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攫われたのは皇帝の孫娘でした。  作者: こもれびの空


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学院は大騒ぎ サトリ姫の本音

 まだ10歳では仕方がないが、学院は大騒ぎだ。

 普通でもクラスや席の場所、担任は誰かが気になるというのに

 朝一番の号外である。

 クラスは公爵、侯爵、伯爵家の上位クラス。

 子爵、男爵、騎士爵の下位クラスに分かれる。

 これは常識だからみんな承知。心配なのは席と担任ぐらいなのだ。例年ならば。


「どういうことだ?」

「順当だろう。アーサー皇子とリゼ姫の婚約ならさ」

「いや。だって昨日は……。」

「シー。それは言わない方がいい。そのせいでアーサー皇子は謹慎中だろ」


「しかし酷くないか?愛する二人を引き裂くわけだろ?」

「アーサー皇子は納得しているのか?」

「これじゃリゼ姫は、完全に当て馬じゃないか」


「でもさ、サトリ姫って神秘的で可愛いよな」

「そのうえ平民育ちだから気さくだしさ」

「でもさ。サトリ姫もつらい立場だよなぁ」

「出自のことで母国でも辛い立場だと聞いたぞ」

「お気の毒になぁ」


 下位貴族たちは、こぞってサトリ姫に同情している。

 一方の上位貴族側。こちらは噂など知らん顔を装ってはいる。

 何しろ親から余計なことは言うなと固く口止めされている。

 しかし胸の内はどうだろうか?


「あっサトリ姫だ」


 サトリ姫は、アッというまに取り囲まれた。


「姫。クラスまでエスコートいたします」


「下がれ。お前たちが気軽に声をかけて良い方ではないぞ。

 いくら学院だとしても礼儀は守れ」


 護衛だろう少年が必死に周囲を抑えている。


「おい。いつから学院は猿山になったんだ」


 冷え冷えとした空気に全員が声の主を見た。


「ノア公子」


 皆の背がピシッと伸びた。


「失礼しました。姫君。アーサー皇子の従兄弟のノアと申します。

 アーサーから自分の名代として

 姫君をお守りするよう申しつかっております。

 エスコートをお許しいただけますか」


 完璧な王子様スマイルでサトリ姫を見る。

 サトリ姫の頬はうっすらと染まった。


「そんな。私などが、公子にお世話をおかけするなど」


 上目遣いで恥じらうようにそういう。


 周りの男子はすっかりサトリ姫にノックアウトされている。

 ノアが不快そうにそんな彼らに視線をやると、そそくさとみんな去っていった。


「遠慮しないで。僕とアーサーは従兄弟ではあるけれど、

 実際は兄弟も同然なのです。

 僕も宮殿に私邸を頂いておりますしね。だから遠慮はご無用ですよ」


 そういいながらノアはすでにサトリ姫の手を取っていた。

 サトリ姫も嬉しそうにノアの腕に手をかける。

 そうやっていそいそとクラスに向かう様子を見て、皆は首を傾げてしまう。


「自分の代わりにノア公子って、アーサー皇子は人選間違えていないか?」


 まわりもこくこくと頷く。

 何しろ彼ら二人は次代のトップとして若い女性の人気を二分する存在だ。


「確かに。あれってどう考えても敵に塩を送っているよな」


「いや、それだけアーサー皇子がサトリ姫を大事にしているってことだよ」


「いや、だってさっきのサトリ姫の顔を見たか?」


「王族に対して失礼だぞ。こういう時こそ、見ざる、言わざる、聞かざるだ。

 巻き込まれて家に迷惑をかけるなよ」


「たしかにそうだ」


「モノ言えば唇寒し。だよな」


「雉も鳴かずば撃たれまい。とも言うぞ」


「なんだい。ことわざ特集でも組むのかよ」


 最後は大爆笑になった。

 ついさっきまで悲劇のサトリ姫として同情を集めていた空気は

 かけらも残ってはいなかったのだ。



 放課後、サトリはうっとりと今日の出来事を思い返していた。

 ノア公子って素敵だわぁ。

 ルーンフェル王国の貴公子は端正で顔はよいけれど、

 私の事完全に見下しているのよね。

 そんなのすぐにわかるわ。

 ずっと親戚の家をたらいまわしにされてきたら、人の感情に敏感になるものよ。

 私はバカかもしれないけど、仕方ないじゃない。

 親戚にも邪魔にされて、召使いみたいに働かされていたんだから。


 夢みていたわ。私は実は裕福な家の子で、迎えが来るなんてね。

 でも言われたの。


「お前の母親は私生児を生んだ。あばずれだ。家の恥だ。」


 お母さんは私を生んだ時に死んでしまった。

 早産だったから育てるのは大変だった。

 と言われてもね。それ、私にはどうすることもできないじゃない。


 悔しくて両親に愛されている従兄弟たちが妬ましかった。

 そんな時、あの奇妙な服を着た人がやってきたの。

 全身を黒いローブで覆った、絵本の魔人みたいな男。その男が教えてくれた。


 私の父親はエルディン ルーンフェル王だって。

 凄くない?王女さまだよ。


 じゃあどうしてお母さんは一人で私を産んだの?

 お父さんはどうして助けてくれないの?

 男の人は教えてくれた。

 王様は私のことも、お母さんのことも知らないって。


 親戚の奴ら知っていて黙ってたんだ。いや親戚の奴らが首謀者だ。

 王様がこの地に視察に来た時、親戚のやつら

 お母さんを王様に捧げたんだ。一夜限りの相手として。


 なんだか知らないけれど褒美はいっぱいもらったらしい。

 その代わり口外無用。子供ができたら女の家が処置をする。

 そういう規則。伝統だってさ。


 じゃあ、なんで私が生きているか?

 お母さんは出産で死んだんじゃない。私の身代わりに命を絶った。

 命を盾に親戚に誓いをたてた。もしも私を殺したら、永遠に呪うと。


 この国は精霊や呪いを信じている。命を代償にした呪いは強い。

 だから奴らは私を殺せない。

 もうね。腸が煮えくり返る気持ちがしたわ。親戚の奴ら絶対許さない。


 魔人は薄く笑って言った。


「助けが欲しければ、この手を取れ」

 取るに決まっているじゃない。


 それから大きなお屋敷に連れていかれて、淑女教育ってやつを叩き込まれた。

 マジ叩くんだよ!ムチで。手のひらとかふくらはぎとか。

 それが普通だって言うんだから貴族の子供も大変だ。


 転機はやっぱり試しの儀かな。そのお屋敷で試しの儀を受けた。

 普通は神殿に行かないと出来ない筈だから、

 あの屋敷って凄いのかもしれないね。


 びっくりした。髪が白から銀髪に、瞳が赤から紫に変化したの。

 もともと私って美人だけどさ。

 もう自分でみてもびっくりするくらい美人さんになった。


 そしたらさぁ。お屋敷の人が


「これなら、リゼ姫の身代わりができるかも?」


 なんて色めき立っていたけどさ。

 私はどっちでもよかったよ。名前なんてどうでもいい。


 贅沢ができて、王女さまになって王子さまと結婚するんだ。

 それくらい望んだっていいよね。

 だって私、本当は王女さまなんだからさ。


 だけど失敗したみたい。本当の王女さまは黒髪なんだってさ。

 屋敷の人もちょっとは調べればいいのにね。


 それでも扱いは変わらなかった。

 本当はそのままアストラル皇国に送られるはずだったのに、

 なぜか王宮に招かれて、正式に王様の娘だって事になった。


 それからはサトリ姫って言われて、

 姫としてアストラル皇国に行くことになったの。

 そしたらさ、アーサーっていう皇子さまが、

 私に惚れちゃって大変なことになった。

 私を皇后にしたいんだってさ。

 別になってあげても良かったんだけど、皇帝と皇太子が反対したみたい。


 アーサーと従姉妹姫のリゼと結婚させたいみたいなんだよね。

 リゼが見つからなかったら、私が皇后だったのにさ。


 でも良いんだ。ぶっちゃけアーサーって俺様気取りの、やな奴だった。

 けれどノアは違う。アーサーの従兄弟で、優しくてすごくスマート。

 なので魔人の使いが来た時、伝えたの。

 ()()()()()を持つアーサーの従兄弟を落としたって。


 そしたら喜んでいた。これでアストラル皇国の屋台骨を揺るがせられるって。

 揺るがすのはいいけど、ちゃんとノアを王様にしてよ。

 私は王妃になるんだから。

 って言ったら大丈夫って受けあってくれたから安心だね。


 えっ?アーサーはどうなるって?

 そんなの邪魔だから死刑一択じゃない。

 ついでにリゼとかいうお姫さまも処刑しちゃう。


 アストラルの王族はノアを除いてみんな処刑。

 そしてノアと新王朝をつくるんだ。

 私が初代王妃さまってわけ。いい感じだと思わない。

 ノアも私のおかげで王様になれるんだから感謝してほしいわね。



 

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