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第6話 「乙女の尊厳、大ピンチです!」

今日もよろしくお願いしますぞぉ〜。

「では――本日は、実技へ移ります。」


虚子先生の言葉と同時に。


四年A組の教室に、待っていたかのような歓声が上がった。


「よっしゃあああ!」


「ついに実技だ!」


「契約紋、どうやって刻むんだろう?」


「痛いのかな?」


昨日、召喚式を終えたばかりの生徒たち。


今日はいよいよ、召喚獣と正式な契約を結ぶ。


期待と緊張が入り混じった教室。


そんな中――。


ドンッ!!


突然、教室の扉が勢いよく開いた。


「待たせたなァァァッ!!」


全員が振り返る。


そこに立っていたのは――。


筋骨隆々の大男だった。


年齢は三十五歳。


短く刈り込んだ黒髪。


日に焼けた肌。


鍛え抜かれた腕。


そして、学院教師とは思えないほどの筋肉。


「……誰?」


生徒の一人が呟く。


男は胸を張った。


「俺の名は――」


ドンッ!


自分の胸板を叩く。


「ガイア・バルド!!」


「王立アルカディア魔導学院、召喚実技主任だ!!」


「よろしくなァァァッ!!」


声が大きい。


とにかく大きい。


教室の窓が震えた。


リシェルは思わず耳を塞ぐ。


「……声、大きいですね。」


ジュージュー仙人も耳を塞いでいた。


「鼓膜が焼豚になるわい。」


「焼豚になるんですか……。」


虚子先生が静かにため息をつく。


「ガイア先生。」


「おう!」


「生徒たちは皆さん、あなたの声を聞き取れています。」


「そうか!」


「ですので、もう少し音量を下げてください。」


「分かった!!」


「……それでも大きいです。」


「むぅ。」


ガイアは少しだけ声を落とした。


「では改めて。」


腕を組み、鋭い目で生徒たちを見る。


「俺は元王国騎士団所属。」


「長年、魔獣討伐や召喚獣との共同戦闘に携わってきた!」


「俺が実技で何より重視するもの――」


拳を握る。


「それは――!」


ドンッ!!


「連携だ!!」


生徒たちが背筋を伸ばす。


「召喚獣は武器じゃない!」


「相棒だ!」


「互いの力を理解し、互いの弱点を補い、共に戦う!」


そして――。


「契約とは――」


ガイアは拳を天井へ突き上げた。


「筋肉だ!!」


「違います。」


即答だった。


虚子先生である。


「違うのか?」


ガイアが真顔で振り返る。


「違います。」


「……そうか。」


ガイアは素直に拳を下ろした。


「まあ、今日のところはそういうことにしておこう。」


「しておかないでください。」


教室から笑いが起こる。


リシェルも思わず口元を緩めた。


昨日までの張り詰めた空気が、少しだけ和らいだ。


ガイア先生はそんな生徒たちを見渡し、満足そうに頷く。


「よし!」


「では、これより契約紋《パス》の実技に入る!」


生徒たちの表情が一斉に引き締まった。


ガイアは黒板へ大きく書く。


契約紋《パス》


「契約紋は、召喚士と召喚獣――」


「双方が納得した場所へ刻む!」


ざわ……。


教室が少し騒がしくなる。


「……場所?」


「場所って選べるの?」


「そうだ!」


ガイアは大きく頷いた。


「契約紋を刻む場所に決まりはない!」


「腕でもいい!」


「手でもいい!」


「肩でもいい!」


「背中でもいい!」


「足でもいい!」


そして――。


「基本的には、双方が納得した場所ならどこでも構わん!」


教室が――。


しん。


と静まり返った。


リシェルの目が大きく開く。


(……自由なんですか!?)


思わず自分の身体を見下ろす。


契約紋。


魂を繋ぐ証。


一生残る可能性もある大切な紋章。


それを――。


好きな場所に?


「……。」


リシェルの額に、冷や汗が浮かんだ。


その横で。


「ほっほっほ。」


ジュージュー仙人が何かを思いついたように笑った。


嫌な予感がする。


「お嬢ちゃん。」


「……何ですか?」


「儂、場所を決めたぞ。」


「…………。」


「ほっぺたでよいかのう。」


「――嫌です。」


即答。


教室が爆笑した。


「ほっぺたは嫌です!」


リシェルは頬を両手で隠す。


ジュージュー仙人は首を傾げる。


「そうか?」


「そうです!」


「柔らかそうじゃぞ。」


「そういう問題ではありません!」


「むしろ儂は好きじゃが。」


「もっと問題です!!」


「ぶひひ。」


「笑わないでください!」


教室はもう大変なことになっていた。


アイリスは口元を押さえながら笑っている。


(リシェルさんって……可愛い……。)


普段は凛としていて、学院首席。


誰よりも気高く、誰よりも隙がない。


そんな彼女が――。


頬を押さえて必死になっている。


その姿が、妙に可愛らしく見えた。


一方。


クラリスは片手で口元を隠していた。


「……何をしてますの、あの二人……。」


肩が小刻みに震えている。


笑っている。


完全に笑っている。


それでも必死に貴族令嬢の威厳を守ろうとしていた。


しかし――。


「では、額はどうじゃ?」


ジュージュー仙人が続ける。


「嫌です!」


「鼻は?」


「もっと嫌です!」


「耳は?」


「見えません!」


「首は?」


「嫌です!」


「肩は?」


「……まだマシですけど、嫌です!」


「お腹は?」


「論外です!!」


「背中は?」


「自分で見えないじゃないですか!」


「足は?」


「もっと嫌です!」


「手は?」


「……。」


リシェルは自分の手を見る。


「……手なら……。」


「おお!」


ジュージュー仙人が嬉しそうに身を乗り出す。


「では手に――」


「ただし!」


リシェルが指を一本立てた。


「私が決めます!」


「ほっほっほ。」


「仙人さんには決めさせません!」


「残念じゃのぉ。」


「絶対にです!」


そのやり取りに――。


「……ぷっ。」


ガイア先生が吹き出した。


「……はは。」


肩が震えている。


「ははははははは!」


ついに大声で笑い始めた。


「ガイア先生まで!?」


「いや、すまん!」


目元の涙を拭いながら笑っている。


「いやぁ……!」


「契約実技の初日から、こんなに面白い奴らがいるとは思わなかった!」


「面白くありません!」


リシェルが抗議する。


「俺は好きだぞ!」


「何がですか!?」


「お互いに譲らないところだ!」


ガイアは親指を立てる。


「それこそ契約の第一歩(筋肉)だ!」


虚子先生が淡々と口を挟む。


「ガイア先生。」


「なんだ?」


「今の話に筋肉は関係ありません。」


「……そうか。」


「はい。」


「今日、俺の出番少なくないか?」


「十分です。」


また笑いが起きる。


リシェルは頬を赤くしながら、机の上のジュージュー仙人を睨んだ。


「……もう。」


「お嬢ちゃん。」


「何ですか?」


ジュージュー仙人が、今度は珍しく真面目な顔をする。


「安心せい。」


「……え?」


「儂が勝手に決めるつもりはない。」


「契約は二人で決めるものじゃ。」


リシェルは目を瞬いた。


「……仙人さん。」


ジュージュー仙人はニッと笑った。


「じゃから――」


「一番、お嬢ちゃんが気に入った場所にするがよい。」


その言葉に、リシェルは少しだけ驚いた。


そして――。


小さく微笑む。


「……はい。」


先ほどまでの騒ぎが嘘のように、二人の間に穏やかな空気が流れる。


契約とは、支配ではない。


命令でもない。


互いの意思で結ぶもの。


それを――。


今、二人は少しずつ理解し始めていた。


ガイア先生が手を叩く。


「よし!」


「では、これより本格的に契約儀式へ入る!」


生徒たちが一斉に立ち上がる。


召喚獣たちも主人の傍へ集まっていく。


「全員、召喚獣と向かい合え!」


「そして――」


ガイアは拳を握る。


「互いの目を見ろ!」


「契約する相手を、自分の心で感じろ!」


教室の空気が変わった。


先ほどまで笑っていた生徒たちの表情が、少しずつ真剣になっていく。


リシェルもジュージュー仙人と向かい合う。


小さな瞳と目が合った。


「……。」


「……。」


二人とも、何も言わない。


しかし――。


不思議と、言葉は必要なかった。


やがて、リシェルの手のひらに淡い光が灯る。


ジュージュー仙人の身体からも、暖かな光が溢れ始めた。


二つの光が――。


ゆっくりと近づいていく。


ガイア先生が叫ぶ。


「それでは――!」


虚子先生が静かに見守る。


「契約紋《パス》の刻印を開始します。」


そして――。


リシェルとジュージュー仙人の間に、一本の光の線が生まれた。


それは二人の魂を繋ぐ、最初の一本。


契約という名の――。


運命の糸だった。

最後まで読んでくれえ感謝感謝じゃ〜。

是非とも、高評価とフォローよろしく頼むぞい!

コメントも貰えるとリシェル嬢が喜ぶぞい!

あと、儂も<(`・ω・´)!!

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