アーサーのお見舞いとリゼの覚醒
謹慎中のアーサーがお忍びでリゼのもとにやってきた。
もちろん護衛という名の監視をびっしり貼り付けて。
皇太子殿下も許可したというから、侍女たちは浮かれている。
「私どもは部屋の前で控えておりますから、ごゆっくり。
ただし慣例により扉は開け放しておきます」
侍女はアーサーに頭をさげるとリゼに
「姫さま 何かございましたらいつでも声をおかけください」
と声をかけて行ってしまった。
護衛たちも扉の入り口で待機だ。
部屋は広いから聞かれる心配はない。大声をあげれば別だが。
「何しに来たのよ」
「何って、現状報告。君のところには情報が何も入ってないんだろう?聞きたくないのか」
「聞きたいけど……。」
「何が知りたい?」
そりゃぁサトリのことに決まっている。
けれどまた、嫉妬だなんだとは言われたくない。
リゼが考え込んでいると、アーサーはにこにこしている。
これは聞かないかぎり絶対何も言わないつもりだ。陰険なんだから。
「サトリのことよ。前に面白いって言ってたでしょう?その意味が知りたいわ」
「珍しく直球だね。そんなに焦っている?」
「からかうならもういいわよ。帰りなさいよ!」
「からかうなんて。珍しいと思っただけさ。
そういえばノアはこの頃サトリと仲が良いそうだよ。妬けるかい?」
「ノアが? 妬くわけないじゃない。それよりいいの?
あなた、あんなにサトリのこと……」
ふふふとアーサーが笑う。
「サトリはね。飢えた獣さ。可愛らしい顔をしているけれどね」
「なんでそれが面白いやつに繋がるのよ」
「面白いじゃないか?
宮殿では皆 お上品な顔をしているのに、サトリはそうじゃない。
富や名声。自分を飾る男。すべてを欲しがっている。
乾いているけれど、あれはいくら飲んでも渇きも飢えも収まらないだろうね。
根っこが恨みでどろどろだから」
リゼは絶句してアーサーを見つめた。
そうか。魂が見えるとはそういうことなのだ。
人の本音がみえたら、いいや、本音しか見えない生活をするなんて、私なら耐えられない。
気分が悪くなって人に会いたくなくなるだろう。
なのにこの少年は皇太孫で、多くの人の目にさらされているのだ。
「そんな顔をしないで。相変わらず優しい子だね。リゼは」
「私、別に優しくなんかないわ」
「優しいさ。君が魔力を感じることができた日のこと覚えているかい?
君はまだ3歳で、魔法に夢中だったから 魔力が使えて有頂天だった。
嬉しくて仕方がなかった。それが当たり前だろ?
なのに君は僕を見ると魔法を使うのを止めてしまったよね」
「君の初めての魔法は風だったね。珍しいんだよ。
大抵の人は水や火みたいに見えるものを出そうとするのに。
君は目に見えない風を選んだ。
そよ風を吹かして 髪をたなびかせてみたり、葉っぱをくるくると回転させて遊んでいた。
僕はきれいだなと思ったんだ」
アーサーの瞳は懐かしむような、愛しいものを見るような優しさにあふれていた。
リゼはそんなアーサーから目を離せなかった。
「あの時君は僕を心配していたよね。じぶんが先に魔法を使ってしまったと。
それで困って魔法を止めた。
そのあとだって公表はしなかった。知っている人は知っていたけどね」
その言葉でリゼははっとした。
「アーサー、あなた私より先に魔法が使えていたのね。
だって誰もいなかったもの。あの時。
しかも私の魔法をそんなに正確に見抜くなんて!なんで隠していたのよ!」
「知っているだろう。宮廷で隠し玉は多い方がいい」
リゼは脱力してしまった。陰険皇子め。何を隠しているかわかったもんじゃない。
「そろそろ帰るよ。君、また少し熱がでてきたね」
アーサーがそっとリゼの額に手を置いた。
「姫の熱が上がってきた。早く休ませろ」
侍女たちがバタバタと慌ててリゼを介抱する。
「待ってアーサー。サトリはどうなるの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと回収させる。心配しないで。
哀れな娘の渇きを癒してやるさ」
アーサーったら。どうして私の望みがわかったのかしら。
あぁ、そうか。異能のせいね。
それでもちょっとうれしくて安心してしまう。
アーサーに任せてちょっと眠ろう。なんだかとても眠い。
うつらうつら
気持ちの良い眠りに揺られながら、リゼの意識が警告を鳴らしている。
おかしい、何かがおかしい。
考えようとするとすぐに眠りに誘いこまれそうになる。
温かくて安心する揺りかごのような眠り。
危機感のアラームが鳴り響く。
リゼは無理やり目を開くと全身を魔力で覆った。
スキャンと呟く。体内にアーサーの魔力。
これか!怒りのあまり力任せに引きちぎる。
アーサー!そう叫ぶのと異空間生成は同時だった。
「そこに座りなさい。アーサー」
いきなり異空間に引きずりこまれるなり、
怒り心頭のリゼを見てアーサーは大人しく正座した。
女性が怒り狂っている時に、何かいうのは悪手だ。
でも思わず口走ってしまった。
「父上や叔父上のお許しはもらったのだ!」
結果は……。
なんと男4人雁首揃えてリゼの前に正座させられている。
ノアも一緒だ。
「なぜ僕まで?」
ノアがにっこり微笑んでみたけど、リゼは一言で切って捨てた。
「同じ穴の貉」
しばらく睨みつけていたが、リゼはやがてうんざりしたように首を振って椅子に腰をおろした。
この前の円卓が、いつの間にか出現している。
「えーと、僕たちも座っても?」
一番罪が軽いと思われるノアが、恐る恐る声をかけた。
「何もかも全部話すならね」
と、言うわけで円卓に勢ぞろいしてしまった皇族とノア。
「お父様。どこまで調べがついたのか話して」
シオンは少し考える素振りをしたが、諦めたようだ。
「私の妻はルーンフェル王の妹だ。そして兄妹仲はとても良かったんだ。
サラが死んで怒ったのは私だけではない。ルーンフェル王も同じだった。
背後にいたのはミゼラブル教団。
とはいえ表向きのミゼラブル教団は愛を解く普通の宗教団体だ。
ルーンフェル王国の多くの民が信仰している。我が国にも信徒は多い。
ところが背後に過激派がいる。
古代魔法こそが正当な魔法であり、
その正当な流れをくむのが精霊の血を引くルーンフェル王だと言うものだ。
だから偽の魔法士は滅ぼすべき邪悪な民だという思想だ。
しかも現王エルディン・フォン・ルーンフェルは妹を邪悪の民に嫁がせた。
王たる資格はない。邪悪な民に嫁いだサラ王女に鉄槌を!
青き血に邪悪な血が混ざったリゼを生贄として捧げよ。
そうすれば精霊王が降臨し、いにしえの神殿が現れる。
それがサラが殺された理由だった。
ルーンフェル王 義兄上とは秘密裏に連絡を取り合っている。
ただし信仰が絡んでいるから、下手を打てば民衆を敵に回すことになる。
そうなればアストラル皇国は滅亡だ。
ルーンフェル王国も過激派 奴らは剋聖党と名乗っているが、
奴らの傀儡になってしまう。 民の自由は損なわれるだろう。
やるなら一撃で、全員を残らず捕らえなければいけない。
芽を残せば連中は必ず息を吹き返すからな。」
黙って聞いていたリゼは静かに尋ねた。
「私を計画から排除した理由は?」
皇太子が困ったように口を開いた。
「みんなお前を愛しているからだよ。
生贄として狙われているなんて知らせたくはなかったのだ」
次の瞬間みんなぎょっとした。
リゼがぽろぽろ涙をこぼしているのだから。
たまりかねてシオンがぎゅっと娘を抱きしめる。
傍らでアーサーが小さい声で呟いた
「今は譲ってやる。今はな」
リゼは涙を振り払うとにっこりと笑った。
「さぁ、作戦会議をはじめましょうか?作戦があるのでしょう?」




