13. 蜘蛛の呪い (7)
「何だ? そんなに遠い場所でもなかったじゃないか」
馬車でおよそ30分ほどの距離。歩いても一日で来られるのに、何年も顔を合わせていなかったというのは本当に恐怖のせいなのだろうか。アルビトはあまりにもむなしいその距離に、これからは他の二人の代わりに自分が頻繁にここを訪れることになるだろうという予感を抱いた。
エトラの住む屋敷は、一人で暮らすにはかなり大きな三階建てで、小さな庭や菜園はもちろん、馬や馬車を置いておくためのスペースまで完璧に備わっていた。一見しただけでも比較的最近建てられたような、整った新しい屋敷の穏やかな風景に、アルビトは妙な既視感を覚えた。
『ひとまず夫婦だけあって、家の雰囲気も似ているな』
カシオの屋敷より規模はずっと小さいが、建物や外観の雰囲気はよく似ている。もしティアラが直接ここへ来ていたら、気に入ったのではないだろうか。
「いらっしゃいましたね。お待ちしておりました。どうぞお入りください」
使用人は少ないようだが、侍女まで雇っているらしく、温和そうな印象の女性がアルビトを出迎え、案内した。一緒に来た御者にも別にお茶を出すと言ったが、彼は屋敷には入らず、外の店のほうが気楽だと言ってしばらく席を外した。
果たして夫と娘のどちらに似た反応を示すのか。緊張した足取りで応接室へ向かったアルビトは、やがて広いソファに座る女性と対面した。彼女は客を見るや否や立ち上がり、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ようこそ。お会いできて嬉しいわ」
「初めまして。アルビト・ヘルムと申します」
「私はエトラよ。名前はもう聞いているでしょうけど。さあ、どうぞ座って」
エトラは娘によく似た顔立ちをしていたが、一目見て美しいとか可愛らしいという印象よりも、思った以上に年を重ねて見える外見に驚かされた。というのも、夫のカシオはむしろ年齢より若く見える容姿だったからだ。
『もう十歳を超えた孫がいるおばあさんだと言われても信じられそうだ』
苦労した人間は年齢以上に老けて見えるものだ。エトラは肌の状態こそ悪くなかったが小じわがかなり多く、席に着いたアルビトは彼女の茶色い髪の頭頂部が白くなっていることに気づいた。
『染めたのか?』
その視線に気づいた女性は、恥ずかしそうに笑いながら髪をいじった。
「来るという連絡を受けてすぐ染めたのだけれど、うまくできなくてこんなふうに残ってしまったの」
「もともと茶色い髪だったんですよね?」
「ええ。心配事が多かったせいか、数年前に祖母みたいに真っ白になってしまったの。でも、将来の婿さんになる人と初めて会うのだから、少しは若く見えたほうがいいと思って」
髪のせいかティアラのほうがやや華やかな印象ではあるが、年を取ればこんな姿になるのではないかと思うほど顔はよく似ていた。侍女は良い香りのするティーポットと可愛らしいティーカップ、焼きたての香ばしい匂いが漂うクッキーを二人の間に置き、お茶を注いだ。
「私が育てた花で作ったお茶とクッキーなの。お口に合うといいのだけれど」
「庭で花壇と畑を見ました。ご自分で手入れされているんですか?」
「娘のためにいろいろやっているうちに、今では趣味になったの。私はあの人と違って仕事で忙しいわけでもないから」
ほんの短い時間のうちに、アルビトはこの屋敷の外観、人々の服装、家具、目の前のティーカップに至るまで、すべての価値を計算していた。質素に見える暮らしぶりとは裏腹に、品物はどれも高級品だ。派手ではないだけで、ウィツキ商団の財力をしっかり享受しているということだった。
アルビトは慎重に温かいお茶を一口飲み、その懐かしい味に仮面ではない本心からの笑みを浮かべた。故郷でも時折飲んでいた花茶の香りだ。
「美味しいですね」
「小さい頃のティアラは、せめて野菜だけでも食べられるようにと思ってたくさん研究したの。花茶に蜂蜜を混ぜると少しは甘みを感じられるから、それが好きだったわ」
アルビトはふと、自分とティータイムを過ごしていたティアラがどうやってお茶を飲んでいたのか思い出そうとした。飲むこと自体は問題ないのだろうと思い、あまり気にしていなかった。しかしティアラはとにかくおしゃべりで、質問に答えるだけでも忙しく、彼女の細かな仕草や好みまで観察する余裕はなかった。
侍女が下がり、話を盗み聞きする者がいなくなると、ようやくエトラは他人には話せない秘密を口にし始めた。手紙を通じてアルビトの能力や事情をすべて聞いているという。
「夫から手紙をもらうのは久しぶりだったから、何事かと思ったわ。ティアラもあんなにたくさんの話をぎっしり詰め込んだ手紙を送ってきたのは初めてだったもの。それだけ嬉しくてたまらなかったということなのでしょうけれど」
彼女は今もなお娘を心配し愛しているらしく、心から安堵と喜びの笑みを浮かべていた。あの笑顔は偽りではない。おそらくこの女性は今も娘を愛する普通の母親なのだろう。少なくとも高圧的な態度のカシオよりはずっと話しやすく、アルビトは警戒を緩めた。
「数週間ずっとそばで見守ってきましたから、安心して大丈夫です。私が育てた花を食べるだけでも正気を保てるなんて、本当に良かったですね。そんなに遠い場所でもないのですし、一度会ってみてはいかがですか?」
距離が遠いわけでもない。空腹になるのが心配なら、花をたくさん持って行けば十分だろう。しかしエトラは静かに首を振り、娘に会うことを拒んだ。しかも結婚式にすら出席しないと言うので、アルビトの胸に小さな不安が芽生えた。
「これからもティアラに会うつもりはないの。夫も同じよ。心配はしているけれど、私は家族を捨てたも同然だから。」
「でも、離婚したわけではないのでしょう?」
「離婚しなかったんじゃなくて、できなかったのよ。もし他の人と再婚したり付き合ったりする中で、うっかり秘密を漏らしてしまったら困るでしょう」
改善するどころか、ますます深刻になっていく娘の症状。そんな娘を心配するより仕事に没頭し、増え続ける富で状況を取り繕うばかりの夫。誰にも気軽に打ち明けられず、頼ることもできない状況の中で、エトラは自分まで狂ってしまいそうになり、家族を捨てたのだと語った。
「あの人が無理やり引き止めなかったら、もっとずっと遠くへ行っていたはずよ」
「それでも今も娘さんを心配しているじゃありませんか」
「愛情があるのは事実だけれど、現実に疲れて目を背けたのも事実だから。結局は途中で立ち止まって、こんな中途半端な暮らしを続けているの。若い頃に苦労したことが悔しくもあるしね」
あの大きな屋敷を後にしたとき、彼女はもう二度と夫と娘の顔を見ないつもりだった。衝動的な選択だったから後悔したこともある。しかし、すでにしてしまったことをなかったことにはできないのだという。アルビトは結婚式の日程を伝え、もう一度出席を勧めたが、やはりエトラは首を振った。
「あなたの他の家族は、ティアラの秘密を知らないのよね?」
「はい。年齢も年齢ですし。そんな衝撃的な事実は、むしろ知らせないほうがいいと思いまして」
「私の話も適当に取り繕って伝えてちょうだい。ティアラが良くなったと聞いて嬉しいけれど、それ以上に夫の顔を見たくないの。理解してほしいわ」
愛情は残っているとはいえ、夫に対しては恨みのほうが大きい。この微妙な距離すら捨てて逃げ出したら、娘まで犠牲にしたあの男が妻を黙って放っておくだろうか。最悪の場合、口封じのために過去の幸せを覆い隠し、殺人に及ぶ可能性すら十分にある。
「私はただ、ティアラがもう苦しまず幸せに暮らしてくれればそれでいいの。だから私の代わりに、あの子をよろしくお願いね。あなたの能力には本当に感謝しているの」
エトラは自分よりずっと若い男に頭を下げ、重い責任を託した。切実に頼むという眼差しを向けられると、アルビトはなぜか罪悪感と居心地の悪さで胸がちくりと痛んだ。
「ティアラを大切にして愛してほしいなんて、あまりにも図々しいお願いだとは分かっているわ。でも、たとえ偽りでもいいから、あの子を気にかけてあげてほしいの。ティアラはもう、あなたのことをとても好きになってしまったみたいだから」
手紙を読んだだけで、母親は娘が感じている幸せと、初めて知った恋の深さを理解したのだろうか。アルビトはあまりにも切実な母親の姿に、ますますティアラに対する重い憐憫と義務感に押し潰されそうになった。
明るい姿ばかりを見ていて、もう魔物に関する出来事もなかったため、あの日の恐ろしい記憶はかなり薄れていた。だからだろうか。恋ではなくても、この痛ましい感情が消えない限り、傷ついた野良猫の面倒を見るような気持ちで大切にすることはできるだろうと思った。
だが、それがどれほど傲慢な思い違いだったのかを思い知るまで、それほど長い時間はかからなかった。




