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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: akaike


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第83話「豊穣祭、開幕」

その日は、朝から気持ちのいい快晴だった。


陸が郵便を取りに出ると、洗濯物を干しに出てきた柚希と、ベランダ越しに顔を合わせた。今日は、休みらしい。


「あ、陸くん。おはよ。……いい天気だね」


「だな。……そういえば柚希、聞いたか。今度、ゲームで大きなイベントがあるらしいぞ」


「イベント?」柚希の手が、ぴたりと止まった。「なにそれ、初耳」


「昨日の夜、運営から告知が来てた。“豊穣祭”っていう、収穫のお祭りだってさ」陸は言った。「なんか、大規模なやつらしい。世界中のプレイヤーが参加するんだと」


「わ、楽しそう!」柚希の目が、ぱっと輝いた。「あたし、その日、ちょうど休みだ。……ね、一緒に出ようよ」


「もちろん、そのつもりだよ。……ちょうど、あの弓の慣らしも、できるしな」


「あ」柚希が、少しばつが悪そうに笑った。この前、慣らしそびれた、あの“絶対に外さない”弓のことだ。「そう、だね。……まあ、せっかくだから、使ってあげよっかな」


洗濯物を抱えたまま、柚希がうきうきと手を振る。その顔を見ていると、陸まで、なんだか楽しみになってきた。


その夜、拠点にログインすると、宗介たちも、もう集まっていた。


「よう、陸。イベントの話、聞いたか」宗介が、掲示板を眺めながら言う。「“豊穣祭”。ずいぶん、派手なやつが来たな」


「ああ。ちょうど、話してたところだ」


そのときだった。焚き火のそばでのんびり寛ぐ神獣たちを見て、宗介が、ふと、にやりとした。


「そういや陸。お前のあの笛、便利すぎるよな」宗介が、からかうように言った。「昨日なんて、森じゅうの魔物が、うっとり集まってきてさ。……あれ続けてたら、この辺の魔物、みんなお前になついちまうぞ」


「そうかな」陸は、頭をかいた。


「そうだよ。考えてもみろ」大和が、笑いながら乗ってくる。「魔物がみんな友達になったら、俺たち、狩る相手がいなくなるじゃないか。腕試しも、レベル上げも、あがったりだ」


「ちょっと、陸くんのせいで、この辺一帯、平和になりすぎる問題」ハルが、けらけら笑った。


「なんだよ、それ」陸も、つられて笑った。たしかに、言われてみれば。自分の笛は、戦いとは、とことん相性が悪い。


「まあ、安心しろ」宗介が、掲示板を指した。「今度のイベントの相手は、そうはいかないみたいだぞ」


告知には、こう書かれていた。


――収穫祭「豊穣祭」開催。ただし、豊かな実りを狙う“収穫荒らし”の魔物が、各地に大量発生中。作物を守り、実りを競い合え。


「“収穫荒らし”か」


陸が、その名を読み上げる。掲示板には、その魔物の姿も載っていた。ずんぐりとした、いがぐりのような魔物。畑を食い荒らし、実りを奪っていく田畑の天敵だ。その目は、あきらかな敵意と食欲に、ぎらついていた。


「こいつは……笛じゃ、なつかなそうだな」陸が、苦笑する。


「だろ?」宗介が、肩をすくめた。「こいつら相手なら、心置きなく、暴れられる。……お前は、まあ、いつもどおり、指揮でもしててくれ」


イベントのルールは、こうだった。


参加者は、あちこちの畑や果樹園で、作物や貴重な素材を収穫する。だが、そこへ収穫荒らしの魔物が、群れをなして襲ってくる。プレイヤーは、それを撃退しながら実りを守り抜く。集めた収穫の量と、倒した魔物の数。その合計が、そのままスコアになる。


「面白いのは、ここからだ」宗介が続けた。「スコアは、二種類ある。ギルドごとの、チームスコア。それと、参加者ひとりひとりの、個人スコアだ」


チームスコアの上位ギルドには、豪華な報酬と、名誉ある称号が贈られる。そして、個人スコアでいちばん活躍したプレイヤーには――大会の最優秀として、別の特別な栄誉が与えられるのだという。つまり、ギルドで力を合わせて優勝を狙いつつ、その中で、誰がいちばん働いたか、という個人の腕も、同時に問われるわけだ。仲間でありながら、ちょっとした、ライバルでもある。そんな、心憎いルールだった。


「ギルドで優勝を狙う。それと同時に、個人でも腕を競い合うわけか」大和が、拳を鳴らした。「燃えるじゃないか!」


「うちなら、優勝、狙えるんじゃない?」ハルが、わくわくした顔で言う。「なんてったって、この前の、伝説装備があるもん」


「油断は禁物よ」雪乃が、たしなめる。「参加するのは、世界中のプレイヤーなんだから。……強豪も、たくさん出てくるはず」


その言葉を、裏づけるように。


「――ほう。お前たちも、出るのか」


聞き覚えのある声に、振り返る。焚き火の輪の外に、二つの人影が立っていた。黒崎零と、その副官の葛城真琴だ。漆黒の絶対者の、二人だった。


「黒崎! 久しぶりだな」陸が、笑顔で迎える。「来てくれたのか」


「新しい拠点が、ずいぶん賑やからしいと聞いてな」黒崎は、あたりを見回した。神獣に、神々の造った家。その規格外の光景に、さすがの黒崎も、少しだけ、目をみはっている。「……相変わらず、とんでもないことになっているな、お前は」


「そりゃどうも」


「豊穣祭には、俺たちも出る」黒崎が、不敵に笑った。「言っておくが、手加減はしない。……個人スコアも、ギルドスコアも。今度こそ、お前たちを、超えさせてもらう」


「望むところだ」宗介が、好戦的に笑い返す。かつての決勝の再現だ。だが、その顔に、以前のようなとげとげしさはない。よきライバルとして、正面から、ぶつかり合える。そんな、清々しさがあった。


「ま、たまには、あんたらとやり合うのも、悪くないしな」宗介が、肩をすくめる。


「言うようになったな」黒崎が、口の端を上げた。あの、拠点の焚き火の輪に加わって以来、この二人のあいだには、妙な戦友めいた空気が、流れるようになっていた。競い合いながらも、根っこのところで、認め合っている。そういう間柄だった。


「ふふ。……賑やかになってきたわね」雪乃が、微笑む。


と、黒崎が、ふと、柚希のほうへ目をやった。


「そういえば、朝倉。……お前、今回は、どちらで出る?」


その一言に、場が少し静まった。柚希はいまも籍だけは、黒崎の漆黒の絶対者に置いたままだった。ずっとStray Wolvesと合同で遊んできたが、正式な所属は変わっていない。ギルドで競うこのイベントでは、どちらのスコアに入るのか、はっきりさせておく必要があった。


柚希が、言葉に詰まる。ちらりと、陸を見た。


「……なあ、朝倉」黒崎は、その視線の意味を、とうに見抜いているようだった。ふっと、目を細める。「もう、いいんじゃないか。ずっと、こっちの連中と笑い合ってきたんだろう。……本籍を移してやれ。俺は、とっくに、そのつもりだ」


「黒崎……」


「礼はいらん」黒崎は、そっけなく肩をすくめた。だが、その声には、隠しきれない情があった。「いい仲間を、見つけたな。……達者でやれ」


柚希の目が、じわりと潤む。それから、こくりと、力強く頷いた。


「……うん。ありがとう、黒崎」


そうして、柚希は、陸たちのほうへ向き直った。少し照れくさそうに、けれど、晴れ晴れとした顔で。


「あらためて、よろしく。……今日から、あたしも、Stray Wolvesの一員だから」


「なに言ってんだ」宗介が、笑った。「とっくに、そのつもりだったよ」


「うんうん。今さらだよねー」ハルが、けらけら笑う。


陸も、笑った。ずっと隣にいた仲間が、名実ともに家族になる。その、あたたかな一幕に、胸の奥がじんとした。


「よろしくな、柚希」


「うん!」


こうして、豊穣祭の初日が、幕を開けた。


会場は、街の外に広がる、広大な農園地帯だった。見渡すかぎりの、黄金色の畑。たわわに実った、果樹の園。世界中から集まったプレイヤーたちが、思い思いの畑に散らばって収穫の準備をしている。お祭りらしい、活気に満ちた空気だった。


「よし。まずは、収穫からだ」宗介が、みんなを見回した。「手分けして、いくぞ」


Stray Wolvesの面々が、それぞれの持ち場につく。


大和と静が、畑の作物を手際よく刈り取っていく。ハルは、身軽さを活かして、高い果樹の実を、次々と収穫していった。雪乃は、傷んだ作物を、その回復魔法でみずみずしく蘇らせる。これも、立派な、収穫のうちだった。ガロードとシィラも、慣れた手つきで、畑仕事を手伝っている。二人とも、こういう地道な作業は、存外、嫌いではないらしい。


そして、陸はといえば。


「そーら、グラン。こっちだぞー」


いつもの非戦闘スタイルだった。グランの怪力を借りて、収穫した作物を山ほど運ぶ。ジオが蔦を伸ばして、遠くの果実をそっともいでくる。神獣たちの手を借りれば、収穫の効率は抜群だった。


「陸くん、あいかわらず、戦力の使い方が、独特だよね」


隣の畑から、柚希が、笑いながら声をかけてくる。今日は休みの柚希も、しっかり参戦していた。その手には、あの美しい弓“射手の眼”が握られている。


「柚希こそ。その弓、使う気になったのか」


「まあ、ね。……食わず嫌いも、よくないし」柚希は、少し照れたように、弓を撫でた。「せっかく、陸くんが、確保してくれたんだしさ」


そのときだった。


畑の向こうの地面が、ぼこぼこと盛り上がった。土を割って、いがぐりのような魔物が、次々と姿を現す。収穫荒らしだ。ぎらついた目で、実った作物へといっせいに殺到してくる。


「来た! みんな、収穫を守れ!」宗介が、剣を抜いた。


戦いの、はじまりだった。


宗介が、群れの先頭へ斬りかかる。手にした伝説の剣が、ひと薙ぎで数体の収穫荒らしを、まとめて吹き飛ばした。その威力に、周囲のプレイヤーたちが、どよめく。


「な、なんだ、あの剣……!」


大和は、例の大盾を構え、畑への侵入をがっちりと食い止める。彼が守る一画には、魔物を一匹たりとも通さない。まさに、鉄壁だった。


静の魔法が、群れをまとめて薙ぎ払い。ハルの影が、逃げ惑う魔物の、退路を断つ。神獣たちも、負けてはいない。フェニクスが空から炎を降らせ、サンダーウルフが畑を駆けめぐって、魔物を麻痺させていく。


シィラも、負けてはいなかった。杖を一振りすると、炎と氷と雷が渦を巻いて、群れへと降りそそぐ。全属性を自在に操る老術師の魔法は、一撃で、収穫荒らしの一団をまとめて焼き払った。


「ほっほ。……年寄りにも、ちょうどいい、運動じゃな」


そして、畑の一角では、奇妙な現象が起きていた。ガロードが、ただ、そこに立っているだけの一画。そこへ近づく収穫荒らしが、なぜか、みな怯えたように進路を変えていくのだ。将としての、凄まじい覇気。それが剣を抜くまでもなく、魔物たちを震え上がらせていた。


「ふん。わしの出る幕は、なさそうだな」ガロードは、腕を組んだまま、目を細めた。剣を抜かずとも、その存在が、いちばん堅牢な畑の守りになっていた。


そして――柚希が、弓を構えた。


「……いくよ」


きり、と弦を引き絞る。狙うのは、畑の作物に、いままさにかじりつこうとしている一匹。


放たれた矢は、すいと狙いあやまたず、その魔物を射抜いた。手応えに、柚希が、目をみはる。


「……あ。ほんとだ。……ちゃんと、当たる」


“射手の眼”。狙った的を決して外さない、伝説の弓。だが、柚希は、その力に頼りきりにはしなかった。自分の目で、次に狙うべき一匹を冷静に見定める。どの魔物が、いちばん、作物に近いか。どれを、先に落とすべきか。看護師の観察眼が、戦場でも冴えわたっていた。


「やっぱり、狙って当てるほうが、楽しいな」


柚希の口元が、楽しげに、ほころんだ。矢が、次々と収穫荒らしを、正確に射抜いていく。弓の力と、彼女自身の腕。その両方が、噛み合った、見事な狙撃だった。


少し離れた畑では、黒崎と葛城も奮戦していた。黒崎の覇王剣が、群れをなぎ倒し。葛城の大盾が、畑を守る。さすが、と言うべき堂々たる戦いぶりだった。時おり、こちらへ、負けじと鋭い視線を送ってくる。


「……いい顔してるな、黒崎」


陸は、その様子を微笑ましく眺めた。かつて効率と命令だけで戦っていた男が、いまは、こんなにも生き生きと戦っている。それが、なんだか、嬉しかった。


やがて、収穫荒らしの群れは、あらかた、片づいた。


初日の畑には、守り抜かれたたわわな実りが、燦然と輝いている。プレイヤーたちの、歓声が、あちこちで上がった。


「ふう。……なかなか、やるじゃないか、こいつら」宗介が、剣を納めて、額の汗をぬぐう。


「初日にしては、上々ね」雪乃が、微笑む。


陸は、みんなの満ち足りた顔を、ぐるりと見回した。守り抜いた実り。競い合う、よきライバル。そして、賑やかな、お祭りの空気。


「いいな、こういうの」陸は、しみじみと呟いた。「なんか、みんなで、お祭りに来た、みたいでさ」


「みたいっていうか、お祭りだよ」ハルが、笑った。


豊穣祭は、まだ、始まったばかりだ。この賑やかなお祭りが、これから、どう転んでいくのか。陸には、まだ、知る由もなかった。


   


その頃、開発室では。


「豊穣祭、順調に、稼働してます」こはるが、モニターを眺めて言った。「参加者数も、過去最高です。……あ、でも」


「どうした」三浦が、顔を上げる。


「例のギルド……Stray Wolvesの初日スコア、なんですけど」こはるが、微妙な顔をした。「ぶっちぎりの一位です。二位にダブルスコアで。……あの伝説装備、やっぱり効きすぎてますね」


「まあ、そうなるわな」三浦は、苦笑した。「あいつらに、まともにスコアで勝てるやつは、そういない」


「バランス、大丈夫でしょうか」


「いいさ。……祭りってのは、そういう突き抜けたやつが、一組いたほうが盛り上がる」三浦は、モニターの中の、賑やかな畑を眺めた。「それより、俺は、別のことが気になる」


「別のこと?」


「豊穣祭の、最終日だ」三浦は、意味ありげに笑った。「あそこに、とっておきの“主”を用意してある。……さて、あの子は、あれをどうするかな」


   


アルテのログが流れた。


アルテのログ:

「実りの季節が、来た。

黄金の畑に、人々が集い、

その実りを狙う魔物と、競い合う。


伝説の武具を手にした一団は、

たちまち、頂点へと駆け上がった。

けれど、その真ん中の男は、

相変わらず、剣を持たない。


彼は、ただ、収穫を運び、

仲間の勇姿を、まぶしそうに眺めている。

祭りは、まだ、始まったばかり。

実りの日々は、三日、続く。」


   


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回から、少し大きな、お祭りイベントの始まりです! その名も「豊穣祭」。収穫を競い合う、三日間のお祭りを、三話にわたって、お届けしていきます。


冒頭は、みんなからの、ちょっとしたツッコミから。陸の“調べの笛”が、あまりに便利で、「このままだと、周辺の魔物が、みんな友達になって、狩る相手がいなくなる」という――なんとも、この物語らしい、平和な悩みです。でも、今度のイベントの相手、収穫荒らしは、そうはいきません。畑を狙う、明確な敵。心置きなく、バトルができます。


そして、ひさびさの、黒崎たちの再登場! よきライバルとして、ギルドスコアでも、個人スコアでも、競い合います。それと、今回はもうひとつ。ずっと籍だけは漆黒の絶対者に置いたままだった柚希が、この豊穣祭を機に、正式にStray Wolvesの一員となりました。背中を押したのが、かつての宿敵・黒崎だというのが、なんとも、感慨深いところです。柚希の“絶対に外さない弓”も、ようやく、実戦投入。……とはいえ、彼女は彼女で、自分の腕にこだわるあたりが、らしいところです。


お祭りの、賑やかな幕開けを、楽しんでいただけたら嬉しいです。次回は、いよいよ、大規模な襲撃の、防衛戦。そして、最終日には、運営が用意した“とっておき”が――。続きも、どうぞお楽しみに!


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