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7. 蜘蛛の呪い (1)

深い森の館から抜け出した若き日のカシオは、そのまま家へ向かって走り出した。休むこともなく、息が上がることも、足の裏が擦り切れることも気にせず、ただ盲目的に走り続けた。当時の彼は怪物への恐怖よりも、成功した未来への期待に目がくらんでいた。


怪物との契約が偽りなく果たされるなら、自分の未来には今とはまったく違う輝かしい道が開けるはずだと。そうして走り続けた彼は、予定よりはるかに早く家へ着き、娘の誕生日を無事に祝うことができた。扉を開けて入った途端、自分によく似たかわいらしい金髪の少女が満面の笑みを浮かべ、両腕を広げて駆け寄ってきた。


「パパ!」

「あら。思ったより早かったですね。ティアラの誕生日だからって急いで帰ってきたのね」


まだ呼吸も落ち着いていないのに、胸に飛び込んできてぎゅっと抱きついてくる娘の愛情表現に、カシオはようやく安堵した。本当に生きているんだ。もう二度と抱きしめられないかもしれなかったことを思うと、彼はいつも以上に愛情を込めて娘を強く抱きしめた。


そしてその後、そばへやって来た妻を見つめた。早く帰ってきても夜になると思っていたと言う妻を、彼は勢いよく抱きしめた。彼女は少し驚いた表情になったが、すぐに笑って同じように夫を抱き返した。


「今回はそんなに大変だったんですか? まあ、どうしてこんなに汗をかいているんです?」

「早く帰らなきゃと思って」

「パパ! 私のプレゼントは?」

「鞄の中にあるよ」


雨の中を走り抜けながら大切に守り抜いた人形。鞄からかわいらしいウサギのぬいぐるみを取り出して見せると、ティアラは興奮を隠しきれず、きゃあきゃあと声を上げて喜んだ。カシオは妻にも渡すものがあると言い、鞄の下に入れておいた化粧品を取り出して手渡した。


「エトラ。これは君のだ」

「私は誕生日でもないのに、どうして私の分まで」


それでも嬉しそうな表情を見ると、この上なく幸せだった。カシオは妻が用意してくれた風呂でゆっくりと体を洗い、その日の夜は娘の誕生日を祝っておいしい食事を楽しんだ。しかし二人が幸せそうに眠りについた直後、彼は一人こっそりとベッドを抜け出し、服を着替えた。


(朝までには戻らなきゃ)


彼は妻を残し、眠っている娘を抱き上げて家を出た。運よく逃げ延びたのだから、いっそ魔物の手が届かない場所へ隠れてしまうという選択肢もあった。しかしカシオはそうしなかった。約束を破れば村全体が魔物に襲われる危険もあったし、何より彼は成功を望んでいた。


夕方のうちに隣家から借りておいた馬に乗り、急いで旅立った彼は、蜘蛛の魔物の館へかなり早く到着することができた。まさか危険な立入禁止区域でも秘境でもない、人が暮らす村の近くの山に、伝説の魔物が住んでいるなど誰が想像できるだろうか。


翌朝、目を覚ましたエトラは、隣にいるはずの夫だけでなく娘の姿も見えず、大いに驚いた。長旅で疲れているはずの夫が、こんな朝早く何も言わずに出かけるはずがない。それに、無理やり起こさなければ昼まで起きないほど寝坊助な娘が、自分から起きたとも思えなかった。


(まさか誕生日だからって、二人だけでどこかへ行ったの? でも、メモの一つもないなんておかしいじゃない)


不安な気持ちのまま昼まで待とうとやきもきしていたエトラだったが、幸いにも遅い午前になってようやく娘を連れて帰ってきた夫と顔を合わせた。何も知らずに眠り続けるティアラは、父親の背中でよだれまで垂らしながら夢の世界を旅していた。


「何も言わずにどこへ行ってたんですか!」


どれだけ心配したと思っているのかと怒る妻が怖くないのか、カシオはにこにこと上機嫌な笑みを浮かべたまま、突然大きな鞄の中身を誇らしげに見せた。


「エトラ。見てくれ。俺たちはもう金持ちになれる」


今は主婦になっていたが、かつて小さな商会で働いた経験があるエトラには、夫が見せたものがすぐに分かった。美しい光沢を放つ糸。正確には糸というより蜘蛛の糸。高値で取引される魔物の糸だった。この鞄に入っているだけでも、三人家族の半年分の生活費にはなるだろう。


「あなた、これを一体どこで? それにティアラを連れて行ったことと何の関係があるんです?」

「詳しい話は中に入ってからするよ。とりあえずティアラを寝かせよう」


魔物の糸はかなりの高級品だ。しかし最も弱い魔物であっても、普通の人間が相手にするのは容易ではない。特に蜘蛛の魔物は群れで暮らしているのだから。冒険者でもない普通の成人男性であるカシオが、一体どうやってこんなものを手に入れたのだろうか。


カシオは、自分が帰宅する途中で伝説の魔物アラクネと遭遇したことを打ち明けた。それは生き延びるための必死の足掻きであり、商品の価値を見抜く商人としての血が騒ぎ、藁にもすがる思いで取引を受け入れたのだった。


自らの命を助けてもらうことと、継続的な糸の供給。その代償は狩りの獲物を提供すること、そして契約の証として娘ティアラをアラクネの眷属にすることだった。


「正気なんですか!? いくらなんでも、こんな小さな子を怪物のところへ連れて行くなんて! 他の子じゃない、あなたの娘なんですよ!」

「落ち着いてくれ。結局無事に帰ってきたし、こうして蜘蛛の糸もたくさん手に入ったじゃないか。これからもずっと糸を手に入れられるんだから、全部うまくいくさ」


娘に何かあったかもしれないことにエトラは激怒したが、夫はこれからの未来が楽しみだという顔で謝った。こうでもしなければ夫が死んでいたことを理解していたため、エトラは無理やり怒りを抑え込んだ。


彼が勇気を出して取引を持ちかけなければ、遺体すら見つからず、何年も行方不明のまま彼を待ち続けることになっていたのだから。しかしそれでも、魔物の眷属になってしまった娘の状態を喜べるはずがない。


「亡くなった冒険者の死体を眷属にする話は聞いたことがありますけど、具体的にティアラには何が起きるんです?」

「時間が経てば分かると言っていたけど。とりあえず見た目には変化がないし、大丈夫じゃないかな?」


そもそも人間や他の生物を眷属にする魔物はごく稀な上位個体だけであり、その中でもアラクネの事例は聞いたことがない。それでも死者の死体を操る程度だったのだから、もしかするとティアラが死んだ後に体を使うだけなのかもしれない。


「これからは忙しくなるぞ。君も手伝ってくれ」


幸い、その日から数日経ってもティアラの体や精神は以前と何も変わらず、夫婦は胸をなで下ろした。そして娘に問題がないことを確認すると、すぐに忙しく動き始めた。


アラクネの糸は王族でさえ欲しがる宝中の宝。こんな貴重な品を適当に売り払うわけにはいかないので、まず目の色を変えて良い品を探している貴族を訪ねた。


商人の持ち込んだ品が本物だと確認したその貴族家は、糸を独占するために莫大な金を支払い、カシオの後ろ盾となった。そうしてカシオは瞬く間に商団の主となり、貧しかった家は大きな新式の屋敷へと変わった。


しかし、魔物との取引がそんなに理想的なもののはずがない。エトラも最初は何の問題もなかったため、夫の成功を喜んでいた。引っかかる部分はあったが、貧困から抜け出すことは長年の夢だったのだから。しかし間もなく、心配していたことが起きてしまった。


娘ティアラの行動が、ごくわずかではあるが確実におかしくなっていったからだ。蜘蛛の眷属になって三か月ほど経ったある日、突然ティアラは異常なほど食欲旺盛になった。

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