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攫われたのは皇帝の孫娘でした。  作者: こもれびの空


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入学式

 (リゼ視点)


 入学式のことを私はそれほど重要視していなかった。

 昨日お披露目したメンバーが集まるだけのイベント。

 私は昨日のうちにメンバーの来歴について頭に入れていたし、シオンもなにも言わなかったから。


 けれど。

 どうしてアーサー皇子の隣に、見ず知らずの銀髪の少女が座っているのだろう。

 私がミーナを見ると、ミーナはバインダーを開いた。


「彼女はルーンフェル王国の王族です。

 確か現エルディン・フォン・ルーンフェル王の弟の子供ですね。

 現王の姪だと記録されています。

 試しの儀で灰色だった髪が銀髪に変わって、一時は彼女がリゼ・フォン・アストラルではないかと噂になりました。」


「それはおかしいだろう。王族には試しの儀を受ける義務はないはずだ。

 それに王の姪なら出自も確かなはず。

 そもそも行方不明のリゼだと思われる訳がない」


「そのあたりが微妙なんです。

 彼女は平民との間に生まれた私生児で、それまで王家も把握していなかったようなのです。」


「平民だから試しの儀に参加したのは、わかる。

 銀髪と瞳の色でリゼと間違われたことも。

 ならなぜ彼女は今王族になったのだ?」


 確かにそうだ。

 認知もしていない私生児なら試しの儀のあと本来ならそのまま、アストラル皇国の学園に送られる。


 全寮制の学校で、魔法とは無縁だった子供たちを、混乱させないための処置だ。


「それがですね。」


 ミーナはまたバインダーを覗きこんだ。

 ひょいとベルクが、ミーナのバインダーを取り上げた。


「そこまでだ。ミーナ。

 王女殿下、その件については、帰ったらシオン殿下からお話があります。

 今日は余計な先入観なしに、サトリ姫を観察するようにとの事です」


 先入観なしに?

 どう考えても平民出身で実は王族設定なんてヒロインでしかないだろう。

 しかもすでに皇子を攻略済みの様子。


 それなら、私は?

 私の役割は悪役令嬢といったところかしら?

 面白い 実に面白い。

 敵は もはやかくれんぼをやめたようだ。


 ルーンフェル王国

 森と精霊の国

 古代魔法が眠る遺跡があるとか。

 王家は古代神殿の守護者だとか。


 そんな噂があるが、

 ルーンフェル王国は 長い間鎖国していた。

 今でもよそ者を嫌う。


 けれども、

 私の母親もルーンフェル王国の王族だ。

 現王の妹にあたる。

 件のサトリの父親は、母の弟。

 つまりサトリと私は母方の従姉妹同士ということになる。


 私の母がどうして隠された国を出て父と結婚したのか?

 もしかしたら、今夜シオンはそれを教えてくれるかもしれない。


 もしルーンフェル王国が母を殺したのなら、父との結婚こそ因縁の始まりに違いないから。


 皇太孫が従兄弟なのに、サトリ姫まで従姉妹とは。

 全く王族なんてろくなものじゃないわ。

 私は少しやさぐれてしまった。


 もちろん周囲は私がそんなことを考えているなんて知りもしないが。

 ともかくお父様が観察しろというのなら、ここはおとなしくしていましょう。

 私は一番後ろの席に座った。


 2階から保護者たちが、我が子を見守っている。

 サラサラと衣擦れの音。

 扇を開いたり、閉じたりする音が聞こえてくる。

 この状態で何かが起きるとも思えない。


 ところがそうはいかなかった。

 新入生代表の挨拶でアーサーがやらかしたからだ。

 アーサーは壇上に立つとサトリ姫に手を差し出した。


「サトリ お前もこちらへ」


 周囲はざわつく。私はちらりと二階に目を向ける。

 皇太子は驚きを隠せていない。瞬時にお父様に視線を向けている。

 お父様はかすかに頷いていらっしゃる。


 皇太子妃はすまし顔。ふーん彼女も承知というわけだ。

 お父様は興味深げにアーサーを見ている。

 これは面白がっているな。


 サトリが壇上に上がるとアーサーはぶちかました。


「彼女はルーンフェル王国の王女で、私の未来の妻だ。

 つまり彼女こそが、この学院の筆頭淑女だ。

 彼女に無礼な真似をすれば、この私、皇太孫たるアーサー・フォン・アストラルが許さない!」


 会場は騒然となった。アーサー皇子が婚約したなんて!

 会場には内閣府の役員も大勢いる。


 特にフィクトス公爵。

 アストラル皇国の重鎮にしてマリア皇太子妃殿下の父君が、素早く席を立つのが見えた。


 まさか。フィクトス公爵家が動くのかしら?

 皇太子殿下が二階から、大音声で命じた。これは魔法を使っているな。


「入学式はここまでとする。 アーサーお前は謹慎だ。少し頭を冷やせ」


 アーサー皇子が何か言おうとしたが、声が出ない様子だ。

 さすがは皇太子殿下。すでにアーサーを拘束したようだ。


 皇太子妃が不快そうに席を立つが、これはあなたの息子を守るためですからね。

 皇太子に感謝しなければ。


 大体アーサーの話は突っ込みどころ満載だ。

 まずサトリは王女ではない。

 王の娘ではないのだ。王族だから姫。

 私は皇女ではなくても王女。

 皇帝の孫だから、王家の王女と同格となる。


 次に婚約。

 皇太孫の婚約を決めるのは国だ。本人ではない。


 皇帝や皇太子の意向が尊重されるが、最後には貴族会議で決定される。

 惚れたが通用するほど宮中は甘くない。現状アーサーの婚約者候補は私の筈なのだ。


 とはいえ、これはたぶん皇太子妃殿下の意向だ。

 それはここにいる全員に伝わった。

 生徒らはサトリを将来の皇后として扱うだろう。

 表面上は。


 人々の視線は、さっきからお父様と私に注がれている。

 これはかなりまずい状況だ。

 うっかりすると皇室が割れる。皇太子派閥と第二皇子派閥に。


 アーサーなんておバカなの。

 あなたは利用されているわよ。多分ルーンフェル王国に。

 それにしても、皇太子妃だ……。


 彼女はフィクトス公爵家出身。

 穏健派で中立派。誰もが問題なしとした一族のはず。

 一体どうしたというのだろう。誰が裏から糸を引いているのか?


 ルーンフェル王国がいつからアストラル皇国に目をつけたのか?

 私はブルリと身を震わせた。

 完全に後手に回っている。もしかしたら、もう手遅れなのかも?

 私は思わず自分の手を握りしめた。その手は冷え切っている。


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