第19話「最初の仲間」
【ちょこっと焼豚ミニ劇場 前編】
――翌朝、医務室。
アイリス
「……まだ少し疲れています」
リシェル
「そうですか。では、今日はゆっくり休みましょう」
ジュージュー仙人
「うむうむ。素直になったのう」
アイリス
「はい……ありがとうございます」
ジュージュー仙人
「では、礼として肉まんを――」
リシェル
「病人に朝から肉まんを食べさせないでください!」
ジュージュー仙人
「ではワシが食べよう」
リシェル
「なぜですか!?」
アイリス
「ふふっ……」
そして、この日。
アイリスは一つの決断をする。
リシェルと――
一緒に歩くことを。
ただし。
「仲間になったら、まず何をするんですか?」
「教務課で手続きをします」
「……教務課?」
「書類を書くんじゃ」
「……」
「……」
「……なんだか急に現実的ですね」
――第19話。
『最初の仲間』
始まります。
翌朝。
医務室には、朝の柔らかな光が差し込んでいる。
昨日までなら、目を覚ました瞬間に、
「もう大丈夫です」
と言っていたアイリス。
しかし今日は――。
目を開けて、隣を見る。
そこには椅子に座ったまま眠っているリシェル。
ベッドの足元には、丸まって寝ているジュージュー仙人。
そして枕元には、寄り添うように《聖光兎》。
アイリスは、しばらく三人を見つめる。
そして小さく――。
「……おはようございます」
誰も起きない。
少しだけ笑う。
「……ふふ」
その笑顔を見たルミナが、
「きゅ……」
と嬉しそうに鳴く。
すると――。
「……ん?」
リシェルが目を覚ます。
「……アイリス?」
「おはようございます、リシェルさん」
「体調は?」
一瞬。
アイリスはいつもの言葉を口にしようとする。
「もう、大丈夫です――」
しかし。
そこで止まる。
昨日の言葉が頭をよぎる。
『私も、助けてもらっていいんですか?』
アイリスは少し考えてから――。
「……まだ、少しだけ疲れています」
リシェルが微笑む。
「そうですか」
それだけ。
否定もしない。
心配しすぎもしない。
ただ、受け止める。
アイリスは胸の奥が少し温かくなるのを感じる。
静かな感動シーンの直後。
布団の足元から、
「……朝飯はまだかの?」
「起きていたんですか!?」
「寝ながら待っておった」
「それは待っているとは言いません!」
「では、寝ながら祈っておった」
「何をですか!?」
「肉まんが二個ありますように、と」
「…………」
アイリスが思わず笑う。
「ふふっ……」
ジュージュー仙人はニヤリ。
「ほれ」
「……?」
「昨日より、よく笑うようになったではないか」
アイリスは少し驚く。
そして――。
「……はい」
ここでジュージュー仙人は、それ以上言わない。
アイリスが変わり始めたことを、仙人だけは気づいていた。
◇
少し時間が経った頃。
リシェルがアイリスに向き直る。
「アイリスさん」
「はい」
「昨日のお話ですが……」
アイリスの表情が少し緊張する。
「卒業試験のパーティーのことですよね」
「はい」
そしてリシェルは、もう一度尋ねる。
「私は、あなたと一緒に卒業試験に挑みたいです」
アイリスはしばらく黙る。
そして――。
「……私も」
「私も、リシェルさんと一緒に行きたいです」
これで正式に加入の意思が固まる。
するとリシェルが、
「あ……そういえば」という顔をする。
「では、契約紋を――」
ジュージュー仙人が即座に突っ込む。
「人間同士では結ばんぞい」
「……そうでした」
「契約紋は召喚者と召喚獣の魂を繋ぐものじゃ。人間同士で刻んだら、学院の規則以前に大問題じゃぞい」
「危うくアイリスさんと契約するところでした……」
「何の契約じゃ!?」
そしてリシェルが、
「では……パーティー加入の手続きをしましょう」
と言う。
アイリスが首を傾げる。
「手続き……?」
王立アルカディア魔導学院――教務課。
二人が窓口へ向かう。
担当職員が書類を確認する。
「卒業試験パーティーの登録ですね?」
「はい」
「パーティー名は?」
「……え?」
リシェル、完全停止。
アイリスも停止。
後ろからジュージュー仙人。
「焼豚団じゃ」
「却下です!!」
「まだ何も書いてません!」
「顔には書いてあるぞい」
「少しうまい感じに言わないでください!」
そして職員が淡々と、
「現在の登録人数は?」
「二人です」
「では、リーダーは?」
リシェルが手を挙げる。
「私です」
「構成員は?」
リシェルがアイリスを見る。
そして、
「アイリス・ルミナールさんです」
アイリスが少し照れながら、
「……よろしくお願いします」
職員が書類に記入。
そして――。
カリ……
登録印が押される。
パーティーメンバー:1名 → 2名
必要人数:5名
残り3名
◇
教務課を出た二人。
リシェルが登録証を見る。
そこには、
卒業試験パーティー
リーダー:リシェル・フォン・アストレア
メンバー:アイリス・ルミナール
と記されている。
リシェルは少しだけ嬉しそうに笑う。
「……二人ですね」
アイリスが頷く。
「はい」
そしてリシェルが、
「これで――」
一枚の登録書を見る。
「私たちのパーティーは、二人になりました」
アイリスが微笑む。
「……はい」
その後ろから――。
ジュージュー仙人が覗き込む。
「あと三人じゃな」
リシェル。
「……そうですね」
ジュージュー仙人。
「つまり――」
ニヤリ。
「あと三人、拾えばよい」
「人を落とし物みたいに言わないでください!!」
アイリスがくすっと笑う。
そしてリシェルも笑う。
――つい数日前まで。
一人だった少女。
誰も自分と一緒に歩いてくれないと思っていた。
けれど今は――。
隣に、一人いる。
そして。
必要人数五人まで、残り三人。
――リシェルの「仲間探し」は、ここから本当の意味で始まる。
【ちょこっと焼豚ミニ劇場 後編】
リシェル
「ついに……!」
アイリス
「はい……!」
ジュージュー仙人
「仲間が一人増えたのう」
リシェル
「正確には、パーティーメンバーが一人増えました」
ジュージュー仙人
「細かいのう」
アイリス
「でも……嬉しいです」
リシェル
「私もです!」
ジュージュー仙人
「では、記念に――」
リシェル
「肉まんは禁止です」
ジュージュー仙人
「まだ何も言っておらん!」
リシェル
「どうせ肉まんでしょう」
ジュージュー仙人
「…………」
アイリス
「図星ですね」
ジュージュー仙人
「なぜ分かった!?」
リシェル
「仙人ですから」
ジュージュー仙人
「どういう理屈じゃ!?」
――そして現在。
パーティーメンバー、二人。
必要人数、五人。
残り――
三人。
ジュージュー仙人
「あと三人じゃな」
リシェル
「……先は長いですね」
アイリス
「でも……一人目は見つかりました」
三人
「…………」
ジュージュー仙人
「うむ」
「最初の一歩としては、上出来じゃ」
――なお、教務課では。
「パーティー名は?」
リシェル
「…………」
アイリス
「…………」
ジュージュー仙人
「焼豚団」
「却下です!!」




