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#2−1 入学式まで

 午前4時、アラームが鳴る前に目が覚める。

 誰も居ない家で、着替えて、暗いうちに家を出る。

 今日は入学式、わたしは首席生徒として、早目に登校するように通達を貰った。

 色々と事前に話すことがあるらしい。

 さっさと出かけたかったので都合がいい。

 指示された登校時間は午前6時。

 家から学校までは30分もかからないだろう。

「……さすがに早かったか。」

 校門はまだ閉まっており、学校も明かり一つない。

 携帯電話を見る。

 午前4時20分。

 どこのお店も空いてない時間。

 彼女もまだ起きていないだろう。

「やあ、どうしたのかな、こんな時間に。」

誰もいなかったはずの校門前のバス停の椅子に、ピンクと緑のメッシュを入れた白髪の男性が座っていた。

 燕尾服の上に上等なコートを羽織って、背筋を綺麗に伸ばしまるで彫像かのように佇んでいた。

「おはようございます。

 本日よりお世話になる千本浜楓姫です。」

「うん、僕はアサギリだよ。」

 …………会話が続かない。

 誰なんだ、この人は。

 学校の関係者かと思って挨拶したけど違うのか?

 アサギリと名乗る人物はわたしをじっと見つめている。

「カエデくん、だったかな。

 キミは、そうだね、運命という言葉を信じるかな?」

「運命ですか……?」

 いきなり何の話を始めたんだ。

「そう、これからキミが何をして、どう生きて、何を遺して、どう終わるのか。

 それがすでに決まっているものだとしたら?」

「わたしはそれはつまらないと思います。」

 決まった道筋をなぞるだけなら、それは生きている意味がないのではないか。

「なるほど、運命からは逃れられないとしても。」

「はい、わたしは運命とやらを変えて見せます。」

「面白いね。

 皆、運命という言葉に期待するというのに。」

 運命の人、そういう定め、確かに運命という物のおかげ、せいにする人は多いかもしれない。

 ならば、わたしは運命を2度変えた。

 全てあの子のせいで。

 つまりはわたしの運命の人なのだろう。

「キミは、ここの生徒なんだよね。」

「はい、今日からですが。」

「ならもう少し時間が経ってから出直すといい。

 ここは早くても5時にならないと、誰も来ないよ。」

「わかりました、ありがとうございます。」

「うん、また会えたら、お話をしよう。」

 軽くお辞儀をしてその場所を逃げるように去る。

 あの人は一体なんなんだろう。

 どうして教員が来る時間を把握しているんだろう。

 もしかして、不審者?

 不用意に名乗ったのは間違いだったか。

 24時間営業のコンビニに入り、水を買う。

 コンビニを出て、近くのベンチに座り、ある程度の時間まで暇をつぶす。

「運命……。」

 あの男との会話が妙に引っかかる。

 運命という言葉を反芻する。

 予めわたしの人生が決められているとするなら、それはきっとハッピーエンドでは無いのだろう。

 わたしは過去に2度死んだ。

 1度目は彼女、フウキに出逢った時。

 それまでのわたしは、親からも愛されず、ただ機械的に過ごしているだけだった。

 楽しいこともなく、言われた事を淡々とこなすだけ。

 でも、彼女を見た時に、わたしの世界は変わった。

 フウキこそ、あまり感情の起伏が小さく、生気を感じない様な子供だった。

 お人形さんみたいで綺麗だと思い声をかけた。

 最初は素っ気なかった彼女も、何度か話しかけているうちに次第に心を開いてくれた。

 いつからかわたしは、彼女といると楽しい、一緒にいたいと思うようになった。

 小さい頃、誰からも愛されないわたしは、そこで死んだのだ。

 2度目は、小学校も卒業間近、怪異に殺された。

 はずだったが正しい。

 フウキと喧嘩をして1人で帰っている時に、むしゃくしゃして寄り道をした。

 近くの山道に足を踏み入れた。

 危ないから入っちゃいけないと言われてたのに。

 気分を変えたかった。

 フウキと離ればなれになってしまうのではと急に不安になった。

 その時、茂みから、狼型の怪異が現れて、わたしは抵抗する間もなく殺された。

 鋭い爪で心臓を一突きに、一瞬で絶命した。

 今でも、凶爪がわたしの柔肌を貫く不快な感覚を思い出す。

 しかし、わたしは生きていた。

 病院のベッドで目が覚めた時、横でフウキがワンワン泣いていたのをはっきりと覚えている。

 どうしてわたしが死んでいないのかはわからない。

 けれど、医者からも身体機能に悪いところはないと言い切られてしまった。

 そしてこの頃から、わたしに変な力が目覚めた。

 始めは入院食をたべている時だった。

 出てきたスープを飲んでいる時に、飲みづらいと感じた。

 みたらスプーンが見たこともない形に変形していた。

 その後別の機関で検査したら、特殊な力があると言われた。

 金属を自由に変形させることができる能力。

 それからわたしは必死に使いこなせるように訓練して、気づけばこの学校に、怪異対策専門の学校で首席合格するまでになっていた。

 ふと、気の迷いで、フウキも誘ったら、何故か合格まで漕ぎ着けていた。

 あの子は特殊な力もなければ、怪異についても全然知らないはずなのに。

 わたしがただ一緒にいれるならいいなと思ってたら、一緒に居ても良くなった。

 これも運命?

「はぁ、馬鹿らしい。」

 携帯を見れば5時30分を過ぎていた。

「のんびりしすぎた、かも。」

 少し足早に学校に向かう。


 着いたら校門はもう開いていた。

 そしてあの人は居なくなっていた。

 まずは職員室に向かう。

「失礼します。

 千本浜楓姫と言う者なのですが。」

「あー千本浜さん?

 入っておいで。」

ドアを開けて、職員室にはいる。

 そこにはやる気のない感じの教師が座っていた。

「早いね、やる気があって結構。」

「ありがとうございます。

 それで、わたしが早く来た意味ってなにかあるんですか?」

「ああ、君だけに案内しておこうと思ってね。」

 1枚の紙を手渡される。

「これは、この学校でも数人しか知らない内容だから、誰にも話さない事。」

 紙の内容に目を通す。 

——怪異の大元に対する調査と解決について。

 本校の生徒より優秀な者数名を集めて、通常の怪異対策授業に付随して、怪異現象の根本解決を目指すカリキュラムを受講する努力義務が課せられる。

「なんですかこれ。」

「見ての通りだよ。

 別に強制ではないし、やりたくなったら参加するとかでもいいんだ。」

「怪異現象の根本解決って、出来るんですか?」

「理論上はな。」

「どうやって……。」

「ここだけの話しだから、本当に外に出すなよ。

 ……この地区に、怪異を生み出している者がいるらしい。」

「らしいですか。」

「ああ、だからその調査をしてもらう人員をこの学園から用意すると言う話だ。」

「それに、わたしが。」

「ああ、首席合格なら能力は問題無いだろう。」

「わたしに、なにかメリットがあるんですか?」

「色々な部分で好待遇をさせてもらうといった形になっている。」

「そうですか、とりあえず考えさせて頂きます。」

「ああ、前向きな答えを期待しているよ。」

「わかりました。」

「それと、これだけ早く来てもらったのにはもう1つ理由があってね。

 生徒会室に向かって貰えるか?」

「生徒会室ですか……。」

 言われた通りに生徒会室に向かう。

 ドアをノックして中に誰かいるかを確認する。

「はーい?」

「先生から生徒会室に来るように言われた、千本浜ですが……。」

「あ、ちょっと待ってね。」

 中でドコドコと音をたてて、しばらくしてからドアが開く。

「どうぞ中入って〜。」

 蒼髪のギャルに中に案内される。

「はい、飲み物どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 湯呑に熱々のお茶が注がれていた。

「それでご要件は?」

「ああ、えっと、いきなりなんだけど。

 君、生徒会にはいらない?」

「本当にいきなりですね。」

 まだ入学式すらすんでいないのに。

「うちの生徒会は権力あるよ〜。

 実地訓練とかの指揮は基本生徒会だからね。

 先生方もあんまり意見してこないしね〜。」

「わたし、権力とかあんまり興味ないんですけど。」

 フウキといられるなら何でもいい。

「そう、色々優遇措置もあるよ。

 緊急時とかに同年代や年下に従うことに抵抗感が出ないように生徒会に従うべしとこの学園では教育される。

 ここで慣れておけば、卒業しても、年下の上司とかに抵抗感が出づらいらしいよ。

 実力主義を徹底してるからね。」

「何が言いたいんですか?」

「フウキちゃんだっけ?

 良くしてあげるよ。」

「……脅しですか。」

「そうだね。」

 わたしが生徒会にはいらなければ、フウキ共々可愛がってやると言う脅し。

 わたしだけならいいが、フウキまで巻き込まれるのはごめんだ。

「どうしてわたしなんですか。」

「入学テストの時、色々見させて貰ってたんだ。

 その時に思ったんだよね。

 生徒会には君の力が必要だってね。」

「それほど買って頂けるのは有難いのですが、わたしはまだ入学式も済んでいないひよっこですよ。

 他の人達からの反感は起きないんですか。」

「起きない。」

 空気感が変わる。

「ああ、名乗って無かったね。

 ボクの名前は下香貫愛依《しもかぬきあい》。

 この学園始まって唯一の二世代継続した生徒会長だよ。」

 生徒会長が直々にわたしの接待をしていたと言う事実に驚く。

「ボクがわざわざ話をしているんだから、無下にはしないよね。」

「わかりました、入ります。」

「良かった〜。」

「でも、条件があります。」

「何でも言ってごらん。」

「フウキちゃんも一緒に入れてください。」

「あの子も?

 いいよ、むしろ誘おうと思ってたくらいさ。

 それじゃあ来たるべき時になったら、また。」

 お茶を飲み干し、生徒会室を出ようとする。

「そうそう、さっき職員室でプリント見せて貰ったよね?」

「ええ、はい。」

内容を誰にも話さないよう言われている以上肯定するか迷ったが、この人に隠しても意味はなさそうだと感じた。

「あの制度、作ったのボクだから、興味があったらボクに言ってね。」

「……わかりました。」

 一礼し部屋を出る。

 最後までニコニコしていた。

 

「あーもう、疲れたよー。」

 朝からバタバタだった。

 入学前の学生に色々言いすぎだよ。

 教室に向かって見れば、ちらほらと学生が増えていた。

 今日は基本的に新入生しか来ないはずだから、皆、今日の入学式で晴れて学生デビューというところか。

 疲労で目を擦りながら歩いていると、見慣れた後ろ姿が見えた。

「あっ、フウキちゃんだー。」

 フウキはこちらに気づいていない様子で廊下を歩いていた。

 私は助走をつけていたフウキに飛びつく。 

「おっはよー!

 クラス別れちゃって残念だねー。」

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