第五話:もう一人のプレイヤー
世界初のボス討伐から三日。
街は、もはや以前とは別物だった。
避難所ではレベルを持つ者たちが即席のチームを組み、物資の回収や討伐任務にあたっている。
警察・消防・自衛隊ですら「高レベル探索班」を編成し、異形への対応を始めていた。
世界そのものが、“戦うことを前提に再構築されつつあった”。
九条 貴教は、そのどこにも属していない。
一人で動き続けている。
「助かりました!」
商店街でゴブリン三体に襲われていた親子を救う。
ゴブリン Lv.8 撃破
経験値獲得
だが──
経験値:+3
「少ないな……」
レベル15の今、格下の敵ではほとんど成長しない。
「もっと強い敵じゃないとダメか」
その言葉に迷いはなかった。
そのとき。
視界に黒いウィンドウが浮かぶ。
特別クエスト
未知のプレイヤーを発見せよ
報酬:???
「未知のプレイヤー……?」
直後だった。
ドォォン!!
遠方で爆発音。
崩れ落ちる高層ビル。
現場に到着した九条は、異様な光景を目にする。
瓦礫の中心に転がる巨大な死体。
ミノタウロス Lv.22
「……誰が倒した?」
その問いに答えるように。
「遅かったね」
声が、上から降ってきた。
屋上。
黒いコートの少年が立っている。
赤い瞳。
そして、圧倒的な“違和感”。
「君が世界初のボス討伐者?」
九条は剣に手をかける。
「だったらどうだ」
少年は笑った。
「神代 蓮」
彼の頭上に文字が浮かぶ。
神代 蓮
Lv.18
九条の目がわずかに細くなる。
「……俺より上か」
蓮はビルから飛び降りた。
普通なら即死の高さ。
だが彼は何事もなかったように着地する。
「驚かないんだね」
「今の世界なら、あり得る」
「正解」
蓮は楽しそうに笑った。
「じゃあ試そうか」
姿が消えた。
「っ──!」
九条の横に一瞬で現れる。
剣と拳がぶつかる。
キィィン!!
衝撃で窓ガラスが一斉に砕け散る。
「速い……!」
九条は距離を取る。
だが蓮は追わない。
「合格」
「……は?」
「本気でやれば街が壊れる」
「今日は挨拶だけだ」
九条は剣を下ろさない。
「敵か?」
蓮は少しだけ考え、空を見上げる。
「敵になるか」
「それとも仲間になるか」
「それは君次第だ」
その瞬間。
二人の視界に同時に警告が走る。
緊急ワールドイベント
72時間後
第一災厄《紅蓮の竜》出現
推奨レベル:30以上
街に悲鳴が広がる。
誰も到達していない数字。
レベル30。
九条の隣で、蓮が小さく呟く。
「予定より早いな」
「予定?」
九条が問うと、蓮は薄く笑った。
「その答えは、生き残れたら教えてあげる」
黒い霧が蓮の足元から立ち上る。
次の瞬間、彼の姿は“データの粒子”へと分解されていく。
残されたのは、一枚のカード。
九条はそれを拾う。
そこに刻まれた文字。
《終焉の塔》への招待状
その頃。
ビルの屋上。
神代 蓮は風の中で独り呟く。
「思ったより早いな」
彼の視界には、誰にも見えない情報が流れていた。
災厄進行度:37%
干渉ログ:観測者リンク確立
世界層構造:崩壊前兆
「……やっぱり、もう隠せないか」
そして、どこか楽しそうに笑う。
同時刻。
九条 貴教は黒曜の剣を抜いたまま、空を見上げていた。
空気が重い。
誰もが気づいている。
“何かが始まる”。
そのとき──
視界に新しい通知。
緊急補足情報
第一災厄《紅蓮の竜》
現在進行形で“成長中”
「成長……?」
直後。
地面が震えた。
空に“影”が浮かび上がる。
まだ完全な姿ではない。
それでもわかる。
あれは、モンスターではない。
空が裂ける。
遠くで、竜の咆哮。
そして。
《竜哭の塔》が、現実を押し開くように出現する。
九条は剣を握り直す。
「行くしかないか」
一歩踏み出す。
その瞬間。
世界が“反転”した。
ようこそ
《竜哭の塔 第一層》
そしてその奥。
観測者リンク:接続中
暗闇の中で、神代 蓮は笑っていた。
「さあ」
「ここからが本番だ」




