#1−1 入学式にて
「おっはよー!
クラス別れちゃって残念だねー。」
廊下で、後ろから飛びついて来た少女に頭をぐしゃぐしゃと撫で回される。
「ちょっと、折角整えてきたのにやめてよ!」
「いーじゃん、わたしフウキちゃんの事大好きなんだから、しょうが無いでしょ?」
「しょうがなく無いよ!」
今後は私の肩に顎を乗せる。
「もー、愛してるゾ♪」
そういいながら私の服の中に手を入れてお腹を触る。
「ちょっ、何して……。」
「いい加減わたしの物になれよ。」
いやらしい手つきで、お腹から徐々に触る場所を上に動かす。
「ふざけすぎ!」
鳩尾に全力で肘を叩き込む。
「うぅっ!?」
少女はお腹を押さえて地面にバタリと倒れる。
「カエデちゃん、いい加減にしてよ。
もー、入学式まで時間ないのに〜。」
「……わたしもセット手伝うからお許しを〜。」
「当然だよ、ほんと。」
倒れるカエデを放置して、お手洗いに向かう。
「ちょっとフウキちゃん、待ってよ〜。」
カエデ慌てて後ろをついてくる。
「それにしても、フウキちゃんの髪は綺麗だよね〜。
ツヤツヤしてて、くらめの茶髪だからさー、シックな服装にあってうらやましいよ。
それにしても伸びたよね、切らないのー?」
「切らないよ。
カエデちゃんと会ってから伸ばしっぱなしだから、もう3年かな?」
カエデに髪を梳かして貰いながら、着崩れた制服を整える。
彼女と出会ったのは中学校の時、周りに友達が居なくてオロオロしていた私にいの一番に声をかけてきたのがカエデ。
出会い頭に、
「君、きれーな髪だね、名前はー?」
と言って話しかけてきた。
それからはカエデと何をするにも一緒で、学校も同じところに進学してしまった。
カエデは私の事を褒めてくれるが、カエデ自体もビジュアルがいい。
綺麗で明るめな茶色のウェーブがかったふわふわのロングヘアー。
出るとこ出てて、引っ込むとこは引っ込んだスタイル。
身長もそれなりに高く、私より5センチは高いのかな。
それに比べて私はくらめの茶髪でストレートのロングヘア
出るとこ出てないし、引っ込むとこも引っ込んでない。
私のおでこからビー玉でも落としたら何にも引っかからずに真下に落ちるね。
……私だって160センチはあるもんね。
「フウキちゃん、眼鏡忘れてるよ。」
「あっ、ありがと。」
ぼーっと整えてたら、眼鏡を置いていくところだった。
「もー、わたしがいないと忘れ物とか多いんだから。」
「それはいつも感謝してるよ。」
昔から、忘れ物多いのだけは改善できないんだよな。
始業のチャイムが鳴る。
「ヤバ、フウキちゃん急いで。」
「誰のせいだと……」
最後に鏡をみて、襟を正す。
そして急いでそれぞれの教室に向かう。
入学式は体育館で執り行われる。
担任の先導に着いてクラスで列を成して入場する。
今年は各クラス約30名程では2クラスに別れた。
私は2組だった。
誘導された席に座り、式の進行を見守る。
入学式なため、新入生がすることは特にない。
「それでは、在校生より、祝辞を頂きます。
在校生代表、生徒会副会長、小海葵杏さん、お願いします。」
呼ばれた生徒が登壇する。
長い銀髪が差し込み日光を反射して綺麗に輝いている。
紅い瞳がツリ目なのも合わさって格好良く見える。
壇上で深く一礼し、セットされていたマイクを手に取る。
「ご紹介にあずかりました、キキョウと申します。
まずは当校、浜木綿女学園に入学出来ましたこと、心より祝福させて頂きます。
新入生の皆様におかれましては、これからの成長を期待させて頂きております。
当校は通常の高等学校とは異なり、怪異、所謂超常現象に対抗する為に設立された経緯を持ちます。
ここで学んだことが、自らの生死、引いてはこの地区の命運を握ると言っても過言ではありません。
そのため、緊張感と節度を持って、学園生活を謳歌していただければと思います。」
カチッとした見た目通りお堅い挨拶だな、と思っていると隣の席の赤髪の学生がおもむろに携帯ゲーム機を取り出して遊び始めた。
「ねぇねぇ、流石にここで遊び始めるのは不味いんじゃないかな?」
少女の足を小突き、注意を試みる。
「んー、あんなお堅い挨拶聞いてもツマンネーでしょ。
それとも、キミは感化されちゃう系?」
「そういうのじゃないけど……
それでも一応入学式だよ、悪目立ちするのは……。」
「大丈夫、わたしの能力があれば気にされることは無いよっと……。
そういえばキミ、わたしがゲームしてるってよく気づいたね。」
「それは、真隣でゲームされたら、嫌でも視界にはいるよ。」
「……へー、キミ、名前は?」
「私?
私は愛鷹楓姫、あなたは?」
「馬主来恋華、宜しく。」
「レンゲさん。」
「呼び捨てでいいよ、タメなんだし。」
入学式の最中であるのにも関わらずレンゲと色々会話してしまった事に気付き、不味いんじゃないかと不安になる。
「あー安心して、フウキもわたしの能力の効果範囲内だから、多少騒いでも気づかれないよ。
正しくは気にもされないが正しいんだけどね。
流石に急に人を殴り飛ばすとかしたら、気づかれるからね。」
「しないよ、さすがに!」
怒られることにならなそうで一安心だ。
ただでさえ、私は入学テストでギリギリだったのだから、悪目立ちするわけにはいかない。
「お、そろそろ終わるみたいだよ、お堅いセンパイサマのご・あ・い・さ・つ。」
「あんまりふざけるのも良くないと思うよ。」
「キミも真面目ちゃん系かぁ、しょうが無い、フウキに免じて今日くらいは真面目にしますか。」
そう言ってゲーム機をポケットに仕舞う。
それからは冗談のように真面目に式に参加していた。
在校生代表の祝辞の後は、校風の紹介、教師陣の紹介の後退場になった。
「そーだ、フウキ、入学試験どうだった?
わたしは筆記はカンペキなんだけど実技がねぇ……」
体育館から教室への移動中も当然の様に話しかけてくる。
「周り誰も喋ってないよ。」
「だから、わたしと居るときは大丈夫だからさ。
どうだった?」
これいつかレンゲがいない時に話し出して痛い目見るの私だよね。
「私はどっちもギリギリだったよ。」
「えー、真面目そうだから筆記くらいは良いのかなと思ったのに。」
「私ここの学校目指したの最近なんだ。
だから勉強も詰め込みで、実技も必死にやってって感じだったの。」
「なるほどね、誰かの影響ってこと?」
「うん、親友の誘いで来たんだ。」
去年になってから急に行こうって誘ってきた人、少しは反省してね。
「じゃあ、フウキはなんの能力も持ってない感じ?」
「一応、身体強化です。」
「いいじゃん、というかそれで実技ギリギリってフウキちゃんデフォの身体機能……」
「やめて、同情の目で見ないで。」
そうですよ、私はガリ勉陰キャタイプですよ、悪かったね。
「おっと、教室着いた、またね〜。」
「うん、また。」
そう言ってレンゲは1組の教室に入って行った。
「同じクラスじゃないんかい!」
「あら、愛鷹さんどうかしました?」
「あ、すいません……」
あの子の効果範囲狭いな。
クラスで担任の自己紹介があったあと、出席番号順での自己紹介が始まる。
「じゃあ、出席番号1番は愛鷹さんね。」
「は、はい。」
緊張しながら、前に出る。
色々な生徒がいるなと思いつつ、自己紹介を始める。
「えっと、愛鷹楓姫といいます。
好きな食べ物はみかんで、得意な事はあんまりないんですけど、元気だけはいっぱいで頑張りたいと思います。」
「なにか、抱負とかある?」
「えっと、私、この学校の事を知ってから、そこまで時間経ってなくて、だから分からないことだらけかもしれないですけど、皆さんに置いていかれない様に頑張ります。」
ペコリとお辞儀をする。
教室ないからは拍手が起こり、歓迎されてない事が無いのだけは安心だった。
それからはクラスメイトの自己紹介を聞いていた。
能力を自慢する人、この地区を守ると意気込みが堅い人、緊張して全然喋れない人など様々な人がいた。
かく言う私も、緊張でイマイチ内容が入って来なかった。
どこかでしっかりとみんなの事くらい覚えなきゃ。
「えー、皆さんの自己紹介が終わったという事で、これからの学校生活についてお話しします。」
担任がプリントを配る。
年間の行事予定が書かれていた。
「基本的に行事には全生徒、強制参加となります。
できる限り体調不良とかもない様に体調管理をしてください。」
「せんせー、この4月にある歓迎会?
の中に御前試合ってあるんですけど、何するんですか?」
クラスの誰かが質問する。
「ああ、それは、明日登校してもらった時に、身体測定をするのだけど、その時に選ばれた1名が上級生1名と学園長の前で模擬戦をするの。
新入生の質を見るのと、上級生の強さを見てもらって、皆の目標にするためよ。」
「そうなんですね。
じゃあアタシたちはあんまり関係ないかな?」
「わかりませんよ、能力測定でいい数値が出れば代表生徒に選ばれるかもしれませんからね。
代表生徒に選ばれたら、ご褒美もあるみたいですよ。」
教室が俄に騒がしくなる。
「では今日はこの辺で終わりになります。
各自帰宅して英気を養っても良し、学校散策しても良しですよ。」
担任が教室を出て行ったことにより、尚の事教室内は活気に包まれた。
周りが楽しそうに話してるのを見て、居た堪れなくなり、ひっそりと教室を抜け出した。
1人で中庭のベンチで、のんびりと日向ぼっこをしていた。
お昼を回ってすぐくらいにすべての予定が終わり、日向ぼっこには最適の時間に中庭に来れた。
「はー、やっぱり誰かと仲良くなるの難しい。」
「そりゃ、そんなにすぐ抜けてきたら誰も話しかけれないでしょ。」
「うわっ、びっくりした。」
いつの間にか横にレンゲが座っていた。
「レンゲちゃんこそ、すぐ抜けて来たんじゃないの?」
「わたしはそもそもホームルーム出てないから。
いや、自己紹介だけはして来たけど。」
棒付きキャンディを舐めながら、天を仰いでいる。
「いやー、日陰者には日光はキツイね。
そーだ、これあげる。」
棒付きキャンディを1本渡してくれる。
「あ、ありがとう。」
いちご味だった。
「1組まだホームルームしてるんだね。」
「ああ、自己紹介でめちゃめちゃ時間かかってたみたいだよ。
わたしのあと5、6人だったけど、みんな結構しゃべるやつでさ。
フウキは誰か待ってんの?」
「えーっと、カエデちゃんを待ってるんだ。」
「カエデってあの千本浜楓姫?
今年の主席入学って聞いたけど。」
「カエデちゃんそんなに凄かったの!?」
「フウキも知らなかったのかい!?」
カエデが凄いっていうのは前々から分かっていたけど、そこまでとは。
というか私とカエデでドベとトップってこと?
「私、カエデちゃんといるのちょっと場違いじゃない?」
「場違いではあるでしょ。
でも友達に場違いとかそう言うの関係ないでしょ。」
「それもそうだね。」
レンゲの言葉で少し安心する。
「まぁ明日の御前試合の代表生徒の選出はおおよそカエデサマで決まりですね。」
「他の人も凄いんじゃないの?」
自己紹介で自慢してる人までいたくらいだし。
「まぁカエデサマに比べたらどんぐりの背比べってとこじゃない?」
「へぇー。」
愛しの親友がそんなレベルが高いなんて知らなかった。
カエデも言ってくれれば良かったのに。
「あ、おーい、フウキちゃん!」
「噂をすればなんとやら、お二人の時間を邪魔する気はないので、わたしは退散しますよっと。」
「別にいいのに……」
いつの間にかどこかに行ってしまった。
さっきまで話してたはずなのに、少し目を離した瞬間に、完全に見失った。
凄い能力だね。
「おまたせー、ごめんね、クラスの皆に捕まっちゃってー。」
「ううん、いいの、さっきまでレンゲちゃんとお話してたんだ。」
「レンゲちゃん?
ああ、えーっと、わたしのクラスにいた地味な子だよね。
いつの間に仲良くなったの?」
鬼気迫る表情で問い詰めてくる。
「ちょっと、お話してただけだよ、そんなにまだお互いのことも知らないから。」
「そっかー、それで、このあとはどうするの?
用事ないならご飯でもいこーよ。
学食、今日から使っていいんだってー。」
「そうなんだ?
じゃあ行ってみようかな。」
「きっまりー。
さー早く行こ。
わたしお腹ペコペコだよー。」
「ちょっと、走らないでよ。
私道わかんないんだけど……」
「わたしもー!」
「えぇ?」
駆け回るカエデについて行ったら、かなりの遠回りで学食に着いた。
学食のメニューはかなり健康を意識したものから、トレーニング中の食事、高級なランチまで色々あった。
私は大人しく、日替わり定食にしたけど、カエデは……
「わたしこのサーロインステーキにしよー。
あと、このパフェもお願いしまーす。」
私は1000円払って日替わり定食を貰う。
内容は玄米ご飯に唐揚げ、それに何種類かの副菜がついて十分豪華だった。
「お会計18000円ね。」
「カードで。」
カエデは1回の食事でいくら使えば気が済むのか。
最終的にステーキに海鮮丼、パフェにドリンクまでつけていた。
「やっぱ、食べ物は食べたい物を食べるに限るね!」
「カエデは食べ過ぎ。」
「そっかな、えへへー。」
ほんっと良いとこのお嬢様ってよくわかんない。




