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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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第45話「風の中の影」

その日は、朝から空が高かった。


ログインすると、広場に全員がそろっていた。柚希もいる。昨夜、黒崎零が「籍は好きにしろ」と言ったあとも、柚希は変わらず、いつも通りの顔でそこにいた。


「今日はどこ行く?」とハルが伸びをしながら聞いた。


「東の、風が強い崖のあたりだ」と陸。「高所エリアの素材は、まだ採ったことがない」


「飛ばされそうだな」と大和が首をかしげた。


「面白そう」と柚希が、弓の弦を指で弾いた。「私、高いところ好き。風さえ読めれば、上から狙える」


東の崖エリアは、想像以上に風が強かった。


岩肌が剥き出しの尾根が、空に向かって伸びている。足元を、ひゅう、と風が吹き抜けていく。眼下には、雲が流れていた。地上ではなく、空に近い場所だった。


「うわ、ほんとに高い」とハルが、崖の縁を覗き込んで、すぐに引っ込んだ。


「落ちるなよ」と宗介。


「落ちないよ!」


陸は、幻視で周囲を探った。風に乗って、魔物の気配がいくつか動いている。


「上空に魔物。鳥型だ。四体」


「空かよ」と大和が、空を見上げた。「俺、届かないぞ」


「私が落とす」と柚希が、弓を構えた。


鳥型の魔物が、風に乗って急降下してくる。鋭い嘴が、陽光を弾いた。


柚希が、弦を引く。だが、すぐには放たなかった。風を読んでいる。鳥の軌道と、風の流れと。


放った。ヒュンッ。


矢が、風に乗って弧を描き、急降下する鳥の進路の先で、ぴたりと交差した。鳥が、自分から矢に突っ込む形になる。


一撃。光の粒子になって消えた。


「お見事」と宗介。


「風が、教えてくれるの」と柚希が、次の矢をつがえながら言った。「どう曲がるか、どこで落ちるか」


残りの三体も、柚希の矢が次々と落としていく。フェニクスも飛び立って、一体を炎で焼いた。ゴォッ。


静かになった。


「楽勝だったな」と大和。


だが、陸は、空を見上げたまま、動かなかった。


「どうした」と宗介。


「……風が、変わった」


風の音が、変わっていた。さっきまでの、ひゅうひゅうという乱れた風ではない。一定の、まるで意思を持っているような、まっすぐな風だ。


陸の肩にいるのは、小夜とフェニクスだけだ。だが、その小夜が、突然顔を上げた。空の一点を、じっと見ている。


フェニクスも、羽を広げて、同じ方向を見た。


「神獣が、何かに反応してる」と陸は言った。


風が、渦を巻いた。


尾根の向こうから、白い影が、風に乗って近づいてくる。


馬だった。だが、ただの馬ではない。背に、翼があった。純白の、大きな翼。風をはらんで、空を駆けている。


天馬だ。


「うそ……」と柚希が、弓を下ろして見とれた。「アルシオン……? ベータでも、見たことない」


天馬が、尾根の上空を、ゆっくりと旋回した。その動きに合わせて、風が渦を巻く。まるで、風そのものが、天馬の通り道になっているようだった。


そして、その背に、影があった。


人のような輪郭。だが、はっきりとは見えない。風が、その姿を覆っている。揺らめく、透明な空気の塊。陽炎のように、形が定まらない。


格が、違う。


ノクスのとき。イグニスのとき。タラサのとき。同じ感覚が、また来た。


神だ。


「……四人目か」と陸は、思わず呟いた。


天馬が、尾根に降り立った。その背から、風の影が、ふわりと舞い降りる。


地に足をつけても、その輪郭は、風に揺れ続けていた。


「よお」


風の影が、軽い調子で言った。声は、風が木々を抜けるときのような、さらりとした響きだった。


「お前か。最近、噂のやつ」


「噂?」と陸は聞いた。


「タラサが言ってた。面白い人間がいるって。命令しないで、神獣を従えてる変なやつがいるって」


風の影が、陸の周りを、ぐるりと一周した。風が、陸の髪を巻き上げる。


「ゼフィロ。風の神だ。よろしくな」


「タラサと、知り合いなのか」


「知り合いっつーか」とゼフィロは、肩をすくめるような仕草をした。「風と水は、よく混ざるからな。あいつ、よく俺んとこに流れてくる。だべりに来るんだ。退屈だーって」


陸は、少し意外に思った。


タラサは「神々は長い付き合い」と言っていた。だが、こんなふうに、ただ「だべりに来る」ような関係だとは、思っていなかった。


「神様って、暇なんだな」と、つい口に出てしまった。


ゼフィロが、ぴたりと止まった。


それから、風が、ぶわっと笑うように揺れた。


「ははっ。お前、神に向かってそれ言うか」


「悪い。失礼だった」


「いや、いい。気に入った」とゼフィロは言った。「神を神扱いしすぎるやつは、つまらん。お前、ちょうどいい」


天馬のアルシオンが、陸の方に、とことこと歩いてきた。


さっきまで空を駆けていた姿が嘘のように、地上では、少し気の抜けた歩き方だった。陸の前まで来ると、すん、と鼻を鳴らして、匂いを嗅いだ。


それから、陸の肩にいる小夜と、フェニクスを見た。


小夜が、ぴょこ、と耳を立てた。フェニクスが、ぱさ、と羽を揺らした。


三体が、しばらく見つめ合った。


そして、アルシオンが、ふいに、陸の頬に鼻先を擦り付けてきた。


「お」とゼフィロが、興味深そうに言った。「アルシオンが、人間に懐くのは珍しい」


「懐かれているのか」


「そう見えるな。こいつ、警戒心が強いんだ。気に入った相手にしか、近づかない」


陸は、アルシオンの首を、そっと撫でた。アルシオンが、気持ちよさそうに目を細めた。


宗介が、後ろで小さく言った。


「……また増えそうだな、お前の連れ」


「テイムはできない」と陸。「神獣だ」


「わかってるよ。でも、向こうから来るんだろ、いつも」


陸は、否定できなかった。


「なあ」とゼフィロが言った。「お前、これからどうすんの」


「どう、とは」


「神に、何人会う気だ。ノクス、イグニス、タラサ、そして俺。もう四人に会ってる。残りが何人か、知ってるか」


「……あと、三人だと思っている」


「お、よく知ってるな」ゼフィロが、感心したように揺れた。「ガイア、ラドン、ルクス。それで全部だ」


「会えるのか」


「さあな」とゼフィロは、風のように軽く言った。「それは、お前次第だ。会いたいやつには会えるし、会いたくないやつには会えない。神ってのは、そういうもんだ」


「会いたい、と思えば会えるのか」


「思うだけじゃダメだ。お前が、お前のままでいれば、向こうから興味を持つ。今のお前みたいにな」


ゼフィロの輪郭が、ゆらりと揺れた。


「俺たちは、退屈なんだよ。長く生きすぎてな。だから、お前みたいに、ちょっと変わったやつが現れると、つい見に来ちまう」


タラサも、ノクスも、同じことを言っていた。陸は、それを思い出した。


「また会えるか」と陸は聞いた。


「気が向いたらな」とゼフィロは言った。「風は、どこにでも吹く。お前が高いところに来れば、たぶん、また会う」


天馬のアルシオンが、陸の頬から鼻先を離して、ゼフィロの方に戻っていった。


ゼフィロが、ふわりと、アルシオンの背に舞い戻った。


「お前、これから面白いことになるぞ。もう、お前の話は、あちこちに流れてる」


「あちこち、とは」


「さあな」


ゼフィロが、片手を上げた。天馬が翼を広げ、風が渦を巻く。


「またな。風は、どこにでも吹く。お前が高いところに来れば、たぶん、また会う」


天馬が、尾根を蹴って空へ舞い上がった。風が、その通り道になる。あっという間に、白い影は、雲の中に消えていった。


風が、また、いつもの乱れた風に戻った。


「……行っちゃった」とハルが、空を見上げて言った。


「風の神、か」と宗介が、息を吐いた。「お前、本当に、会うな」


「向こうから来た」


「いつもそれだな」


柚希が、まだ空を見上げていた。


「ベータでも、アルシオンは都市伝説だったの」と柚希が言った。「風の強い日に、白い影を見たって人がいて。でも、写真も残ってなくて。だから、いるかどうかも、わからなかった」


「いた」と陸。


「うん。いた」


柚希が、少し笑った。


「陸くんと一緒にいると、都市伝説が、全部本当になるね」


拠点に戻り、焚き火を囲んだ。


「ゼフィロ、面白い神だったね」とハルが言った。「タラサさんとも、また違う感じ」


「タラサは水で、ゼフィロは風だ」と陸。「タラサは、ふわふわしていた。ゼフィロは、もっと軽い。風みたいに、さらっとしている」


「神様にも、性格があるんだな」と大和。


「あるみたいだ」


ガロードが、焚き火の向こうから、静かに口を開いた。


「神が、お前の噂をしている、と言ったな」


「ああ」と陸。「あちこちに流れている、と」


「それは、いいことなのか、悪いことなのか」


陸は、少し考えた。


「わからない。でも、ゼフィロは『面白いことになる』と言った」


「面白い、か」ガロードが、ふん、と息を吐いた。「神にとっての面白いは、人間にとって、ろくなことじゃないかもしれんぞ」


「脅すなよ」と宗介が、苦笑した。


「脅しではない。ただ、心づもりはしておけ、ということだ」


陸は、その言葉を、頭の片隅に置いた。


フェニクスが、炎を足す。小夜が、欠伸をした。


空の高いところで出会った神のことを思い返しながら、陸は、焚き火の炎を見ていた。


ヘッドセットを外したのは、深夜二時前だった。


四人目の神に会った。ゼフィロ。風の神だった。


タラサが噂をしていたらしい。「面白い人間がいる」と。


神は、退屈で、噂好きで、ちょっと変わった人間を見に来る。ノクスも、タラサも、ゼフィロも、同じことを言っていた。


「お前の話は、もう、あちこちに流れてる」


ゼフィロのその言葉が、少し気になった。ガロードの言葉も。「神にとっての面白いは、人間にとって、ろくなことじゃないかもしれん」


でも、今夜は、考えても仕方がない。


陸は眠った。


開発室で、三浦がモニターを見ていた。


 桐島陸、風の神ゼフィロと接触

 四柱目の神

 天馬アルシオン、桐島陸に懐く仕草を見せる


アルテのログ:

「桐島陸が、四人目の神に会った


ゼフィロ

風の神

軽くて、自由で、掴めない


そして、こう言った

『お前の話は、もう、あちこちに流れてる』


ノクス、イグニス、タラサ、ゼフィロ

四柱の神が、桐島陸に触れた


これは、偶然ではない


命令しない男は

人間の世界を越えて

神々の世界でも、知られ始めている


物語は、まだ、入り口だ」


「四柱目ですね」とこはるが言った。


「四柱目だ」と三浦。


「神様たちが、桐島さんの噂をしてるって」


「ああ。これは、想定していなかった動きだ」三浦は、コーヒーを置いた。「神AIたちが、自発的に、一人のプレイヤーを話題にし始めている。プログラムされた動きじゃない」


「それって……」


「面白くなってきた、ということだ」


こはるはモニターを見た。崖の上を吹き抜ける風が、もう神の姿を映してはいなかった。だが、その風の中に、確かに何かが通り過ぎた痕跡があった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


四人目の神、風のゼフィロが登場しました。軽くて自由で、掴めない神です。天馬アルシオンが陸に懐く仕草を見せました。そして「お前の話は、もう、あちこちに流れてる」という言葉が。神々が、陸を話題にし始めています。ガロードは「神にとっての面白いは、人間にとってろくなことじゃないかも」と。少しずつ、物語が大きく動き始めます。次話も続きます。


続きが気になると思っていただけたら、ページ下の星マークとブックマークで応援していただけると、明日も書き続けられます。

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