#1-2 身体測定
今日は朝イチからカエデがうちに転がり込んできた。
朝5時半に家のチャイムが鳴ったときは何かと思ったけど、カンペキに制服を着こなしたカエデが立っていてどっと疲れがでた。
「私もう少し寝るから、リビング好きに使っていいよ。」
「わかったー。」
満面の笑みが逆に不安になる。
自室に戻り、ベッドに潜り込む。
春になったとはいえ、まだ朝は少し寒い。
変な時間に叩き起こされたのもあって、ベッドに入った途端に意識を手放した。
……がそれが間違いだった。
7時にアラームがなる。
いつも通りに止めようとして違和感を覚える。
服の中で何かが動いている感触を感じてそーっと目を開ける。
背中から誰かが抱きついてきて、服の中に手を入れて弄っている。
「ひぃっ……!」
「あ、おはよー。」
「おはよー、じゃなくて!」
ベッドから飛び起きる。
それと同時に、私の寝間着が床に落ちる。
「へっ……?」
「おー、大胆。」
「ちょっと、カエデちゃん!?」
いつの間にか上着のボタンを全部外して一度脱がされていたらしい。
「寝苦しいかなとおもってー。」
「寒いくらいだよ!」
一発頭にげんこつを叩き込み、急いで着替える。
ご飯を食べて学校に向かう。
今日は身体測定と能力テストのみで授業はまだない。
「朝からひどい目にあったよ……」
「かわいそう。」
「カエデちゃんのせいね。」
「わたしたちはそーしそーあいなんだから良いでしょー?」
「結構カエデちゃんからの一方通行じゃない?」
そうは言うけど、別に満更ではない気もしている。
唯一の友達だから、距離感がおかしくなっているのかもしれない。
「……まだまだだね。」
「なんかいった?」
「ううん、何でも、それより今日もまだ通常カリキュラムって感じじゃないからワクワクするねー。」
「カエデちゃんは文武両道だもんね。
うらやましいよ。」
「やることないから勉強するかトレーニングするかしかないだけだよ。」
「だいぶんストイックなようで。」
やいのやいのといいながら、学校までゆっくり歩く。
「それじゃまたあとでねー。」
「うん、カエデちゃんはっちゃけすぎないでね。」
「だいじょぶだよー。」
不安に思いながらも教室にはいる。
入ってからのほうが不安かもしれない。
結局、友達居ない訳だし。
ホームルームが始まるまでは携帯電話で小説を読みながら時間を潰す。
「はーい、ホームルーム始めるよ。」
担任が入ってきて、今日の日程について話し始める。
午前中は1組と合同で身体測定。
身長、体重、視力、聴力、運動能力を調べるらしい。
午後からは能力テスト。
自分の能力を正確に使えているかや、どれくらい強いかを調べるらしい。
クラス全員で更衣室移動して、一斉に運動着に着替える。
それぞれに記録用紙を配られ、各自好きな順番で回っていいらしい。
「フウキちゃん、一緒に行こー。」
カエデにつれられるまま、運動能力テストから始める。
「ここから始める子は数年やってきたけど、初めてね。」
「やった、わたしたち初だって、いきなり記録作っちゃったねー。」
「最初の記録がアホっぽい記録なのなんかやだな。」
運動能力テストでは、握力や前屈等の柔軟性から、長距離走に瞬発力のテストなんかを受けさせられる。
最初にリストバンドをつける。
これで記録の補助を行うらしい。
「無理のない程度でやるのよー。」
担当教員の忠告を聞き流しながら、カエデは長距離走から始める。
「じゃあ、競争ね。」
「カエデちゃんに勝てるかな……。」
「いくよ、よーいドンっ!」
掛け声と同時に一斉に走り出す。
スタートにゲートをくぐると、リストバンドからピピっという機械音がなる。
記録開始したっていうことかな?
校庭内に等間隔で設置された各種ゲートを3周してスタート地点に戻ってきたら終了。
一周1kmあるらしいですよ。
体力余しながら、10分切れば相当早いとか。
カエデは余裕そうにどんどん加速していく。
「あれー、置いてっちゃうよー。」
「あんまり舐めないでよね。」
能力の使用は禁止されていない。
私は身体強化を使い全力で走る。
身体強化と言っても力を底上げするというよりはリミッターを外して一時的に出力を大きく上げるような感じ。
あんまり無理すると、ちゃんと反動が来る。
「あれ、置いてっちゃうよ?」
「フウキちゃんやるねー。」
お互いに競うように全力で走る。
ゴールにつく頃には息も絶え絶えになっていた。
「ゴール、わたしは、8分20秒!」
「私はぁ、はぁ、8分23秒!」
さすがに負けたか。
「ずいぶんレベル高いわね。
歴代トップクラスよ。」
監督約の教員が褒めてくれる。
「あ、ありがとうございます……。」
「軽く歩いてクールダウンしてから休みなさい。」
「はーい。」
カエデを連れて、校庭内をゆっくり歩いて回る。
「フウキちゃんもまさかあそこまで走れるとは……」
「カエデちゃんは能力無しであのペースでしょ?
勝てるわけないよ。」
10分くらいクールダウンしたあと、校庭内の邪魔にならないところでもう少しだけ休憩した。
「次行かないと、午前中に終わらなくなっちゃうねー。」
「そうだね。」
柔軟系の測定に向おうとしたところで、ゴール直後の床で死んでる人を見つけた。
「レンゲちゃん、大丈夫?」
「…………あー、フウキ?
ダメかも。」
脇腹を突いたら、仰向けになって大の字に広がる。
「ていうか、カエデさんもいるのね。
ははは、はぁ……。」
「どうしたの。」
「わたし運動はダメなんだよ……。」
計測結果の書いた紙を出してくる。
「持久走……25分、握力18kg、柔軟、測定不能……。
良く受かったね。」
「わたし筆記、満点だから、カエデさん、より上だよ。」
「凄いじゃん。」
「運動も頑張ろうね……。」
「嫌だーー!!」
泣きわめくレンゲをそっとしておき、自分たちの測定を終わらせる。
身長等も測り終え、学食で昼食を済ます。
「はい、午後からは能力テストですよ。
各自何をできるか言ってから実演してくださいね。
では出席番号1番から」
「はい、私は身体強化です。
……何すればいいですか?」
「そうね、まず能力無しで50m走って貰って、その後能力込みで帰って来てもらうでいいかしらね。」
「わかりました。」
まずは能力無しで全力で走る。
記録、9秒02。
「戻ります!」
能力込みで全力で走る。
記録、7秒88。
「おつかれ様、ゆっくり休んでていいわよ。」
良かったのかそうじゃなかったのかよくわからない反応だった。
クラスメイトのテストをぼーっと眺める。
空を飛ぶ人、電気を操る人、炎を出す人、変身する人までいた。
私って地味だなぁって思う。
1組は別の場所でテストをしているらしく、カエデたちがどうなっているかはわからなかった。
そのままのうちにテストは終わり、着替えて帰りのホームルームが始まる。
「あー、明日は工業科の方に行くからな。
絶対遅刻しないように。」
「せんせー、工業科ってなんですか?」
クラスメイトの1人が質問する。
「この学園の姉妹校だ。
怪異と戦うための武器を作る事を専門とした学科だ。
君たちにも、それぞれ担当を決めてもらう。」
「担当ってー?」
「卒業までの間、自分だけの武器を作ってもらう相手だ。
自分に適切な武器を作れる相手を選ぶんだよ。」
「男子もいますかー。」
「男の子の方が多いんじゃないか?」
きゃーと黄色い悲鳴が上がる。
「これからの成績にもかかわるからな、ちゃんと考えるんだよ。」
それだけ言って、先生は教室を出て行った。
教員の居なくなった教室は、俄に騒がしくなる。
イケメンがいるといいねとか、彼氏作っちゃおみたいな会話が聞こえてくる。
私は話について行けそうですにもないので、そそくさと教室を出る。
昨日と同じように中庭のベンチに座ってカエデを待つ。
「またぼっち?」
「……だいぶ慣れてきたよ。」
レンゲがいつの間にか横に座って、お菓子を食べていた。
「そういえば聞いた?
工業科の話。」
「うん、明日行くって。」
「皆浮かれてるよね〜。
向こうがどういうモチベーションで来てるかわかんないけどさ。」
「私はああいうノリちょっと苦手だな。」
「わかる、フウキ陰キャそうだもんね。」
「ひどくない!?」
偏見にも程がある。
合ってるけど。
「フウキは自分の使いやすい武器とか分かってるの?」
「全然、戦ったことすら無いし。」
「ふーん、じゃ、まずは合う武器を探すところからだね。」
「そうかも。
レンゲちゃんは?」
「わたし?
わたしは暇だよ、すでにあるんだ。」
レンゲが自分の鞄を漁り、折り畳まれたライフルを取り出す。
「えっ、ええぇ!?」
「何を驚いてるの?
わたし、近接格闘とかありえないから。」
その場で組み立ててくれる。
「所謂対物ライフルってやつ。
まぁ持ち運びの為に多少の火力は犠牲になってるけどね。」
あんまり威力高いと反動で壊れちゃうし、とぼやく。
「普段から使ってるの?」
「仕事があればね、わたしの能力とも相性良いんだよ、長距離狙撃って。」
確かにしっかりと気配を消して遠くに潜まれたら、見つけるのは不可能だろう。
「わたしみたいにすでに自前の装備を持ってるのもウチのクラスには何人かいたね。」
「私のクラスにはいなかったかも……。」
やっぱりそこまで多くは無いのだろう。
「まぁ精々、変なのに捕まんない様にね。
向こうもパートナー見つけたら成績上がるとかあるなら必死にセールスしてくるだろうから。」
「うん、ありがとう、気をつける。」
ライフルをしまいおもむろに立ち上がる。
「それじゃわたしもう行くから。
また明日ね。」
「うん、また。」
レンゲはスクールバッグを背負って帰っていった。
直後にカエデがやってくる。
「おまたせー、さっきまで誰かといた?」
「うん、レンゲちゃんと。」
「わたし避けられてるのかなぁ。
いつもわたしが来る前に帰っちゃうよね。」
悲しそうな表情をする。
「そうなのかな?」
言われてみれば、レンゲとカエデが一緒にいるのをあまり見ていない。
「うん、教室でも話しかけようと思ってももういないんだよねー。」
「なんか定期的に教室を抜け出してるって言ってたよ。」
「意外と不良生徒?」
「かもね。」
入学式でゲームし始めるくらいだし。
「そういえば、明日の工業科の話、どうするか決めたー?」
「うーん、私はイマイチ、ピンと来てないよ。
カエデちゃんは?」
「わたしはもう持ってるからなー。」
そういって鞄から金属の球体を取り出す。
「それが武器?」
カエデは普通に剣を使っていた様な記憶がある。
「そうだよー、名前はアマルガム。
あ、わたしがそう勝手に名付けただけで、正式名称は他にあるかも。」
そういいながら、金属の球体を、大きめの剣に変える。
「見覚えある!」
「でしょー?」
どやぁとSEが出そうなくらいの顔をしながら、今度は槍に変えてみたり、刀に変えてみたり、斧に変えてみたりと色々見せてくれる。
「すごい!」
「わたし専用だけどねー。
能力に合わせて堅い金属を用意しただけだからね。」
また元の球体に戻して鞄にしまう。
「フウキちゃんも、自分に合うやつ見つかるといいね。」
「だね、明日ちょっとドキドキするね……。」
「わたしも、どんな感じなのか気になるよ。」
程々に会話をきり上げて、帰路につく。
カエデは私の家で晩ごはんを食べてから帰っていった。




