↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/38

第15話 「五人を探す少女」

【ちょこっと焼豚ミニ劇場 前編】


「仙人様!」


「なんじゃ?」


「卒業試験には、五人必要なんですよ!」


「うむ」


「つまり、あと四人です!」


「では――」


ジュージュー仙人が指を四本立てる。


「肉まんを四つ」


「仲間を探してください!!」


そこへアイリス。


「私も、お手伝いしましょうか?」


「アイリスさんまで!?」


「五人分の肉まんを用意すれば――」


「だから肉まんから離れてください!!」


――果たしてリシェルは、無事に五人の仲間を集められるのか。


まず一人目は――。

「五人」


学院の掲示板。


そこには卒業試験《最終踏破試験》の案内。


参加条件――五人一組。


リシェルは紙を見つめる。


「……あと四人」


ジュージュー仙人。


「一人は見つかったの」


リシェルが振り返る。


「……え?」


「お主じゃ」


「私は最初からメンバーです!」


「そうじゃった」


「忘れないでください!」


そこへジュージュー仙人が指を折る。


「リシェル」


「儂」


「肉まん」


「肉まんはメンバーじゃありません!」


軽い掛け合い。


しかしリシェルは、その後、静かに掲示板を見る。


五人。


まだ遠い。


◇



教室。


アイリスはいつも通り誰かを助けている。


「大丈夫ですか?」


「はい、ありがとうございます」


「これ、落としてましたよ」


「ありがとう」


「魔力が少し乱れていますね。少し休んだほうがいいですよ」


リシェルは遠くから見ている。


以前なら、


「治癒魔法が優秀だから」


と思ったかもしれない。


でも今は違う。


アイリスが誰かを助ける姿。


疲れていても笑う姿。


「大丈夫」と言い続ける姿。


そして、


「自分も、一人」


という言葉を思い出す。


リシェルは決意する。




放課後。


人の少ない中庭。


アイリスが一人で片付けをしている。


そこへリシェル。


「アイリスさん」


「リシェルさん?」


少し驚く。


「少し、お話があります」


「はい」


リシェルは少し緊張する。


そして、


「私と一緒に、卒業試験のパーティーを組んでいただけませんか?」


アイリスが固まる。


「…………え?」


リシェル。


「私は今、五人の仲間を探しています」


「……」


「その一人として、あなたに来てほしいです」


アイリスは困ったように笑う。


そして――


「私で……いいんですか?」




リシェルは一瞬、言葉を失う。


「どうして……そう思うんですか?」


アイリスは俯く。


「だって……」


少しだけ笑って、


「私は、治癒魔法しかできませんから」


リシェルは首を横に振る。


「違います」


「……え?」


「私は、治癒魔法が欲しくてあなたを誘ったんじゃありません」


アイリスの目が少し開く。


そしてリシェル。


「あなたがいいんです」


静寂。


ここは、できるだけ余計な説明を入れず、間を大切にしたいです。


アイリスは言葉を失う。




アイリスの中で、過去の言葉が断片的によみがえる。


「助かったよ」


「ありがとう」


「アイリスがいてくれてよかった」


どれも「役に立ったこと」への感謝。


けれど――


「あなたがいい」


とは言われたことがない。


誰かを助けられるから。


治癒魔法が使えるから。


困った時に頼れるから。


そういう理由ではなく。


アイリスという人間そのものを選ばれた。


だから、アイリスは戸惑う。


「……どうして、私なんですか?」


リシェル。


「優しいからです」


アイリスが少し困った顔。


「……それだけですか?」


「いいえ」


リシェルは微笑む。


「一緒にいると、安心するんです」


「それに……」


少し照れながら、


「私は、あなたともっと一緒にいたいと思っています」


アイリスの目が潤む。




アイリスは嬉しい。


でも――


すぐには答えられない。


「……ありがとうございます」


「はい」


「すごく……嬉しいです」


リシェルは微笑む。


しかしアイリスは、


「でも……」


そこで言葉が止まる。


「少しだけ、考えさせてもらってもいいですか?」


リシェルは驚かない。


「もちろんです」


「……いいんですか?」


「はい」


「すぐに返事をしなくても?」


「あなた自身のことですから」


そしてリシェルは、


「自分で決めてください」


と言う。


ここが非常に重要。


アイリスはこれまで、


「誰かを助けるために自分を使う」


ことには慣れていた。


でも、


「自分がどうしたいか」で選択する


ことには慣れていない。


だからこそ、リシェルは答えを急がせない。



◇



帰り道。


リシェルとジュージュー仙人。

「……あまり反応がよくありませんでしたね」


「そうかの」


「でも、嫌ではなさそうでした」


「うむ」


「どう思いますか?」


ジュージュー仙人は笑う。


「よい誘い方じゃったと思うぞい」


「本当ですか?」


「うむ」


そして少しだけ真面目な顔。


「あの娘は今まで、『役に立つ自分』を必要とされてきたんじゃろう」


「じゃが今日は――」


一拍。


「『アイリス自身』を必要とされた。」


リシェルは黙る。


そして、


「……だから、すぐには決められないんですね」


「そうじゃ」


「どうしてでしょうか?」


ジュージュー仙人は歩きながら答える。


「自分が選ばれることに、慣れておらんからの」




夜。


アイリス、一人。


昼間の言葉を思い出す。


『私で……いいんですか?』


そして、


『あなたがいいんです』


アイリスは胸元に手を当てる。


「……私が……?」


今まで。


誰かに必要とされる時は、


何かができる自分だった。


治癒魔法が使える自分。


人を助けられる自分。


我慢できる自分。


でも今日は違った。


「……私が、いい……」


小さく呟く。


そして初めて、


嬉しいのか。


怖いのか。


自分でもわからない表情を浮かべていた。



【ちょこっと焼豚ミニ劇場 後編】


「仙人様……」


「なんじゃ?」


「私、アイリスさんを誘いました」


「うむ」


「でも……まだ返事はもらっていません」


「そうかの」


「少し緊張しますね……」


するとジュージュー仙人が腕を組む。


「焦る必要はない」


「仙人様……」


「肉まんも、蒸し上がるまで待つものじゃ」


「……」


「待つからこそ、ふっくらする」


「……なんだか良いことを言っているようで、ただの肉まんの話ですよね?」


「うむ」


「認めるんですか!?」


そこへアイリスが小さく笑う。


「……ふふ」


リシェルも笑う。


――仲間になるかどうか。


その答えは、まだ誰にも分からない。


けれど。


「あなたがいい」


その言葉は、確かにアイリスの心に届いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。