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攫われたのは皇帝の孫娘でした。  作者: こもれびの空


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16/29

まどろみから覚めて

見つけて下さってありがとうございます。

 

 侍女がカーテンを開けると優しい朝の光が室内に広がる。

 リゼはうっすらと目をあけてしばらく豪奢な天蓋をぼんやりと眺めていたが、

 やがてハッとしたかのように飛び起きた。


「姫様、どうなさいました?」


 声をかけたのはマリーだ。

 元々皇宮でリゼの侍女をしていた彼女をシオンが連れて来た。

 リゼが5歳の時側付き侍女として召し抱えられたマリーは、

 すぐに己の主を失うこととなった。


 だからかなり過保護なのだ。もう二度と主を見失うことはしない。

 15歳のマリーは再びリゼに会えた時に固く誓っている。

 シオンにしても、そんな彼女の罪悪感を知って再び側付きにした節がある。

 まぁ信頼できるのは良いことだ。ことに宮廷では。


「アーサーはどうしたの?どこにいるの?」


「お目が覚めるとすぐに婚約者のご心配ですか?」


 侍女たちがみんな微笑ましそうにリゼを見ている。


「違う、てか、なんで婚約者? どうしてみんな知っているの?」


「今朝一番に宮廷から発表がありましたよ。号外まで出ています」


 わざわざ新聞の号外を見せてくれる。


「なんてこと!」


 信じられない!リゼは熱が出そうだった。実際に熱が上がって、頭がくらくらする。

 マリーはすぐにリゼの異変に気づいた。


「姫さま。大変! 姫様はお熱があります。すぐに侍医を!」


 そこからは大騒ぎになったが、侍医は笑って皆を安心させた。


「子供の知恵熱のようなものですな。環境が変わってお疲れが出たのでしょう。

 ご心配には及びません。半月ばかりのんびりとお過ごしください

 すぐに良くなりますよ」


 シオンも言った。


「リゼ、すまなかった。これだけ環境が変われば疲れて当然だ。

 学院はしばらくお休みして、のんびり過ごしなさい

 気を使いすぎてはいけないよ」


 これらすべてのことがリゼは気に食わない。こうしている場合じゃないのに。

 学院に行ってサトリを監視しなきゃいけないのに。

 いまのところ手がかりはサトリだけなのに。


 とりあえず手紙だ。

 アーサーに手紙を書くと言えば侍女はいそいそと準備してくれた。

 とりあえず盛大に文句を言ってやる。

 ついでにサトリに気を許すなとも付け加えた。

 こんな事を書けば、また嫉妬とか言われそうだだけれど。

 どう考えても怪しいだろう?サトリは!


「あのバカ。なにがサトリは面白い女よ。」


 リゼが思わず叫ぶとマリーが寄ってきた。なんてこと!

 私にはプライバシーはないのか?

 リゼが胸の内で盛大に毒づいているのも知らずマリーは言う。


「姫様。大丈夫ですよ。

 アーサー皇子は謹慎中にもかかわらず

 毎朝姫様にお手紙とお花を届けてくださるじゃないですか。

 愛されているのは姫様です。ご心配には及びません」


 だから、だから違うって言ってるでしょうが。あのくそアーサーめ!

 最初の手紙には、わざわざ号外を添付したうえで、こう書いてきやがったのだ。


「世界一幸せな僕の婚約者どの。僕は生涯君を放さないよ。安心するといい」


 誰が婚約者だ! なにが世界一だ~! 

 お前が余計な騒動を起こさなければ、こんなことにはならなかっただろうが!


 駄目だ!また熱が上がってしまう。

 しかも知恵熱って! あれは小さな子供がかかるものだろう。

 おかげで見ろ!まわりの視線の生暖かいこと。


 多分皇国中の人々がリゼは儚く美しい王女さまで、

 今はようやく帰れた館で幸せにまどろみながら守られていると考えているだろう。

 皇太子殿下は世論操作に長けていらっしゃるから。

 でもリゼは現場に行きたいのだ。


 ベルクとミーナを呼ぶようにいっても、

 お疲れになってしまうからと会うこともできない。

 まぁあの二人のことだから、

 しっかりサトリを監視してくれていると思うが……。


 せめて報告を聞きたいのに。

 こっそり異能を使おうにも、こうも監視されているとそれもままならない。

 リゼは爆発寸前であった。


 その一方。

 謹慎中アーサーはなぜかご機嫌な様子。


「何それ?」


 ノアがめんどくさそうに聞く。

 答えなんてわかりきっているが、聞いてやらないと先へ進まない。

 多分。


「わかっているくせに。いとしのリゼ姫からのラブレターさ」


「ふん。弾劾状か詰問状だろ、それ」


 アーサーはくっくと笑う。


「そうでもないけどね。だいぶ参っているみたいだね。

 元々コントロールする方でされる方ではないからね。

 しかも動きたくても動けない。物理的にね」


「少し婚約者に酷くない?何を()()()()()のさ。」


「人聞きの悪いことを言うなよノア。父上から許可は出ている。

 姫は虚弱体質なんだ」


「何を埋め込んだにせよ、お前リゼに()()()んだな。

 それでご機嫌なんだ。リゼも可哀想に」


 アーサーの異能、アーサーは真贋鑑定などとうそぶくが、そんな可愛らしいものではない。

 相手の全てを知り、相手の身体情報を動かすことができる。

 単純に言えば彼は支配者だ。


 しかしそれには相手に触れる必要がある。しかも無防備な状況で。

 だからノアには効かない。

 ノアが無防備になる状況などアーサーでも思いつかない。


「たいしたことないよ。ちょっと体内に炎症を起こしただけ。

 免疫細胞に体内を攻撃させたんだ。ほんの少しね。

 だから身体がだるく熱が出る。その状況では外出はできないだろう?」


「それ。いつまでもは持たないぞ。リゼだって馬鹿じゃない。そのうち気づく」


 気づいてしまえばリゼの魔力でアーサーの支配など簡単に打ち消してしまうだろう。

 その時が恐ろしいが。


「そうなんだよねぇ。だからリゼが気づく前に始末したいんだ。やってくれるよね」


「あのさぁ、アストラルってフィクトスを酷使しすぎじゃねえの?

 おまえの叔父貴が昨日来たぜ」


「父上と夕べ話してたみたいだからなぁ。

 なんだ、父上も同じ考えなんだ。期待してるぞノア」


 ノアが黙り込むとアーサーがその顔を覗き込む。

「なぁ、ノア。俺たち従兄弟同士だよなぁ。しかもお前は公爵家だしな」


「普通通用しないぞ、そんな手」

 何を言わんとするかを察知したノアが胡乱そうに返す。


「だがあの娘になら通用するのさ。いびつだからな」


「お前も因果な異能を持ったものだな。

 あんな可愛い娘がいびつな異形にしか見えないなんて」


「お前よりはましさ。お前恋なんてできないだろう?」


「恋がそんなにいいもんかねぇ。アーサー。お前がリゼに惚れた時って3歳だろう?

 何がそんなに良いんだよ」


 アーサーは憐れむようにノアを見た。

「哀れな計算マシーンに教えてやろう。リゼは欠けてないんだ。

 俺たちみたいに欠損がない。見せてやりたいな。リゼの魂。美しいんだぜ」


「へいへい。可哀想な姫君が気づく前に、落とすけどさ。

 多分あれ捨て駒だぜ。」


「できたら回収させたいんだ。捨てさせるな!」


「貸しだからなアーサー」


 そういってノアは出ていった。


「全くあいつも、面倒な奴だなぁ。こういうことが最高に好きなくせに」


 ぽふんとソファーに飛び込んでアーサーはリゼからの手紙を見返した。


「そろそろ姫君をなだめておかないとな 

 ノアの仕事の邪魔はさせられないからな」


 そう言って、またうっとりとリゼの手紙を見るのだった。

最後まで読んでくださり嬉しいです。

ありがとうございました。



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