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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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第48話「もふもふの新入り」

翌日の夕方、ログインした。


昨日は、柚希と二人だけだった。だから、宗介たちは、まだモフのことを知らない。


陸は、ログインする前に、少しだけ考えた。みんな、驚くだろうか。テイマーなのに今までテイムしなかった自分が、急に大きな獣を連れてきたら。


でも、隠すことでもない。仲間なのだから、紹介するのが筋だ。


陸の隣に、モフがいた。昨日テイムした、熊くらいの大きさの、もふもふの獣だ。のっそりと、陸の横を歩いている。肩には小夜とフェニクス。小夜は、もうモフの存在に慣れたのか、時々モフの背中に飛び乗っては、また肩に戻っていた。


広場に着くと、宗介たちが集まっていた。


そして、全員の動きが、止まった。


「……は?」と宗介が、最初に声を出した。


「なんだ、その、でかいの」と大和が、目を丸くした。


「もふもふ……」と雪乃が、思わず呟いた。


ハルに至っては、口を開けたまま固まっていた。


「テイムした」と陸は、短く言った。


「テイム!?」とハルが、ようやく我に返った。「陸くんが!? テイマーなのに今までテイムしてなかった陸くんが!?」


「失礼な言い方だな」


「だって、ずっとしてこなかったじゃん!」


「事実ではある」


「でしょ!」


宗介が、モフの周りを、ぐるりと一周した。モフは、襲ってくるでもなく、ただ、のんびりと座って、宗介を見上げている。


「攻撃してこないのか、こいつ」


「攻撃しない。守るだけだ」と陸。「防御特化らしい。森で会った。モフラという種だ」


「モフラ……で、名前は」


「モフ」


宗介が、たっぷり三秒、黙った。


「……ひねりがなさすぎる」


「柚希にも、同じことを言われた」


その柚希が、後ろから歩いてきた。今日も合同で参加している。


「でしょ? モフラのモフだよ。安直」と柚希が、笑った。「でも、もう、みんなモフって呼んでるし。馴染んじゃった」


ハルが、おそるおそる、モフに近づいた。


「触っていい……?」


陸は、少し考えてから、心の中で、モフに問いかけた。《テイム》Lv.4。感情が、伝わる。──この子は、悪い子じゃない。撫でさせてやってくれ。


モフが、ぐるぐると喉を鳴らして、ハルの方に、頭を傾けた。


「いいみたいだ」と陸。


ハルが、そっと、モフの毛に触れた。


「……っ、もふもふ!」ハルの目が、輝いた。「なにこれ、すごい、ふわふわ! 宗介さんも触って!」


「いや、俺はいい」


「いいから触って!」


宗介が、渋々、モフの背に手を置いた。それから、少し、黙った。


「……まあ、悪くないな」


「でしょ!」


大和も、雪乃も、次々とモフに触れた。モフは、されるがままに、喉を鳴らしている。


陸は、その様子を見ていた。


みんな、笑っていた。



「で、なんでまた、急にテイムする気になったんだ」と宗介が聞いた。


陸は、少し考えた。


「柚希に、言われたんだ。テイマーなのに、テイムしないのか、と」


「そりゃ、もっともだな」


「テイムは、従わせることだと思っていた。俺は、命令しない。だから、避けていた」


「で、考えが変わったのか」


「柚希が、言った。テイムは、従わせることだけじゃない、と。それで、試してみた」


宗介が、モフを見た。モフは、雪乃に撫でられて、気持ちよさそうに目を細めている。


「……たしかに、こいつ、従わされてる感じはしないな」


「だろう」


「むしろ、お前に懐いてる」宗介が、ふっと笑った。「小夜とフェニクスと、同じだ。お前の周りは、そういうのばっかりだな」


その時、拠点の隅にいたガロードが、ゆっくりと近づいてきた。モフを、じっと見下ろす。


モフが、見上げて、ぐるぐると喉を鳴らした。覇気を浴びても、怯えなかった。


「ほう」とガロードが、低く言った。「俺の覇気を、怖がらんのか」


「攻撃する気がないからだろう」と陸。「モフも、争いを好まない」


ガロードが、わずかに口角を上げた。


「お前に、似合いの仲間だな」


「どういう意味だ」


「攻撃せず、守るだけ。お前と、同じだ」ガロードは、それだけ言うと、また拠点の隅に戻っていった。


陸は、その背中を、少し見ていた。


攻撃せず、守るだけ。


言われてみれば、そうかもしれなかった。陸は、剣を握らない。命令しない。ただ、仲間が動きやすいように、そこにいる。モフも、攻撃しない。ただ、仲間の前に立って、守る。


似た者同士、なのかもしれなかった。


陸は、否定しなかった。


その通りだった。従う者ではなく、一緒にいることを選んだ者ばかりが、陸の周りに集まっていた。



その夜は、全員でクエストに出た。モフにとって、みんなと組む初めての戦いだ。


推奨Lv.30の岩場エリア。剥き出しの岩肌の間から、岩トロルが、のっそりと姿を現した。三体。丸太のような腕を、ずるりと引きずっている。


「モフ、前に出られるか」と陸は、声をかけた。それから、心の中で付け足した。──無理はしなくていい。守れる範囲で。


モフが、のっそりと前に出た。先頭の岩トロルが、唸り声を上げて、モフめがけて腕を振り下ろす。


ガァン。


重い音が、岩場に響いた。


だが、モフは、びくともしなかった。ぶ厚い毛皮と、その巨体が、岩トロルの一撃を、丸ごと受け止めている。衝撃で、もふもふの毛が、ぶわっと逆立っただけだった。


「うわ、硬っ」とハルが、目を見開いた。「全然効いてない!」


「大和と、いいコンビになりそうだな」と宗介が、刀を抜いた。


大和が、モフの隣に、どしんと並んだ。《不動の砦》。竜の鱗の盾が、展開される。二体のタンクが、横並びで、前線を完全に塞いだ。


「おう、モフ。一緒に守ろうぜ」と大和が、モフに声をかけた。


モフが、ぐるぐると喉を鳴らした。返事のように。


二体の壁の後ろから、宗介が踏み込んだ。《見切り》で岩トロルの腕をかいくぐり、首筋に刃を滑らせる。ザシュッ。静が無言で手をかざし、黒い炎が二体目を包む。ゴォッ。


柚希が、弓を引いた。


「《二射》」


矢が、二本同時に放たれた。ヒュンッ。それぞれ別の岩トロルの眉間へ、吸い込まれるように刺さる。


雪乃が後方から回復の光を回し、ハルが影に沈んで、最後の一体の足を縫い止める。


そして、陸の《絆の共鳴》が、全員を繋いでいた。モフが攻撃を受け止めるたび、その「守る」という行動さえ、共鳴の対象になった。仲間のステータスが、また少し、底上げされる。


モフが盾になり、大和が並び、宗介が斬り、静が焼き、柚希が射抜き、雪乃が支え、ハルが縛る。


連鎖が、途切れない。


三体の岩トロルは、危なげなく、光の粒子になって消えた。


「モフ、いるとめちゃくちゃ楽だね」と柚希が、弓を下ろした。「前衛が二枚あると、後ろが安心して撃てる」


「役に立ったな、モフ」と陸。


心の中で、もう一度。──よくやった。


モフが、嬉しそうに、その場でぐるりと一回転した。大きな体が回って、もふもふの毛が、ふわりと揺れた。


「かわいい……」と雪乃が、思わず呟いた。



拠点に戻り、焚き火を囲んだ。


モフは、焚き火の少し離れたところに、どっかりと座った。その大きな体が、ちょっとした壁のようだった。


小夜が、当然のように、モフの背中によじ登って、丸くなった。フェニクスも、モフの頭の上に止まって、羽を休めている。


「モフ、すっかり、みんなの寝床だな」と宗介が笑った。


「あったかいんだろう」と陸。


その時、廃坑の方から、足音がした。


シィラだった。杖をつきながら、ゆっくりと歩いてくる。最近は、こうして、自分から拠点に来るようになっていた。


「来たか」と陸。


「ああ」シィラが、焚き火のそばに腰を下ろそうとして──モフを見て、止まった。


「……なんだ、その、毛玉は」


「テイムした。モフだ」


シィラが、しばらくモフを見ていた。それから、ふっと、息を吐いた。


「お前は、つくづく、変わった連中を集めるな」


「よく言われる」


シィラが、モフの隣に腰を下ろした。モフが、シィラの方に、頭をのっそりと傾けた。


シィラが、その頭を、そっと撫でた。前に拠点へ来たとき、小夜を撫でたのと同じ、ぎこちない手つきだった。でも、前より、少しだけ、慣れていた。


「あたたかいな」とシィラが、ぽつりと言った。


「だろう」と陸。


「冬になったら、こいつの毛に、みんなで埋もれられそうだね」とハルが言った。


「埋もれるな」と宗介が、呆れたように言った。「モフが潰れるだろう」


「えー、モフなら平気だよ。ね、モフ」


モフが、ぐるぐると喉を鳴らした。肯定なのか否定なのか、わからなかった。


「モフって、何食べるの?」と大和が聞いた。


「森で、木の実を食べていた」と陸。「たぶん、雑食だ」


「じゃあ、今度、何か持ってきてやろう」


「お前、自分が食いたいだけだろ」と宗介。


「バレたか」


みんなが、少し笑った。モフは、その輪の真ん中で、のんびりと座っている。


焚き火が、ぱちぱちと鳴った。


もふもふの背中で、小夜が寝息を立てている。その隣で、シィラとガロードが、同じ火を見ていた。賑やかな仲間たちの真ん中で、新入りのモフが、ぐるぐると、喉を鳴らし続けていた。


陸は、その光景を、見ていた。


少し前まで、自分は一人で、ハズレ職だと笑われていた。それが今、こんなにも賑やかな場所に、いる。


何もしていない、と陸は思う。ただ、命令せずに、隣にいただけだ。


それでも、人も、神獣も、神さえも、集まってきた。


不思議なものだった。



ヘッドセットを外したのは、深夜一時過ぎだった。


モフを、みんなに紹介した。全員、最初は驚いて、それから、もふもふを気に入った。


実戦でも、モフは、よく守った。大和と並んで、前線を固めた。攻撃はしない。でも、守る。それが、モフの役割だった。


シィラも、来た。モフを撫でて、「あたたかいな」と言った。


陸の周りには、また一つ、あたたかいものが増えた。


陸は眠った。



開発室で、三浦がモニターを見ていた。



 モフラ、Stray Wolvesに正式合流

 防御特化・ギルドメンバーとの初の合同戦闘で前線維持に貢献

 ギルドメンバー全員が好意的に受容



アルテのログ:

「桐島陸がテイムしたモフラが

ギルドに加わった


攻撃をしない前衛

ただ、守るだけの獣


桐島陸らしい仲間だ


そして、気づいたことがある


このギルドには

攻撃を好まない者が、多い


命令しない主

守るだけの獣

火のそばに座る、隠居した術師


強さを誇示する者は、いない

それなのに、誰よりも、強い


集まっているのは

戦うために集まった者ではない


ただ、ここにいたいから

集まった者たちだ


それが

このギルドの、本質かもしれない」



「モフ、すっかり馴染みましたね」とこはるが言った。


「ああ」と三浦。「攻撃しない前衛なんて、普通は使い物にならない。だが、このギルドだと、ちゃんと役割がある」


「守るだけ、でも」


「守るだけ、でいい。攻撃は、他の連中がやる」三浦は、コーヒーを口に運んだ。「適材適所、というには、少し違うな。なんというか──」


「居場所、ですか」


三浦が、少し笑った。


「そうだな。居場所だ。あのギルドは、誰にでも、居場所を作る」


こはるはモニターを見た。焚き火の周りに、もふもふの大きな影が一つ、増えていた。その背中で、小狐が、安心しきった様子で眠っていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、陸がテイムしたモフを、みんなに紹介する回でした。最初はみんな驚きましたが、すぐにもふもふを気に入りました。実戦でも、モフは攻撃せず、ただ守る前衛として活躍しました。シィラも来て、モフを撫でて「あたたかいな」と言いました。攻撃しない主、守るだけの獣──このギルドには、強さを誇示しない者ばかりが集まっています。それでも、誰よりも強い。次話も続きます。


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