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第22話 氷の令嬢は、友達が少ない

【ちょこっと焼豚ミニ劇場 前編】


ジュージュー仙人

「さて……いよいよ第二章本格始動じゃ!」


リシェル

「はい! 今回はノエルさんのお話ですね」


アイリス

「ノエルが主役……なんだか嬉しいです」


ノエル

「…………(^^♪」


仙人

「ほほう。ではノエルよ。読者に一言!」


ノエル

「……よろしく('◇')ゞ!」


仙人

「以上!」


リシェル

「短っ!」


アイリス

「ノエルらしいです……」


ノエル

「…………('ω')?」


(……もう少し喋ったほうがよかった?)


(……( ˘•ω•˘ )ショボン)


仙人

「おや?」


ノエル

「……何でもない」


――氷の騎士姫、ここに開幕。


果たしてノエルは、無事に友達を増やせるのか――。

――リシェルたちが、ノエルに声を掛ける少し前。


王立アルカディア魔導学院の中庭。


昼休みを迎えたそこは、生徒たちの笑い声で賑わっていた。


「ねえねえ、昨日の課題終わった?」


「終わってない! あなたは?」


「私も!」


「じゃあ、一緒に先生に怒られようか」


「嫌よ!」


楽しそうな声。


弾む会話。


友人同士で囲む昼食。


そんな賑やかな光景から、少し離れた大樹の木陰。


そこだけは、不思議なほど静かだった。


「…………」


一人の少女が、静かに昼食を食べている。


銀灰色の長い髪。


氷のような蒼い瞳。


背筋は真っ直ぐ伸び、膝の上には綺麗に整えられた弁当。


傍らには、湯気の立つ紅茶。


ノエル・フェンリス。


フェンリス伯爵家長女。


学年第三位。


剣術、体術、氷魔法、索敵。


何一つとして隙のない少女。


周囲の生徒たちからは――


「氷の騎士姫」


そう呼ばれている。


「……フェンリス伯爵令嬢、今日も一人だな」


少し離れた場所から、そんな声が聞こえた。


「本当だ」


「いつも一人じゃない?」


「まあ……あの人には話しかけづらいだろ」


「分かる」


「なんか、近寄ったら凍らされそう」


「実際、氷魔法使えるしな」


「そういう意味じゃないって」


小さな笑い声が起こる。


ノエルは、そちらを見なかった。


「…………」


表情は変わらない。


ただ、弁当の卵焼きを一つ口に入れる。


そして――


(…………)


心の中で、小さく呟いた。


(……また、話しかけられなかった)


ノエルは紅茶に口をつける。


(……別にいい)


(いつものこと)


(……私は一人のほうが楽だから)


そう思う。


そう思うことにしている。


けれど。


ふと顔を上げると――


楽しそうに話す女子生徒たちが目に入った。


「昨日さー」


「えー、なにそれ!」


「本当なんだって!」


「あはははっ!」


「…………」


ノエルは、しばらくその光景を見つめた。


(……楽しそう)


ほんの少しだけ。


羨ましいと思った。


(私も……)


そこで、思考が止まる。


(…………)


(……いや)


(私には無理)


ノエルは目を伏せる。


(話しかけたら……迷惑かもしれない)


(何を話せばいいか分からないし)


(変に思われるかもしれない)


(……嫌われたら)


胸の奥が、きゅっと縮む。


(…………)


そして。


(……最初から、一人でいればいい)


それなら傷つかない。


誰かに気を遣わせることもない。


誰かに迷惑をかけることもない。


だから。


「…………」


ノエルは一人で昼食を続ける。


――それが、彼女の日常だった。


---


「……あれ?」


その頃。


中庭へ続く廊下を歩いていたリシェルが、ふと足を止めた。


「どうしました、リシェル様?」


隣を歩いていたアイリスが尋ねる。


「いえ……」


リシェルは中庭の奥へ視線を向ける。


そこに――


見覚えのある銀灰色の髪が見えた。


「あそこにいるの……ノエルさんじゃありませんか?」


「あ……」


アイリスも気づく。


そして、嬉しそうに微笑んだ。


「本当ですね」


その瞬間。


アイリスの歩く速度が、少しだけ速くなる。


「ちょ、アイリス?」


「……ノエルに声を掛けてきます!」


リシェルが苦笑する。


「ふふ……」


その二人の後ろから、ジュージュー仙人がのそのそと歩いてくる。


「ほほう」


「仙人、どうしました?」


「昼飯の匂いがする」


「……そこですか」


「うむ。重要じゃ」


「もう……」


三人は中庭へ出る。


そして――


アイリスが声を上げた。


「――ノエル!」


「…………!」


ノエルの手が止まった。


蒼い瞳が、ゆっくりと顔を上げる。


「…………」


そこにいたのは――


アイリス。


リシェル。


そして。


「ワシもおるぞ!」


ジュージュー仙人。


ノエルの胸が、小さく跳ねた。


(……アイリス)


(……リシェル)


(……仙人)


ほんの少し。


心が温かくなる。


(……来てくれた)


けれど。


そんな感情を、表情に出すことはできない。


ノエルは、いつもの無表情のまま立ち上がった。


「……アイリス」


「こんにちは、ノエルさん!」


「……こんにちは」


(……ちゃんと挨拶できた)


(……よかった)


アイリスが笑う。


その笑顔を見ているだけで、ノエルの心が少しずつほどけていく。


「ノエルさん、お昼を食べていたんですね」


「……うん」


リシェルも近づいてくる。


「私たちも一緒に――」


そこでノエルが、ほんの少しだけ目を見開いた。


(……一緒に?)


しかし、リシェルが言うより先に。


アイリスが笑顔で尋ねた。


「ノエルさん」


「……何?」


「一緒にお昼を食べませんか?」


「…………」


ノエルの思考が止まった。


(……え?)


(……私と?)


(……一緒に?)


(……いいの?)


「…………」


数秒。


ノエルは何も答えない。


アイリスが少し心配そうに顔を覗き込む。


「……ノエルさん?」


ノエルは、ゆっくりと頷いた。


「……いい」


(…………)


(……嬉しい)


(……すごく嬉しい)


(……今日、一番嬉しい)


けれど。


表情は――


相変わらずの無表情だった。


「よかったです!」


アイリスが嬉しそうにノエルの隣へ座る。


リシェルも腰を下ろす。


「私もご一緒しますね」


「……うん」


(……リシェルも)


(……嬉しい)


そして最後に。


「では、ワシも――」


「仙人は少し離れてください」


「なぜじゃ!?」


「お弁当を全部食べるでしょう?」


「ワシはそんな食いしん坊ではないぞ!」


「昨日、食堂でお肉を三皿食べましたよね?」


「…………」


「…………」


ノエルが仙人を見る。


「……食べすぎ」


「ノエル嬢まで!?」


「…………ふふ」


「今、笑ったじゃろ!」


「……笑ってない」


(……楽しい)


ノエルは紅茶を一口飲む。


(……こういう昼休みも)


(……悪くない)


――そして。


この日を境に。


ノエルの「一人だった昼休み」は、少しずつ変わり始めることになる。


【ちょこっと焼豚ミニ劇場 後編】


リシェル

「ノエルさん、お疲れさまでした!」


アイリス

「久しぶりに一緒に過ごせて嬉しかったです!」


ノエル

「……うん」


仙人

「そしてワシは肩車を要求する!」


ノエル

「……分かった」


リシェル

「即答!?」


アイリス

「ノエル、仙人には甘いですね……」


ノエル

「……別に」


(……少し、重い)


(でも……嫌じゃない)


仙人

「では次回――」


リシェル

「はい?」


仙人

「ノエルの友達を増やす会議を開催する!」


ノエル

「…………」


(……友達)


(……増えるかな)


(……増えたら、嬉しい)


ノエル

「……頑張る」


リシェル

「なんだか応援したくなりますね」


アイリス

「はい!」


――氷の騎士姫の心は、まだ誰にも見えない。


けれど、その氷は。


少しずつ、溶け始めていた。

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