表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/50

第46話「火のそばまで」

夕方、ログインすると、ガロードが拠点の隅に立っていた。


新しい剣を腰に挿したまま、めずらしく、何かを考え込んでいるように見えた。


「どうした」と陸が声をかけた。


ガロードが、ゆっくり振り返った。


「いや。少し、昔のことを思い出していた」


「シィラのことか」


ガロードの眉が、わずかに動いた。


「……気づいていたか」


「前に、廃坑で会ったとき。お前とシィラの間に、何かあるのは、見ていてわかった」陸は静かに言った。「お互いを、知っている目をしていた。だから、聞かなかった。お前が話したくなるまで、待とうと思っていた」


ガロードが、ふっと息を吐いた。それは、苦笑に近かった。


「お前は、そういうやつだな。何でも見ているくせに、聞かない」


「聞くことでもない、と思った」


「……そうか」


ガロードが、少し間を置いてから、口を開いた。


「昔、宮廷で、見かけたことがある。俺がまだ、剣を振り回すしか能のなかった頃だ。あの女は、宮廷魔導師だった。全属性を操る、化け物のような術師だ」ガロードが、わずかに目を細めた。「それが、政変で、すべてを失った。仲間も、立場も。だから、廃坑に隠れた」


陸は、シィラの背中を思い出した。いつも、廃坑の奥にいて、杖をついて、暗がりに座っている。


「お前も、それを知っていて、これまで黙っていたのか」


「ここで再会したときに、すぐわかった。向こうも、俺がわかっていただろう」ガロードが、低く言った。「だが、お互い、踏み込まなかった。昔のことは、触れたくない傷だからな」


「会いに行くか」と陸は言った。


ガロードが、しばらく黙った。


「……ああ。今夜は、俺から、あいつに話しかける」


それは、いつもと違う言い方だった。これまで廃坑でシィラと顔を合わせても、ガロードは剣の話を少しするだけで、それ以上は踏み込まなかった。


「いいのか」と陸は聞いた。


「ずっと、避けていた」とガロードが言った。「同じ場所にいても、昔の話だけは、しなかった。だが、もう、いいだろう。潮時だ」



広場で、みんなに伝えた。


「今夜は、廃坑だ。シィラに会いに行く」


「いつもの廃坑だね」とハルが言った。それから、ガロードの様子に気づいて、首をかしげた。「ガロードさん、なんか、いつもと顔が違う?」


「昔、宮廷にいた頃から、シィラを知っていたらしい」と陸。


「ええっ」とハルが声を上げた。「そうなの!?」


「薄々は、感じていた」と陸。「廃坑で二人が会うたび、何かあるな、とは。でも、はっきり聞いたのは、さっきだ」


宗介が、腕を組んで、ガロードを見た。


「お前とあの術師、昔からの知り合いだったのか」


「知り合い、というほどではない」ガロードが、ぶっきらぼうに言った。「同じ王国にいた。それだけだ。だが、あの女の術は、一度見たら忘れん」


ガロードは、それ以上、説明しなかった。



廃坑に入ると、いつもの暗がりが広がっていた。


幻視で確認する。シィラの気配は、入り口に近い場所にあった。前より、ずっと手前だ。


「近くにいる」と陸は言った。「入り口の、すぐ奥だ」


進むと、すぐにシィラの姿が見えた。


杖をついて、岩に腰かけている。陸たちの足音に気づいて、顔を上げた。


「来たな」とシィラが言った。


その声が、いつもより、少し柔らかかった。


「来た」と陸が返す。


シィラの視線が、陸の後ろに動いた。そして、ガロードで止まった。


これまでも、ガロードはここに来ていた。シィラも、それを見ていた。だが、二人はいつも、剣の話を少しするだけで、それ以上は踏み込まなかった。お互い、わかっていて、避けていた。


今夜は、ガロードが、前に出た。


「シィラ」とガロードが、その名を呼んだ。


シィラの杖を持つ手が、わずかに震えた。ガロードが、自分から名を呼んだのは、初めてだった。


「……どういう風の吹き回しだ」とシィラが言った。「お前が、自分から口を開くとは」


「ずっと、避けていた」ガロードの声は、静かだった。「お前の顔を見るたび、昔を思い出すからな。だが、もう、逃げるのはやめにした」


シィラが、岩から、ゆっくりと立ち上がった。ガロードの顔を、まじまじと見ている。


「……あの戦のことを、まだ抱えているのか」


「抱えている。部下を、全員失った。俺だけが、生き残った」ガロードの声は、低かった。「お前は、知っていたな。宮廷にいた頃から、俺の部隊のことを」


「知っていた。お前の部隊は、王国一だと言われていた」シィラが、目を伏せた。「それが、全滅したと聞いたとき……私は、もう、戦には関わらないと決めた」


「お前は、どうした」


シィラが、しばらく黙った。


「私は、仲間を見捨てて、逃げた」その声が、掠れた。「だから、ここに隠れた。出る資格が、ないと思った」


陸は、二人のやり取りを、黙って聞いていた。


宗介たちも、誰も口を挟まなかった。


二人の間に流れている時間は、陸たちの知らない、ずっと昔の時間だった。



「お前は」とシィラが、ガロードに聞いた。「なぜ、こんな男の隣にいる」


シィラの杖が、陸を指した。


「こいつは、命令しない。剣も握らない。それなのに、お前のような男が、隣にいる。なぜだ」


ガロードが、少し間を置いた。


「俺も、最初はわからなかった」


「今は、わかるのか」


「わかる」ガロードが、陸を見た。「こいつの隣にいると、俺は、また人と並べる。失った部下のことを、思い出しても、潰れずにいられる。それは、こいつが、何も命令しないからだ」


シィラが、その言葉を、しばらく噛み締めていた。


「……命令しないから、並べる、か」


「お前も、来てみればわかる」とガロードが言った。「廃坑の外に。こいつらの、火のそばに」


シィラが、はっとガロードを見た。


「火のそば?」


「焚き火だ。こいつらは、毎晩、火を囲む。命令も、しがらみもない。ただ、座っているだけの時間だ」


「そんなものに、私が、座っていいのか」


「いいに決まっている」と、横から声がした。


ハルだった。


「シィラさんも、来なよ。火のそば。あったかいよ」


シィラが、ハルを見た。


突然声をかけられて、戸惑っているようだった。


「……私は、長く、一人だった」


「うん」


「人の輪に、入り方を、忘れた」


「入り方なんて、ないよ」とハルが、あっさり言った。「座るだけだもん」


シィラが、しばらく、黙っていた。


杖を持つ手が、ぎゅっと握られた。それから、ゆっくりと、緩んだ。


「……少しだけ」とシィラが言った。「少しだけ、見てみたい。その、火を」



廃坑の外に出た。


夜空が広がっていた。星が、いくつも瞬いている。


シィラが、空を見上げた。前に外に出たときと、同じ仕草だった。だが、今夜は、その先に進もうとしていた。


「拠点は、どこだ」とシィラが聞いた。


「すぐそこだ」と陸。「歩いて、すぐ着く」


シィラが、一歩、足を踏み出した。


廃坑から、離れる方向へ。


それは、シィラにとって、ずっとできなかったことだった。外に出ても、いつも、廃坑のそばを離れなかった。だが、今夜は、違った。


ガロードが、その隣を、ゆっくり歩いた。歩調を、シィラに合わせていた。


「急ぐな」とガロードが言った。「ゆっくりでいい」


「……年寄り扱いするな」


「事実だろう」


「お前も、年寄りだろうが」


「違いない」


二人が、並んで歩いた。陸は、その少し後ろを歩いた。


長い時間をかけて、廃坑から拠点までの道を、シィラは歩いた。途中で、何度も足を止めた。そのたびに、ガロードも止まった。急かす者は、誰もいなかった。



拠点に着いた。


焚き火が、いつものように燃えていた。


フェニクスが、炎を足す。小夜が、シィラの足元に、とことこと歩いていって、座った。


シィラが、その火を、じっと見ていた。


「座れよ」と宗介が、場所を空けた。


シィラが、ゆっくりと、焚き火のそばに腰を下ろした。杖を、隣に置いた。


火の熱が、シィラの顔を、ぼんやりと照らした。


しばらく、誰も、何も言わなかった。


ただ、火が、ぱちぱちと鳴っていた。


「……あたたかいな」とシィラが、ぽつりと言った。


「だろ」とハルが、嬉しそうに言った。


「こんなに、近くで火を見たのは……いつ以来か、思い出せない」


シィラの目に、炎が映っていた。


その目が、わずかに、潤んでいるように見えた。


ガロードが、その隣に座った。何も言わずに、同じ火を見ていた。


陸は、二人の老人が、並んで火を見ている姿を、見ていた。


長い時間、それぞれが、別々の場所で、一人だった。失ったものを抱えて、暗がりに座っていた。


それが今、同じ火のそばにいる。


陸は、何も言わなかった。ただ、その場にいた。


それで、十分だった。



「なあ」とシィラが、火を見たまま言った。


「何だ」と陸。


「また、来ていいか」


それは、いつもシィラが言う言葉だった。「また来い」と。


でも、今夜は、逆だった。シィラの方から、「また来ていいか」と聞いた。


陸は、少し間を置いた。


「いつでも、来い」


シィラが、火を見たまま、わずかに笑ったように見えた。


「……そうか」


フェニクスが、くしゃみをした。炎が、ぽっと飛んだ。


小夜が、シィラの膝に、頭を乗せた。


シィラが、その頭を、そっと撫でた。手つきが、ぎこちなかった。長く、誰にも、何にも触れてこなかった手だった。


それでも、撫でた。


火が、静かに揺れていた。



ヘッドセットを外したのは、深夜二時半だった。


今夜は、シィラが、拠点まで来た。


長く廃坑にいた人が、火のそばまで歩いてきた。


ガロードと、昔、知り合いだった。二人とも、戦で、大切なものを失っていた。一人は生き残り、一人は逃げた。それぞれが、暗がりに隠れていた。


それが今夜、同じ火を、並んで見ていた。


「また、来ていいか」とシィラが言った。いつもの「また来い」が、逆になっていた。


陸は、その変化を、思い返していた。


何もしていない。ただ、会いに行っただけだ。ガロードを、連れて行っただけだ。


でも、何かが、動いた。


陸は眠った。



開発室で、三浦がモニターを見ていた。



 シィラ、初めて拠点まで移動

 焚き火の輪に加わる

 ガロードとの過去の接点が判明



アルテのログ:

「シィラが、火のそばまで来た


長く、廃坑の奥にいた術師

仲間を見捨てて逃げた過去を抱え

出る資格がないと、隠れていた


ガロードもまた、戦で部下を失った男

一人は逃げ、一人は生き残った


二人とも、暗がりにいた


それが今夜、同じ火を、並んで見ている


桐島陸は、何もしていない

ただ、会いに行った

ガロードを、連れて行った


それだけで

二十年以上、動かなかったものが

動いた


『また来い』が

『また来ていいか』に変わった


孤立していた者が

自分から、火を求めた


これは、大きな一歩だ」



「シィラさん、自分から『また来ていいか』って言いましたね」とこはるが言った。


「ああ」と三浦。「ずっと『また来い』だった。来るのを待つ側だった」


「それが、来たいって言った」


「自分から、火を求めた。長く一人だった人間が、だ」三浦は、コーヒーを置いた。「これは、想像以上に、大きい」


こはるはモニターを見た。焚き火の周りに、また一つ、アイコンが増えていた。


二人の老人が、同じ火を見て、並んで座っていた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、シィラが拠点まで来ました。実は、ガロードとシィラは昔の知り合いで、二人とも戦で大切なものを失っていました。一人は生き残り、一人は逃げた。それぞれ暗がりに隠れていた二人が、同じ火を並んで見つめる夜でした。シィラの「また来い」が、初めて「また来ていいか」に変わりました。次話も続きます。


続きが気になると思っていただけたら、ページ下の星マークとブックマークで応援していただけると、明日も書き続けられます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ