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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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30/50

第30話「大会が、始まった」

正午になった。


エデルハイムの中央広場に、仮設の闘技場が設置されていた。


四方を石の壁に囲まれた、二十メートル四方のフィールドだ。壁の外側には観客席が並んでいて、開幕前からすでに多くのプレイヤーが集まっていた。


陸はフィールドの外から闘技場を見た。


思ったより、大きかった。


「すごい人だ」とハルが言った。


「そうだな」


「緊張する?」とハルが陸を見た。


「していない」


「なんで。こんなに人が見てるのに」


「俺がやることは変わらないからだ。方針を伝えて、お前たちを見る。それだけだ。緊張する場面がない」


「でも、負けたら?」


「負けたらまた来ればいい」


ハルは少し考えてから言った。「……それ、緊張しない理由としてわかる気がする」


「そうか」


宗介が横から言った。「俺は緊張している。正直に言うと」


「そうか」


「でも、していないことにする」


「なんで」


「お前が緊張していないから。雰囲気に合わせる」


「……そうか」


「気にするな。行くぞ」



「Stray Wolves、入場してください」


運営のアナウンスが広場に響いた。


全員でフィールドに入った。


陸・宗介・雪乃・大和・ハル。


陸の肩に小夜がいる。フェニクスもいる。


観客席から声が上がった。


「テイマーが入ってきた」


「テイマー? 最弱職じゃないか。なんで出てるんだ」


「肩に何かいる。子狐みたいなやつ」


「右肩にも何かいるぞ。小さい鳥か?」


「使役魔物なのか。でも、あんな小さいの連れてきてどうするんだ」


ざわめきが広がった。


観客は神獣のことを知らない。ただの使役魔物に見えている。


陸は観客席を見なかった。


フィールドの向こう側を見た。


対戦相手のギルド「鉄壁の盾」が入場してきた。


全員が重装備だ。鎧を着込んでいる。体格がいい。見た目の威圧感がある。


観客席から「おお」という声が上がった。


明らかに、こちらに対する期待は低かった。



「第一試合、開始」


アナウンスが響いた。


相手の前衛三人が盾を構えて一斉に前進してきた。


地面を踏む音が重く、フィールド全体に響く。後衛の二人が魔法の準備をしている。


「大和、前に出てくれ。後衛の視線を引きつける」


「任せろ」と大和が《竜騎士の覚醒》を発動した。全身に竜の鎧が纏わりついた。光が走った。


大和が前衛に向かって踏み込んだ。


その瞬間、陸の肩の上で、小夜が目を開けた。


陸を見ていない。


後衛を見ていた。


すっと、陸の肩から降りた。


地面に降り立って、後衛の方向に向かってゆっくりと歩いた。


観客が、その動きに気づいた。


「何だ、あの子狐。勝手に動いてるぞ」


「使役者が指示を出していないのに」


小夜が後衛二人を、静かに見上げた。


目が細くなった。


後衛二人が、突然固まった。


魔法の詠唱が止まった。手が、震えていた。


「何が起きた」と観客席から声が上がった。


「後衛が止まった。何もしていないのに」


「あの子狐が見ただけで止まったのか」


陸は何もしていなかった。


武器を持っていない。一歩も動いていない。ただ、フィールドの中央に立って、全体を見ていた。


その間に、宗介が動いた。


「ハル、左を頼む」


「もう動いてる」とハルの声が聞こえた。


ハルの姿は、すでにどこにもなかった。《気配遮断》Lv.2で完全に消えていた。


相手の前衛左の一人が、突然足を止めた。影が光った。《影縫い》が発動した。


宗介が右に踏み込んだ。


《神域斬》が発動した瞬間、音が消えた。


刀が空気を切る音すら、消えた。


気づいたとき、右の前衛が、フィールドの外に弾き出されていた。


何が起きたかわかっていない顔だった。


戦線離脱の表示が出た。


「今のは何だ」と観客席がざわめいた。


「刀を振ったのは見えた。でも速すぎて何も見えなかった」


「音もしなかった。なぜだ」


陸は動いていなかった。


ただ、次の状況を確認していた。


後衛二人はまだ固まっている。小夜の恐怖デバフが続いている。


「ハル、固まっている後衛に」


「もうそこにいる」


声だけが、後衛の背後から聞こえた。


二人が同時に戦線離脱した。


残るは前衛二人と、固まっている左の前衛一人だ。


大和が中央の前衛と正面からぶつかっていた。《竜騎士の覚醒》の鎧が衝撃を吸収していた。


「雪乃、大和のサポートを」


「やってる」と雪乃が言った。《聖域展開》Lv.2の回復の光が大和を包んでいた。


宗介が残りの二体に向かった。


陸の肩に、フェニクスが静かに止まっていた。


何もしていなかった。


小さな目で、フィールドを見ていた。


十秒後、フィールドに残っていた前衛二人が戦線離脱した。



第一試合終了

Stray Wolves 5対0 鉄壁の盾

所要時間:2分12秒



観客席が、静かになった。


しばらく誰も喋らなかった。


それから、一人が言った。


「……終わった?」


「2分くらいだったか」


「テイマーが、一度も武器を抜かなかった」


「一歩も動いていなかった」


「指示を何回出していた」


「聞こえたのは二回だけだ。あとは何もしていなかった」


「なのに、あんな勝ち方をするのか」


「あの子狐、一体何なんだ。見ただけで相手が止まった」


「使役魔物であんな能力があるのか」


「テイマーって、ああいう戦い方をするのか」


ざわめきが大きくなっていった。


陸はそのざわめきを聞いていなかった。


宗介が戻ってきた。


「どうだった」


「普通に勝った」


「普通に、か」と宗介が苦笑した。「お前、本当に一歩も動かなかったな」


「動く必要がなかった」


「観客がざわついてるぞ。テイマーが何もしていないのに勝ったって」


「そうか」


「気にならないのか」


「気にしても意味がない」


「……まあ、そうだな」


フィールドの外で、静とガロードが見ていた。


静が、陸と目が合った。


何も言わなかった。


でも、小さく頷いた。


ガロードは、ただフィールドを見ていた。



一回戦が終わって、少し休憩になった。


次の試合の対戦相手が発表された。



Aブロック準決勝

Stray Wolves vs 剣王の盟約


剣王の盟約:平均Lv.22

構成:剣士×3・魔法使い×1・回復士×1



「レベルが上がった」と大和が言った。


「平均Lv.22だ。俺たちより少し上だ」と陸は言った。


「どんな戦い方をするギルドだ」とハルが聞いた。


「剣士が三人いる。前衛が厚い。後衛が薄い。魔法使いが一人だけだ」


「後衛を先に崩すか」


「そうだ。でも今度は一回戦より前衛が固い。ハルの《影縫い》を後衛まで届かせられるかが鍵だ」


「行けると思う」とハルが言った。「前衛の影を経由して移動できる」


「それだ。前衛の影を踏み台にして後衛に回る」


「やったことないけど、できると思う」


「できなくても取り返せる。試せ」


ハルが少し驚いた顔をした。


「……できなくてもいいの?」


「試さないとわからない。失敗したら別の手を使う」


「……わかった」


宗介が陸に言った。「ガロードがいたら確実だったな」


「そうかもしれない。でも、ガロードなしで勝てることを証明する方が、今日は大事だ」


「なんで」


「ガロードは、ずっと一緒にいるわけじゃないかもしれない。でも俺たちは戦い続ける。それができると証明したい」


宗介は少し黙った。


「……そうだな。わかった」



準決勝まで、あと十五分あった。


陸はフィールドの外で、今日の戦いを整理した。


小夜は、命令なしで動いた。


フェニクスは、今日は動かなかった。


でも、肩に止まって、フィールドを見ていた。


何かを、待っているような目をしていた。


「お前は、まだいいのか」と陸はフェニクスに言った。


フェニクスは答えなかった。


でも、くしゃみをした。


炎が少し飛んだ。


「そうか」


陸は準決勝のフィールドを見た。


次の相手が、向こうのフィールドで準備をしている。


剣士が三人。動きがいい。


でも、まだ陸たちを見ていない。


見ていないまま、負ける。


それが一番いい。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


一回戦、2分12秒で終わりました。テイマーは一歩も動かず、武器も抜かず、指示は2回だけ。でも5対0で勝ちました。観客はまだ、何が起きたかわかっていません。次は平均Lv.22の剣王の盟約。ハルが新しい使い方に挑戦します。


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