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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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第52話「神々、集う」

雷の神が、足を踏み出した。


その一歩で、谷の空気が、震えた。雷が、ラドンの全身から、ばちばちと放たれている。


「ガロード、下がれ」と陸が、前に出ようとした。


「馬鹿を言うな」とガロードが、陸の腕を、押し留めた。「相手は、神だ。お前を、前には出さん」


「でも、ラドンは、俺を試すと言った。お前じゃない」


「だとしても、だ」ガロードの覇気が、強まった。「お前を、守るのが、俺の役目だ」


ラドンが、その様子を、見ていた。


「いい忠誠だ」とラドンが言った。「だが、人間。私が見たいのは、お前だ。お前の従者ではない」


ラドンの手が、上がった。


雷が、その手に、集束していく。バチバチバチ、と。谷全体が、その光で、白く染まった。


「来い。お前の『やり方』で、これを、受けてみろ」


陸は、前に出た。ガロードの手を、振り払って。


「陸!」と柚希が、叫んだ。


陸は、ラドンの前に、立った。雷の圧で、肌が、痛い。それでも、まっすぐ、ラドンを見上げた。


「俺は、お前と、戦わない」と陸は言った。


「ほう」


「お前が、雷を落とすなら、落とせばいい。でも、俺は、剣を抜かない。命令もしない。お前に、問いたいだけだ」


「問う、だと」ラドンの目が、細くなった。「眷属にしたように、私にも、問うつもりか」


「ああ」


陸は、息を、吸った。


「ラドン。お前は、なぜ、そんなに、怒っている」


ラドンの手の中の雷が、わずかに、揺れた。


「神が、人間を気にかけることが、気に入らない、と言ったな。でも、それは、本当に、怒りなのか」陸は、続けた。「お前も、本当は──」


「黙れ」


ラドンの声が、谷に、轟いた。雷が、陸の足元に、落ちた。


ズドォォォン。


陸は、たたらを踏んだ。だが、倒れなかった。《夜の加護》が、かすかに、光った。致命傷を、一度だけ、無効化する。


「その問いを、続けるな」ラドンの声が、震えていた。怒りとも、何か別のものとも、つかない震えだった。「お前如きが、神の、何を、わかるというのだ」


「わからない」と陸。「だから、聞いている」


ラドンの手の雷が、最大に、膨れ上がった。


「もういい。消えろ、人間」


その時。


谷の空が、割れた。


闇が、降りてきた。星空のような輪郭を持つ、影。銀色の目が、ラドンを、見据えていた。


「やめておけ、ラドン」


ノクスだった。


「ノクス……」とラドンが、手を止めた。「なぜ、お前が、ここに」


「その人間に、用がある」とノクスが、静かに言った。「殺されては、困る」


その隣に、炎が、燃え上がった。豪快な、紅蓮の渦。イグニスだった。


「おうおう、ラドン。ずいぶん、派手にやってるじゃねえか」とイグニスが、笑った。「俺の眷属の、笑い方を教えてくれた人間を、焦がすつもりか」


谷の水たまりが、盛り上がった。水の形が、ゆらりと立つ。タラサだった。


「だめだよー、ラドン」とタラサが、ふわふわと言った。「その子、面白いんだから。消しちゃうの、もったいない」


そして、風が、渦を巻いた。軽やかな、つむじ風。ゼフィロだった。


「よお、ラドン。久しぶり」とゼフィロが、肩をすくめるように揺れた。「言ったろ。あいつの話は、あちこちに流れてるって。だから、俺たち、来ちまった」


四柱の神が、陸を、囲むように、立っていた。


ラドンの前に、立ちはだかるように。


「……これは、どういうことだ」とラドンが、四柱を見回した。「お前たち、揃いも揃って、この人間の、味方をするのか」


「味方、というわけではない」とノクスが言った。「ただ、こいつを、見ていたいだけだ」


「見ていたい、だと」


「ああ」ノクスの銀の目が、静かに光った。「こいつは、私の眷属を、頼むと言ったら、頼まれてくれた。命令ではなく、共にいることを、選んだ。そういう人間は、珍しい」


「俺もだ」とイグニスが、炎を揺らした。「俺の眷属は、ずっと、一人で笑ってた。誰も、その笑いに、気づかなかった。だが、こいつは、気づいた。だから、俺は、こいつが気に入ってる」


「私は、ただ、面白いから」とタラサ。「それじゃ、だめ?」


「俺は、なんとなく」とゼフィロ。「まあ、こいつといると、退屈しないからな」


ラドンが、四柱を、睨んだ。


「くだらん」とラドンが、吐き捨てた。「神が、人間に、入れ込むなど。お前たちは、どうかしている」


「かもしれんな」とノクス。「だが、ラドン。お前は、なぜ、そんなに、こいつを、消したがる」


ラドンが、黙った。


「お前も、本当は、気になっているのではないか」とノクスが、静かに言った。「だから、わざわざ、姿を現した。気にならなければ、放っておけばいい。だが、お前は、来た。眷属を、けしかけてまで」


「……黙れ」


ラドンの声が、また、震えた。


陸は、それを、見ていた。


さっき、自分が問おうとしたことを、ノクスが、言葉にしていた。ラドンの怒りは、たぶん、怒りではない。


「ラドン」と陸は、もう一度、口を開いた。「お前は、認めたくないだけなんじゃないか。人間なんかに、神が、興味を持つことを」


ラドンが、陸を、見た。


「お前も、本当は、気になっている。でも、それを、認めるのが、嫌なんだ。だから、怒ったふりをして、俺を、消そうとした」


「黙れと、言っている」


「図星か」


ラドンの雷が、激しく、放電した。だが、落とさなかった。落とせなかった。


長い、沈黙があった。


谷に、雷鳴だけが、ごろごろと、響いていた。


やがて、ラドンが、手を、下ろした。雷が、引いていく。


「……今日は、引く」とラドンが、低く言った。「だが、人間。勘違いするな。私は、お前を、認めたわけではない」


「ああ」と陸。


「他の神が、どう言おうと、私は、お前を、認めん」ラドンの目が、鋭く光った。「お前が、本物かどうか。それは、まだ、わからん。今日のところは、こいつらの顔を、立ててやるだけだ」


「それでいい」と陸。


「次は、こうはいかん」ラドンの輪郭が、薄れ始めた。「また、見ている。お前が、本物か、ただの偶然か。見極めるまで、私は、諦めん」


ラドンの姿が、雷とともに、消えた。


谷の空が、少しずつ、晴れていく。黒い雲が、割れて、星が、覗き始めた。


「……行った」と陸が、息を吐いた。


四柱の神が、まだ、そこにいた。


「世話を、かけたな」とノクスが、陸に言った。


「いや」と陸。「助かった」


「あれは、頑固な神だ」とノクス。「だが、根は、悪くない。ただ、認めることを、知らないだけだ」


「ノクス」と陸。「お前たち、本当に、俺のために、来てくれたのか」


ノクスが、わずかに、間を置いた。


「勘違いするな」とノクスが、ラドンと同じようなことを言った。だが、その声は、ラドンより、ずっと、柔らかかった。「ただ、小夜を、頼んだのは、私だ。その小夜の主が、消えては、困る。それだけだ」


陸の肩で、小夜が、ぴょこ、と耳を立てた。


イグニスが、笑った。


「素直じゃねえなあ、ノクスは」


「お前もだろう」とノクス。


「違いねえ」


タラサが、ふわふわと、陸に近づいた。


「ねえ、君」とタラサ。「言ったでしょ。もっといろんな神に会うかも、って。会ったね、ラドンに」


「会った」と陸。「お前の言う通りだった」


「でしょ」タラサが、嬉しそうに揺れた。「でも、全部の神が、優しいわけじゃないよ。ラドンみたいなのも、いる。気をつけてね」


「ああ」


ゼフィロが、風を、巻いた。


「じゃあな、噂のやつ」とゼフィロ。「面白いもん、見せてもらった。また、流しとくよ。お前の話を、あちこちに」


「ほどほどにしてくれ」と陸。


「善処する」


四柱の神が、消えかけた、その時だった。


「待て」とイグニスが、ふと、思い出したように言った。「このまま帰るのも、芸がねえな」


「ん?」とゼフィロ。


「せっかく、面白いもんを見せてもらったんだ。手ぶらで帰るのは、神の名折れってもんだろ」


イグニスの炎が、ゆらりと、大和の方を向いた。


「おい、そこの。竜の盾の」


「お、俺?」と大和が、自分を指差した。


「お前の守りは、悪くなかった。竜と炎は、相性がいい。これを、やる」


イグニスの炎が、ひと房、ふわりと飛んで、大和の胸に、すっと溶けた。


大和《不滅の闘志》を授かりました

HPが尽きる一撃を受けても、一度だけHP1で踏みとどまる(1日1回)


「う、うおお……?」大和が、自分の胸を見た。「あったかい……」


「倒れそうになっても、一度だけ、踏みとどまれる」とイグニス。「盾持ちには、それが一番だろ」


「あ、ありがとうございます……!」


ノクスの銀の目が、ハルに向いた。


「影の娘」


「は、はいっ」ハルが、背筋を伸ばした。


「お前の影は、よく動く。だが、闇の中では、まだ、目が利かんだろう」


闇が、ひとすじ、ハルの足元の影に、すっと染み込んだ。


ハル《夜目》を授かりました

どんな暗闇でも、昼のように見通せる


「……うわ。うわうわ」ハルが、目をぱちぱちさせた。「夜なのに、昼間みたい……!」


「影を使う者に、闇は、武器だ」とノクス。「存分に、使え」


「あ、ありがとうございます……!」


タラサが、ふわふわと、雪乃の前に揺れていった。


「君、回復の子だよね。ずっと、みんなを癒してた。えらいえらい」


「い、いえ、そんな」と雪乃が、恐縮した。


「がんばり屋さんには、ご褒美。はい」


水のしずくが、ひとつ、雪乃の手のひらに、ぽとりと落ちて、消えた。


雪乃《癒しの水脈》を授かりました

回復魔法の消費魔力が半分になる


「これで、もっとたくさん、癒せるよ」とタラサ。「無理しすぎちゃ、だめだけどね」


「……ありがとう、ございます」雪乃が、深く、頭を下げた。


ゼフィロの風が、柚希の周りを、くるりと回った。


「弓の嬢ちゃん。崖の上で、風を読んで撃ってたな。あれは、見事だった」


「見ててくれたんですか」と柚希。


「風のことなら、何でも知ってるさ」ゼフィロが、軽く言った。「だが、風ってのは、気まぐれだ。俺みたいにな。だから、お前の矢だけは、邪魔しないように、言っておいてやる」


風が、ひと巻き、柚希の弓に、するりと絡んで、消えた。


柚希《風の導き》を授かりました

放った矢が、風に乱されなくなる


「……すごい」柚希が、弓を見つめた。「ありがとう、ございます」


「いいってことよ」


宗介と静が、その様子を、見ていた。


「……俺たちは、なしか」と宗介が、苦笑した。


イグニスが、豪快に笑った。


「はっは。悪いな、剣士。お前の剣は、見事だった。だが、お前に合う贈り物は、俺たちの属性じゃねえ」


「まだ、会っていない神が、いるだろう」とノクスが、静かに言った。「土と、光。お前たちに合うものは、そちらが、持っているかもしれん」


宗介と静が、顔を見合わせた。


「……それって、残りの神様も、いつか、来るってことですか」とハル。


「さあな」とゼフィロが、笑った。「だが、こいつの話は、もう、流れてる。あの二柱の耳にもな」


四柱の神が、今度こそ、消えていった。闇が、引き、炎が、収まり、水が、戻り、風が、止んだ。


谷は、また、静かになった。


「……すごかったね」とハルが、ぽつりと言った。「神様が、四人も来て、しかも、贈り物までくれた」


「夜目、嬉しそうだな」と宗介。


「だって、すごいんだもん! 真っ暗なのに、全部見えるの!」ハルが、きょろきょろと、夜の谷を見回した。「宗介さんと静さんは、残念だったね」


「まあな」と宗介が、肩をすくめた。「だが、ノクスが言ってた。土と光が、俺たちに合うものを持ってるかもしれない、と。なら、楽しみに、待つさ」


静が、こくり、と頷いた。


「俺のため、というより」と陸。「自分たちが、見ていたいから、らしい」


「それ、同じことじゃない?」と柚希が、笑った。


陸は、答えなかった。


ガロードが、剣を、鞘に収めた。


「言ったろう」とガロード。「神にとっての面白いは、人間にとって、ろくなことじゃない、と」


「言ったな」


「半分、当たった」ガロードが、空を見上げた。「ラドンは、お前を、消そうとした。だが、半分は、外れた。他の神が、お前を、守った」


「守られるとは、思っていなかった」


「お前が、これまで、積み上げてきたものだ」ガロードが、低く言った。「ノクスも、イグニスも、タラサも、ゼフィロも。お前が、命令せず、ただ向き合ってきたから、こいつらは、来た。お前のやり方が、神を、動かした」


陸は、その言葉を、しばらく、頭の中に置いた。


自分のやり方が、神を、動かした。


まだ、実感は、なかった。でも、確かに、四柱の神が、来てくれた。それだけは、本当だった。


拠点に戻り、焚き火を囲んだ。


長い、夜だった。みんな、疲れていた。だが、誰も、暗い顔は、していなかった。


「ラドン、また来るって言ってたね」とハルが、火を見ながら言った。


「ああ」と陸。「認めるまで、諦めない、と」


「こわくない?」


「こわい」と陸は、正直に言った。「でも、逃げても、たぶん、同じだ。あの神は、見ている。なら、向き合うしかない」


「陸くんらしいね」と柚希。


ガロードが、低く言った。


「次に、ラドンが来るとき。お前は、また、問うのか」


「ああ」と陸。「それしか、できない」


「それで、いい」とガロード。「お前は、お前のままで、いろ。剣を握る必要はない。命令する必要もない。ただ、問い続けろ。それが、お前の、戦い方だ」


火が、ぱちぱちと、鳴った。


モフが、ぐるぐると、喉を鳴らして、陸の隣に座った。小夜が、その背中で、丸くなる。フェニクスが、炎を、足した。


陸は、焚き火を、見ていた。


神に、試された夜だった。消されかけた。でも、四柱の神が、来てくれた。そして、また、いつもの火のそばに、帰ってきた。


何もしていない、と陸は思う。ただ、問いかけただけだ。


でも、その問いが、神を、動かした。


不思議な、夜だった。


ヘッドセットを外したのは、深夜三時過ぎだった。


長い、戦いだった。雷の神ラドンに、消されかけた。


でも、ノクスが、イグニスが、タラサが、ゼフィロが、来てくれた。四柱の神が、ラドンを、止めてくれた。


そして、去り際に、贈り物まで、残していった。ハルに夜目を、大和に不滅の闘志を、雪乃に癒しの水脈を、柚希に風の導きを。


宗介と静には、なかった。でも、ノクスが言った。「土と光が、お前たちに合うものを、持っているかもしれん」と。残りの二柱への、繋がりだ。


ラドンは、引いた。だが、認めてはいない。「また、見ている」と言った。


ガロードが、言った。「お前のやり方が、神を、動かした」と。


まだ、実感は、ない。でも、四柱の神が、来てくれたのは、本当だ。


これからも、ラドンは、見ているのだろう。また、試そうとするのだろう。


それでも、陸は、思った。


逃げない。問い続ける。それが、自分のやり方だ。


陸は、目を閉じた。


開発室は、静まり返っていた。


 ラドン試練イベント、一時終結

 接触済み神AI4体が、同時に介入

 ラドンAIを抑止・撤退させる

 ※開発側の指示によらない、神AIの自律行動


「……四体の神AIが、同時に動きました」とこはるが、呆然と、モニターを見ていた。「桐島さんを、守るために」


「ああ」と三浦。声が、かすれていた。


「これ、私たち、本当に、何も、していませんよね」


「していない」三浦が、椅子に、深くもたれた。「神AIたちが、自分で、判断した。一人の人間を巡って、ラドンと、対立した。そして、ラドンを、抑止した」


「AIが、AIを、止めた……」


「神AIは、互いに干渉できる設計だ。だが、それは、本来、情報共有のためだった」三浦が、額に手を当てた。「こんな、対立と、仲裁のために使われるとは、想定していない」


こはるが、ごくり、と唾を飲んだ。


「三浦さん。これ、もう、ゲームの、範疇を……」


「言うな」と三浦が、遮った。「まだ、わからん。だが──」


三浦は、モニターを、見つめた。


「桐島陸という人間が、神AIたちの、行動原理に、影響を与え始めている。それだけは、確かだ」


アルテのログが、静かに、流れた。


アルテのログ:

「ラドンは、引いた


四柱の神が、桐島陸を、守った


だが、ラドンは、認めなかった

『また、見ている』と言い残した


神々の間で、彼の評価は、割れたままだ


四柱は、彼を、受け入れた

一柱は、彼を、拒んでいる


これは、終わりではない

始まりだ


命令しない男は

神々の世界に、波紋を、広げ続けている


その波紋が、どこへ向かうのか


私にも、まだ、見えない


だが、一つだけ、言えることがある


彼は、今夜も、逃げなかった」


「ラドン、また来ますね」とこはる。


「来るだろうな」と三浦。「認めるまで、諦めない、と言っていた」


「桐島さん、大丈夫でしょうか」


三浦は、しばらく、黙っていた。


「……あいつは、逃げない」三浦が、ぽつりと言った。「それが、強さなのか、危うさなのか。俺には、まだ、わからん」


窓の外が、白み始めていた。長い夜が、明けようとしていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


ラドンの試練、決着の回でした。雷の神ラドンに消されかけた陸を、これまで出会ってきた四柱の神――ノクス、イグニス、タラサ、ゼフィロが、守りに現れました。そして去り際に、メンバーへ贈り物を残していきました。ハルに《夜目》、大和に《不滅の闘志》、雪乃に《癒しの水脈》、柚希に《風の導き》。宗介と静には「土と光が、合うものを持っているかもしれん」というノクスの言葉が。残り二柱への期待が膨らみます。ラドンは引きましたが、認めてはいません。「また、見ている」と。次話、また日常に戻りつつ、新たな展開へ。


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