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第23話 学年3位の剣

【ちょこっと焼豚ミニ劇場 前編】


――前回。


氷の騎士姫、ノエルが再び登場した。


リシェル

「ノエルさん、また会えて嬉しいです!」


アイリス

「私もです!」


仙人

「ワシもじゃ!」


ノエル

「……うん」


仙人

「相変わらず返事が短いのう!」


リシェル

「でも、ノエルさんらしいです」


アイリス

「昔からこうなんですよ」


ノエル

「…………」


(……昔からって言われた)


(……少し恥ずかしい)


(でも……嬉しい)


そんなノエルだったが――。


実は彼女。


友達が、少ない。


仙人

「なにっ!? あんなに美人で、学年三位で、剣も強いのに!?」


リシェル

「仙人、声が大きいです!」


アイリス

「ノエルは、ちょっと話しかけづらく見えるんですよね……」


ノエル

「…………」


(……話しかけてほしい)


(……本当は)


(……( ˘•ω•˘ )ショボン)


仙人

「よし! では本日の議題!」


リシェル

「嫌な予感がします……」


仙人

「ノエル嬢の友達を増やそう大作戦じゃ!」


ノエル

「……え」


――氷の騎士姫。


その知られざる日常が、今、明らかになる。


ノエルの「一人だった昼休み」は、少しずつ変わり始めていた。


そして。


変わり始めたのは――昼休みだけではなかった。




王立アルカディア魔導学院。


実技演習場。


広大な訓練場には、今日も多くの生徒たちが集まっていた。


本日の授業は――


《対人戦闘演習》


木剣、魔法、体術。


学院の生徒たちが、実戦を想定した模擬戦を行う授業だ。


「次の組、前へ!」


教師の声が響く。


生徒たちが次々と演習場へ進んでいく。


その中に――


一人の少女がいた。


銀灰色の髪を高い位置で結んでいる。


普段のマントは外し、動きやすい戦闘服。


腰には一本の剣。


蒼い瞳は静かに前を見据えていた。


「……フェンリス伯爵令嬢だ」


「ノエル様か」


「学年三位……」


周囲がざわめく。


ノエル・フェンリス。


学年第三位。


だが。


その順位だけで、彼女の実力を語ることはできない。


剣術。


氷魔法。


体術。


索敵。


その全てにおいて、学年でも屈指の実力を誇る。


「相手は……」


一人の男子生徒が演習場へ入ってくる。


同学年。


剣術を得意とする生徒だ。


彼はノエルを見て、少しだけ表情を硬くした。


「……よろしくお願いします」


「……よろしく」


ノエルは一礼する。


それだけ。


歓声も。


威圧も。


挑発もない。


ただ静かに剣を抜いた。


――スッ。


鞘から抜かれた剣が、朝の光を反射する。


「…………」


相手も剣を構える。


教師が手を上げた。


「――始め!」




一歩。


ノエルが踏み込む。


「――ッ!」


速い。


相手が反応する。


ガキィン!


剣と剣がぶつかる。


一撃。


二撃。


三撃。


ノエルは力任せに振らない。


最小限の動き。


最短の軌道。


相手の剣を受け流し――


一歩。


横へ。


そして。


「……氷よ」


足元に白い霜が走った。


「なっ――!?」


相手の足が止まる。


ほんの一瞬。


それだけで十分だった。


ノエルの身体が沈む。


一歩。


二歩。


踏み込み。


「――そこ」


閃光。


一閃。


木剣が相手の肩口で止まった。


「…………」


静寂。


数秒。


教師が声を上げる。


「――勝負あり!」


その瞬間。


演習場が沸いた。


「すげえ……!」


「今の見えたか!?」


「氷で足を止めてから一閃……!」


「速すぎる!」


「さすが学年三位……!」


歓声。


拍手。


驚嘆の声。


ノエルは剣を下ろす。


「…………」


無表情。


いつもと変わらない。


まるで何事もなかったかのようだった。


しかし。


(……終わった)


(……今の、強すぎなかったかな)


(……怖くなかった?)


ちらり。


相手を見る。


男子生徒は悔しそうな顔をしていた。


「……参りました」


「……うん」


(……怒ってる?)


(……やっぱり、怖かったかな)


(……私、もっと加減したほうが……)


(…………)


(( ˘•ω•˘ )ショボン)




「ノエルさん!」


聞き慣れた声が飛んできた。


ノエルが振り返る。


そこには――


リシェル。


アイリス。


そして。


「見事な一閃じゃったぞ!」


ジュージュー仙人。


「…………」


ノエルは少しだけ目を見開く。


「……見てたの?」


アイリスが笑顔で頷く。


「はい!」


「すごかったです!」


リシェルも続ける。


「氷魔法と剣術をあんなに自然に組み合わせられるなんて……」


「……ありがとう」


(……褒められた)


(……嬉しい)


ノエルは小さく視線を逸らす。


「…………」


(……でも)


(……二人とも、怖くなかったかな)


そんなノエルの心配をよそに。


「ワシも見事じゃと思ったぞ!」


仙人が胸を張る。


「特に最後の『そこ』じゃ!」


「……そこ?」


「うむ!」


仙人がノエルの真似をする。


「――そこ!」


剣を持っていない手を前に突き出す。


「…………」


「…………」


「…………」


リシェルとアイリスが黙る。


「……仙人」


ノエルが呟く。


「……何じゃ?」


「……違う」


「何がじゃ!?」


「……全然違う」


「なぜじゃ!」


アイリスが笑い出す。


「ふふっ……!」


リシェルも笑う。


ノエルも――


「…………」


ほんの少し。


口元を緩めた。




だが。


その光景を、少し離れた場所から見ている生徒たちがいた。


「……ノエル様って」


「ん?」


「思ってたより……普通なんだな」


「え?」


「いや、もっとこう……」


男子生徒が困ったように言う。


「誰にも興味がない人なのかと思ってた」


「分かる」


「でも、あの三人といる時は……」


視線の先。


ノエルはアイリスと話している。


リシェルが何かを言う。


ノエルが頷く。


仙人が割り込む。


ノエルが困った顔をする。


ほんの僅かな表情の変化。


それを見ていた女子生徒が呟いた。


「……笑った?」


「え?」


「今、ノエル様……笑ってなかった?」


「……本当だ」


「初めて見たかも」


ノエルは知らない。


自分の小さな変化が。


少しずつ、周囲にも伝わり始めていることを。




「ノエルさん」


リシェルが尋ねる。


「次の演習、私たちも一緒の組みになるかもしれませんね」


「……そう」


(……一緒)


(……嬉しい)


「もし一緒になったら、よろしくお願いします」


「……うん」


少しだけ。


ノエルの返事が早かった。


それに気づいたアイリスが微笑む。


「ノエル、嬉しそうですね」


「…………!」


ノエルが固まる。


「……そう?」


「はい」


「…………」


(……顔に出てた?)


(……恥ずかしい)


(……どうしよう)


((/ω\)照れ照れ……)


仙人がニヤニヤする。


「ほほう」


「…………」


「ノエル嬢もずいぶん――」


「仙人」


「……はい」


「……黙って」


「承知した」




その日の放課後。


ノエルはいつものように一人で訓練場へ向かった。


剣を握る。


振る。


一歩。


二歩。


踏み込み。


一閃。


何度も繰り返す。


だが。


今日は少し違った。


「…………」


剣を振る手が止まる。


昼間の光景を思い出す。


アイリス。


リシェル。


仙人。


(……見てくれてた)


(……褒めてくれた)


ノエルは剣を見つめる。


今まで。


強くなることは――


一人でいるためのものだった。


誰にも頼らないため。


誰も守らせないため。


自分が強ければ、それでいい。


そう思っていた。


けれど。


「…………」


今日。


初めて。


自分の剣を見てくれる人がいた。


褒めてくれる人がいた。


そして――


一緒に笑ってくれる人がいた。


ノエルは、静かに剣を鞘へ戻す。


「……悪くない」


誰にも聞こえない声。


そして。


ほんの少しだけ。


口元が緩む。




翌日の昼休み。


大樹の下。


ノエルは一人で弁当を広げていた。


……いや。


正確には――


「ノエルさん、お待たせしました!」


「今日も一緒に食べましょう!」


「ワシの席はここじゃ!」


三人がやってきた。


ノエルは顔を上げる。


「…………」


ほんの少しだけ。


嬉しそうな瞳。


「……うん」


昨日までなら。


ノエルは、一人だった。


けれど今は――


一人で座っている場所に。


誰かが来てくれる。


そして。


ノエル自身も――


その誰かを待つようになっていた。


――この日を境に。


ノエルの「一人だった昼休み」は。


少しずつ。


確かに。


変わり始めていた。


そして――


彼女の「剣」もまた。


少しずつ、その意味を変え始めていた。


【ちょこっと焼豚ミニ劇場 後編】


仙人

「いやぁ……ノエル嬢よ!」


ノエル

「……なに?」


仙人

「今日から昼飯仲間ができたのう!」


ノエル

「……うん」


(……(*ノωノ)嬉しい)


リシェル

「これからは一緒にお昼を食べましょうね!」


アイリス

「はい! 明日も一緒に食べましょう!」


ノエル

「……いい」


(……明日も)


(……一緒に)


(……楽しみ)


仙人

「ふむ。では次の目標は――」


リシェル

「まだ何かあるんですか?」


仙人

「ノエルの友達百人計画じゃ!」


ノエル

「…………」


アイリス

「百人……?」


リシェル

「さすがに多すぎません?」


ノエル

「……三人で、いい」


仙人

「おお!」


リシェル

「……!」


アイリス

「ノエル……!」


ノエル

「…………」


(……言ってしまった)


(……でも)


(……三人なら、いい)


(……もっと、一緒にいたい)


仙人

「では決定じゃ!」


リシェル

「何がですか?」


仙人

「友達四人目はワシじゃ!」


ノエル

「……仙人は、友達?」


仙人

「なんじゃ、その微妙な間は!?」


アイリス

「ふふっ」


リシェル

「ノエルさん、少し笑いましたね」


ノエル

「……笑ってない」


(……ちょっとだけ)


――一人だった昼休みが。


ほんの少しだけ、賑やかになった。


そして。


ノエルの「一人でいることが当たり前だった日々」は、


静かに――変わり始めていた。


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