↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/38

第10話 「最初の仲間は、学院の優しい聖女様?」

「仙人様……」


「なんじゃ?」


「今日こそ、仲間を見つけたいと思います」


「うむ。あと四人じゃな」


「はい」


「では、肉まんを四つ――」


「違います!」


そんなリシェルの前に現れたのは――


誰にでも優しい、一人の少女。


その名は、アイリス・ルミナール。


果たして彼女は、リシェルにとって最初の仲間となるのか――?


召喚獣魔力暴走事件の翌日。


王立アルカディア魔導学院。


掲示板の前に、リシェルが立っている。


卒業試験のパーティー登録表。


そこには、まだ――。


リシェル・フォン・アストレア


その名前しかない。


「……」


リシェルは静かに息を吐く。


昨日。


クラリスと共に訓練を乗り切った。


一瞬だけ、


「もしかしたら……」


と思った。


けれど、クラリスは言った。


「私はあなたの仲間になったわけじゃない」


だから、まだ一人。


「……あと四人」


リシェルが呟く。


その隣で。


「四人か」


ジュージュー仙人が指を折る。


「肉まんなら――」


「仙人様」


「なんじゃ?」


「今回は、その話をする気分ではありません」


「そうか」


珍しく素直に黙る。


リシェルは掲示板を見る。


「……探さなければ」


その時だった。


遠くから――。


「誰か、保健室へ!」


そんな声が聞こえた。



----



廊下を走るリシェル。


その先に、人だかりができている。


「どうしたんですか?」


「生徒が実技で怪我をしたみたいで……」


リシェルが人の間から覗く。


そこには、一人の少年が座り込んでいた。


膝から血が流れている。


「大丈夫ですか?」


その少年の前に、少女がしゃがみ込んでいた。


淡い光が、少女の手から溢れている。


「《ヒール》」


柔らかな光が少年の膝を包む。


傷がゆっくり塞がっていく。


「……痛くない」


少年が驚く。


「よかったです」


少女が微笑む。


「でも、今日はもう無理をしないでくださいね」


「ありがとう、アイリス!」


その名前を聞いて。


リシェルが目を止める。


「……アイリスさん?」


少女が顔を上げる。


淡い金色の髪。


柔らかな表情。


誰に対しても穏やかな笑顔。


「はい?」


彼女が振り向く。


それが――。


アイリス・ルミナールとの最初の出会いだった。



---



リシェルは少し離れた場所からアイリスを見ていた。


少年の治療が終わる。


すると今度は別の生徒が声をかける。


「アイリスさん、これ……」


「どうしました?」


「魔法の練習で手を少し……」


「見せてください」


アイリスはすぐに治療する。


「ありがとうございます」


「いえ」


また笑う。


そして今度は――。


少し離れたところで、一人の平民の生徒が立っていた。


周囲の生徒たちは気づいていない。


アイリスは気づいた。


「あの……大丈夫ですか?」


「え?」


「手、怪我していますよ」


「……これくらい、大丈夫です」


「でも、血が出ています」


「貴族の方を先に――」


「順番なんて関係ありませんよ」


アイリスは笑った。


「怪我をしているなら、治しましょう」


その少女は、平民だった。


リシェルはそれを見ていた。


――貴族だから。


――平民だから。


そんな区別をしていない。


誰に対しても同じ。


「……優しい」


リシェルの口から、自然に言葉が漏れた。


その時。


隣のジュージュー仙人が言う。


「うむ」


「……仙人様?」


「あの娘は、優しいの」


リシェルが頷く。


「はい」


けれど仙人は、少しだけ目を細めていた。


「……優しすぎるがの」


「え?」


「いや」


「何でもない」


そう言って、仙人は欠伸をする。



---



治療が一段落する。


リシェルはアイリスへ近づく。


「先ほどの治癒魔法、とても綺麗でした」


「え?」


アイリスが振り向く。


「ありがとうございます」


「治癒魔法の技術も高いのですね」


「そんな……」


アイリスは困ったように笑う。


「私なんて、大したことありませんから」


リシェルは少し驚く。


「ですが――」


「本当に大したことないんです」


アイリスは笑っている。


「もっとすごい治癒術師はたくさんいますから」


「……」


リシェルは何も言えない。


さっき見た。


怪我をした生徒を、誰よりも早く助けていた。


身分も関係なく。


迷うこともなく。


そして、あの治癒魔法。


学院でもかなりの水準だ。


なのに。


本人は、それを「大したことない」と言う。


「……不思議な人ですね」


「そうですか?」


「はい」


リシェルは少し笑う。


そして。


もう一度、アイリスを見る。


その瞬間。


胸の奥に、ある思いが浮かんだ。


――この人なら。


「……」


しかし、リシェルはその言葉を口にしなかった。


まだ。


まだ、知らない。


彼女がどんな人なのか。


まだ、出会ったばかりなのだから。


---



その日の午後。


リシェルは偶然、再びアイリスを見かける。


今度は教室の隅。


アイリスは一人の生徒に勉強を教えていた。


「ここは、こうすると分かりやすいですよ」


「なるほど!」


「よかったです」


その後。


別の生徒から声をかけられる。


「アイリスさん!」


「はい?」


「ちょっと相談が――」


「分かりました」


また笑顔。


さらに別の生徒。


「アイリス、お願いがあるんだけど……」


「はい」


また笑う。


リシェルは立ち止まる。


「……」


一体、何人に頼られているのだろう。


それでも。


アイリスは嫌な顔一つしない。


「本当に、優しい人ですね」


リシェルが呟く。


しかし。


誰も気づいていなかった。


アイリスが、人のいない廊下へ出た瞬間。


「……ふぅ」


小さく息を吐いたことを。


そして。


誰にも見られないように。


自分の手をぎゅっと握った。


「……大丈夫」


小さく呟く。


「まだ、平気」


その姿を。


遠くからジュージュー仙人だけが見ていた。


「…………」


いつもの笑顔が消える。


「……あの娘」


仙人が小さく呟く。


「自分を一人分として、数えておらんな」


リシェルはまだ、その意味を知らない。


---



夕方。


リシェルとジュージュー仙人が廊下を歩いている。


「仙人様」


「なんじゃ?」


「今日、アイリスさんに会いました」


「うむ」


「とても優しい人でした」


「そうじゃな」


「治癒魔法も素晴らしかったです」


「そうじゃな」


「それに……」


リシェルは少しだけ考える。


「……あの人なら」


足を止める。


「私たちと一緒に戦ってくれるかもしれません」


ジュージュー仙人はリシェルを見る。


「ほう」


「まだお願いするつもりはありません」


「なぜじゃ?」


「まだ、彼女のことを何も知りませんから」


リシェルは微笑む。


「まずは、ちゃんと話してみたいです」


仙人は少しだけ笑った。


「うむ」


そして。


「それがよい」


夕暮れの廊下。


二人の影が伸びていく。


リシェルはまだ知らない。


自分が見つけたその少女が――。


誰かを救うことには慣れていても、


|自分が救われることには、ひどく不器用な少女だということを。|


そして。


この出会いが。


リシェルにとって――


最初の仲間へと繋がる物語の始まりになることを。




「仙人様」


「なんじゃ?」


「アイリスさん、とても優しい方でしたね」


「うむ」


「きっと素敵な仲間になってくれます」


「そうじゃの」


「……何か気づいていますか?」


「うむ」


「何をです?」


「本人が、自分の優しさに気づいておらん」


「……」


「難儀な娘じゃ」


「……そうですね」


――最初の仲間候補との出会い。


けれど、物語はここからです。


次回もお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。