第1話・後編① 「首席令嬢と、小さな焼豚仙人」
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学院長アルフレッドの高らかな宣言が響くと同時に、巨大な召喚陣を中心として淡い黄金色の魔力が渦を巻き始めた。
生徒たちは思わず息をのみ、観客席からも静かな歓声が漏れる。
いよいよ、生涯に一度だけ許される『生召喚契約式』が始まる。
誰もが、この瞬間のために十八年という歳月を積み重ねてきたのだ。
「では、番号順に前へ。」
学院長の言葉に、一人目の生徒が緊張した面持ちで召喚陣へ歩み出る。
茶色い髪を短く切りそろえた青年。
騎士爵家の嫡男、ガイル・レイヴン。
学院でも剣術に秀でた実力者として知られている。
「頑張れよ!」
「お前なら大丈夫だ!」
友人たちの声援を受け、ガイルは深く頷いた。
胸へ右手を当て、ゆっくりと目を閉じる。
「我が魂は星を渡り――」
会場が静まり返る。
「契約の鐘は運命を告げる。」
彼の足元に、青白い魔法陣が展開された。
「異界に眠る真なる盟友よ。」
空気が震える。
「我が呼び声に応え、その姿を顕現せよ!」
最後の一節を叫ぶ。
「《召喚顕現》!」
轟音とともに青い光柱が天高く伸びた。
「来るぞ……!」
教師たちも固唾をのむ。
やがて光が晴れると、一頭の巨大な狼が姿を現した。
青白い雷を全身へまとい、鋭い牙をむき出しにしている。
「おおおおっ!」
「雷狼だ!」
「Bランク上位種!」
観客席から拍手が湧き起こる。
ガイルは安堵したように笑い、雷狼は主人へ鼻先を寄せた。
学院長も満足そうに頷く。
「見事だ。良き縁に恵まれたな。」
ガイルは深く礼をし、観客席から大きな拍手を浴びながら席へ戻っていった。
その後も次々と召喚は続く。
「《召喚顕現》!」
炎をまとった巨大な獅子。
「フレイムレオ!」
「また、Bランクだ!」
再び歓声が上がる。
続いて侯爵令嬢が召喚したのは、美しい氷の翼を持つ精霊鳥。
羽ばたくたびに淡雪が舞い、会場中が幻想的な景色へと変わる。
「なんと美しい……。」
「Aランク!あれが、上位精霊種か。」
教師たちも思わず息をのんだ。
さらに別の生徒は、全身を岩で覆われた巨人を召喚し、力強い咆哮が学院中庭を震わせる。
召喚されるたび、会場は歓声に包まれた。
今年は当たり年だ。
教師たちは皆、そんな期待に満ちた表情を浮かべていた。
「今年は例年以上に優秀ですな。」
「ええ。これほどBランク以上が続く年は珍しい。」
「学院始まって以来かもしれません。」
学院長アルフレッドも静かに微笑む。
「若き才能が花開く姿を見るのは、何度見ても胸が熱くなるものだ。」
◇ ◇ ◇
一方、その様子を静かに見つめる女学生がいた。
リシェル・フォン・アストレア。
膝の上で、そっと両手を重ねる。
(みんな、本当にすごい……。)
召喚されるたびに鳴り響く歓声。
家族の笑顔。
友人たちの祝福。
誰もが幸せそうだった。
しかし、その光景を見るたびに、リシェルの胸の鼓動は速くなっていく。
(次は……私。)
指先が少しだけ震えていた。
(落ち着いて。)
ゆっくり息を吸う。
十八年間。
この日のために積み重ねてきた。
幼い頃から魔法を学び、剣術を学び、召喚理論を何百冊も読み、誰よりも努力してきた。
「首席候補だから当然。」
「フォン・アストレア家だから失敗しない。」
そんな言葉を、何度も聞いてきた。
けれど――。
(私は……。)
胸の奥で、小さな不安が囁く。
(もし、誰も見たことのない召喚獣だったら?)
(もし、弱かったら?)
(もし……失敗したら?)
その考えを振り払うように、ぎゅっと拳を握る。
(違う。)
(私は信じる。)
(私が積み重ねてきた努力を。)
その時だった。
学院長の声が、会場いっぱいに響き渡る。
「次。」
ざわめいていた観客席が、一瞬で静まり返る。
「今年度首席候補。」
その言葉だけで、空気が変わった。
教師たちも。
貴族たちも。
在校生たちも。
誰もが視線を一人の女学生へ向ける。
学院長は静かに告げた。
「リシェル・フォン・アストレア。」
会場が、水を打ったように静まり返る。
「いよいよだ……。」
「首席候補の召喚だ。」
「きっと伝説級だぞ。」
「竜王か?」
「精霊王かもしれん。」
「いや、公爵家だ。神獣を召喚しても不思議ではない。」
期待が、熱となって会場を包み込む。
リシェルはゆっくりと立ち上がった。
深呼吸を一つ。
そして、一歩。
また一歩。
巨大な黄金の召喚陣の中央へ歩み出る。
銀色の髪が風に揺れる。
蒼い瞳は真っすぐ前を見据えていた。
静かに右手を胸へ当てる。
リシェルは静かに目を閉じた。
胸へ右手を添える。
深く息を吸う。
(どうか……。)
(私の魂に応えてください。)
その瞬間だった。
不思議な感覚が胸を満たす。
頭の中へ、
知らないはずの言葉が、まるで遠い昔から知っていたかのように流れ込んでくる。
(……え?)
(この詠唱……。)
(知らない。)
(なのに、どうして。)
自然と唇が動いた。
「星々が生まれる以前。」
教師たちが顔を上げる。
「……?」
聞いたことのない詠唱。
「神々が世界へ名を与える以前。」
学院長が目を見開く。
「その詠唱は……。」
誰も知らない。
誰も聞いたことがない。
「始まりの契約は今なお眠り続ける。」
魔法陣が黄金へ染まる。
「我が魂はその約定を受け継ぐ者。」
風が止まる。
「光よ。」
黄金。
「風よ。」
翠。
「水よ。」
蒼。
「炎よ。」
紅。
「大地よ。」
琥珀。
五色の光が魔法陣を包み始める。
「五つの理を一つへ還し。」
教師が震える。
「五属性が……融合している……!」
「永遠の扉を今ここに開く。」
空が裂ける。
雲が渦を巻く。
王都中の召喚獣たちが一斉に空を見上げた。
遠く離れた森でも、
湖でも、
王城でも、
古竜たちでさえ首を上げる。
世界そのものが、
一人の少女の召喚へ耳を澄ませていた。
リシェルは最後の一節を紡ぐ。
「来たれ──」
一拍。
世界が止まる。
「我が唯一無二の盟友よ。」
そして。
胸の奥から溢れ出るように、
その言葉を告げる。
「星霊永劫召喚──」
学院長
「まさか……あれは?!」
教師
「聞いたことがない……!」
《アストラル・エターナル・サモン》!!
瞬間。
世界が白く染まった。
ここで新しい伏線
光だけの世界。
音がない。
時間もない。
リシェルだけが存在している。
すると。
誰かが笑った。
懐かしい。
温かい。
けれど、
計り知れないほど古い声。
「……ようやく見つけたぞ。」
リシェル
「え……?」
振り返る。
誰もいない。
真っ白な世界だけ。
次の瞬間。
世界が弾ける。
ゴォォォォォォォ!!
光が収束する。
……
……
……
ぽてっ。
小さな足音が木霊した。
(後編②へ続く)
最後まで読んで頂きありがとうございます!
すいません!
ノリノリで詠唱呪文書いてたら長くなっちゃいました!
キリがいいので、分割します!
次が第1話のラストになります!
是非、引き続き越智喜愛よろしくお願いします!




