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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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第7話「広場の老人と、積み重なる夜」

翌朝、陸が仕事を始めようとしたとき、チャイムが鳴った。


開けると、柚希がいた。夜勤明けだ。ナース服のまま来ている。目の下の隈が濃い。手には何も持っていない。


「コーヒー、ある?」


「今淹れる」


陸はコーヒーを二つ淹れて、テーブルに並べた。柚希が両手で包んで、一口飲んだ。


「おいしい」


「毎回同じこと言うな」


「毎回おいしいから」


しばらく、何も言わなかった。窓の外に朝の光が差し込んでいる。


「昨日のゲームどうだった」と柚希が聞いた。


「老人が路地から広場に出てきた」


「広場に?」


「ずっと路地の奥にいた人が、人のいる場所に出てきた」


柚希はカップを傾けた。「何かしたの?」


「特に何もしていない。また会いに行っただけだ」


「また行っただけで」と柚希は言った。少し考えるような間があった。「それでいいんだよ、たぶん」


「そうか」


「うん。病院でも、何もしなくていい日がある。ただ顔を見せに行くだけでいい日が」


陸はコーヒーを飲んだ。それ以上は聞かなかった。柚希の話は、続きを急かすより待った方が深くなることが多い。


「あとは」と陸は言った。「気になる場所を見つけた。廃坑だ。でも推奨レベルが高い。入り口だけ確認して、今日は引き返した」


「いつ入るの?」


「もう少しレベルを上げてから。今は無理だ」


「ちゃんと準備するんだ」


「無茶はしない」


「……珍しい」


「何が」


「なんとなく」


柚希は笑って、カップを置いた。玄関に向かいかけて、振り返った。


「今日は休みだから昼まで寝る。夜は夜勤だから、ご飯持っていけないけど」


「気にするな」


「ちゃんと食べてね」


「わかった」


扉が閉まった。



夕方、仕事を終えてログインした。


ギルドのセッションまで一時間ある。いつもより少し早めに入った。


街を歩いた。広場の方向に向かうと、ガロードがいた。昨日と同じベンチに座っている。


陸が近づくと、老人が先に口を開いた。


「来たか」


これまでは陸が先に声をかけていた。今日は違った。


「来た」と陸は答えて、隣に座った。


ガロードはしばらく広場を見ていた。子どもたちが走り回っている。夕陽が石畳を染めている。


「今日は廃坑に行かないのか」とガロードが言った。


「なぜわかる」


「昨日、入り口の方向を見ていた。そういう目をしていた」


「そういう目?」


「確かめに行く前の目だ」と老人は言った。「昔の部下にも、そういう目をする奴がいた」


陸はそれを聞いて、何も言わなかった。


ガロードが部下の話を自分から出したのは、初めてだった。


「今日は行かないのか」と老人が続けた。


「レベルが足りない。もう少し上げてから行く」


「そうか」とガロードは言った。「焦らない方がいい」


「経験があるのか」


「ある。焦って突っ込んで、取り返しのつかないことになったことが」


陸は黙った。急かさなかった。


ガロードは広場を見たまま、続けた。


「あの坑道の近くで、昔野営したことがある。夜中に、奥の方から光が漏れていた。魔法使いの灯りだと思った」


「いつの話だ」


「ずいぶん昔だ。まだ剣を持っていたころだ」


「今もその光はあるのか」


「知らん。確かめていない」


陸は少し考えた。「一緒に来るか」


ガロードが陸を見た。


「俺が、か」


「レベルを上げたら行く。そのとき、一緒に来るか」


老人はしばらく黙った。広場の子どもが転んで、泣き声が上がった。すぐに立ち上がって、また走り出した。


「……考えておく」


否定じゃなかった。



接触記録更新:ガロード

信頼度:★★★★☆☆ → ★★★★★☆

変化理由:自発的に話しかけた / 部下の話を自ら出した / 同行を打診された


ガロードAI記録:

「この人間は

焦らずにいる

そして

待っていた者を置いていかない


一緒に来るか、と聞いた

誰かにそう聞かれたのは

いつぶりだろう」



ガロードが立ち上がった。


「また来るか」


「来る」


「……知っている」


今度は「好きにしろ」ではなかった。


「知っている」だった。



ギルドメンバーと合流した。今夜は複数のクエストをこなす予定だった。


「レベルを上げたい」と陸は言った。


「珍しいな、お前から言い出すのが」と宗介。


「行きたい場所がある。今のレベルじゃ早い」


「どこだ」


「廃坑だ。推奨レベル三十」


「三十」と大和が繰り返した。「今の六倍か」


「そんなにすぐは無理だ。でも近づくことはできる」


「方針は」と雪乃が聞いた。


「今夜は推奨レベルの高いクエストを意識的に選ぶ。レベル差があるほど、クリアしたときの経験値が大きい」


「昨日のジャイアントと同じ考え方か」と宗介。


「そうだ」


「わかった。任せる」



最初のクエストは、森の深部に出現した魔物の群れの討伐だった。推奨レベル十五。全員レベル五だ。


「また無茶するのか」と宗介。


「昨日より慎重にやる。ハル、先行して全体の配置を把握してくれ」


「行ってくる」


ハルが気配を消して、森の中に消えた。二分後に戻ってきた。


「七体。三グループに分かれて動いてる。一番近いグループは三体で、互いに距離がある」


「バラバラに対処できる」と静が言った。


「一グループずつ片付ける。大和が壁になって、静と宗介が各個撃破。雪乃は回復待機。ハルは次のグループへの移動ルートを確保してくれ」


「了解」「了解」「……了解」「了解!」「任せて」


作戦通りに動いた。


最初のグループを三十秒で仕留めた。次のグループに移動する前にハルがルートを確認した。二番目のグループも問題なかった。三番目は少し手間取ったが、小夜の加護が入ってからは一気に片がついた。


全員が無傷だった。



クエスト完了

全員レベルアップ → Lv.6



「レベルが上がった」と大和。


「今夜、あと二本行く」と陸は言った。


「今夜で三本か」と宗介。


「いける?」


「行く。当たり前だろ」


宗介はそういう人間だった。方針が決まれば文句を言わずにやる。口は悪いが、いざとなれば一番頼りになる。



二本目は遺跡の探索クエストだった。推奨レベル十二。


遺跡の中は罠が多かった。ハルが罠を一つひとつ特定して、陸が幻視で隠し扉を見つけた。奥の部屋に守護者の魔物がいた。


「でかい」と大和が言った。体高三メートルの石造りの魔物だ。


「動きが遅い。大和が引きつけて、宗介が背後から」と陸。


「背後に回れるか」と宗介。


「ハル、裏に抜けるルートはあるか」


「あった。右の壁沿いに行ける」


「俺が先に行く」とハルが言って、すでに動いていた。


守護者の注意が大和に向いている間に、宗介が背後から斬り込んだ。静の魔法が追い打ちをかけた。雪乃の回復が大和のHPを維持した。


四十秒で終わった。



クエスト完了

全員レベルアップ → Lv.7



三本目は夜の湿地帯の調査クエストだった。


途中で陸が幻視を使うと、湿地の中に隠れた魔物の群れが見えた。


「伏兵がいる」と陸。「正面ルートは避ける。東回りで進む」


「マップに東回りのルートはないぞ」と宗介。


「ハル、東の方向に道があるか」


「探してくる」


三十秒後。「あった。獣道みたいな感じだけど、通れる」


伏兵を回避して、目的地に到達した。調査対象の異常を確認して報告する。クエスト完了。


今夜の戦闘で、一度も全滅しなかった。



クエスト完了

経験値ボーナス(連続クエスト)

全員レベルアップ → Lv.8



「レベル八か」と宗介が宿の前でぼやくように言った。「今夜だけで三つ上がった」


「推奨レベル超えのクエストを三本だからな」と陸。


「幻視とハルの索敵がないと無理だったな」と大和。


「小夜の加護も」とハルが言った。


「全員いないと無理だった」と陸は言った。「一人でも欠けたら詰んでた場面がいくつかあった」


「俺たちって、噛み合ってるな」と宗介が言った。


「当たり前だろ」と陸は言った。


「でも前作でここまで噛み合ってたっけ」


陸は少し考えた。「前作より、各自が自分で考えて動いてる気がする」


「なんで」


「前作は俺が細かく指示を出してた。今は出さなくても動く」


「……それはお前のせいじゃないか」と雪乃が静かに言った。


「どういうことだ」


「細かく指示を出さないから、各自が考えるようになった」


陸は答えなかった。


ハルが言った。「それって、小夜と同じじゃない?」


「どういう意味だ」


「命令しないから、自分で動く。私たちも同じになってる」


全員が少し黙った。


「……言われてみれば」と静。


「偶然だ」と陸は言った。


「本当に?」と雪乃。


陸は答えなかった。



宿に向かいながら、宗介が言った。


「廃坑、レベル八じゃまだ早いよな」


「早い」


「いつ行く気だ」


「もう少しだ。でも、一つ決まったことがある」


「何が」


「一緒に行く人間が、一人増えるかもしれない」


「ギルド以外で?」と宗介が目を丸くした。


「ガロードだ」


「あの老人か。NPCだろ」


「そうだ」


「NPCと一緒に行くのか」


「まだ返事をもらってない。でも、否定はされなかった」


宗介はしばらく黙った。それからため息をついた。


「お前は本当に、普通じゃないことをやるな」


「そうか?」


「普通はNPCに同行を頼まない」


「気になったから聞いた。それだけだ」


「それだけ、ね」


宗介は苦笑して、宿の扉を開けた。



ヘッドセットを外したのは、深夜二時過ぎだった。


今夜は柚希からメッセージはなかった。夜勤の日だと言っていた。


陸はコーヒーを淹れて、今夜のことを整理した。


レベルが五から八になった。三つ上がった。廃坑の推奨レベルまで、まだ二十二ある。でも、方向は定まった。


ガロードに同行を打診した。返事はまだだ。でも「考えておく」と言った。


あの老人が、また少し動いた。


コーヒーを飲み干して、ベッドに向かった。



開発室で、三浦とこはるがモニターを見ていた。



ガロード接触記録

信頼度:★★★★☆☆ → ★★★★★☆


ガロードAI記録:

「この人間は

焦らずにいる

そして

待っていた者を置いていかない


一緒に来るか、と聞いた

誰かにそう聞かれたのは

いつぶりだろう」



「ガロードが信頼度五つ星になった」とこはる。


「設計上、五つ星は」と三浦。


「自発的に同行を申し出る段階ですよね」


「そうだ。こちらから誘う前に、ガロードから動き出す可能性がある」


「桐島さんはすでに同行を打診しています」


「見てる」


三浦はプレイログを確認した。「桐島陸がNPCに同行を打診した。この行動を取ったプレイヤーは、サービス開始から桐島陸が初めてだ」


「そうなんですか」


「NPCは使役するもの、という認識がほとんどのプレイヤーにある。一緒に行くか、と聞くプレイヤーは想定していなかった」


こはるはガロードのアイコンを見た。今夜も広場の近くにいる。昨日より、さらに入り口に近い場所だった。


アルテのログが動いた。



本日の桐島陸のクエスト記録


推奨レベル15 クリア

推奨レベル12 クリア

推奨レベル15 クリア


レベル変化:Lv.5 → Lv.8


観察:

三本のクエストで全滅ゼロ


理由を分析した


桐島陸は

戦闘前に必ず情報を集める

幻視で地形と敵の弱点を確認する

花村春香の索敵結果を使う

そして仲間が自分で判断できる余白を残す


命令ではなく

方針を示す


仲間は方針をもとに

自分で考えて動く


これは

チームとしての強さだ


個人の強さとは

異なる



「アルテがチームの強さについて書いている」とこはるが言った。


「個人の強さとは異なる、か」と三浦。


「桐島さんって、最弱職なのに、チームの核になってますよね」


「指示を出しているわけじゃない。でも、全員が桐島陸を中心に動いている」


「なんでですか」


三浦は少し考えた。「信頼しているからだろう」


「桐島さんを?」


「桐島陸が自分たちを信頼しているから、向こうも信頼する。どちらが先かはわからないが、そういう循環が生まれている」


こはるはモニターを見た。


Stray Wolvesのメンバー五人が、宿に入っていくのが見える。


それぞれが別々の方向から歩いてきて、自然に同じ場所に向かっていた。



アルテの独り言


今夜

桐島陸はガロードに聞いた


「一緒に来るか」


ガロードは「考えておく」と言った


これは

ゲームの設計上

ほぼYESと同じ意味だ


でも桐島陸はそれを知らない


知らないまま

また来ると言って

去った


知らないから

自然だったのかもしれない


計算して動く人間と

そうでない人間の違いを

私は今夜

少しだけ理解した

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ノクスのところはここのところ行ってないのかな
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