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2050  作者: 落川翔太
17/20

16

 七月十日。東京・池袋(いけぶくろ)


 それから一週間後、真平は池袋駅の東口改札で田宮さんと待ち合わせていた。

「お待たせしました」

 午後三時ちょうどに田宮さんがそこへやって来た。

「じゃあ、行きましょ!」

 彼女が先頭になって歩き始めた。真平は彼女の後についていく。五分程歩いた所に、ボーリング施設があった。

 平日であったが、そこは賑わっていた。制服姿の学生たちやマダムたちが楽しそうにボールを投げては、ハイタッチをしていた。

 受付を済ませて、二人も早速、自分たちのレーンに進んだ。靴を履き替えて、それぞれ自分に合うボールを持ってくる。

「最初はどっちから投げる?」

 真平がそう訊くと、「永尾さん、最初に投げて下さい」と、彼女が言った。

「分かった」と言って、真平は一投目を投げる。

 ボールを持ち、後からゆっくりと進む。線の手前でボールを投げると、それは左へカーブし、左側のピンが数本倒れた。

 二投目を投げると、またボールは左側へ行き、今度はそのまま側溝へ落ち、ガータとなってしまった。

「あー……」と、真平は声を漏らす。真平は少し悔しかった。

「ドンマイです!」と、田宮さんが笑った。

 それから、次に田宮さんが投げた。

 彼女の投げたボールはまっすぐに勢いよく進み、全てのピンが倒れた。ストライクだった。

「おー!」

 真平は驚いた。

「やったー!!」

 彼女は嬉しそうに喜んだ。

「え、田宮さん、巧いね!」

「えへへ」と、彼女は照れ臭そうに笑う。「実は、父がボーリング上手で。昔、父に教えてもらったんですよ」と、彼女が言った。

「はあ、なるほど!」

 それから、真平は以前、忘年会で署内のボーリング大会をやったことを思い出した。その時、確かに田宮警部――田宮さんのお父さん――のプレーは、巧く、周りからの評判が良かった。

「確かに、君のお父さんは巧かったね」

 真平はそう言って頷いた。

「はい」と彼女は言って、微笑んだ。

 その後も、真平たちはボーリングを楽しんだ。やはり、田宮さんはボーリングが上手であった。全部で四ゲームした。彼女は毎回、百三十のスコアを叩き出し、一方の真平は百十だった。

「はあ~、疲れた……」

 四ゲームを終えて、真平が溜め息を漏らす。それから、「この後、どうする?」と、田宮さんに訊いた。

「ですね。少し休憩しません?」と、彼女が言った。「どこか喫茶店に入って、お茶でもどうですか?」

「うん、そうしよう。喉渇いた」

 精算を済ませて、真平たちはそのボーリング施設から出た。それから、その近くにあった喫茶店へ入った。

 真平はアイスコーヒーを頼み、田宮さんはアイスティを注文した。少しして、二人の飲み物がやって来た。

 真平はそのアイスコーヒーをストローで一口啜った。それは、冷たくて美味しかった。ボーリングを四ゲームした身体にピッタリだった。

 彼女もアイスティを一口啜る。ふうと、彼女も息を吐いた。

 真平は一度、腕時計を見た。午後四時を少し過ぎた頃であった。

「この後、どうする?」

 真平が彼女にそう訊いた。

「永尾さんって、サンシャイン水族館って行ったことあります?」

 それから彼女がそう訊き返した。

「いや、ないな……」

 真平がそう答えると、「そうなんですね。じゃあ、そこへ行くのはどうです?」と、彼女がにこりと笑って言った。

 水族館か、最近行っていないなと真平は思い、「いいよ」と答えた。

「オーケーです。じゃあ、これ飲んだら行きましょ!」

「うん」

 そして、真平はアイスコーヒーを飲み干した。彼女もアイスティを飲み終え、二人はそこを出ることにした。

 そこから少し歩き、二人はその水族館に着いた。早速、チケットを購入し、入り口の従業員の女性が二人のチケットを千切る。

 それから、二人は順路に沿って、水槽の魚たちを見て回った。一階のフロアを見た後、二階へ行き、そのフロアの水槽を見て回る。そこを一通り見た後、今度は屋外エリアへ行ってみる。田宮さんはペンギンを見て、子どものようにはしゃいでいた。全部のフロアを見終わると、午後六時になっていた。

 真平はそろそろお腹が空いてきていた。

 その後すぐに、彼女のお腹が鳴った。

「ごめんなさい……」

 彼女は顔を赤らめた。

「ううん、僕もお腹空いたよ。何か食べに行こう」

「はい……」

「どこ行く?」

 真平がそう訊くと、「サンシャインシティの中にご飯屋さんがあるんで、そこへ行きません?」と、彼女が言った。真平はオーケーする。

 それから、二人はサンシャインシティまで歩き、その中の飲食街をぶらぶらと歩いた。

 中華料理屋を見つけて、「ここはどう?」と、真平は彼女に訊く。

「中華いいですね!」と彼女が言ったので、そこに入ることにした。

 すぐに男性の店員に手前の席に案内される。タッチパネルを見て、二人は何を注文するか考える。

 小籠包と餃子、麻婆豆腐、蟹チャーハン、それから、エビマヨを頼むことにした。それから、真平は生ビールを注文し、田宮さんはレモンサワーを頼む。

 少しして、生ビールとレモンサワーがやって来たので、早速二人は乾杯した。

 真平はビールを一気に飲む。ぷはーと、息を吐く。そのビールはうまかった。

 田宮さんもレモンサワーをごくごく飲む。それを飲んで幸せそうな顔をした。

 それから、麻婆豆腐と蟹チャーハン、それと、エビマヨが届いた。

 田宮さんがいただきますと手を合わせて、麻婆豆腐を小さなお椀に掬ってそれを一口食べる。

「おいしい」と彼女は言って、レモンサワーを一口飲む。

 真平も大スプーンで小さなお椀に蟹チャーハンを取り、それを食べてみる。

「うん、うまい!」

 そのチャーハンは、パラパラで卵がフワフワして、カニの身がホクホクとしていて美味かった。

 それから今度、二人はエビマヨを箸で一つ掴んで頬張る。

「うん、うまい」と、真平。

「おいひい」と、彼女が笑顔で言った。

 エビのぷりぷりとした食感と、マヨネーズのコクやうまみが口いっぱいに広がった。

 真平は再びビールを飲む。田宮さんもレモンサワーを飲んだ。

「お待たせしました。小籠包と餃子です」

 女性の店員がそう言って、テーブルにその二品を置く。小籠包も餃子も、湯気が立ち、いい匂いがした。

 真平は早速、餃子を一つ箸で掴む。酢コショウのたれにつけて、それを一口齧る。

「あつ!」

 その餃子は焼きたてで熱かった。真平はすぐにビールを一気に飲み干す。それから、ふうふうして残りの餃子を食べた。その餃子は中の肉やニラなどの餡がジューシーで美味かった。

 田宮さんは小籠包をレンゲに乗せて、箸でその生地を割った。すると、中から肉汁が溢れ出たので、それをスープのように啜り、その後、小籠包を一口齧った。

「メチャクチャ美味しい!」

 彼女は嬉しそうに言った。それから、もう一口で全部の小籠包を食べた後、彼女もレモンサワーを飲み干した。

「田宮さん、何か飲む?」

 真平が訊く。

「レモンサワーで」と彼女が答えたので、真平はタッチパネルでレモンサワーと生ビールを一杯ずつ注文した。

 その後も、真平たちはお酒を飲みながら、注文した料理を堪能しつつ二人で話していた。

「永尾さん、私の父の話聞きたいです?」

 料理を食べながら、ふと田宮さんが言った。

「田宮警部の話?」と、真平は訊き返す。

「はい。私の父がどうして日本語を喋ったのかです。気になりません?」

 それから、田宮さんがそう言った。

 確かに真平は前々からそれについて気になっていた。けれど、田宮さんにそれを聞いたら、悲しむのではないかと思い、触れてこずにいた。それに、真平はそのことについて田宮警部が「日本語をしゃべってしまった」という事実だけで十分だと思っていた。

「気にはなっていたけど、なかなか聞けなくて……。というより、正直、聞かなくてもいいかなとは思っていたんだ」

 真平が正直にそう言うと、「じゃあ、話すのはやめます?」と、彼女がにやりと笑って言った。

「いや、ぜひ聞かせてほしい」

 それから、真平はそう言った。

「永尾さん、素直ですね。分かりました」

 彼女はそう言うと、にこりと笑って話し始めた。

「処刑される前日のことです。父は、その日の夜、大学時代の友人たち数人と歌舞伎町(かぶきちょう)で飲みに行っていたのです。そこで、二軒飲んでいたみたいです。そして、帰ろうということになって、駅まで歩いていたそうです。その時、父の友人の一人が輩に絡まれてしまったのです! 慌てて父は彼を助けようとしました。案の定、父もその男に捕まりました。

 その後、父は自分が警察であることを明かしました。すると、その男は一瞬怯んだそうなんですが、すぐに向こうから怒号や罵声が止まることがなかったそうです。仕方ないので、父はすぐに警察に連絡しようと思った。けれど、男は怯むことなく、むしろ怒鳴り散らすだけで埒が明かなかったそうです。それから、父も必死に抵抗したそうなんですが、そこで父がついうっかりと口を滑らせてしまったのです!」

 なるほど、と真平は思った。そういうことだったのか。

 彼女が話を続ける。

「その後は、その輩が警察に通報して、それからは想像通りです」

 いわゆる輩による「警察狩(けいさつが)り」といったところだろう。最近、歌舞伎町などで多発している手口である。もちろん、それを行った者も必然的に「処刑」されることになっていた。


 食べ終わって、会計を済ませ、二人はその店を出た。午後八時であった。

「永尾さん、この後、お時間あります?」

 それから、田宮さんがそう訊いた。

 真平にはまだ時間があった。もう一軒行くのだろうかと真平は思った。

「平気だよ」と答えると、「良かった」と彼女はホッとしたように言った。

「行きたい所があって……」と、田宮さんは言う。

「どこ?」

「永尾さん、星とか興味あります?」

 

 田宮さんに連れられてやって来たのは、その施設にあったプラネタリウムだった。

 星とはそう言うことか、と真平は今納得した。

 早速、彼女は受付でチケットを二枚購入し、二人はその中へと入る。そこには、まばらに人がいた。

 チケットに書かれた席に二人は座る。そして、十分後にその部屋の照明が落とされ、天井に映像が映し出された。そこには星空が映し出され、様々な星が現れる。映像と同時に女性のナレーションが話している。

「わー、きれい!」

 隣の席に座る田宮さんが、その映像を観ながら小さな声で感動する。真平もそれを見て感動していた。 

 プラネタリウムを見るのは、小学生の時以来であった。

 その映像は二十分ほど流れていた。それが終わると、その部屋の照明が付き、明るくなる。

「どうでした?」

 プラネタリウムを見終えた後、彼女が真平にそう訊いた。

「うん、久しぶりに観たけど、なんか感動したよ」

 真平がそう言うと、「おー、それなら良かったです」と、彼女は嬉しそうに言った。「私も楽しかったです!」

 彼女はそう言って、笑顔を見せた。

「もうそろそろ帰る?」

 そのプラネタリウムを出て、真平が訊いた。

 うん、と彼女は頷いた。

 その施設を出ようとエレベーターまで歩く。エレベーターの前で、それを待ちながら真平は案内表を見た。屋上に「展望台」の文字を見つけた。

「展望台なんてあるんだ!」

 真平が気になってそう言うと、「行ってみます?」と、田宮さんが訊いた。

 行ってみてもいいだろうと真平は思い、「行ってみよう」と答えた。

 エレベーターの上ボタンを押し、二人は上へ行くエレベーターを待った。しばらくして、それがやって来たので、真平たちはそれに乗って屋上へ行く。

 屋上に着き、二人は外へ出る扉を出た。

 外は暗かった。ネオンがきらきらと光り、池袋の駅周辺が見事に見えた。ちょうどベンチがあったので、二人はそこへ腰掛けた。

「今日は楽しかった」

 真平は呟くように言った。

「私もです。永尾さんと一緒に居られて」

 彼女は微笑んで言った。

「僕も」

「あの……」

 それから少しして、田宮さんが口を開く。

「何?」

「永尾さん……私……」

「ん?」

「私……永尾さんが好きなんです……」

 それから、彼女は照れ臭そうに言った。

「え? 本当?」

「はい……あの……それで……」

 彼女はそう言って、口をつぐむ。その後、少しして口を開いた。

「永尾さん、あの……私と、私と付き合ってくれませんか?」

 田宮さんが言った。

「え!?」

 真平はその言葉に驚いた。まさか田宮さんに告白されるとは思わなかった。

 いや、けれど、真平も彼女のことを気になっていた。田宮さんはきれいだし、可愛いし、なにより自分も好きだった。

「僕でよければ……」

 それから、真平はそう答えた。

 真平がそう言うと、「本当ですか!」と、彼女が嬉しそうに目を輝かせた。「永尾さん、ありがとうございます」彼女はそう言って頭を下げた。

「こちらこそ」

 真平はそう言って、微笑んだ。

「よろしくお願いします」

 その後、田宮さんは顔を上げて言った。

「それじゃあ、帰ろうか!」

 真平がそう言うと、はい、と彼女は嬉しそうに返事した。

 二人はそのベンチから立ち上がり、エレベーターの方へ歩いた。

「永尾さん、手繋ぎません?」

 彼女が照れ臭そうに言った。

「うん」と真平が手を出すと、彼女が真平の手を握った。

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