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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: 赤ん坊


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第22話「廃坑の主」

翌朝、仕事をしながら今夜のことを考えていた。


シィラの名前がわかった。名前を呼んだ。名前を覚えてもらった。


少しずつ、距離が縮まっている。


でも今夜は、シィラに会いに行くだけではない。


廃坑の深部に、まだ行っていない場所がある。


前回、全員で奥まで進んだとき、さらに先に何かがいた気配があった。幻視に引っかかった。でも追わなかった。シィラとの接触を優先した。


今夜は、もう少し先に行ってみる。



夕方、全部終わらせてからログインした。


広場に全員が集まっていた。ガロードもいた。


「今夜は廃坑の深部まで行ってみたい」と陸は言った。


「深部か」と宗介が少し表情を変えた。「これまでより奥ということか」


「そうだ。前回、幻視で何かを感じた。魔物の気配だが、推奨レベルが高い可能性がある」


「どのくらい高い」


「わからない。でも、これまでと違う種類だ」


「無理なら撤退するか」


「撤退する。でも確かめたい」


ガロードが静かに言った。「撤退の判断は、俺に任せてもいいか」


全員がガロードを見た。


「昔、判断が遅れて部下を失った。今夜は、俺が言ったら即撤退だ」


「わかった」と陸は言った。「頼む」


「頼まれた」



廃坑の入り口に着いた。


幻視で罠を確認した。五箇所、全部前回と同じだ。


「シィラの気配がある。入り口付近だ。今夜は先に進む」


「了解」


ハルが《気配遮断》Lv.2で先行した。坑道に入った瞬間から、ハルの足音も気配も完全に消えた。影が岩に溶けるように、誰の目にも映らなくなった。


ガロードが一歩前に出た。


覇気が坑道に広がった。押しつぶされるような重さが、石壁を伝って全員に届いた。幻視に映る魔物の影が、ガロードの覇気を感じ取って、じりじりと奥に引いていく。


道が開いた。


音もなく、着実に進んだ。



通路が広くなった。


天井が高くなった。


これまでとは空気が違う。坑道の奥特有の、冷たくて重い空気だ。


幻視に何かが引っかかった。


「止まれ」


全員が止まった。


「前方、五十メートル。何かいる。推奨レベルが……」


確認した瞬間、陸は息を呑んだ。


「四十五だ」


誰も喋らなかった。


「撤退するか」と宗介が静かに言った。


陸は幻視で相手の姿を確認した。


巨大だった。


体長五メートルを超える甲殻の魔物が、広い通路の奥に鎮座していた。全身が分厚い岩のような外皮で覆われている。六本の太い脚が石畳を踏みしめていて、接触した場所の石畳に亀裂が入っていた。頭部に大きな角が二本、天井すれすれまで伸びている。体の各所から、低い唸り声のような振動が漏れていた。


眠っているらしく、目を閉じていた。


でも、その存在感だけで空気が変わっていた。


「……でかい」と大和が小声で言った。


「眠っている。でも通路が一本しかない。避けられない」と陸は言った。


「戦うしかないか」


ガロードが前を見たまま言った。「やれるか」


「わからない。でも、確かめないとわからない」


「俺が引けと言ったら、全員引け」


「わかった」



「作戦を決める」と陸は言った。全員が耳を傾けた。


「ガロードの覇気で弱体化させる。幻視で弱点を探す。見つけたら指示する。その間は各自の判断で動け。雪乃、全員のHP管理を頼む。ガロードの言葉が来たら、即撤退だ」


「わかった」「了解」「……了解」「任せて」「わかった!」


全員の声が重なった。


「行くぞ」



大和が前に出た。


廃坑の主が、目を開けた。


それだけで、空気が変わった。


金色の目だ。人間の目じゃない。廃坑の深部で長年君臨してきた生き物の目だ。


陸たちを見た。


唸り声が上がった。低く、重く、石壁を震わせるほどの音だ。


六本の脚が動いた。石畳を蹴るたびに、地面が揺れた。一歩ごとに亀裂が広がっていく。


突進してきた。


五メートルの体が、坑道を震わせながら迫ってくる。


速い。あの大きさで、速い。


大和が《竜鱗防壁》Lv.2を展開した。両腕の前に、龍の鱗を模した光の壁が広がった。Lv.2に強化されて、厚みと面積が増している。


激突した。


ドゴン、という音では足りない。金属が爆発したような衝撃が、坑道全体に響いた。


大和が、足を踏ん張ったまま、三歩後退した。石畳に靴の跡が残るほど地面を削りながら、それでも止まった。


防壁に、縦にひびが入った。Lv.2に強化された防壁が、一撃で損傷した。


「っ……重い! 桁が違う!」


雪乃が即座に回復を入れた。


陸は幻視を全力で走らせた。外皮を走査する。分厚い甲殻が全身を覆っている。正面からは刃も魔法も通らない。側面も背中も同じだ。


左の前脚の付け根。


そこだけ、甲殻が薄くなっていた。六本の脚が動くたびに、付け根に隙間が生まれる。動きの瞬間だけ、弱点が露出する。


「弱点は左前脚の付け根。動いた瞬間に隙間が出る。そこを狙え」


その瞬間、小夜が動いた。


陸の肩から、すっと降りた。


のそのそと、ではなかった。


静かに、でも迷いなく、廃坑の主の正面に歩き出した。


「小夜」と陸は言いかけた。


言い終わる前に、小夜が廃坑の主を見上げた。


目が変わっていた。


いつものうとうとした目じゃない。金色に染まった、別の目だ。九尾の子狐の、本来の目だ。


廃坑の主が、小夜を見た。


巨大な体が、止まった。


進もうとして、進めなかった。


六本の脚が、石畳に縫い留められたように固まった。


震えていた。


あの巨体が、震えていた。



恐怖デバフ(上位)発生

対象:廃坑の主

効果:行動不能 戦闘能力七十パーセント低下

発生源:九尾の子狐



「行動不能になった」と陸は言った。「今のうちに弱点を攻める。ハル、左前脚の影を踏めるか」


「もう動いてる」とハルの声が、どこからか聞こえた。


ハルは《気配遮断》Lv.2で完全に消えていた。廃坑の主がハルを認識できない。岩の影を伝って、左前脚の真下まで滑り込んだ。


「影縫い、行く」


廃坑の主の左前脚の影が、光った。


《影縫い》が発動した。


前脚が固定された。動けなくなった瞬間、付け根の隙間が開いた。


「今だ、静」


静が両手を向けた。《連続詠唱》と《魔力過負荷》Lv.2、同時発動。


音もなく、二本の漆黒の炎が走った。《魔力過負荷》Lv.2の効果で、色が深い紫に変わっていた。密度が違う。


二本の紫炎が、左前脚の付け根の隙間に、寸分の狂いもなく命中した。


廃坑の主が揺れた。


HPが大幅に削れた。


宗介が踏み込んだ。《神速斬》、《剣聖の極意》発動。刀が光の筋を描いて、五連続で同じ場所を叩いた。甲殻の割れ目を正確に捉えた。刃が入るたびに、金属と岩がぶつかるような音が響いた。


廃坑の主が大きく傾いた。


「小夜の恐怖デバフが切れる。大和、咆哮で怯みを重ねてくれ」


「任せろ」


大和が《竜の咆哮》を放った。咆哮が坑道に轟いた。石粉が天井から落ちてきた。


弱体化した廃坑の主に、さらに怯みが重なった。再び足が止まった。


「ハル、もう一度」


「もう踏んでる」


《影縫い》、二発目。隙間が再び固定された。


「静、もう一度」


静の両手が動いた。


その瞬間、フェニクスが飛んだ。


陸の肩から、一直線に。


手のひらサイズの体が、坑道の空気を切って飛んだ。


廃坑の主の左前脚の傷口に向かって、一直線に向かった。


「フェニクス」と陸は言いかけた。


フェニクスが傷口に突っ込んだ瞬間、炎が爆発した。


小さな体から、信じられないほどの炎が吹き出した。傷口の中で炎が広がった。


廃坑の主が、初めて叫んだ。


これまでの唸り声とは違う、悲鳴に近い声だった。


「今だ!」


静の紫炎が、フェニクスの炎で広がった傷口に命中した。


宗介が踏み込んだ。《剣聖の極意》が乗った《神速斬》、五連撃。刃が傷口に深く入った。


甲殻が割れる音がした。内側から崩れる音がした。


廃坑の主が、石畳に崩れ落ちた。


六本の脚が折れ、体が傾いて、そのまま横倒しになった。


石畳に亀裂が走った。粉塵が舞い上がった。


しばらく、誰も動かなかった。


粉塵が落ち着いてきた。



廃坑の主 討伐

推奨レベル:45


大幅レベルアップ

Lv.17 → Lv.20(+3)

推奨レベルを大幅超えクリアボーナス発動


新スキル習得・スキルアップ:

陸 :《テイム》Lv.2 → Lv.3

 →使役者との絆が深まるほど能力加算値がさらに上昇する

陸 :《幻視》Lv.1 → Lv.2

 →見抜ける範囲と精度が上昇。対象の本質まで見えるようになる

宗介:《神域斬》

 →《神速斬》の完全上位。音が消え残像すら残らない。十連撃

雪乃:《神の加護》

 →一定時間、パーティ全員に無敵付与。最大五秒・使い切り

大和:《竜騎士の覚醒》

 →一定時間、竜の鎧を纏う。防壁なしで同等の防御力を発揮

静 :《沈黙の爆炎》

 →音のない広範囲爆発魔法。《魔力過負荷》Lv.2との組み合わせで視認不能の爆発が起きる

ハル:《影の王》

 →影の中を自在に移動できる。距離制限なし



「……なにっ」と陸は画面を見た。


「どうした」と宗介が刀を収めながら近づいた。


「Lv.20になった。一気に三つ上がった」


「は?」と全員が止まった。


「推奨レベルを大幅に超えた敵を倒したときのボーナスだ。経験値が通常の何倍にもなった」


「しかも新スキルが全員に出てる」と宗介が自分の画面を確認した。「《神域斬》だと……」


「俺は《竜騎士の覚醒》!!!!」と大和が叫んだ。「ずっと欲しかったやつ!!!!」


「……《沈黙の爆炎》か」と静が静かに言った。でも、声のトーンが少し上がっていた。「これと《魔力過負荷》Lv.2を組み合わせたら」


「《影の王》だ」とハルが画面を見て目を丸くした。「影の中を自在に移動できる。距離制限なし? どこでも行けるじゃないか」


「《神の加護》」と雪乃が確認した。「パーティ全員に無敵付与。五秒だけど、使い方次第で」


「お前はないのか」と宗介が陸を見た。


「ある」と陸は言った。


「何が出た」


「《テイム》がLv.3になった。《幻視》もLv.2になった」


「どう変わった」


「《テイム》は、仲間との絆が深まるほど能力加算値がさらに上昇するらしい」


全員が少し黙った。


「……お前のスキル、戦って強くなるんじゃなくて、仲間と仲良くなるほど強くなるのか」と宗介が言った。


「そういうことになる」


「テイマーって、そういう職業なのか」


「ハズレ職だと思っていたが」


「ハズレじゃないだろ、それ」


ガロードが静かに言った。「それだけ強い相手を倒したということだ」


「…そうだな」と宗介が言った。


「小夜が行動不能にしなければ無理だった。ハルの影縫いがなければ弱点に当てられなかった。静の魔法がなければ削り切れなかった。フェニクスが傷口に飛び込まなければ、まだ終わっていなかった。全員がいないと届かなかった」


「でも、お前は何もしてないぞ」と宗介が言った。


「幻視で弱点を見つけた。方針を伝えた」


「それだけか」


「それだけだ」


宗介は苦笑した。疲れ切った顔の笑いだったが、本物だった。


ガロードが静かに言った。「撤退の判断をしなくて済んだ」


「そうだな」


「お前たちは、俺が言う前に動いた。それがよかった」


全員がガロードを見た。ガロードが、珍しく全員を見渡した。


「……強くなった」


それだけだった。でも、その言葉は坑道に重く残った。



陸は小夜を見た。


小夜は戻ってきて、陸の肩にちょこんと乗った。


目は、またいつもの眠そうな目に戻っていた。


「お前、いつからあんなことができるんだ」


小夜は答えなかった。欠伸をした。


陸は何も言えなかった。


フェニクスも戻ってきた。体中から炎が揺れている。いつもより熱い。


陸の肩に止まって、廃坑の主が倒れた場所を、じっと見ていた。


目の色が、橙から深い紅に変わっていた。


羽が広がり始めた。


手のひらサイズだったフェニクスが、少しずつ大きくなっていった。


「フェニクス」と陸が言った。フェニクスは振り返らなかった。


羽が完全に広がった。


坑道の中で、炎が膨らんだ。天井まで届く炎が、フェニクスの周囲を包んだ。坑道の天井が、真っ赤に染まった。


全員が動けなかった。


五秒間、フェニクスはその姿のままでいた。


それから、ゆっくりと羽が閉じた。炎が収まった。


フェニクスが元の手のひらサイズに戻って、陸の肩に止まった。



《炎翼》解放

フェニクスが本来の力を示した

使役者への加算:炎属性攻撃力 プラス五百



「今の、なんだ」と宗介が言った。声が、まだ少し震えていた。


「フェニクスの本来の姿だ」と陸は言った。


「あれが、いつも肩に乗っている手のひらサイズの鳥と同じなのか」


「同じだ」


「さっきまで傷口に体当たりして炎を吹き込んでいたのも、同じなのか」


「同じだ」


全員が、フェニクスを見た。


フェニクスは陸の肩で、何事もなかったように目を細めていた。くしゃみをした。小さな炎が飛んだ。


「かわいい」と大和が言った。


「かわいい」と雪乃が言った。


「かわいいいいいいい!!!」とハルが言った。


「……さっきまでの緊張感は何だったんだ」と宗介が天を仰いだ。


陸は何も言わなかった。


「俺、今夜も何もしてないんだが」とだけ、心の中で思った。



粉塵がまだ少し漂っていた。


全員がその場に立ったまま、しばらく動かなかった。


新しいスキルの通知がまだ画面の端に残っていた。


「試したいか」と陸は言った。


「試したい」と全員が言った。


「明日だ」


「なんで」


「今夜は疲れた。それに、新しいスキルは万全な状態で試した方がいい」


「……珍しく慎重だな」と宗介が言った。


「推奨Lv.45と戦ったあとだ。これくらいは慎重になる」


「まあ、そうだな」


坑道が静かだった。


廃坑の主が倒れた場所を、全員がもう一度見た。


「行くか」と宗介が言った。


「少し待て」と陸は言った。


「何かあるか」


「幻視に引っかかる。廃坑の入り口の方だ」


「シィラか?」


「違う。人間だ。外から来ている」


全員が顔を上げた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


推奨Lv.45の廃坑の主を、Lv.17で倒しました。Lv.20になって全員が新スキルを習得しました。そして廃坑の外に、何者かが近づいています。次話へ続きます。


続きが気になると思っていただけたら、ページ下の星マークとブックマークで応援していただけると、明日も書き続けられます。感想も一言でも届くと、とても励みになります。

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