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攫われたのは皇帝の孫娘でした。  作者: こもれびの空


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チェックメイト

今回で第一部は完了です。

学院生活

本当に結婚式まで無事に辿りつけるか?はまたお会いした時に。

 サトリが赤い絨毯を静かに広場に向かって歩いていく。


 最初あまりにも自然なその動きに気がつく者も少なかったが、やがて入り口にその後ろ姿が逆光の中シルエットとして浮かぶと逃げたと思ったようだ。


「その娘は捨て置け。逃げられるはずはないからな。それより早く生贄を捕らえよ」

 なんて言っている。


 動けた神殿騎士はわずかに4名。

 それ以外はエルディン王の結界によってその場に縫い留めたように固定されたから。

 それで十分。

 だって捕らえるのはファイル筆頭枢機卿とドリンゴ公爵の二人だもの。

 自分たちが騎士によって捕らえられるとファイル筆頭枢機卿は大声で叫んだ。


「民達よ。この悪魔どもを引き裂け!なぶり殺しにするのだ!」


 でもね。ちょっと遅かったみたい。

 だってほらサトリが浄化を展開し終わった後だもの。


 サトリの浄化は、いつ見ても美しい。

 キラキラとしたエフェクトが人々に降り注ぐ。

 それにね。


「痛みが、ずっと続いた痛みが消えた!」


「腕が、動く。麻痺していたはずなのに!」


「腰痛が……」


 小さな奇跡がゆっくりと広がっていく。未病という言葉がある。

 病気ではないけれど、なんとなく怠い 気が晴れない 小さな痛みが続く。

 そういうことも心を少しずつ削っていく。


 だけどサトリの浄化は、心の重りだけでなく身体の不調も整える

 これは大きい。大きすぎてこの後が心配。


 「聖女さまだ。聖女様!」


 ほらね。人々が次々と跪いていく。

 黒いローブの男が あっという間に逃げ出した。さすがに判断が早い。無駄だけどね。

 ルーンフェル王の結界が此の国全土を覆っている。それこそ蟻の子だって逃がさない。


 あぁもう。叔父様ったら随分悪い顔をしていること。

 これは結界を動かし始めたわね。叔父様は少しずつ結界を縮め始めた。


 無害なものは、結界をすり抜けるが悪意のあるものはやがてこの神殿に戻るだろう

 結界と共に。


 「サトリ!何をしている。そなたは私の娘だ!父を助けろ!」


 サトリはクスクスと笑い出した。


「先代の聖女。お母さまを監禁し殺しておいて、よくもそんな世迷い事が言えたわね」


 その言葉に民衆は動揺する。

 

 「どういう事だ。聖女さまの母君をファイル筆頭枢機卿が殺した?」


 ざわめく民衆の目の前で更に衝撃的な映像が!


 なんと塗り込められていた建物からアストラル皇帝その人が現れたのだ。

 身体に覇気をまとって。

 おじい様の異能 と言うより代々皇帝に受け継がれる異能 覇気!誰もがその前では膝まずく。

 余程の剛の者でなければ意識を手放すほどの覇気。


 まぁ おじい様も気絶されたくないから、かなり抑えてはいるけれど。

 神殿内の貴族たちは何がなんだかわからないだろう。

 そこに嬉しそうに王が声をあげた。


「師匠。法王猊下 よくお越し下されました。」


 5年ぶりの法王の姿に民衆は歓喜した。


 「猊下! 法王猊下。ご無事でしたか!」


 「皆のもの。心配かけたなぁ。うっかり力を封じられてしまってのう」

 

 てへへ ぺろっておじいちゃんがやっても可愛くないから。


 おおう。なんて人々は感動しているけど、それでいいのか?

 サトリもいつの間にか こっちに戻って来たから撤収するよ。

 私たちは 異空間に逃げこんだ。

 だってこの後皇帝陛下と法王猊下のコンボ技炸裂だよ。


 こっちでゆっくり見物することにする。おじい様も猊下もそうするように言っていたしね。

 チェックメイトはきちんと決めた。ノアも私たちもしっかりお仕事はした。

 さてさてどうなることやら。みんな興味津々だ。


 とりあえずティールームのようなしつらえを用意して、

 皆を座らせるとリゼがお茶をいれる。

 外の様子はダイレクトに見えるようにしているから、かなり賑やかだ。


 「煩ければ音を絞ろうか?」

 

 と尋ねたが、皆首を振る。

 敵討ちと意気込んで準備してきたけれど、終わってみれば、なんだかむなしい気分だ。

 勿論まだ終わってはいない。罰はこれからだけど。


「アーサー、あの神殿騎士はあなたが動かしたのでしょう?よく取り込めたわね」


 とリゼが聞けば


「ほとんど、白星のおかげさ。

 今日任務に就く300人の中からファイル筆頭枢機卿に不信感を持っているものを絞り込み、

 中でも子供好きの隊員と接触する機会まで調べ上げてくれたから。

 元々意思に反する行動を強制することは難しいからね。

 彼らは自分たちの信念でファイル筆頭枢機卿たちを拘束したと思っているよ」


 「サトリは大丈夫?」


「なんかねぇ。聖女さまとか言われるの、何か違うと思ってしまう。

 お母さんの仇討ちって思い詰めてたのに。あいつをみてるとさぁ。

 なんだかなぁ。すっきりしないんだよね」


 確かに、外からはまだ口汚くののしるフィクトス公爵の声が聞こえる。

 多分わざと好きに言わせているのだろう。

 あの姿を見ると本当に虚しさしか感じない。あんな奴にお母さまが殺されたなんて!

 

 映像は相変わらず流れ続けていた。多分フィアル筆頭枢機卿はどうしてだか判っていないだろう。

 自分は力を使っていないから。みじめな姿をさらしたくないしね。


 「あれってどういう仕組み?」


 ノアが尋ねる。ノアはおじい様の異能を知らない。

 作戦に組み込んでいなかったものね。おじい様の異能。


 「皇帝陛下の異能ってね。コピーなんだよね。」


 「そんな!万能過ぎない?」


 とサトリが驚いて声をあげる。


 「直前に見た能力だけという縛りがあるの。

 もし何でもコピーできるなら王杓を使って転移なんてしないでしょう?」


 「なるほど。だから皇帝陛下の異能は威圧だと思われていたのか」


 ノアが納得した顔をする。

 そうなのだ。異能というのは万能ではない。大きな力ほど、制約が掛かる。

  

 「サトリはどう?大きな力を使ったけど、体調とか能力とかに変化はある?」


 「うーん。多分これ、しばらく能力は使えないと思う。」


 そうだろうなぁ。サトリの場合能力の発現に縛りがないから、

 そうなると思ってた。そう説明すると

 

 「じゃあリゼも?」


 「そう、私も多用は出来ない 身体に負担がかかるから」


 みんながオロオロして異能を解けと言い出したから笑ってしまう。


 「ちゃんと理解して使っているから大丈夫よ。それにあそこにいるほうが負担だわ」


 外は混沌としている。

 なにしろ敵だと思っていた皇帝が味方で、自分の国の王女や法王を筆頭枢機卿や公爵が害していたなんてね。


 聖女さまを自国に取り戻そうと言い出す輩やら、味方だとしてもなんで皇帝が!とか姦しいことこの上ない。


「私、さっき浄化したよね」

 サトリが思わず尋ねたぐらいだ。


 「人の心なんてそんなもんさ」

  ノアが悟ったように言う

 

 「そろそろ始まるみたいだぞ」

  とアーサー。


 法王猊下が大精霊降臨を展開した。黄金の光が爆発した。

 煌々として、目を開けていられない。

 その光の中に確かに誰かがいる。これを直視できるものがいるのか?

 いた!法王猊下だ。猊下が膝まずき審判を要請している。


 大精霊はそれを受け入れたのだろう。

 筆頭枢機卿、ドリンゴ公爵、黒衣の男、そして剋聖党の一味が全て黄金の光の中に取り込まれた。

 全てを取り込むと大精霊はその姿を消した。


 外は静まりかえっている。

 シーンとした中で法王の声が、みなの心に染み入るように響く。


「因果応報の裁きが下った。

 あの者たちは死ぬことも生きることも叶わず あの光の中でひたすら自分の悪行と向き合うことになる。

 言い訳も情けもない。淡々と事実だけが彼らの魂を責めさいなむだろう」


 恐ろしいと思った。


 自分のせいじゃない。

 他の人だってやっている。

 しかたなかった。

 不運だった。

 わざとじゃないんだ。

 そんなつもりじゃ。

 どうしようもなかった。

 命令されただけ。


 自分を守る言葉を、全て剝がされてただ真実の自分と向き合う。

 言い訳の効かない世界で、どうやって人は自分を保つことができるのだろう。


 因果応報?


 そんな世界に囚われるなら、きっと処刑された方がずっと楽だったろうに。

 そして納得した。

 法王猊下は、既にその世界に住んでいらっしゃるのだと。


 そうして私達は帰国したわけだけれど……。

 よく考えたら、私たちは学院生で、たっぷりと宿題なんかがあって、

 しかも、国に帰ったらもうすぐ夏休みが終わってしまいそうなのだ。


 おかしいでしょう?

 だって命がけでお仕事したのに、宿題に押しつぶされそうになっているなんて!


 学院の宿題の量ときたら、半端ではない。

 大体真面目にやったら、1日10時間勉強しないと、終わらない量なの。

 これは科目担任制の弊害だわ。全体の宿題量が把握されてないのよ。


 まず、国語の先生が韻をきちんと踏んだ詩を30首。

 数学は問題集1冊。地理が地理学を踏まえた小説100枚

 外国語3種 それぞれ本の翻訳 合計3冊

 油絵1枚 刺繍1枚 得意な楽器で演奏 課題の楽譜を頂いている

 自由研究と読書感想文

 魔法学からも、試験課題が出てるからおさらいしておかないと。

  

 夏休みは、あと10日。皇族として適当なものは出せない。

 泣いていいですか? 泣いちゃいますよ。

 ぐずぐずと言っていると、ミーナが「それよりはお手を動かして下さい」と言う。

 今、刺繍しているんだけど、なんでこんなにちまちまと面倒なんですか?


 そこにアーサーとノアとサトリが荷物と一緒にやって来た。


 「どうしたの?宿題は?」


 「それについて画期的な提案があるんだ。」とノア


 「このままでは、どう考えても間に合わないだろう?分業しよう」


 「分業?」

  

 「そう。僕が数学を解くから、君たち3人はそれぞれ翻訳をやるんだ。後で写せばいい」


 「凄い。天才だわ!」


 「ただしミスは無しだ。ミスすると全員同じところがミスになってばれる」


 こくこくと全員が頷いた。

 宿題が間に合わないから一緒に勉強することに、親たちも賛成してくれたんだって!

 さすが根回しのノア。しかも旅行の時みたいに一緒にいられる。


 私たちは早速取り掛かった。

 芸術系は丸写しできないけど、問題集と翻訳だけでも助かる。

 それに得意分野が違うから、教えたり手助けしたりで、一人で煮詰まるよりずっといい。


 こうして私たちは、ひたすら勉強に取り組んだ。もう一日14時間以上勉強したと思う

 そしてとうとう宿題は終わった。バンザイ!


 そしてふっと我に返った。


 「ねぇ 私たち一体何しているんだろう?」


 「そうだよな。俺たち遊び歩いていると思われているんだぜ」


 そうなんです。あのルーンフェル王国の一件は公にされなかった。

 皇帝陛下がルーンフェル王国に出現するなんてことは無かったし

 私たちは法王から祝福を授けられて、帰国しただけ。


 ルーンフェル王国の人々も、大精霊を見なかったことにしたいらしい。

 あれはかなり悪夢だしね。清廉潔白な人なんていないのだから。

 そうなると、私たちはただの遊び歩いていた我が儘息子と我が儘娘。


 「いいじゃないか。それでいい」


 「そうよ。聖女なんて言われるより。ずっといいわ」


 「確かにね」


 「私たち普通の子供でいるほうがずっと幸せかもね」


 「宿題が多くてもね」

 

 「うん、でも次の休みは、本当に遊びにいきたいね」


 「海がいい。海で遊んだことないだろ」


 「そうだね。女王陛下の御座船より、海で遊ぶほうがずっといいね」


 そんなささやかな願いが叶うといいなぁ。みんなそれが叶わないという予感はあった。

 なぜかいつも事件が私たちをつかまえるから。


 でも今だけは夢を見たい


 

      ———第一部 完————

 

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

シリーズ第2弾「生贄予定のモブですがなぜか神龍様の番になりました」

を投稿しています。

こちらはもう少しサスペンス要素が強くなります。

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