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お茶目な皇帝と迷惑顔の子供達

  シオンの転移門は距離をないものにする便利な代物だ。

 しかし……

 おじい様がひょっこりとやって来た時は、唖然としてしまった。

 特にノアが。


「マジか?勘弁してくれよ」


 それはねぇ そうでしょうとも。コツコツと理詰めで盤面を整えていくノアと、

 あくまでも自由闊達な皇帝陛下や法王猊下。

 ノアが頭を抱えるのも、道理というものだ。


 ここは、法王が軟禁されていた場所。いわば剋聖党の中心部に近い。

 塗り込められて誰も来ないなら、秘密基地にしようと言ったのはアーサー。

 移動式転移門だったので、エルディン王から転移門を借りたのはリゼ。


 もう片方はリゼたちが住んでいる外宮にあった筈。

 なんでここに?皇帝陛下が?


 おじい様はニコニコと手に持つ王杓を自慢そうに見せてきた。

 シオンが転移門を作成すると自動的に皇帝の王杓に転移先が登録される。

 先端にある宝玉で転移先を選べるのだそうだ。


 そういえばおじい様の王杓は7つの宝石がちりばめられていた。

 そんなトップシークレットを明かされても……と頭を抱えるノア。


「なんだ。皆がそろっているわけではないのか?」


「何しろ、決行は明日でございますから。皆出払っております。陛下」


 ノアが嫌味ったらしく返事する。


「そうか。まぁ用があるのはお前だからな。ノア」


「どのような御用で。」


「シオンが転移門を設置してくれたおかげで、軍隊ごと移動もできる。

 どうじゃ。ミゼラブル大聖堂の広場に我が軍勢を並べてみせるのは?」


「却下です。皇帝陛下。それでなくとも法王猊下のおかげで過剰戦力なんです。

 軍隊は必要ありません。そんなことしたら各国が疑心暗鬼になって、

 せっかくの友好にひびが入りますよ」


 まさしく正論なので、おじい様はぐっと詰まった。

 そこにアーサーがサトリと帰ってきた。


「お帰りなさい。アーサー。サトリ」


「ただいま。ヴォルのところに行って来たけど問題なしだ。

 あいつ俺が行くと、いつも目が泳ぐんだぜ」


 そういいながら実はヴォルが気に入っていることを、リゼは知っている。

 アーサーは目立たないところで、誠実に仕事をする人が大好きなのだ。


 機嫌が良いのは、ヴォル達を駒として使う必要がないからだろう。

 律儀に核を解消しにいったのだ。そのままにしておいても問題はないのに。

 アーサーは人を操るのは嫌なのだ。


「アーサーか。お前からもこやつを説得してくれ。

 まるでわしを役立たずの老体扱いしおる」


 アーサーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにノアの様子を見て状況を把握した。


「軍師の作戦に口をはさむのはやめてください。皇帝陛下。

 今回の作戦はノアに一任されましたよね」


 そうだ。たった10歳でこの作戦の責任者になったノア。

 自信満々に作戦の指揮を執っているが、その陰の苦労をみんな知っている。


「よし。判った。じゃが当日わしがここにいても良かろう?

 法王の遺骸を掘り出しにきて、わしを見たらきゃつら震えあがるぞ」


 まるでいたずらっ子のように、悪い顔でノアに嘆願する。

 ノアもため息をつきながら、頷いた。


「まぁ それも面白そうですね」


「決まりじゃ」


 おじい様は、そう言うとさっさと皇城に帰ってしまった。

 後に残った子供たちは、お互いに顔を見合わせていたが、何も言わずに外宮に帰った。

 あんなに気負っていたのに、大人たちにおもちゃ箱扱いされてしまったのだ。

 まぁ、これも良い経験だ。きっと。

 明日はいよいよ決戦の日。


 翌朝

 私達は神殿が寄越した馬車に乗って出発した。

 準備を進めて来たのは、この日のためだ。

 覚悟はしていたけれど、歓迎ムードは欠片も感じられない。


 ミゼラブル大聖堂は王国主催の行事が行われる神聖な場所だ。

 それが皇国の子供のために使われる。

 王は何を考えているのだ。


 ルーンフェル王国は実に二千年もの歴史を持つ神聖王国だ。

 高々300年ほどの歴史しかない新興皇国が何ほどのものだというのだ。

 我々はミゼラブル大聖堂の前で抗議すべきだ。


 こういったプロパガンダが熱心に行われていたために、

 ルーンフェル王の馬車や皇族を乗せた馬車に熱狂する国民はいない。

 みんな何かが起きるのを期待するかのように馬車列を静かに見ている。


「確かにちょっと不気味な雰囲気だよな」とアーサー


「さすがに、このくらいの手は打ってくるでしょ」ノアが笑う。


「サトリの出番、もうすぐだけど緊張しない?」


「大丈夫よ。この程度の人数。闇もそれほど深くないしね」


 今、馬車の中は今回の主役の子供たちだけだ。


 シオン皇子、エルディン王は式典を大聖堂の中で見学できるが、

 騎士たちは、入れない。

 中では神殿騎士が賓客を守ることになっている。


 つまり子供たちは、たいした護衛もない状況で

 ファイル筆頭枢機卿の前に立つことになる

 ここまでお膳立てが出来ていて失敗するなんて、

 きっと敵は欠片も考えていないに違いない。

 そう考えるとやっぱりノアって凄いと思う。


 リゼはちらりとアーサーに目を向ける。

 アーサーは既に意識を自分が植えた核に向けているのだろう。

 静かに集中し始めた。

 残念なことに子供たちが失敗しても良いように

 大人たちが万全のフォロー体制を敷いてしまった。


 だからこそ、成功させる。だってこれは私たちの戦いだから。

 既に王族、貴族などの参列者は入場済みだ。

 赤い絨毯にそって、両側には神聖騎士がずらりと並んでいる。

 軍隊でいえば大隊規模になるだろう。


 アーサーとリゼ

 サトリとノア

 二人一組で長い絨毯を、まっすぐに歩く。


 私たちの様子は、国民全てが見えるように、空中に浮かぶ大きなディスプレイに映っている。

 どうしてもファイル筆頭枢機卿の異能が探れなかったが、どうやらこの映像共有能力のようだ。


 ただの放送と侮ってはいけない。

 情報をコントロールするのは、為政者にとって最優先課題のひとつだ。


 外では、これを神の奇跡だとあがめる声がする。

 ノアはきっと笑いを堪えているだろう。

 だって敵の異能は、催眠か映像共有だと断言していたのだから。


 私たち4人がファイル筆頭枢機卿の前にひざまずく。

 予定ではファイル筆頭枢機卿が祝福を与えて式典終了となる。


 そして、いよいよ始まった。

 ファイル筆頭枢機卿が大げさな身振りでアストラル皇国とエルディン王を非難する。

 さすがにアジテーションはお上手だ。


「国民のみなさんも、法王のお姿がないことは、お気づきだと思います。

 私どもは法王のゆくえを、探していたのです。

 なんと!この薄汚いアストラル皇国の者共が法王を攫い監禁していたのです」


 そこにドリンゴ公爵も加わった。


「残念ながら、我が従兄弟、エルディン王は既にアストラル皇国の傀儡にすぎません。

 国民の皆様も承知のはずだ。

 我らの守るべき姫、サラ王女をアストラル皇国の皇子に売り渡したことを!」


「姫はアストラル皇国で儚く散りました。それも全てアストラル皇国の陰謀です」


「なにをしておる。反逆の王と悪魔の子らをとらえよ」


 ところが、神殿騎士は誰一人として動こうとしない。

 ファイル筆頭枢機卿とドリンゴ公爵は口角泡を飛ばさんばかりに怒り狂った。


「信じぬというのか?それでは証拠を見せてやる」


「国民のみなさん。我々はとうとう法王の居所を突き止めました!」


「しかし、しかし。無念なことに法王の御座所は入り口も窓も、全て塗り込められていたのです」


「いま、救出部隊が、壁をこわしております」


 映像が切り替わり、塗り込められた壁とそれを必死で破ろうとする人々が映る。


 外からは怒号が聞こえてきた。

 今にも大聖堂に乱入しそうな雰囲気だ。

 いや、ファイル筆頭枢機卿が一声かけるだけで、民衆はリゼたちを八つ裂きにするだろう。


 そう確信したらしくファイル筆頭枢機卿とドリンゴ公爵が、ニタニタと下品な笑いを漏らす。

 全くこちらを映していないと思って素を出しすぎでしょう。

 神殿騎士が動きだした。


「リゼという小娘は生贄だから丁寧に扱えよ」


「そうだとも、何しろ大精霊様に捧げるのだから傷をつけるなよ」


「聖女さまの安全を確保しろ」


 つまりアーサーやノア。王様やシオンは乱暴に扱えということでしょうか?

 まぁ生かしておく気も無いのだろうけどね。

 ちらりと貴族たちを見る。誰も動こうとしない。


 もしかしてエルディン叔父様って人気ないのかなぁ。

 叔父様を見たら、考えていたことが判ったのだろう。

 目線で教えてくれた。

 騎士たちが隠れているけれど、もう少しお芝居を続けるつもりのようだ。

 騎士なんて動かされたら、私達の計画は台無しだ。

 私達で決着をつけたいのだから。

 

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