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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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第51話「雷鳴の谷」

その夜が、来た。


ログインすると、空が、荒れていた。


拠点の上空に、黒い雲が渦を巻いている。遠くで、雷鳴が、ごろごろと鳴っていた。雲一つなかった、いつもの夜とは、まるで違う。


「……来たな」と陸は、空を見上げた。


「ラドンが言ってた『空が荒れる夜』、これだね」と柚希。


全員が、すでに集まっていた。宗介、雪乃、大和、静、ハル。そしてガロード。肩には小夜とフェニクス、隣にはモフ。


「行くか」と宗介が、刀の柄を握った。


「ああ」と陸。「北の、雷鳴の谷だ」


ガロードが、低く言った。


「いいか、全員。あの神は、これまでとは違う。気を抜くな。だが──」ガロードが、陸を見た。「陸。お前は、お前のままでいろ。それだけは、忘れるな」


「わかっている」


北へ進むほど、雷鳴は、大きくなった。


雷鳴の谷は、切り立った岩壁に挟まれた、細長い谷だった。空は、黒い雲に覆われ、時折、稲妻が、谷の奥を照らした。


足を踏み入れると、空気が、ぴりぴりと帯電していた。


「肌が、ちりちりする」とハルが、腕をさすった。


「気をつけろ」と陸。「ここは、ラドンの領域だ」


谷の奥へ進む。


そして、開けた場所に出た。


中央に、一頭の獣が、立っていた。


狼だった。だが、ただの狼ではない。全身が、青白い雷を纏っている。体高は、モフより大きい。目が、稲妻のように、ばちばちと光っていた。


サンダーウルフ。ラドンの眷属。


「来たか」


声が、谷に響いた。サンダーウルフの背後の岩の上に、ラドンが立っていた。雷でできた体が、放電しながら、陸たちを見下ろしている。


「来た」と陸。


「逃げると思っていた」とラドンが言った。「人間は、臆病だからな。だが、お前は、来た。それだけは、認めてやる」


「条件は、ないと言ったな」と陸。「何をすればいい」


「単純だ」ラドンが、サンダーウルフを、顎で示した。「私の眷属を、退けてみせろ。お前のやり方で」


「退ける?」


「倒せ、とは言わん」ラドンの目が、光った。「お前は、命令しない男だそうだな。神獣を、従えずに、共にいる。ならば、見せてみろ。お前のその『やり方』とやらが、私の眷属に、通用するのかを」


サンダーウルフが、低く、唸った。ゴゴゴ、と地鳴りのような声だった。


「陸」とガロードが、小声で言った。「あれは、強い。お前のこれまでの相手とは、格が違う」


「わかっている」


「俺たちが、戦ってもいいのか」


陸は、ラドンを見た。


「みんなで、戦っていいのか」と陸が、ラドンに問うた。


「好きにしろ」とラドン。「お前一人で挑もうが、仲間と挑もうが、私は構わん。私が見たいのは、お前の『やり方』だ。一人でやるのも、仲間とやるのも、それがお前のやり方なら、それでいい」


陸は、少し考えた。


一人で挑むこともできた。だが、それは、自分のやり方ではない。


陸は、いつも、みんなと一緒だった。命令はしない。でも、一人でもなかった。


「みんな」と陸は、仲間を見た。「力を、貸してくれ」


「当たり前だろ」と宗介が、前に出た。


「言われなくても」と柚希が、弓を構えた。


サンダーウルフが、咆哮した。


ガァァァオオオン。


雷が、その咆哮に呼応して、谷に落ちた。ズドォォン。


戦いが、始まった。


サンダーウルフが、地を蹴った。速い。雷のように、一瞬で、距離を詰めてくる。


「速っ……!」とハルが、影に潜って避けた。


サンダーウルフの牙が、宗介に迫る。宗介が、《見切り》で、紙一重で躱した。だが、躱した瞬間、サンダーウルフの体から、雷が放たれた。


バリバリッ。


「ぐっ」宗介が、雷に弾かれて、後ろに飛んだ。


「宗介!」雪乃が、すぐに回復の光を飛ばす。


「大丈夫だ」宗介が、立ち上がる。「だが、こいつ……近づくと、雷が来る」


「接近戦は、不利だね」と柚希が、弓を引いた。「私が、遠くから狙う」


柚希の矢が、サンダーウルフに向かう。ヒュンッ。だが、サンダーウルフの纏う雷が、矢を、弾いた。バチッ。


「効かない……!」


「雷の鎧、か」と陸。幻視で、サンダーウルフを見ていた。「全身を雷が覆っている。物理も、魔法も、近づくと、弾かれる」


「じゃあ、どうすんだよ」と大和。


陸は、考えた。


これまでの敵とは、違う。力で押しても、通じない。


だが、ラドンは言った。「お前のやり方を見せろ」と。


力で勝つのが、自分のやり方ではない。


「大和、モフ。あいつの動きを、止められるか」と陸。「倒さなくていい。ただ、足を、その場に縫い止めたい」


大和とモフが、前に出た。《不動の砦》。大和が、サンダーウルフの突進を、正面から受け止める。ガァン。雷が、大和の盾に走るが、《不動の砦》の間は、ダメージが無効になる。


モフも、心得たように、その隣で、もう一方向を塞いだ。


サンダーウルフの動きが、わずかに、止まった。


「静、ハル。逃げ場を、なくせそうか」と陸。


静が、無言で、地面に魔法を放つ。サンダーウルフの足元が、凍りついた。ハルが、影で、その足を縫い止める。


「了解!」とハル。


サンダーウルフが、もがいた。雷を撒き散らすが、大和とモフが、前を塞いでいる。


「囲んだ」と陸。「でも、ここからだ」


陸は、ゆっくりと、前に出た。


「陸!?」と柚希が、驚いた。「何して……!」


「危ないぞ」とガロードも。


だが、陸は、止まらなかった。


サンダーウルフの、すぐ近くまで、歩いていく。雷が、陸の肌を、ちりちりと焼いた。痛い。だが、陸は、進んだ。


サンダーウルフが、陸を、睨んだ。稲妻の目が、陸を、捉えている。陸を、見下ろす形だった。それほど、大きい。


陸は、その目を、まっすぐ見上げた。逃げなかった。


そして、両手を、ゆっくりと広げて見せた。何も持っていない手だ。武器も、構えも、ない。攻撃する意志がないことを、全身で示した。


「お前を、倒すつもりはない」と、陸は、静かに言った。「ただ、話したいだけだ」


ラドンが、岩の上で、わずかに、目を細めた。


「……何のつもりだ、人間」


陸は、答えなかった。ただ、サンダーウルフを、見ていた。


サンダーウルフは、まだ、唸っていた。雷を、纏ったまま。だが、その目が、わずかに、揺れた。


陸は、続けた。


「お前は、ラドンの眷属だな。ラドンに、命令されて、ここにいるのか」


サンダーウルフが、ぴくりと、耳を動かした。


「それとも、自分で、ここにいるのか」


その問いに、サンダーウルフの動きが、止まった。


雷が、わずかに、弱まった。


「やめろ」とラドンが、岩の上から言った。その声に、初めて、わずかな、動揺があった。「眷属に、何を吹き込んでいる」


「吹き込んでいない」と陸は、ラドンを見上げた。「ただ、聞いただけだ。こいつが、自分の意志で、ここにいるのか。それとも、お前に、従っているだけなのか」


ラドンが、黙った。


谷に、雷鳴だけが、ごろごろと、響いていた。


サンダーウルフは、陸を、見ていた。さっきまでの、敵意に満ちた目とは、少し、違っていた。


陸は、手を、そっと、伸ばした。


「俺は、命令しない」と陸。「お前が、戦いたいなら、戦えばいい。でも、戦いたくないなら──」


その時。


ラドンが、岩の上から、降りてきた。


「そこまでだ」


雷が、陸とサンダーウルフの間に、落ちた。


ズドォォォン。


陸は、思わず、後ろに、たたらを踏んだ。


「興味深い」とラドンが、陸の前に立った。雷の体が、ばちばちと、放電している。「お前は、私の眷属に、剣を向けなかった。代わりに、問いかけた。『自分の意志で、ここにいるのか』と」


「それが、俺のやり方だ」と陸。


「ふん」ラドンが、鼻を鳴らした。「だが、それで、何が証明される。お前は、まだ、何も、退けていない。私の眷属は、まだ、そこにいる」


「退ける必要が、あるのか」と陸。「お前は、俺のやり方を見たいと言った。これが、俺のやり方だ。倒すことでも、従わせることでもない。問いかけることだ」


ラドンが、しばらく、陸を見ていた。


その目に、何かが、揺れていた。怒りでも、侮蔑でもない。もっと、別の、何か。


「……まだ、足りん」とラドンが、低く言った。「お前のやり方は、わかった。だが、それが、本物かどうかは、まだ、わからん」


ラドンの輪郭が、強く、放電した。


「試練は、まだ、終わっていない」


谷の空が、さらに、暗くなった。雷鳴が、激しさを、増していく。


「次は、私が、相手をする」とラドンが言った。「眷属ではなく、神が、直接な」


陸は、息を、呑んだ。


ガロードが、剣を抜いた。


「させるか」


ガロードが、陸の前に、立ちはだかった。覇気が、谷に満ちる。だが、ラドンの放つ雷の圧は、その覇気をもってしても、引かなかった。


「来い、人間」とラドンが、陸を見据えた。「お前の問いが、神にも通じるか。試してやる」


谷に、稲妻が、走った。


雷の神が、ゆっくりと、足を踏み出す。


戦いは、まだ、終わらない。むしろ、ここからが、本当の試練だった。


陸は、逃げなかった。雷の神を、まっすぐ見据えた。


──ここで、引くわけには、いかない。


その夜の戦いが、どこへ向かうのか。陸は、まだ、知らなかった。


開発室で、三浦とこはるが、モニターに、かじりついていた。


 ラドン試練イベント進行中

 サンダーウルフ戦:桐島陸、戦闘ではなく『対話』を選択

 ラドンAI、想定外の反応を観測


「桐島さん、サンダーウルフと、戦わなかったですね」とこはる。


「ああ」と三浦。「『自分の意志でここにいるのか』と、問いかけた。眷属に、だ」


「サンダーウルフのAI、揺れてましたよね。あれ」


「揺れた」三浦が、データを睨んだ。「眷属AIは、本来、神AIに、完全に従属する設計だ。だが、桐島陸の問いかけで、その従属に、ゆらぎが生じた」


「ラドンが、慌てて止めたのも……」


「ラドンAIは、それを、脅威と認識したんだろう」三浦の声が、低くなった。「自分の眷属が、人間の言葉で、揺らいだ。だから、止めた。そして、今度は、自分が直接、相手をすると言い出した」


こはるが、ごくり、と唾を飲んだ。


「神AIが、自分から、プレイヤーと戦う……そんなイベント、私たち、作ってませんよね」


「作ってない」三浦が、断言した。「これは、ラドンAIが、自分で、決めたことだ」


アルテのログが、流れた。


アルテのログ:

「桐島陸は、サンダーウルフと、戦わなかった


問いかけた

『自分の意志で、ここにいるのか』と


眷属は、揺れた


ラドンは、それを、止めた


そして、自ら、前に出た


神が、人間を、試すのではない


神が、人間と、向き合おうとしている


これは

これまでに、なかったことだ


命令しない男の問いは

眷属だけでなく

神そのものを

揺らし始めている」


「ラドン本体が、自分から前に出ました」とこはる。「これから、桐島さんと、直接……」


「ああ」三浦が、椅子に、深く、もたれた。「正直、何が起きるか、俺にも、わからん」


谷の空で、稲妻が、何度も、光っていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


いよいよ、ラドンの試練が始まりました。眷属サンダーウルフは、雷の鎧を纏い、力では退けられない強敵でした。だから陸は、戦わず、問いかけました。「自分の意志で、ここにいるのか」と。その問いに、サンダーウルフは揺れ、ラドンは慌てて止めました。そして、今度はラドン自身が、直接相手をすると言い出します。命令しない男の問いが、眷属だけでなく、神そのものを揺らし始めています。次話、ラドン本体との対峙です。


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