第2話 ・①「焼豚仙人、最弱認定される。」
おはようございます!
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「ぶはははははっ!!」
爆笑が、王立アストレア召喚学院の中庭を揺らした。
つい先ほどまで、誰もが伝説の召喚獣の降臨を信じていた。
歴代最高とも評された魔力。
神代級とまで口にした学院長。
空を裂き、大地を震わせた黄金の召喚陣。
そのすべてが、一人の小さな老人の登場によって裏切られたのだ。
「首席候補が召喚したのが、あのおじいちゃんかよ!」
「料理人じゃないのか?」
「いや、あの鍋を見ろよ!」
「召喚獣じゃなくて、給仕係だろ!」
笑いは止まらない。
貴族の生徒たちは口元を隠しながら肩を震わせ、平民の生徒たちも遠慮なく笑っていた。
一方で、教師たちは、どう対応すべきか分からず困惑した表情を浮かべている。
その渦中にいるリシェルは、ただ唇を強く噛みしめていた。
(どうして……。)
胸が苦しい。
頭の中では、先ほど白い世界で聞いたあの声が、何度も何度も繰り返されていた。
――ようやく見つけたぞ。――
(あの声は……誰だったの?)
そして目の前にいる、小さな老人。
焼豚仙人。
その穏やかな笑顔を見ていると、不思議と心が落ち着く。
だが、それを打ち消すように周囲の笑い声が突き刺さる。
「リシェル様……。」
後ろから、おずおずと声を掛ける少女がいた。
同じクラスの侯爵令嬢、アイリスだった。
「お気を落とさないでください……。」
その言葉には慰めの気持ちが込められていた。
しかし、その隣では別の男子生徒が肩をすくめる。
「首席でも、こんなことがあるんだな。」
「才能だけじゃどうにもならないってことか。」
「いや、これは運が悪すぎるだろ。」
その言葉は、リシェルの胸を静かに締め付けた。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
当の焼豚仙人はというと──
「ふむ。」
地面へ置いた小さな鍋を、布で丁寧に磨いていた。
きゅっ。
きゅっ。
きゅっ。
まるで周囲の喧騒など聞こえていないかのように、鼻歌まで歌っている。
「ふぉっふぉっふぉ~♪」
「……。」
生徒たちは再びざわついた。
「あのじいさん、空気読めよ!」
「笑われてるのに全然気にしてないぞ。」
「いや、気づいてないだけじゃないか?」
焼豚仙人は鍋を磨き終えると、今度は柄杓を掲げ、太陽に透かして眺め始めた。
「今日もええ天気じゃのう。」
「……。」
「飯がうまそうじゃ。」
その一言に、また笑いが起こる。
「静粛に!」
学院長アルフレッドの杖が地面を打つ。
ドンッ!
魔力を帯びた音が中庭に響き渡り、ざわめきがぴたりと止んだ。
学院長は焼豚仙人へ視線を向ける。
深く息を吸い、静かに口を開いた。
「召喚契約は正常に成立している。」
教師たちが頷く。
「よって、この召喚獣は正式にリシェル・フォン・アストレアの契約召喚獣と認める。」
リシェルは小さく頭を下げた。
「はい……。」
学院長は続ける。
「しかし、召喚獣の種類が不明である以上、学院規定に従い、直ちに詳細な適性測定を行う。」
教師たちが慌ただしく動き始める。
巨大な測定用魔法陣。
魔力量測定柱。
筋力測定晶石。
属性判定水晶。
学院が誇る最新の測定器具が次々と運び込まれていく。
生徒たちは興味津々でそれを見守った。
「始まるぞ。」
「あのおじいちゃんの能力測定だ。」
「どれだけ弱いか見ものだな。」
笑いを含んだ囁きが広がる。
リシェルだけは、不安そうに焼豚仙人を見つめていた。
(お願い……。)
(せめて、一つでも……。)
(何か得意なことがありますように。)
焼豚仙人は、そんなリシェルの視線に気づくと、にっこりと笑う。
「安心せい。」
「え……?」
「腹が減っては、測れるものも測れんからのう。」
そう言って、お腹を「ぐぅ〜」と鳴らした。
「……。」
一瞬の静寂。
そして学院中が再び笑いに包まれる。
リシェルも思わず口元を押さえ、小さく吹き出してしまった。
(……変な人。)
それは今日初めて、彼女の頬に浮かんだ自然な笑顔だった。
焼豚仙人はその笑顔を見ると、満足そうに目を細める。
「笑えるうちは、大丈夫じゃ。」
その何気ない一言が、リシェルの胸の奥に、そっと温かな火を灯した。
学院長が杖を掲げる。
「ではこれより、召喚獣適性測定を開始する!」
教師たちが持ち場につく。
巨大な魔力量測定柱が青白く輝き始める。
学院中の視線が、再び焼豚仙人へと集まった。
誰もが期待している。
「史上最弱」の証明を。
ただ一人――学院長アルフレッドだけは違った。
(あの召喚陣……。)
(あの詠唱……。)
(そして、『測定不能』……。)
(何かがおかしい。)
長年、数え切れないほどの召喚を見届けてきた老学院長の勘が、静かに警鐘を鳴らしていた。
「……始めよ。」
その一声とともに。
焼豚仙人の、学院史上前例のない能力測定が幕を開けた。
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(第2話・②へ続く)
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