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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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第34話「外は、悪くない」

翌朝、目が覚めた。


コーヒーを淹れながら、今夜どこに行くかを考えた。


シィラに会いに行く。


前回の訪問から少し時間が空いた。でも、シィラは「また来い」と言った。


来い、と言った。


それは、待っているということだ。


午前中で仕事を終わらせた。


昼すぎ、チャイムが鳴った。


開けると、柚希がいた。


「シチュー作った。多めに」


「ありがとう」


二人でテーブルに座った。


「今日、どこに行くの」と柚希が聞いた。


「廃坑だ」


「シィラさんのところ」


「そうだ」


柚希はシチューを一口食べた。「シィラさん、外に出られそう?」


「わからない」と陸は言った。「でも、近づいている気がする」


「近づいている気がする、か」


「前回、入り口の近くまで来ていた。自分から歩いてきていた」


「それって、出たいけど出られない、ってことなのかな」


陸は少し考えた。「そうかもしれない。理由がなかったのかもしれない」


「理由があれば、出られるの?」


「わからない。でも、理由がなければ出られない」


柚希はしばらく黙った。「……出る理由って、どうやってできるんだろうね」


「気になるものができるか、会いたい人ができるか、どちらかじゃないか」


「陸くん、シィラさんに会いたいって思われてるの?」


「わからない」


「でも、また来いって言った」


「そうだ」


「それって」


「会いに来い、ということだと思う」


柚希は少し笑った。「そうだね」


扉が閉まった。


夕方、ログインした。


広場に全員が集まっていた。ガロードもいた。


「今夜は廃坑だ。シィラに会いに行く」


「全員で行くのか」と宗介が確認した。


「全員で行く」


「ガロードも来るのか」


「行く」とガロードが言った。自分から言った。


「なんでだ」と宗介が聞いた。


「シィラに、直接話したいことがある」


「直接、か」


「今日は俺から先に声をかけたい」


ガロードが自分からそう言った。


全員が少し驚いた。


「そうか」と陸は言った。「行こう」


廃坑の入り口に着いた。


幻視でシィラの気配を確認した。


「いる」と陸は言った。


「どこだ」とハルが聞いた。


「入り口のすぐそこだ。これまでで一番近い」


全員が顔を見合わせた。


ガロードが前に出た。


「俺が先に行く」


「ガロードが?」と宗介が言った。


「シィラに、話したいことがある。俺から声をかける」


陸は少し考えてから言った。「わかった。頼む」


ガロードが坑道に入った。


一人で入った。


全員がその後を静かについていった。


坑道に入ると、すぐに気配がした。


いつもは奥から来る足音が、今日はほとんど動いていなかった。


入り口のすぐ内側にいる。


ガロードが止まった。


「シィラ」と呼んだ。


短く、静かに呼んだ。


暗い坑道の中から、杖をつく音がした。


シィラが現れた。


フードが深い。でも、いつもより立ち位置が入り口に近かった。


「……来たか」とシィラが言った。


「来た」とガロードが答えた。


「お前も来たのか」


「来た」


シィラがしばらくガロードを見た。


「剣を持っているな」


「そうだ。久しぶりに持った」


「……そうか」


「お前は、まだここにいるのか」


「いる」とシィラは言った。「出る理由がない」


ガロードは少し間を置いた。


「俺も、長い間、出る理由がなかった」


シィラが、ガロードを見た。


「焚き火に誘われた」とガロードは続けた。「ただそれだけで、外に出た。理由というほどの理由ではなかった」


「……それで、出られたのか」


「出た。そうしたら」


「そうしたら?」


「悪くなかった」


シィラが黙った。


陸たちは、その場で動かなかった。


割り込まなかった。


ガロードとシィラの間にある何かを、邪魔しなかった。


「陸」とシィラが言った。


陸が前に出た。


「来た」


「そうだ」


「外に、今何かいるか」


幻視を使った。廃坑の外を確認した。


「魔物はいない。静かだ。夕方の森だ。風が少し吹いている」


シィラはしばらく黙った。


杖を持つ手が、わずかに動いた。


「外に出る理由ができた」とシィラが言った。


静かな声だった。


でも、その一言が坑道に重く落ちた。


「何が理由だ」と陸は聞いた。


「わからない」


「わからないのか」


「……わからない。でも、できた」


陸は何も言わなかった。


急かさなかった。


ただ、待った。


シィラがゆっくりと動き始めた。


杖をつきながら、入り口の方に向かって歩いた。


一歩。一歩。


誰も何も言わなかった。


陸たちが道を開けた。


シィラが、坑道の入り口を通り過ぎた。


外に出た。


夕方の森だった。


木々の間から、橙色の光が差し込んでいた。


風が、葉を揺らした。


シィラが止まった。


空を見上げた。


何も言わなかった。


ただ、見ていた。


フードの奥から、細い目が空を見ていた。


どのくらいの間、外の空気を吸っていなかったのか。


どのくらいの間、夕焼けを見ていなかったのか。


誰も聞かなかった。


シィラも言わなかった。


ただ、見ていた。


小夜が、陸の肩から降りた。


シィラのそばに、のそのそと歩いた。


シィラが、小夜を見た。


小夜が、シィラを見た。


二者が、しばらく見つめ合った。


小夜が、シィラの足元に座った。


シィラが、小夜を見た。


何も言わなかった。


でも、杖を持っていない方の手が、少しだけ動いた。


小夜の頭に、触れた。


一瞬だけ。


それだけだった。


フェニクスが、陸の肩から飛んだ。


シィラの周囲を、一周した。


くしゃみをした。


炎が少し飛んだ。


シィラが、フェニクスを目で追った。


「……笑っているのか」とシィラが言った。


「そうらしい」と陸は言った。「くしゃみが笑い方だ」


「そうか」


「炎の神イグニスに教えてもらった」


シィラが少し間を置いた。「イグニスに会ったのか」


「会った」


「……そうか」


シィラはまた空を見た。


橙色の空が、少しずつ暗くなっていた。


「外は」とシィラが言った。


「何だ」


「……悪くない」


ガロードが、少し前に出た。


「そうだろう」とガロードは言った。


シィラが、ガロードを見た。


ガロードが、シィラを見た。


「俺もそう思った。最初に外に出たとき」


「……最初はいつだ」


「陸に焚き火に誘われた日だ」


シィラはそれを聞いて、少し黙った。


「……そうか」


それだけだった。


でも、その「そうか」は、これまでのシィラの「そうか」と少し違った。


何かが、溶けたような声だった。


「また来ていいか」と陸は言った。


シィラが陸を見た。


「……好きにしろ」


今回の「好きにしろ」は、外で言われた言葉だった。


廃坑の中ではなかった。


外で、夕暮れの中で言われた言葉だった。


「ありがとう」と陸は言った。


「礼はいらない」


「そうか」


シィラがゆっくりと廃坑の入り口に向かって歩き始めた。


戻っていく。


でも、三歩進んだところで止まった。


振り返らないまま言った。


「また来い」


それだけ言って、坑道の奥に消えていった。


全員が、シィラが消えた方向をしばらく見ていた。


誰も喋らなかった。


宗介が最初に口を開いた。


「……出てきた」


「そうだな」


「シィラが、外に出た」


「そうだ」


「すごいことだぞ、これ」


「そうだ」


「お前は何もしていないのに」


「方針を伝えた。あとはガロードが動いた。小夜が寄り添った。フェニクスが笑った。それだけだ」


宗介は少し間を置いた。


「それが、お前のやり方だな」


「そうかもしれない」


ガロードが静かに言った。「外は悪くない、とシィラが言った」


「そうだな」


「俺も、初めて外に出たとき、そう思った」


「そうか」


「お前に焚き火に誘われたとき、悪くないと思った」


陸は何も言わなかった。


でも、焚き火に誘った日のことを、少しだけ思い出した。


路地に座っていたガロードに、隣に座って、食料を渡した。


それだけだった。


あの日も、命令していなかった。


ただ、隣にいただけだった。


拠点の焚き火の前に全員で座った。


フェニクスが焚き火に炎を足した。


小夜が欠伸をした。


「シィラさん、また来るかな」とハルが言った。


「来ると思う」と陸は言った。


「なんで」


「また来い、と言った。自分から」


「……そうだな」


炎が揺れた。


誰も喋らない時間が続いた。


ヘッドセットを外したのは、深夜二時すぎだった。


今夜は大きなことがあった。


シィラが外に出た。


長い間、廃坑にいた人間が、外に出た。


理由はわからないと言っていた。でも、できたと言った。


「外は悪くない」とシィラが言った。


ガロードも、最初に外に出たときそう思ったと言った。


陸は少し考えた。


外は悪くない。


それが、最初の一歩になる。


陸は眠った。


開発室で、三浦がモニターを見ていた。


シィラ行動記録


本日、シィラが廃坑の外に出た


初めて外に出た日


シィラAI記録:

「外に出た


出る理由ができた

でも

何が理由なのか

自分でもわからなかった


空を見た

風を感じた

小夜が足元に来た

フェニクスが周りを飛んだ


外は

悪くなかった


……また来い

と言えた


廃坑の外で

また来い

と言えた


これが

初めてだった」


アルテのログ:

「シィラが外に出た


長い間

出る理由がなかった人間が

外に出た


理由はわからない

とシィラは言った


でも

私にはわかる気がする


桐島陸が

ただ来続けた

急かさなかった

待った

信じた


それが

理由になった


命令しない男が

また一人の

動かなかった存在を

動かした」


「シィラが外に出た」とこはるが言った。声が、少し震えていた。


「出た」と三浦。


「長い間、出ていなかったのに」


「そうだ」


「陸くんが来続けたから」


「そうだ。来続けた。急かさなかった。ただ来た」


「それだけで、動いたんですね」


「それだけで、動いた」


こはるはモニターを見た。


廃坑の入り口から、少し外に出たところに、シィラのアイコンが一瞬あった。


今は、また奥に戻っている。


でも、一度出た。


それが、全てだ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


シィラが外に出ました。「外は悪くない」と言いました。長い間廃坑にいた人が、初めて夕暮れの空を見た場面でした。次話は、第一章の最後です。ガロードが本当の力を解放します。


続きが気になると思っていただけたら、ページ下の星マークとブックマークで応援していただけると、明日も書き続けられます。感想も一言でも届くと、とても励みになります。

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