづきからです!
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砕け散った契約測定用魔法陣。
中庭には重苦しい沈黙が流れていた。
教師たちは互いの顔を見合わせる。
「……故障か?」
「あり得ません。」
「神代式魔法陣ですよ?」
「建国以来、一度も故障した記録はありません。」
学院長アルフレッドは静かに目を閉じた。
(今日だけで二度目だ。)
(判定水晶。)
(そして契約測定陣。)
(どちらも壊れた。)
(偶然……ではない。)
しかし、それを口にはしない。
学院長はゆっくり杖を掲げた。
「測定を続行する。」
教師たちは慌てて最後の測定器を運び込む。
学院創立以来、一度しか使われたことがない。
神代文明の遺産。
ー《総合評価水晶》ー
召喚獣の全能力を解析し、
最終評価を下す学院最高位の魔導具だった。
水晶は人の背丈ほどもあり、
内部では無数の魔法文字が流れている。
生徒たちが息を呑む。
「とうとう最後か。」
「ここで全部決まる。」
「Eランク確定だろ。」
「いや、測定不能じゃないか?」
ざわめきが広がる。
学院長が静かに告げる。
「焼豚仙人。」
「この水晶へ手を。」
「うむ。」
仙人は、よいしょ、と小さく背伸びをして、
ぽん、と水晶へ手を置いた。
その瞬間だった。
ゴォォォ……
水晶全体が黄金色に染まる。
教師たちが驚愕する。
「なっ……!」
「こんな反応は……!」
しかし次の瞬間。
黄金は黒へ変わる。
黒は白へ。
白は七色へ。
七色は透明へ。
色が次々と変化し、
まるで世界中の属性が入り乱れているようだった。
水晶内部では、
古代文字が高速で流れ始める。
《解析中》
《解析中》
《解析中》
《対象確認》
《契約照合》
《世界記録照合》
《神代記録照合》
《創世記録照合》
学院長の顔色が変わる。
(創世記録……だと?)
そんな機能があるなど、
誰も知らない。
教師たちはただ呆然と見守るしかなかった。
やがて。
表示が止まる。
《ERROR》
《ERROR》
《ERROR》
《権限不足》
「……?」
学院長が眉をひそめる。
《再照合》
《ERROR》
《権限不足》
《管理者認証失敗》
《観測対象外》
《測定不能》
ピシッ……
小さな音が響く。
学院長が叫ぶ。
「離れろ!!」
次の瞬間。
バリンッ!!
総合評価水晶は粉々に砕け散った。
眩い光の粒が、中庭へ雪のように舞い落ちる。
学院中が騒然となった。
「総合評価水晶が……!」
「砕けた!?」
「あり得ない!」
「神代の遺産だぞ!」
教師たちは青ざめる。
学院長だけが、
砕けた破片の一つを見つめていた。
そこには誰にも読めないほど薄く、
しかし確かに刻まれていた文字。
ー《管理権限 拒否》ー
アルフレッドの背筋を冷たいものが走る。
(管理権限を……拒否?)
(世界の管理機構より上位の存在……。)
(そんな存在が……。)
彼は思わず焼豚仙人を見つめる。
仙人は、
何事もなかったかのように、
空を見上げていた。
◇ ◇ ◇
その日の夕刻。
学院講堂。
すべての新入契約者が集められていた。
教師たちは緊張した面持ちで並ぶ。
学院長がゆっくりと口を開いた。
「これより召喚獣適性結果を発表する。」
一人ずつ名前が呼ばれる。
「雷狼――Aランク。」
拍手。
「氷精鳥――Aランク。」
歓声。
「岩巨兵――Bランク。」
会場が沸く。
そして。
学院長は一瞬だけ沈黙した。
「最後に。」
リシェルの胸が締め付けられる。
「リシェル・フォン・アストレア。」
学院中の視線が集まる。
学院長は静かに告げた。
「召喚獣……
焼豚仙人。」
誰も息をしない。
「総合評価。」
長い沈黙。
そして。
「……Eランク。」
その一言が講堂へ響いた。
ざわっ……
「やっぱり。」
「史上初だ。」
「首席が最弱。」
「学院の恥だな。」
嘲笑が広がる。
リシェルは俯いた。
胸が苦しい。
悔しい。
悲しい。
それでも。
隣を見る。
焼豚仙人は、
相変わらず穏やかな笑顔だった。
「ふぉっふぉっふぉ。」
「数字とは便利なものじゃ。」
「え……?」
「人は数字を見ると安心する。」
「じゃが。」
仙人はゆっくり歩き、
リシェルの前へ立った。
「旨い料理は、
火力だけでは決まらん。」
リシェルは顔を上げる。
仙人は優しく笑った。
「肉は弱火でじっくり焼くからこそ、
中まで旨味が染み渡る。」
「人生も同じじゃ。」
「焦って強くなろうとすると、
外側だけ焦げてしまう。」
「じゃが、
じっくり歩んだ者は、
誰にも真似できぬ旨味を宿す。」
リシェルの瞳から、
一筋の涙がこぼれた。
「……はい。」
その返事には、
先ほどまでの絶望はなかった。
小さくても、
確かな決意が宿っていた。
その夜。
学院長室。
アルフレッドは砕けた水晶の破片を机へ並べていた。
ランプの灯りに照らされた欠片の一つへ、
ふと魔力を流す。
すると。
消えかけていた古代文字が、
淡く黄金色に輝いた。
そこには、たった一文だけ残されていた。
《 世界の理の外より来たりし観測者。現行世界法則では測定不可。》
学院長は息を呑む。
「観測者……?」
「世界の理の……外?」
彼は窓の外を見つめた。
月明かりの下、
学院の庭を、小さな影がぽてぽてと歩いている。
焼豚仙人は鍋を抱えながら、夜空を見上げて微笑んだ。
「月が綺麗じゃのう。」
その何気ない一言が、なぜか胸に引っ掛かる。
アルフレッドは静かに呟いた。
「リシェル・フォン・アストレア……。」
「君は、とんでもない存在を召喚してしまったのかもしれない。」
夜風が学院を吹き抜ける。
誰もまだ知らない。
最弱と笑われし小さな仙人が、やがて世界の常識そのものを揺るがす存在になることを。
そして、リシェルと焼豚仙人が歩むその道が、王国だけでなく世界中の運命を変える始まりであることを。
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第3話「首席令嬢と、最弱召喚獣の学院生活」へ続く。
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次話第3話の投稿は、明日7月26日(日)朝7:00
また、次回もお楽しみに!ジュー!ジュー!!ジュー!!!




