第1話・後編②「首席令嬢と、小さな焼豚仙人」
第1話ラスト!
よろしくお願いします。
リシェルは胸の奥から溢れ出る想いを、そのまま言葉に乗せる。
「来たれ──」
一瞬。
世界が止まる。
「我が唯一無二の盟友よ。」
そして。
「星霊永劫召喚――《アストラル・エターナル・サモン》!!」
その瞬間。
――ゴォォォォォォォォォッ!!
学院全体を揺るがす轟音が鳴り響いた。
黄金の魔法陣がまばゆい輝きを放ち、その光は天へと一直線に伸びていく。
まるで天空そのものへ穴を穿つかのような巨大な光柱。
大気が震え、地面が微かに揺れる。
観客席では悲鳴にも似た歓声が上がった。
「すごい……!」
「これほどの魔力は初めて見た!」
「間違いない! 伝説級だ!」
教師たちも興奮を隠せない。
「空間が歪んでいる……!」
「召喚門がここまで安定して開くとは……!」
「歴代最高の召喚反応です!」
学院長アルフレッドは、長い白髭を震わせながら呟く。
「これは……神代級の反応かもしれぬ。」
空が唸る。
雲が渦を巻き始める。
黄金の粒子が雪のように降り注ぎ、学院全体が幻想的な光景に包まれていく。
誰もが息を呑んだ。
(竜王……。)
(精霊王……。)
(神獣……。)
(一体、何が現れるんだ……。)
期待は最高潮に達していた。
やがて。
光が、ゆっくりと収束を始める。
巨大な光柱が細くなり、眩しさが薄れていく。
誰もが目を凝らした。
現れるのは、歴史を変える存在。
そう信じて。
……
…………
………………
ぽてっ。
小さな足音が聞こえた。
「……え?」
誰かが間の抜けた声を漏らす。
光の中から現れたのは――。
膝丈ほどしかない、小さな老人だった。
丸々とした豚のような体。
歩くたびに、ぷるん、ぷるん、とお腹が揺れる。
黒い渦巻き状の髭。
頭には白い小さな帽子。
背中には鉄鍋。
右手には柄杓。
左手には小さな瓢箪。
老人は「ふぅ」と息を吐き、空を見上げる。
そして、まるで長い旅を終えた旅人のように、小さく微笑んだ。
「ふぉっふぉっふぉ……。」
その笑みを見た瞬間。
リシェルの胸が、わずかにざわめいた。
(……あれ?)
(さっきの声と……。)
一瞬だけ、どこか重なるような気がした。
静寂。
学院中が、完全に沈黙した。
教師も。
貴族も。
生徒も。
誰一人として言葉を発しない。
数秒。
いや、十秒にも感じられる静寂のあと――
「ぷっ……!」
一人の男子生徒が吹き出した。
それが引き金だった。
「ぶはははは!」
「なんだあれ!」
「お、おじいちゃんじゃないか!」
「最下級オークでも召喚したのか!?」
「首席候補が!?」
「期待して損した!」
爆笑が学院中へ広がる。
笑いを堪えきれず肩を震わせる者。
腹を抱えて転げ回る者。
貴族席からも失笑が漏れる。
教師たちも困惑を隠せない。
「図鑑を!」
「はい!」
助手教師が分厚い魔導図鑑をめくる。
「ありません!」
「古代召喚録は!」
「載っておりません!」
「判定水晶だ!」
巨大な水晶へ魔力が流し込まれる。
キィィィィィ……
水晶が強く輝き、
文字が浮かび上がる。
《測定中》
《測定中》
《測定中》
……
……
……
……
やがて。
ピシッ。
小さな音を立てて水晶にひびが入り、
表示された文字は、たった四文字だった。
《測定不能》
「なっ……!」
教師たちが絶句する。
「測定不能だと!?」
「そんな召喚獣、聞いたことがない!」
学院長アルフレッドでさえ、驚きを隠せず眉をひそめる。
しかし、その空気とは対照的に、老人はどこ吹く風だった。
「ふぉっふぉっふぉ。」
穏やかに笑いながら、小さな鉄鍋を地面へ「ことり」と置く。
柄杓を鍋へ立て掛け、満足そうに頷く。
その様子を見て、周囲の笑いはさらに大きくなった。
「鍋なんか持ってきてどうするんだ!」
「学院で料理でも始める気か!?」
「最弱どころか、ただの料理人だろ!」
その中で――
ただ一人だけ、笑わない女学生がいた。
リシェル・フォン・アストレア。
彼女はゆっくりと老人へ歩み寄る。
しゃがみ込み、小さな老人と目線を合わせた。
「……あなた。」
優しい声だった。
「大丈夫ですか?」
老人はゆっくりと顔を上げる。
しわだらけの目が細くなり、にこりと笑った。
「ほぉ。」
「優しい娘さんじゃのう。」
その笑顔には、不思議な温かさがあった。
リシェルは思わず瞬きをする。
(……なんだろう。)
(この子を見ていると、胸が落ち着く。)
老人は帽子をぽん、と整えると、のんびりと口を開いた。
「名前を聞きたい顔じゃの。」
「え……?」
「ワシか?」
老人は胸を張る。
「皆からは――焼豚仙人と呼ばれておる。」
「焼豚……仙人?」
「うむ。」
一拍置いて、仙人はお腹をさすった。
「じゃが。」
「腹が減っては世界は救えんぞい。」
「えっ?」
周囲がぽかんとする。
焼豚仙人は、鍋を見つめながら満面の笑みで言った。
「どれ……」
「ワシが皆の分の飯を準備してやるとするかのう!」
その一言に、
学院中は再び大爆笑に包まれた。
誰もが思った。
――首席候補は失敗した。
――史上最大のハズレ召喚だ。
そう、信じて疑わなかった。
だが。
誰一人として知らない。
目の前で笑われている、この小さな老人が。
英雄でもなく。
魔王でもなく。
精霊王でもない。
世界が生まれる以前から、幾千幾万の文明の興亡を見届け、世界の理を知る異界の仙人であることを。
そして――。
この日の出会いが、
リシェル・フォン・アストレアの運命だけでなく、
アストレア王国、
ひいては世界そのものの未来を、大きく書き換えていくことになるとは。
まだ、誰も知らなかった。
---
第2話 「焼豚仙人、最弱認定される。」へ続く。
---
最後まで読んで頂きありがとうございます!
いいねとコメント頂けると嬉しいです。
次の第2話の投稿は明後日22日(水)の朝7:00になります!
是非、引き続きよろしくお願いいたします。('ω')ノ




