↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: akaike


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
106/114

第107話「お祭りの、入り口で」

第百七話「お祭りの、入り口で」


朝の光が、カーテンの隙間から、細く差しこんでいた。


陸は、ゆっくりと起きあがって、伸びをした。フリーランスの朝は、のんびりしている。急ぐ仕事もない今日は、なおさらだった。


台所へ立って、湯をわかす。ゆうべの残りのごはんに、みそ汁と、焼いた鮭。ありあわせの、いつもの朝食だ。窓の外では、鳥が、のんびりと鳴いている。ずっと、大きな旅を続けてきたせいだろうか。こういう、なんでもない朝が、やけにありがたく感じられた。


みそ汁をすすっていると、スマホが ぽん、と鳴った。柚希からだった。


『おはよ。今日、いよいよ予選だね』


『ああ。柚希、今日は休みだっけ』


『うん、ばっちり。……ねえ、お昼、そっち行っていい? なんか、そわそわしちゃって、ひとりだと落ちつかなくて』


陸は、ふっと笑って「いいよ」と返した。


昼前に、玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、柚希が、コンビニの袋を提げて立っていた。


「はい、これ、差し入れ。おにぎりと、から揚げ」


「わざわざ、ありがとな」


「予選前の、腹ごしらえってやつ」柚希は、へへ、と笑った。


二人で、ちゃぶ台をはさんで、おにぎりをほおばる。他愛のない話をした。ゆうべ見たテレビのこと。柚希の職場の、ちょっとした出来事。から揚げが、思ったより、にんにくが効いていたこと。


「なんかさ」から揚げをつまみながら、柚希が、ぽつりと言った。「こうして、ふつうにごはん食べて、そのあと いっしょに世界を救ったり、お祭りに出たりするの。……不思議だよね」


「たしかにな」陸も、頷いた。「でも、悪くない」


「うん。悪くない」柚希が、やわらかく笑った。


昼を食べ終えて、少し休んでから、二人はそれぞれの部屋へ戻った。夜、ゲームのなかで会う約束をして。


その夜。ヘッドセットをかぶると、陸は久しぶりに、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。


ログインすると、拠点には、もうみんなが集まっていた。


「よう、来たな」宗介が、片手をあげる。「そろそろ、会場に向かうぞ」


今日から、王国対抗戦の予選がはじまる。会場は、運営が用意した、巨大な闘技場だという。世界じゅうのプレイヤーが、そこへ集うのだ。


「歩いていくのか?」陸が訊くと、大和が、にやりと笑った。


「まさか。今日は、特別な行き方があるんだと」


拠点の広場に、淡い光の環が ぽう、と浮かびあがっていた。予選の期間だけ、会場へ直接つながる、運営の“門”らしい。ふだんは使えない、お祭りのときだけの、特別な仕掛けだった。


「ほう。しゃれた趣向だな」ガロードが、めずらしそうに、その光をのぞきこむ。


神獣たちも、思い思いに集まってきた。小夜が陸の肩に乗り、フェニクスが頭上をひとまわりする。リヴァイアは、さすがに巨体すぎて、湖からうらめしそうにこちらを見ていた。


「リヴァイアは、留守番だなあ」陸が苦笑すると、海龍はぶうっと水を吹いて、すねたように潜っていった。


「じゃ、行くか」


一行が、光の環に足を踏み入れる。ふわりと体が、あたたかな光に包まれた。


次の瞬間、視界が、ぱっとひらけた。


そこに広がっていたのは、途方もなく、大きな闘技場だった。


見あげるほど高い、円形の観客席が、ぐるりと空をふちどっている。中央には、白い石畳の、広々とした試合場。そして、その周囲を、無数のプレイヤーが埋めつくしていた。


「うわ……すごい人だな」陸が、思わず、目をみはる。


あちこちで屋台のような露店が湯気を立て、実況の声が、会場じゅうに響いている。旗が振られ、歓声があがり、まるで本物のお祭りのようだった。四つの国の色――緑、青、赤、紫の旗が、それぞれの一角で誇らしげにはためいている。


「これが、世界規模のイベント、か」宗介が、ひゅう、と口笛を吹いた。「さすがに、規模がちがうな」


陸たちは、紫の旗のもとへ。東の、ノクターン連邦の陣営だった。腕に覚えのある一匹狼たちが、めいめいに、静かに闘志を燃やしている。そんな、ぴりっとした空気の一角だった。


ところが。


陸たちが、その紫の陣営に足を踏み入れたとたん、あたりの空気が すう、と変わった。


近くにいたソロプレイヤーたちが、いっせいに、こちらを振りかえる。そして、陸のうしろにずらりと従う、神獣たちと老騎士と術師の姿を見て――ごくり、と息をのんだ。


「おい……あれ」


「まさか、あの噂の……」


ざわ、ざわ、とどよめきが、静かに広がっていく。


当の陸だけが、その視線の意味が、よくわからなかった。ただ、あんまり見られるので、ちょっと照れくさそうに頭をかいた。


「なんか、じろじろ見られてるな」陸が、こそっと言う。「顔に、なんかついてるか?」


「ついてないよ」ハルが、こらえきれずに、噴きだした。「ついてるのは、その、とんでもない後ろの大所帯だよ」


会場のどこかで、実況が、次の試合の準備を告げていた。歓声が、いちだんと、大きくなる。


予選は、まだ、はじまってすらいない。それなのに、この、胸のたかまり。陸は、ひさしぶりのお祭りの空気を、胸いっぱいに吸いこんだ。


「さて」宗介が、腕をぐるりと回した。「まずは、下見といくか」


急ぐ理由なんて、どこにもなかった。試合が始まるのは、もう少し先。それまで、この大きなお祭りを、ゆっくり歩いてまわればいい。


「屋台、いっぱいあるね」雪乃が、うれしそうに、あたりを見まわす。「なんだか、いい匂い」


「腹が減っては、戦はできぬ、だな」大和が、さっそく、串焼きの露店に目をつけている。


陸も、みんなのあとについて、ゆっくりと歩きだした。歓声と、実況の声と、屋台の湯気。四つの国の旗が、頭上ではためいている。すれちがうプレイヤーたちが、あいかわらず、こちらをちらちらと振りかえっていく。それでも陸は、気にするふうもなく、ただ、ひさしぶりのお祭りの空気を、胸いっぱいに味わっていた。


難しいことは、なにもない。ただ、こうしてみんなと、お祭りを歩いているだけで、しあわせだった。


――お祭りは、まだ、はじまったばかり。


陸たちの、長い一日は、まだ、暮れそうにない。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


お祭り編、ゆっくりいきます。今回は「予選の入り口」だけ。朝、起きて、ごはんを食べて、柚希とおにぎりをつまんで、それからログインして――会場へ向かうところまで。試合は、まだ一つもしません。


大きな旅を終えたあとの、なんでもない一日。こういう、のんびりした時間を、たっぷり味わっていただけたらと思います。会場の巨大な闘技場、屋台の湯気、四つの国の旗。……そして、紫の陣営に足を踏み入れたとたん、ざわつく周囲。当の陸だけが「顔になんかついてる?」ときょとん。この温度差を、これからじっくり楽しんでいきます。


急がず、ゆっくり。そしてここからしばらくは、ログアウトを挟まず、お祭りの中に“ずっといる”まま進めていきます。予選が一区切りするまで、この空気のまま、のんびり歩いていきましょう。星マークとブックマークで応援していただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。