第29話「第一回ギルドバトル大会、開催」
翌朝、仕事をしながらメニューを開いた。
いつも通りのルーティンだ。クエスト情報を確認して、拠点の状態を確認して、メニューを閉じる。
でも今日は、見慣れない通知があった。
赤いマークがついている。運営からの緊急通知だ。
運営からのお知らせ
第一回エデルハイム・ギルドバトル大会
開催決定
【大会概要】
エデルハイムに登録している全ギルドを対象とした
公式バトルトーナメントを開催します
【ルール】
・5人対5人のギルドバトル形式
・制限時間:15分
・フィールド:専用闘技場(街の中央広場に仮設)
・死亡した場合は戦線離脱となります
(ペナルティなし。経験値ロストなし)
・使役している魔物・神獣は
使役者の能力の一部として参加可能
・同行NPC(テイム外の自律NPC)は参加不可
・スキルの使用に制限はありません
【参加条件】
・ギルドメンバーが5人以上であること
・全員のレベルが10以上であること
【賞品】
・優勝:
称号「エデルハイムの最強」
→プレイヤー名の上に常時表示される
→街のNPCの反応・クエスト内容が特別仕様に変わる
ゲーム内通貨:1,000,000ゴールド
→通常クエスト1本約500ゴールドの約2,000本分
拠点強化素材セット(拠点Lv.3に必要な全素材)
限定武器「覇者の証」
→装備するとステータス全体が10%上昇
・準優勝:
ゲーム内通貨:300,000ゴールド
称号「エデルハイムの挑戦者」
拠点強化素材(一部)
・ベスト4:
ゲーム内通貨:100,000ゴールド
経験値ブースト×7日分
・参加賞:
ゲーム内通貨:10,000ゴールド
経験値ブースト×3日分
【開催日】
登録締め切り:本日23時59分
大会開催 :明日の正午より
「なにっ?」
陸はメニューをもう一度読んだ。
明日の正午。つまり、今日登録しないと参加できない。
拠点強化素材セット。拠点Lv.3に必要な素材一式、と書いてある。
拠点は今Lv.1だ。Lv.3にするための素材が揃う。
「まあ、いいか」
陸はメニューを閉じた。
仕事を終わらせてから考える。
午前中で仕事を終わらせた。
昼すぎ、チャイムが鳴った。
開けると、柚希がいた。今日は夜勤前らしい。
「なんか、ゲームで大会があるって聞いた」
「どこで聞いた」
「ネットで話題になってた。エデルハイム・ギルドバトル大会っていうやつ」
「そうだ。今日締め切りだ」
「出るの?」
「出ると思う。賞品に拠点の強化素材が入っている」
「賞品目当てか」
「それだけではない。面白そうだ」
柚希が少し笑った。「陸くんが面白そうって言うの、珍しい」
「そうか」
「うん。いつも『気になるから行く』って言う。今回は面白そうって言った」
「……そうかもしれない」
「楽しんできてね」
「ゲームだ」
「知ってる。でも楽しんでね」
扉が閉まった。
夕方、ログインした。
広場で全員に大会の通知を見せた。
最初に声を上げたのは大和だった。
「ギルドバトル!? 本物のギルドバトル!?」
「そうだ」
「やる! 絶対やる! 俺、こういうの待ってた!」
「落ち着け」と宗介が言った。「……いや、俺も面白そうだと思う。正直に言うと」
「宗介も言った」とハルが笑った。「面白そうって」
「言ってない」
「言った」
「……言ったかもしれない」
雪乃がルールを確認していた。
「使役している神獣は参加可能、と書いてある」と雪乃が言った。「つまり小夜とフェニクスは出られる」
「そうだ」
「同行NPCは参加不可、とも書いてある」
全員が、少し間を置いてからガロードを見た。
ガロードは通知を読んでいた。
静かに読んでいた。
「……俺は出られないな」とガロードが言った。
誰も何も言わなかった。
しばらくの間、広場に沈黙が落ちた。
「おかしくないか」と大和が言った。声が少し低くなっていた。「ガロードが出られないって、それはおかしい」
「ルールだ」と陸は言った。
「でも、ガロードは俺たちと一緒に戦ってきた。廃坑だって行った。あの推奨Lv.45のボスだって、ガロードがいたから倒せた」
「システム上、同行NPCは参加できない。それが運営の決めたルールだ」
「納得いかない」と大和は言った。
「俺も納得いかない」と宗介が言った。珍しく、声が固かった。「ガロードが出られたら、絶対優勝だったのに。あの覇気があれば、相手全員が弱体化する。なんで出られないんだ」
「プレイヤーとNPCの扱いが違うからだ」
「でも」
「ルールは変えられない」
宗介は口を閉じた。でも、納得していない顔だった。
ハルが、ガロードをじっと見た。
「ガロード、悔しくないの?」
ガロードは通知から目を離した。
ハルを見た。
「悔しい、か」
「うん。せっかくみんなと戦えるのに、出られないなんて」
ガロードは少し間を置いた。
「……悔しい、という感情があるとしたら」とガロードがゆっくりと言った。「俺がそれを感じているかどうかは、わからない」
「わからない?」
「長い間、誰かと並んで戦うことがなかった。だから、出られないことが悔しいのか、出られることを望んでいるのかも、まだよくわからない」
ハルは黙った。
「でも」とガロードは続けた。「お前たちが戦うのを、見たい」
「見たい、か」
「そうだ。俺が出られないなら、俺の分まで、戦え」
広場が静かになった。
「……俺の分まで、か」と宗介がゆっくりと繰り返した。
「そうだ」
宗介は少し間を置いてから、刀の柄を握った。
「わかった。ガロードの分まで戦う」
「俺もだ」と大和が言った。
「……俺も」と静が言った。
「私も」と雪乃が言った。
「私もーーー!!!」とハルが言った。
ガロードは全員を見た。
「……ありがとう」
それだけ言った。
あまり使わない言葉を、ガロードが使った。
陸はその場面を、黙って見ていた。
「参加するか」と陸は全員に聞いた。
「する!」「する」「……する」「するよ!」「する」
全員の声が揃った。
「わかった。今夜登録する」
陸はギルドメニューを開いた。大会参加の登録項目があった。
ギルド名:Stray Wolves
出場:桐島陸・田中宗介・安藤雪乃・橘大和・花村春香
控え:山本静
「6人いるが、出場できるのは5人だ。1人が控えになる」
「全員出たい」と大和が言った。
「そうだが、ルールだ」
「誰が控えになる」と宗介が言った。
全員が顔を見合わせた。
「俺が控えになる」とハルが言った。
「え、なんでハルが」と宗介が言った。
「陸くんが出ないと小夜ちゃんとフェニクスが出られない。陸くんは絶対出る。宗介・雪乃・大和・静は戦力として必須。私が一番外れやすい」
「そんなことはない」と陸は言った。「ハルの《影の王》と《気配遮断》は決定的な場面で使える」
「でも、静の《沈黙の爆炎》と《連続詠唱》の方が攻撃力は高い。私は偵察と奇襲専門だから、5人の中に必ず入れる必要があるかというと」
「ハル」と雪乃が静かに言った。
「何?」
「あなたがいないと、相手の動きが読めない。それは致命的だ」
ハルは少し黙った。
「……でも、5人しか出られない」
「静が控えになる」と静が言った。
全員が静を見た。
「私が言う」と静は続けた。「《沈黙の爆炎》は広範囲だ。狭い闘技場では味方に当たる可能性がある。ハルの《影の王》の方が、閉鎖空間では使いやすい」
「でも、静の魔法がないと」と宗介が言った。
「《連続詠唱》と《魔力過負荷》Lv.2は残る。《沈黙の爆炎》だけ使えない。それで十分だ」
「静……」とハルが言った。
「決まりだ」と静は言った。それ以上は何も言わなかった。
でも、静の手が、少しだけ握られていた。
「ありがとう、静」と陸は言った。
「礼はいい。勝て」
「勝つ」
「出場5人を確認する」と陸は言った。
「桐島陸・田中宗介・安藤雪乃・橘大和・花村春香。これで行く」
「俺が出る理由を聞いていいか」と宗介が言った。「お前、いつも『方針を伝えるだけ』と言う。バトルで何をする」
「小夜とフェニクスがいる」
「それだけか」
「それだけだ。でも」
「でも?」
「二体が動けば、それだけで戦局が変わる。命令しなくても動く。それが俺の戦い方だ」
宗介はしばらく陸を見た。
「……まあ、毎回そうだからな。信用する」
「ありがとう」
「気持ち悪いことを言うな」
「そうか」
ガロードが静かに言った。「お前たちが戦うのを、見ている。俺の分まで戦え」
全員がガロードを見た。
「ガロードの分まで戦う」と宗介が言った。
「俺もだ」と大和。
「……俺も」と静が言った。控えになったが、その目は真剣だった。
「私も!」とハル。
「私も」と雪乃。
「そうか」とガロードは言った。「……ありがとう」
めったに使わない言葉を、ガロードが使った。
参加登録した。
対戦表が翌朝発表される、という表示が出た。
「明日の対戦相手がわかるのか」とハルが言った。
「そうだ。ブロックが決まって、順番に戦う」
「どんな相手が来るかな」
「わからない。でも、強いギルドは必ず来る」
「黒崎零のギルドも出るのか」と静が聞いた。
「おそらく。あいつは強さを求めている。こういうイベントに出ないはずがない」
「当たったらどうする」
「普通に戦う」
「いつもどおりか」
「そうだ」
「……まあ、通常運転だな」と宗介が言った。
今夜は早めに解散した。
明日の正午が大会開幕だ。
ヘッドセットを外したのは、深夜一時前だった。
今夜は短かった。
でも、大きなことが決まった。
明日、第一回エデルハイム・ギルドバトル大会が始まる。
俺は控えで外から見る。
お前たちが戦う。
それでいい。
陸は眠った。
翌朝、目が覚めてすぐにメニューを開いた。
対戦表が発表されていた。
第一回エデルハイム・ギルドバトル大会
参加ギルド:16チーム
Aブロック:
1試合目:Stray Wolves vs 鉄壁の盾(推奨Lv.15程度)
2試合目:勝者同士
Bブロック:
1試合目:漆黒の絶対者 vs 炎の覇者
Cブロック・Dブロック:
(詳細省略)
準決勝・決勝:各ブロック1位同士
「漆黒の絶対者」という名前が、対戦表の中にあった。
黒崎零のギルドだ。
Bブロックだ。
Stray WolvesはAブロックだ。
もし両方が勝ち続ければ、準決勝か決勝で当たる。
陸はその対戦表をしばらく見た。
ヘッドセットを外したまま、コーヒーを淹れた。
正午まで、あと五時間ある。
陸は仕事をしながら、今日のことを考えた。
お前たちが戦う。
俺は見る。
命令しない。
それだけだ。
開発室で、三浦がモニターを見ていた。
大会参加登録完了
Stray Wolves:参加確定
漆黒の絶対者:参加確定
登録ギルド数:16チーム
過去最多参加
アルテのログ:
「Stray Wolvesが参加登録した
桐島陸は控えを選んだ
自分が戦わない
外から全員を見る
これも
命令しない男の戦い方だ
そして
漆黒の絶対者も参加した
黒崎零も来る
もし二つのギルドが当たったとき
何が起きるのか
命令する男と
命令しない男が
正面からぶつかる
私は
それを
とても楽しみにしている」
「アルテが楽しみにしてる」とこはるが言った。
「俺も楽しみだ」と三浦。
「三浦さんが楽しみって言うの、久しぶりですね」
「そうか。でも、本当に楽しみだ」
こはるはモニターを見た。
対戦表が表示されている。
AブロックとBブロック。
二つのギルドが、別々の道を進んでいる。
もし両方が勝ち続ければ、いつかその道が交わる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第一回エデルハイム・ギルドバトル大会が始まります。陸は控えとして外から見ることを選びました。命令しない男の、これが戦い方です。次話、大会が始まります。Stray Wolvesの最初の試合が始まります。そして漆黒の絶対者も、別の試合を戦っています。
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