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第24話「四・五人目の席」

【ちょこっと焼豚ミニ劇場 前編】


――昨日。


ノエルに、初めて「一緒にお昼を食べる友達」ができた。


そして今日。


ノエルは朝から、ちょっぴりそわそわしていた。


ノエル「……今日も、一緒にお昼……」


リシェル「ノエルさん?」


ノエル「……!」


アイリス「おはようございます、ノエル!」


ノエル「……おはよう」


そこへ――


ジュージュー仙人「ほっほっほ! 昨日の昼飯は実に旨かったのう!」


リシェル「仙人様、なぜ朝から昼食の話を……?」


仙人「食の道に朝も昼もない!」


アイリス「でも今日は、区域内演習ですよ?」


仙人「……なぬ?」


リシェル「ご存じなかったんですか!?」


仙人「ワシは飯の予定表なら完璧じゃが、授業予定表は知らん!」


ノエル「…………」


(……今日も、この人たちは賑やか)


ノエルは、ほんの少しだけ笑った。


しかし――


今日の演習には、ただの授業では終わらない出来事が待っている。


まだ知らない。


自分たちの「仲間」というものが、これから少しずつ形を持ち始めることを。


そして――


教室に残された二つの空席が、やがて大きな意味を持つことを。


第23話――「四・五人目の席」


いよいよ、灰森区域へ。


さあ――今日もジュージュー、始めよう。

学院へ向かう道を、ノエルは一人で歩いていた。


いつもと同じ道。


いつもと同じ朝。


けれど――胸の中だけは、少し違っていた。


昨日。


リシェルとアイリスと一緒に昼食を食べた。


たったそれだけのこと。


それなのに。


(……今日は)


ノエルは少しだけ歩く速度を落とす。


(……また、一緒にお昼を食べられるかな)


昨日の光景を思い出す。


リシェルの笑顔。


アイリスの楽しそうな声。


そして、肩の上で好き勝手言っていたジュージュー仙人。


(……今日も、だったら……嬉しい)


ほんの少し。


本当にほんの少しだけ。


ノエルの口元が緩んだ。


――しかし。


(……自分から誘えばいいのに)


自分で自分に突っ込む。


(……どうして私は、こういうことが苦手なんだろう)


そして、


(……( ˘•ω•˘ )ショボン)


心の中だけで落ち込む。


そんなノエルが教室へ入ると――


いつもより教室が騒がしい。


「今日、区域内演習なんだろ?」


「そうらしいぞ」


「灰森区域に行くって」


「マジかよ……」


「卒業試験を意識した実戦形式らしい」


ノエルの足が止まる。


区域内演習。


その言葉が耳に入った瞬間。


胸の奥に、別の言葉が浮かぶ。


(……卒業試験)


そして、


(……五人)


卒業試験では五人パーティーが必要。


まだ先の話。


そう思っていたはずなのに。


なぜか今日のノエルには、その数字が妙に気になった。


(……リシェルたちは、どうするんだろう)


昨日までなら、


「自分には関係ない」


と考えていたかもしれない。


でも今日は違う。


(……一緒に組めるかな)


そう思った瞬間。


自分で驚く。


(……私、何を考えて……)


頬が少し熱くなる。



◇



ガラリ。


教室の扉が開いた。


入ってきたのは、実践戦闘科教官。


グレン・ヴァルガス。


元王国騎士団・魔物討伐部隊。


生徒たちの私語が止まる。


グレンは教壇へ向かうと、黒板に大きく書いた。


《区域内演習》


そして振り返る。


「今日は、実戦を想定した演習を行う」


一瞬、教室が静まる。




グレンは学院北東部を指す。


「場所は《灰森区域》」


学院が管理している魔物生息区域。


魔物の種類もある程度把握されている。


危険度も管理されている。


だが、


「管理されているからといって、安全という意味ではない」


生徒たちの表情が引き締まる。


グレンは続ける。


「魔物と遭遇する可能性もある」


ノエルは静かに聞いている。


隣にいるアルジェントの耳が、わずかに動いた。




今回の目的は単純。


森の中に配置された、


《共鳴片》


という学院製の魔導片を探し出すこと。


見つけたら回収。


そして帰還。


制限時間は――


《二時間》


「時間を超えれば失格」


生徒たちがざわつく。


だがグレンは、


「共鳴片を取ることだけを考えるな」


と言った。




グレンは黒板に新たな文字を書く。


《最終踏破試験》


卒業試験。


そこでは、


五人の人間によるパーティー


を組み、広大な区域を踏破する。


さらに、


前衛。


攻撃。


支援。


探索。


指揮・判断。


それぞれの役割を担う必要がある。


そして――


「召喚獣も含めて、一つのパーティーとして動く」


この言葉で、


ノエルの視線がアルジェントへ向く。


アルジェントは何も言わず、彼女を見返す。




グレンは評価項目を並べていく。


探索能力

情報共有

戦闘判断

召喚獣との連携

仲間との連携

危険回避

時間管理

帰還判断


そして最後に――


黒板の一番下へ、


「全員で生きて帰ること」


と書く。


「これも評価対象だ」


生徒たちが少し驚く。


グレンは淡々と言った。


「勝つことより、生きて戻ることを覚えろ」


この言葉だけが、妙にノエルの心に残った。




◇




そして――


「三人以上で班を作れ」


教室が一気に動き出した。


椅子が引かれる。


友人同士が声を掛け合う。


「俺たちと組もうぜ!」


「あと一人!」


「誰かいないか?」


その中で。


ノエルは――動かなかった。




視線の先。


リシェル。


アイリス。


二人が話している。


(……一緒に組みませんか)


言えばいい。


たった一言。


それだけなのに。


(……でも)


(もう誰かと組むつもりだったら?)


(……迷惑だったら?)


(私が入ったら……困るかもしれない)


昨日までなら「一人でいい」と思えた。


でも。


昨日、一緒に昼食を食べたからこそ。


今は――


一人に戻ることが、少し怖い。


ノエルは小さく拳を握る。


(……言わなきゃ)


けれど、声が出ない。




そのとき。


「ノエルさん」


声がした。


顔を上げる。


リシェル。


隣にはアイリス。


「もう班は決まりましたか?」


「……まだ」


アイリスが微笑む。


「私たちもです」


そしてリシェルが、自然に言った。


「だから――」


ほんの少しだけ間を置いて。


「一緒に組みませんか?」


ノエルの瞳が揺れる。


「!!……うん」


それだけ。


でも心の中では。


(……(*'ω'*)よかった)


(……また、一緒だ)


(……(^^♪嬉しい)


昨日の「昼食」が、


今日は「班」になった。




その瞬間。


リシェルの肩から、


「では、ワシも!」


ジュージュー仙人が顔を出す。


リシェル、


「当たり前です。貴方は私の召喚獣なんですから。」


アイリス、


「よろしくお願いします」


ノエル、


「……うん」


仙人が胸を張る。


「これで四人じゃ!」


グレンが名簿を見る。


「すまないが、召喚獣は人員には含まれない」


「なぬ!?」


教室に笑い声。


「ワシは仙人じゃぞ!?」


「人員ではない」


「ぐぬぬ……」


ノエルの口元が――


ほんの少し上がる。




リシェルがそれに気づく。


「……ノエルさん、今笑いました?」


「……笑ってない」


アイリスも、


「少し笑ってましたよ」


「……笑ってない」


仙人が、


「笑ったぞい」


「……」


ノエルは少しだけ目を逸らす。


けれど――


今度は完全には隠せなかった。


これは昨日から続く変化。


ノエルが「誰かと一緒にいることで自然に笑える」ようになり始めた瞬間。



グレンが名簿を書く。


①リシェル・フォン・アストレア

②アイリス

③ノエル・フェンリス

④――

⑤――


二つの空欄。


ノエルはその欄を見つめる。


以前なら、


(……足りない)


と思っただろう。


でも今日は違った。


(……四人目)


(……五人目)


そして、


(……誰が来るんだろう)


ほんの少しだけ。


胸が弾む。


(……楽しみ)


空席が「寂しさ」ではなく、「これから誰かが座る場所」に変わった瞬間だった。




班ができたところで、グレンが言う。


「次は能力共有だ」


全員が互いを見る。


「知らない能力は、戦場では存在しないのと同じだ」


まずはアイリス。


彼女の足元から――


白い小さな兎が顔を出す。


「ぴぃ」


⑮――聖光兎ルミナ


「私の召喚獣は、《聖光兎ルミナ》です」


ルミナは小さな身体から淡い光を放つ。


アイリスは説明する。


治癒。


防御。


魔力補助。


そして、仲間の状態を察知する力。


「ルミナは……私が無理をすると、すぐに分かるんです」


「ぴぃ……」


ルミナが心配そうにアイリスを見る。


アイリスは苦笑する。


「……そんな顔をしないでください」


ノエルが静かにルミナを見る。


(……優しい召喚獣)


そして、


(……アイリスに、よく似ている)




次はノエル。


ノエルが立つ。


その背後から、


銀色の巨体が静かに現れる。


《銀狼フェンリル・アルジェント》


教室の空気が変わった。


アルジェントはノエルの隣に立つ。


「……アルジェント」


低く、


「グル……」


と鳴く。


ノエルは簡潔に説明する。


「前衛」


「近接戦闘」


「氷属性」


「索敵」


必要なことだけ。


リシェルが微笑む。


「頼もしいですね」


「……うん」




アルジェントがノエルを見る。


ノエルもアルジェントを見る。


言葉はない。


けれど二人には、それで十分だった。


リシェルはふと思う。


(……似ている)


ノエルも。


アルジェントも。


どちらも――


自分が前に立って、誰かを守ろうとする。


だからこそ、


(ノエルさんにも……誰かに背中を預ける経験が必要なのかもしれない)


リシェルはまだ、それを言葉にしない。




次はリシェル。


魔法。


指揮能力。


戦闘時の判断。


そして――


ジュージュー仙人。


「ではワシじゃな」


リシェルが頷く。


「お願いします」


「ワシの能力は――」


一拍。


「食べる」


沈黙。


「寝る」


さらに沈黙。


「説法する」


アイリス、


「仙人様……」


リシェル、


「戦闘能力についてお願いします」


「秘密じゃ」


「なぜですか??」


「仙人には秘密が多いのじゃ」


ノエルが少しだけ笑う。


だが――


仙人は地図を見ながら、小さく言った。


「……戦う前に、敵を見ることじゃ」


誰も、その言葉の意味を深く考えなかった。





◇



リシェルが地図を広げる。


「では、役割を決めましょう」


ノエルを見る。


「ノエルさんは前衛をお願いします」


「……任せて」


アルジェントが一歩前へ出る。


次にアイリス。


「アイリスは後方支援」


「はい!」


リシェル自身は中央。


そして――


「仙人様は最後尾です」


「なぜじゃ!?」


「一番安心だからです」


アイリスも笑う。


「仙人様なら、後ろから全部見ていそうです」


「ほう……よく分かっておるではないか」


ノエルが小さく笑う。




そしてリシェルが何気なく言う。


「ノエルさんが前にいてくれるなら、安心できます」


ノエルが止まる。


「……」


安心。


その言葉が、胸の奥に残った。


(……私がいることで)


(……安心してくれる)


今までなら、


「守らなければ」


だった。


けれど今は。


「……任せて!」


その言葉が自然に出た。


アルジェントが、


「グル……」


と低く鳴く。


まるで肯定するように。




三人と三体。


地図を囲む。


リシェルがルートを示す。


ノエルが危険地点を指摘。


アイリスが回復のタイミングを考える。


アルジェントは森の情報を読む。


ルミナは魔力反応を探る。


ジュージュー仙人は――


黙って地図を見ている。


それぞれ違う。


けれど、


目的は一つ。


《共鳴片》を見つけ、


全員で帰る。


これが、


彼女たちにとって初めての「パーティー」と呼べる時間だった。




ふと。


仙人の視線が止まる。


灰森区域の北東。


森の奥。


「……」


リシェルが気づく。


「仙人様?」


「……いや」


「何でもない」


仙人は笑う。


しかし、その目だけは笑っていなかった。


アルジェントもまた、森の奥へ顔を向ける。


耳が立つ。


「……グル」


ノエルが振り返る。


「……どうしたの?」


アルジェントは答えない。


ただ森を見る。


――この時点では、


誰も知らない。


森の奥に、今回の演習には存在するはずのない何かがいることを。




グレンが全班を集める。


「魔物に遭遇したら、勝てるかどうかではなく――」


一拍。


「戦う必要があるかどうかを考えろ」


さらに、


「仲間が負傷した場合は、共鳴片を捨てて帰還しても構わない」


生徒たちが静かになる。


「評価より命を優先しろ」


そして、


「全員で生きて帰ってこい」


ノエルはその言葉を胸に刻む。


アルジェントが隣に立つ。


ルミナもアイリスの足元にいる。


ジュージュー仙人はリシェルの肩。


三人と三体。


まだ小さなパーティー。




いよいよ出発。


灰森区域の入口。


森から冷たい風が吹く。


ノエルが前へ出る。


アルジェントがその隣。


リシェル。


アイリス。


ルミナ。


ジュージュー仙人。


森へ進んでいく。


仙人が楽しそうに言う。


「いよいよ冒険じゃな!」


リシェル、


「演習です!」


「冒険じゃ!」


「演習です!!」


「冒険じゃ!!」


アイリスがクスクス笑う。


ノエルも――


小さく笑った。


そして森へ入る直前。


ノエルが一度だけ振り返る。


学院。


そして、教室の名簿。


①リシェル

②アイリス

③ノエル

④――

⑤――


二つの空席。


昨日までなら、


「足りない席」だった。


今は――


(……誰が来るんだろう)


(……一緒にいられたら……)


少しだけ胸が温かくなる。


(……楽しみ)


ノエルはアルジェントの背に手を置く。


「……行こう」


「グル……」


二人が同時に森へ進む。


その背中を、リシェルとアイリスが追う。


そして――


――このとき、彼女たちはまだ知らなかった。


ここから始まる一つの演習が、

彼女たちに「仲間」という言葉の本当の意味を教えることを。


そして。


教室に残された二つの空席が、

やがて彼女たちの運命を変える二人の少女によって埋められることを。



===============

《人物紹介》

《区域実践演習》担当教官

グレン・ヴァルガス

32歳

王立アルカディア魔導学院・実践戦闘科教官

元王国騎士団・魔物討伐部隊

身長188cm

焦げ茶色の短髪

左目の上に古い傷

無駄口が少ない

厳しいが、生徒の命を最優先する

「強さ」よりも「判断」を重視する

口癖は

「勝つことより、生きて戻ることを覚えろ」

================


了



【ちょこっと焼豚ミニ劇場 後編】


――こうして。


リシェル、アイリス、ノエル。


そしてジュージュー仙人。


三人と一匹……ではなく。


三人と一人と、召喚獣たち。


小さなパーティーが、初めて同じ場所へ歩き出した。


リシェル「仙人様、『三人と一人』という数え方でいいんですか?」


仙人「ワシは人ではない。仙人じゃ」


アイリス「では……三人と一仙人?」


仙人「うむ!」


ノエル「……変」


仙人「なぬ!?」


リシェルとアイリスが笑う。


ノエルも――ほんの少し笑っている。


けれど。


教室の名簿には、まだ二つの空欄があった。


④――

⑤――


リシェル「あと二人ですね」


アイリス「どんな人が来るんでしょう?」


ノエルは空欄を見る。


少しだけ考えて――


ノエル「……楽しみ」


仙人がニヤリと笑う。


仙人「ほほう。ノエルも随分と楽しそうになったではないか」


ノエル「……そう?」


仙人「うむ。昨日までなら『一人でいい』と言っておった顔じゃ」


ノエル「…………」


少しだけ頬を赤くするノエル。


アイリス「ふふっ。ノエル、よかったですね」


リシェル「はい。これからもっと賑やかになりそうです」


仙人が腕を組む。


仙人「よし! では次回は『友達を増やす作戦会議』じゃ!」


リシェル「なんですか、それ!?」


アイリス「楽しそうですね!」


ノエル「……友達……」


(増えたら……嬉しい)


その小さな願いは、まだ誰にも聞こえない。


けれど――


ノエルの心の中では、確かに芽を出し始めていた。


一人で立っていた少女が。


誰かと並んで歩くことを、少しずつ楽しめるようになっていく。


そして次回――


灰森区域で、三人と三体の召喚獣を待ち受けるものとは!?


仙人「……ちなみにワシは、腹が減ったぞい」


リシェル「演習中です!!」


アイリス「仙人様、もうお昼のことを……」


ノエル「……いつも通り」


――第24話へ続く。

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