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14. 魔物の愛情 (1)

『もう明日が結婚式なんだな。まだ実感が湧かない』


金を用意するためにウィツキ商会を訪れたのが二か月前。その時までは、自分にこんな未来が待っているなど想像もできなかったアルビトは、静かな部屋へ戻り、慣れ親しんだベッドへどさりと横になった。


たった二か月で身体は贅沢品に慣れてしまい、今ではこのふかふかした感触ではない寝具を使うことなど想像もできない。それが少し怖かった。それ以来、人を殺す魔物も、人間が魔物へと変わった姿も見ていない。


ティアラが魔物へ変わる日は、わざと部屋の外へ出ないからだ。少なくとも最初はしっかり宥めるべきだと思っているのか、カシオも魔物へ捧げる獲物については口にしなかった。


『それでも結婚式が終われば、少しずつ自分の目で見て、自分の手でやらなきゃいけないことも増えるだろうな。祖父が亡くなったら、領地のほうは代理人を送ればいいだろうし』


将来この商会の莫大な財産を受け継ぐ代償だと思えば、それ相応の重みなのかもしれない。世の中に楽なことはないと言うが、本当に慣れられるのだろうか。アルビトは首を横に向け、ベッド脇に飾られた花瓶の美しい花をぼんやりと見つめた。


今日も彼は朝の日課として庭の花の世話をした。土の中でミミズを見つけたが驚きはしなかった。しかし茎と葉の間に隠れていた、爪より小さな蜘蛛にはぎょっとして慌てて手を引っ込めた。もともと虫は気味が悪いと思っていたし、触れるのはなおさら嫌だった。


だが最近は特に蜘蛛を怖がるようになっていた。庭で見たのは魔物ではなく普通の蜘蛛だろうが、うっかり蜘蛛を殺してしまい、ティアラのような呪いを受けるのではないかと思うと。


『蜘蛛じゃなくて蝶みたいな魔物だったら、嫌悪感も少なかったのかな』


魔物には様々な種類がいる。野獣、鳥、ワイバーン、スライムなど。虫系の魔物も数え切れないほど多い。幼虫、コバエ、ムカデ、バッタ、蜘蛛、毛虫、蛾。


普通、虫系の魔物は弱い代わりに群れで生きているため、田舎の近くではしばしば目撃される。


一匹なら怖くない。だが群れから感じる恐怖、そしてその姿形からくる嫌悪感は、普通の人間なら当然抱く感情だ。だから二か月も経った今でも、彼はティアラを好きになれなかった。


嫌っているわけではない。むしろ可哀想だという同情のほうが大きい。しかし生理的な嫌悪感があるのだ。悪人を見る目とは違うが、人間の姿をしている時ですら、できれば他の虫と同じように触れたり目を合わせたりしたくないというのが本音だった。


『いっそ俺に興味なんて持たなければよかったのに』


残念ながらティアラは日を追うごとにアルビトへの好意を深めていった。子供のように素直な態度なので、見間違えるはずもない。もともと食欲というものがとても重要な要素だとは思っていたが、お腹を満たしてくれるというだけでここまで好かれるとは。


胃袋を掴んで愛を勝ち取るという言葉は伊達ではない。カシオは他の女や子供を作っても構わないと言っていたが、ティアラがそれを許すはずがない。幸い、今のところその気もないし、想いを寄せる女性もいないが。


「大丈夫だ。きっと大丈夫」


自分が感じる嫌悪感さえ除けば、条件はすべて良いものばかりだ。両手で顔を覆いながら、さほど効果もない言葉を呪文のように繰り返していたアルビトは、やがて無理やり眠りについた。


翌日、ついに結婚式が開かれた。カシオが経営する商会所属の織物工場の村では、その日一日の大半の仕事が休みとなり、祭りのような雰囲気に包まれた。


突然決まった結婚式という吉事に疑問や不審を抱く者も少なくなかったが、普通の人々はただ楽しい宴を楽しめばいいだけだった。


「ところで新郎って何者なんだ?」

「さあな。貴族だとは聞いた気がするけど、そんなにすごい家柄じゃなかったはずだ」


村人たちはアルビトについて何も知らず、その程度の世間話をしながら酒杯を傾けた。


もちろん、正式に招待された招待客たちも似たようなことを考えていた。ヘルム男爵家――『そんな貴族もいたんだな』と思うほど存在感のない田舎貴族。


しかも結婚相手は、数年前に伯父一家の事故によって家を継ぐことになった、平民同然の若者だという。誰もが首を傾げた。いったいウィツキ商会は何を見て、こんな取るに足らない田舎貴族を婿に迎えたのだろうか。


「ヘルム男爵家といえば、数年前に男爵の息子夫婦が大きな借金を抱えたと聞いていますが。」

「領地もそれほど広くなくて、農業をしているだけの場所でしたよね? 温泉でも金鉱でも見つかったんでしょうか」

「新郎は絶世の美男子だという噂もありますけど。どんな顔をしているのか気になりますね」


あまりにも知られていることが少なく、アルビト自身も成人するまで貴族とは縁遠い生活を送っていた。学校も上流階級が通うような場所とは無縁で、ここ数年になって急いで後継者教育を受け、少し遠い親戚たちの世話になった程度だ。


そのため、招待客の中でアルビトの容姿や能力を知る一部の親戚や知人たちは、彼の魅力が何なのかますます不思議に思った。見た目は悪くないが、どう考えてもこの大富豪一家が彼や男爵家を選ぶ理由が見当たらなかったからだ。


親しい親戚の一人が勇気を出してアルビト本人に事情を尋ねると、彼はそっと視線を逸らしながら、


「命の恩人みたいなものです」


と説明した。


それ以上詳しくは語らなかったが、幸い親戚は頷いて納得してくれた。


「体が弱くて部屋に閉じこもって暮らしていたお嬢さんだと聞いていましたが。かなりの美人ですね。もともとの顔立ちが華やかです」

「ウェディングドレスが白ではなく金色だなんて。財力を誇示するためでしょうか?」


活発に動き回るカシオとは違い、別居中の妻、病弱な娘、そして特に目立つところのない田舎貴族出身の婿は、存在感どころか顔すらほとんど知られていなかったため、人々は初めて見る新郎新婦を興味深そうに見つめていた。


緊張しているアルビトとは対照的に、ティアラは久しぶりに人々の中に混じり注目を浴びることがよほど嬉しいのか、笑顔が絶えなかった。


頭の先から足の先まで金色で飾られた花嫁は、まるで太陽が生み出した高価な宝物のようで、アルビトにはそれが人ではなく展示された商品に見えた。


「他の女性たちのドレスも綺麗だけど、それでも今日ここでは私のが一番華やかで綺麗ですよね?」

「もちろんです。花嫁なんですから。本当に綺麗ですよ」


子供のように照れながら頬を押さえたティアラは、好きな男性に褒められると隠しきれない幸福をあらわにし、瞳を輝かせた。


その中に宿る純粋な子供の恋心に、アルビトは幸い小さな痙攣一つ起こすことなく、自然な笑顔を浮かべてティアラに応じることができた。


まだ彼女を愛しているわけではない。だが少なくとも可愛い妹くらいには接することができる。


それでも彼は相変わらず、ティアラの好きなものや過去の思い出などに少しの興味も持てなかった。


「本当に綺麗? 嬉しい。まるでお姫様になったみたい」


きらきらと黄金のように輝く花嫁。お姫様のように華やかで幸せそうな笑顔を浮かべる彼の花嫁。


真実を知らなければ、目を奪われていただろうか。


『こうして見ると普通の人なんだけどな』


心配していたのとは違い、結婚式は滞りなく進み、主役である新郎新婦よりもカシオのほうが忙しく客の相手をしていた。


おそらく多くの上流階級の人々が、ウィツキ商会と縁を結ぶために、彼の婿候補の座を狙っていたのだろう。

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