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攫われたのは皇帝の孫娘でした。  作者: こもれびの空


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19/29

サトリの覚醒

 サトリは宮殿の外宮を与えられているが、そこにノアが訪れる。

 外宮付きの侍女たちも、最近はノアが来ると扉の近くで控えるようになった。

 私的な会話を聞かないようにするために。


「今日も美しいね。私の姫君」


 サトリは嬉しそうにノアに駆け寄る。


「今日は遅かったのね。」


「ごめんよ。ちょっとアーサーに呼び出されてしまって。

 アーサーは今でも君を愛しているようだ。リゼ姫との婚約が発表されたというのにね。

 姫も罪作りな人だ。それとも本当はアーサーが好きなの?」


 サトリは拗ねたようにノアに背をむけた。


「ひどいわ。私を信じて下さらないなんて。私はノアさまだけを愛していますのに」


 サトリの首元にそっとノアが首飾りをかける。


「これは……?」


「僕の瞳と同じエメラルドのネックレスだよ。君を守る守護の魔法が掛けてある。

 肌身離さず持っていてくれるかい。私のサトリ」


 サトリは嬉しそうに振り返りノアを見つめた。


「絶対にいつも身に着けるわ。ノアありがとう」


 ノアはそっとサトリをソファーへと誘う。


「実は少し話が合ってね。

 皇帝陛下には内々に君との結婚のお許しを頂いたんだ。

 まぁ皇帝陛下は自分の孫のリゼとアーサーを結婚させたがっているから、

 お許しはすぐに貰えると思っていたのだが、条件が付いてしまった」


 サトリは眉を顰める。


「そんな顔をしないで。たいしたことじゃない。

 君はまだ固有の異能を発現できていないだろう?」


「それは……」


 サトリも実はそれで悩んでいた。

 どの魔法士も必ず固有異能を持つ。

 それはささやかなものが多いが異能は異能だ。

 魔法は学ぶことができるが、異能は自分で発現するしかないのだ。

 サトリはどうしても固有魔法を発現させたかった。

 天涯孤独のサトリにとって、それが自分を守ってくれる力になるはずだから。


「異能はね。血縁者に補助してもらえばすぐに発現するのだ。だから心配いらないよ」


 だって。とサトリは思う。自分は天涯孤独だ。

 ルーンフェル王は父親だというが、一度面会を許されたきり会ってもいない。

 ノアはそんなサトリの様子にも気づかないようで朗らかに続けた。


「だからリゼ姫のお見舞いに一緒にいかないか?」


「えっ?」


「だってリゼは君の又従姉妹じゃないか」


 そうか、そうなのだわ。

 リゼのお母さんもルーンフェル王国の王族だって言ってたわ。

 私とは又従妹同士になるのね。知らなかったわ。

 こんな異国で親戚に会うなんて。サトリは奇妙な気分だ。

 そうね。

 もし私に素敵な異能が発現したらリゼも生かしてあげてもいいわ。

 又従姉妹なのだしね。

 そんなことを思いながら、サトリはにっこりとほほ笑んだ。


「もちろんですわ。私も又従姉妹のお見舞いをしたいと思っていましたの」


 翌日。サトリとノアはリゼの応接室にいた。


「すぐに姫様がまいります。しばらくお待ち下さい」


「私、お見舞いってベッドルームに行くものだって思っていた。

 ずいぶん気取っているのね」


 ノアは苦笑する。


「僕がいるのにかい?女性のベッドルームに入れる男性は婚約者ぐらいだよ。

 それともサトリは僕以外の男性をベッドルームにいれるのかい?」


 ノアの目が冷たくなった。サトリは慌てて謝る。


「ごめんなさい。私平民暮らしが長くて。

 平民の家にはこんな立派な応接室なんてなくて……」


「僕こそ悪かったね 君を疑って」


 そこに


「お待たせしました」


 入ってきたのはリゼ姫とアーサー皇子だ。

 アーサー皇子は不快そうにノアを睨んでいる。


「僕は婚約者殿のお見舞いに来たんだ。父上の命令でね」


 さも不快そうにアーサーは吐き捨てる。こういう所だとサトリは思った。

 あの黒い魔法士の言いつけ通りアーサーを選ばなくて本当に良かった。

 ノアの方が何千倍もいい男だわ。可哀そうにリゼ姫は真っ青じゃない。

 あれじゃ病気なんてよくなるわけがない。


「何しに来たのだ?」


 アーサーの質問にノアが穏やかに答える。


「サトリの異能を覚醒させる必要があってリゼ姫に助力を乞いにきたのさ」


「なるほど。役立たずのリゼが使える日がくるなんて!

 リゼ、さっさとサトリを手伝え!」


「はい。サトリ姫。私について来て下さい。

 覚醒のためには寝ていただいた方が良いでしょうから」


「ノアは俺の相手をしろ。話があるからな」


「御意」


 ノアはうやうやしく答える。


 サトリはリゼの後ろをついて歩きながら、ノアが気になって仕方がない。


「サトリ姫はノアがお好きなのですか?」


 弱弱しくリゼが尋ねた。


「サトリと呼んでください。私たち又従姉妹なんですってね?」


 リゼはこくりと頷いた。


「私のこともリゼと」


 その瞬間、侍女が止めようとしたが、リゼはゆるゆると頭を振る。

 侍女は悔しそうに下がった。この娘って本当におとなしいのね。

 さっきだってアーサーの言いなりだったし。

 それにかなり具合が悪そうだけど大丈夫なのかしら?


 サトリは自分がリゼを心配していることに驚いた。なんでかしら?

 初めてあっただけの娘なのに……。

 リゼは寝室に案内すると、傍らの寝椅子を指して横になるように促す。

 サトリが横になると、リゼも椅子に座りサトリの手をとった。


「少し、身体を調べますね」


 リゼがスキャンと唱えると白い靄がベールのようにサトリの全身を包んだ。


「確かにルーンフェル王家の血筋を継いでいます。けれど直系ではなさそうね。

 傍系。多分ルーンフェル王の従兄弟の子供と言ったところかしら?」


 サトリが思わず抗議しようとすると口元にリゼの人差し指が当てられた。


「お静かに。どうあろうと、確かにルーンフェル王家の血筋。

 あなたの身分が覆ったりしませんわ。」


「ミーナ。ルーンフェル王に従兄弟はいる?」


 ミーナはバインダーを取り出した。これがミーナの固有能力(検索)だ。


「従兄弟はお一人ですね。前王の弟君の子で現ドリンゴ公爵

 王族で王子の称号を保持しています。」


「母君は……聖女」


「ミーナ。ルーンフェル王国に聖女の記録は?」


「確か、精霊都市といわれるサトリの森に住む一族に聖女が生まれることがあるようです。

 しかし通常なら聖女はミゼラブル教の最高位である法王に次ぐ地位。

 市井に住むはずはございません」


「それなら、ドリンゴ公爵がひそかに監禁していたのでしょうね。

 聖女の情報はミゼラブル教団でも枢機卿以上でないと判らない筈。

 ミゼラブル教団は聖女が攫われたことを隠したのね。

 教会の面目を保つために」


 サトリの頭の中は混乱している。

 どういうことなの?お母さんが聖女?父親って王様じゃなかったの? 

 全部嘘だったの?あの館に来ていたドリンゴ王子が父親?嫌な目つきの男だったわ。

 もしかして私騙されているの?私は利用されたの?


「サトリさま。今から魔力を通しますから、心安らかに受け入れてください。

 お母さまは聖女のようなので

 サトリさまの異能も聖女である可能性が高いですよ」


「聖女ってどんな力を持っているの?」


「そうですね。悪しき心の浄化。病気を治すヒーリング。

 ケガを治す治癒などが一般的です。

 サトリさまの異能がどれになるかは、力が目覚めるまでわかりません」


「待って!心がついていかないわ!」


 リゼはそっとサトリの瞳を見つめた。


「力を持つことは責任を伴います。このまま辞めても誰も責めませんよ」


「ごめん。やっぱりやる! 

 ちゃんと事実を知ってお母さんを苦しめた奴を罰するの!」


 リゼはにっこりと笑った。


「私たち、同じ相手に母親を殺されたみたいね。協力しませんか?」


「勿論よ。協力するから、早くやって!」


「約束よ」


 そういうが早いか、魔力がぐんぐんとサトリの中に入ってくる。

 受け入れろと言われたって。なにこれ。凄い。体中に魔力が満ちて爆発しそう。


 次の瞬間、激しい白光が辺りを覆いつくした。

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