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作戦会議

 サトリが聖女として無事に覚醒しその力も戦力として計算できるようになったことで、作戦会議は簡単に決まるだろうと思われていたが……


 ごねる男たちが続出したせいで、混沌を極めた。

  アストラル皇家とフィクトス公爵家は龍の子孫だと言われている。

 初代皇帝が龍だったという説や、

 皇后が龍の娘でフィクトス公爵家こそ龍が興した家だという説

 所説あるが、どうやら龍の血を引いているのは本当らしい。


 そのせいでアストラル皇家とフィクトス公爵家の男たちの

 伴侶に対する執着が重い。

 まずアーサーとノアはそれぞれの婚約者を危険にさらすのをよしとしなかった。

 そのうえシオンやレオンまで子供が皇国を出ることに大反対だ。


 あまりの混沌ぶりにマリア皇太子妃が立ち上がった。


「騒ぐな。まず状況を整理しよう」


「ミゼラブル教団はどう動く。計算は得意だろう?ノア」


 ノアは嫌そうに立ち上がり話し出した。


「交渉事は相手が呑めない話が先だ。

 だからミゼラブル教団としてはミゼラブル大聖堂での祝福という名目で、

 聖女の回収。ついでに、リゼの確保。

 あわよくば皇太孫を人質にとるの三段構えを狙う。

 しかしこれは皇国が呑むわけないと見込むはず。


 次の手は法王の派遣。

 しかし影の話では法王はこの5年おおやけの場所に出ていない。

 つまり既に死亡しているか軟禁されている。多分生きているはずだ。

 法王を殺すのはリスクが高すぎる。となると来るのは枢機卿。

 多分そいつが黒幕。狙いはルーンフェル王だろう。

 ルーンフェル王をアストラル皇国内で暗殺するメリットは大きい。


 ルーンフェル王暗殺が成功したら、ドリンゴ公爵が暫定的に王位に就く。

 王太子は5歳。ルーンフェル王国では未成年の爵位継承は認めていないからな。

 そのうえ国王暗殺をアストラル皇国に擦り付けられる。


 そうなると、法王は剋聖党の枢機卿。

 アストラル皇帝を破門することで民を煽動。

 ついで王になったドリンゴ公爵が宣戦布告。

 我が国の盾たるフィクトス家は、皇室が国民に刃を向けたとたん国民を守る側につく。

 アストラル皇国は滅亡。というシナリオだろう」


 みんながシーンと静まりかえった。

 フィクトス公爵が笑った。


「ノア。フィクトス家はアストラル皇国が滅ぶと判っても、国民を取るのか?」


「はい。国民が暴徒化したら軍隊を派遣するしかなくなります。

 そうなったときフィクトス家は民の側に立つしかないかと思います。

 おじい様」


「だ、そうだ。さてそれでだ。

 アストラル皇国を救い、敵をせん滅する方法は?

 あるのだろう?ノア」


 そう言われてノアは本当に嫌そうな顔をした。

 分かっていても選びたくないのだ。

 沈黙はしばらく続いた。


「あります。完璧に敵をせん滅する方法が。聖女の浄化。リゼの異空間生成、

 アーサーの支配 シオン殿下の転移門生成。

 ルーンフェル王が持つ巨大結界、法王が持つ精霊降臨 これらがそろえば」


「ノア、巨大結界についてはルーンフェル王に確かめることができたが、

 精霊降臨は噂でしかないぞ」


 皇太子殿下がノアに確認する。


「はい、殿下。精霊降臨については作戦には組み込みません。

 あれば助かるという話です」


 ふーと皆がため息をついた。


「それはつまり……」


「はい。我々がルーンフェル王国に行く必要があります」


「ほら、結論は既に出ているじゃない」

 リゼが明るく笑う。


「私も、お母さまの仇を打ちたいですわ。

 ずっと騙されていた恨みもありますしね」

 とサトリも頷く。


「聖女が恨みとかって言うのはどうかと思うな」

 とアーサー。


「あのね。言葉に出せるのは良いことよアーサー」


「そうですよ。聖女だって人間なんですからね」


「なんで、みんなで僕を責めるかなぁ」


「多分、余計なことをいうからよ」


「そうよ。アーサーは一言多いのよ」


 子供たちが楽しそうにわいわい騒ぎ始めたのを見て、

 大人も覚悟を決めたようだ。


「行くなら万全の準備をしようじゃないか」


 皇太子の言葉に皆は深く頷いたのだった。



 決戦の時は近いようだ。

 皇帝陛下からリゼ、アーサー、ノア、サトリが呼び出された。

 勿論その保護者も同伴だ。


「やっぱり来たわね。」


「やっと動いてくれたか」


「それで……?」


「多分ね」


 謁見の間の前で子供たちがひそひそ話をしている。

「ゴホン」大きな咳払いでシオンが子供の口を閉ざさせた。


 アーサー達が謁見の間に着くと壇上には皇帝陛下。

 その脇に皇太子殿下、皇太子妃殿下が控えている。


「アーサー殿下、シオン殿下、リゼ姫、サトリ姫、フィクトス公爵、ノア公子」


 呼び出されて次々に陛下の御前で礼をする。

 頭を挙げよと言われ、彼らは皇帝と、その前に控えた異国の使節団を見た。


「よく来たな。今日はお前たちにも関係のあることゆえ呼び出したのだ」

 そう言うと皇帝は使節団長を促した。


「先ほどの言葉、孫たちにも説明してやってくれるか。

 何しろ当事者だからのう。」


 使節団長である外務卿は幾分どぎまぎしながら、説明する。

 まさか子供たちを呼ぶとは、思ってもいなかったのだ。


「はい、我が国におきましては、アーサー皇太孫殿下、リゼ王女殿下の御婚約

 並びに、サトリ姫殿下、ノア公子殿下の御婚約を祝い、

 ミゼラブル大聖堂での祝福をお受け頂くようにご招待申し上げます」


「それで?式典はミゼラブル法王が行うのか?」

 シオンが鋭く質問する。


「はい。ですが法王は最近体調が思わしくなく、

 儀式はファイル筆頭枢機卿が代行させて頂きます」


 外務卿は少し額に汗をかいている。

 法王ではなく筆頭とはいえ皇国の後継者に枢機卿というのは失礼な話なのだ。

 いくら従兄弟の強い要請とはいえ、ルーンフェル王はどうしてこんな話に頷いたのだろう?


 皇帝が頷いて質問する。


「それで、そなたたちはどう思う?」


「おじい様。僕は皇国を出たことがありません。

 お許し願えるなら行ってみたく存じます」


 そういってアーサー皇子は無邪気に笑う。


 おいおい、愚鈍とは聞いていたが皇国の後継者がこんなので大丈夫なのかと、

 外務卿は他人事ながら心配になった。


「私は反対です」

 シオンが発言する。

「恐れ多くも皇国の後継者がみだりに皇国を出るなど、あってはならぬことです」


 そうだよな。それが筋ってもんだ。外務卿も深く頷く。


「あらお父様、そんな意地悪言わないで。私も行ってみたいなぁ。

 ねぇお父様いいでしょう?」


 そこに公式の場もわきまえないわがまま娘の発言だ。


「だってリゼ。危ないんだよ」

 とシオン。


「そうか、そうか、リゼは行きたいのか?」

 なんと皇帝まで猫なで声で孫娘を甘やかす。


 外務卿は頭が痛くなってきた。俺は何を見せられているんだ。

 皇帝が孫娘に甘いという報告は受けていた。父親であるシオン皇子も。

 それでも、ここは公式の場所ではないか!


 その横でサトリとノアがひそひそと何やら話しては小さく笑っている。

 御前だというのに、二人の世界に入っているのだ。


 シオンが声を張った。


「兄上、お止めください。父上、いけません。危険すぎます」


 途端に皇帝はきりりとした顔になりシオンをとがめる。


「何をいうか! お前が娘を守ればよいだけだろう。軟弱ものめ!」


「使者殿、ルーンフェル王の要請を受けよう。孫たちを頼むぞ。

 かすり傷ひとつでもつけてみよ。その代償は大きなものになると、王に伝えよ」


「ははぁ」


 平伏しながら外務卿は己の運のなさを嘆いた。

 来るというなら、準備万端揃えるのはこちらの役目。

 なんという貧乏くじを引いてしまったのだろう。

 しかも皇子も王女も我がまま放題だ。

 高位貴族のドラ息子やドラ娘がどんなに難儀な存在か、よく知っている中間管理職は、しみじみとわが身の不運を嘆いていた。


 

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