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『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: akaike


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第104話「だれも、迎えに来なかった」

夕方、陸が夕飯の支度をしていると、柚希から電話がかかってきた。


「昨日の夜さ、あの声、夢に出てきたんだ」柚希の声は、どこか、しんみりしていた。「だれだ、わたしを呼ぶのはだれだ、って。……なんだか、目が覚めても、ずっと耳に残ってて」


「俺もだよ」陸は、鍋の火を弱めた。


「あの子、ずっとひとりだったんだよね。あんな、深いところで」柚希が、ぽつりと言う。「今夜こそ、ちゃんと、話しに行こう」


その夜。一行はふたたび、世界樹の根の道を、地の底へと下りていった。


脈打つ光の空洞は、今夜も、あたたかく一行を迎えた。無数の光の粒が、うれしそうに、陸のまわりに集まってくる。その光に導かれ、陸たちは、空洞のいちばん奥へと進んだ。


大きな、光の塊。ゆっくりと脈打つ、世界の心臓。それは今夜も、深い眠りのなかにあった。


陸は、その前に立った。そっと目を閉じ、《幻視》を、その奥へと沈めていく。


――流れこんできたのは、気の遠くなるほど、遠い記憶だった。


はじまりの世界は、なにもない、がらんとした場所だった。そのまんなかで、この光だけが、たったひとつ、ぽつんと灯っていた。だから、光は、自分の身を分けはじめた。ひとかけらを、緑に。ひとかけらを、獣に。ひとかけらを、人に。すこしずつ自分を分け与えて、からっぽの世界を、いのちで満たしていった。


やがて世界は、緑にあふれ、獣が駆け、人が笑う場所になった。光は、その光景を、いとおしそうに見つめていた。この世界の、生きとし生けるものすべてが、光の子どもだった。


だが、あまりに多くのいのちを生んだせいで、光はすっかり弱ってしまった。少しだけ休もう。そう思って光は、世界のいちばん深いところへ身を沈め、まぶたを閉じた。


――目を覚ましたら、また、みんなに会おう。


だが。


子どもたちは、広い世界へと散っていった。長い長い時が流れ、やがて、みんな忘れてしまった。自分たちを生んでくれた、この光のことを。世界の底でたったひとり、目覚めを待ちつづける、親のことを。


誰も、来なかった。


何千年も。何万年も。光は、暗闇のなかで、ただ待ちつづけた。いつか子どもたちの、たったひとりでもいい。自分を思い出して、迎えに来てくれるのを。……けれど、ついに誰も、来なかった。


そうして光はあきらめ、ふたたび、深い眠りへと沈んでいった。もう目覚めても意味がない、とでもいうように。


陸は、目を開けた。頬を、涙が、伝っていた。


「……そうか」声が、震える。「お前が、みんなを生んだんだな。この世界の、いのち全部を。……なのに、ずっとここで、ひとりで。誰かが迎えに来るのを、待ってたんだな」


その言葉に、眠っていた光が、びくりと揺れた。


『……だれだ』古い声が、また、響く。だが今度は、かすかに、震えていた。『わたしを……知っているのか。わたしの、ことを……』


「ああ、知ってるよ」陸は、まっすぐに、その光を見上げた。「お前が、この世界の、はじまりだ」


『……もう、だれも来ないと、思っていた』光が、ぽつり、ぽつりと言葉をこぼす。『わたしのことなど、みな忘れてしまったのだと。……生んだ子らは、みな、わたしを置いていってしまった』


「忘れてなんか、ない」陸は、首を振った。「忘れられるわけが、ないんだ。……だって、ほら」


陸がそっと手をのばすと、あたりの光の粒たちが、いっせいに大きな光へと寄りそった。頬を、すり寄せるように。


陸の肩の小夜が、そっと頭を垂れた。フェニクスが、リヴァイアが、ジオトレントが、めいめいに身をかがめる。神獣も、精霊も、ここにいるすべての生きものが、遠い遠い昔、この光から分けてもらった、ひとかけらのいのち。みんな、その光の子どもだった。


「みんな、ちゃんとお前から生まれたんだ。ただ、帰り道を忘れてただけ。……お前を嫌いになったやつなんて、ひとりもいない」


大きな光が、ふるえた。長いあいだ、こらえてきた何かが、あふれだすように。


その瞬間だった。


ずずん、と。世界の底が、大きく揺れた。


眠りから覚めようとする光の鼓動に合わせて、空洞全体が、脈打ちはじめる。岩の壁を走る光の脈が、いっせいに輝きを増していく。生まれかけの鼓動が、世界のすみずみへと、波のように広がっていくのが、わかった。頭上のはるか遠くで、地上の世界樹がこたえるように、まばゆく燃えあがるのが伝わってきた。


「……始まる」ガロードが、剣の柄を握りしめた。その顔は、青ざめていた。「主……儂が、恐れていたことが。神々が、面白がって見ていた、その先が。あの光が、目を覚ましたとき……この世界が、どう変わってしまうのか。誰にも、わからん」


「あわてては、いけない」ノクスが、静かに、けれど鋭く言った。「その者は、まだ目覚めきってはいない。何千年もの孤独は、そう簡単には癒えない。……いま無理に起こせば、また絶望して、二度と目覚めぬかもしれぬ」


陸は、ふるえる光を、じっと見つめた。あの守り人も。あの灯りも。傷ついた心は、一日では、癒えなかった。この、いちばん古くて深い孤独なら、なおさらだ。


「……わかった」陸は、静かに、けれど力強く告げた。「なあ。お前は、ひとりじゃない。お前の子どもたちは、まだちゃんと、お前を愛してる。……俺が、それを証明する。だから、もう少しだけ待っててくれ。今度こそ、ちゃんと迎えに来るから」


大きな光が、ほんの少しだけ、あたたかくまたたいた。まるで、うなずくように。


その夜も、めいめいが光の粒になって、溶けていく。陸も静かに目を閉じ、その輪郭を、脈打つ光のなかへほどけさせた。


開発室では、警報のような通知音が、鳴りやまなかった。


「三浦さん、世界が……世界データ全体が、揺らいでます」こはるの声が、うわずっていた。「あの、いちばん底の光。……あれが目を覚ましかけただけで、世界じゅうの生命データが、ざわめきはじめて」


三浦は、モニターを、食い入るように見つめていた。四つの色に輝く世界樹が、地の底の光と共鳴するように、脈打っている。


「……あの光が、完全に目を覚ましたとき」三浦は、ごくりと、唾を飲んだ。「この世界は、俺たちの知らない、まったく別のものに生まれ変わるのかもしれん。それが、いいことなのか、悪いことなのか。……それすら、俺にはわからないんだ」


ヘッドセットを外すと、陸の胸には、あの光のふるえる声が、まだ残っていた。もう、だれも来ないと思っていた、と。


ほどなくして、スマホが震えた。柚希からだ。


『あの子、泣いてたね』少し間があって、もう一通。『みんなの、お母さんみたいな存在なのに。……ずっと、ひとりぼっちだったなんて』


『ああ』陸は、静かに返した。『でも、もう、ちがう。次で、ちゃんと、迎えに行こう。みんなで』


窓の外の夜空を、陸は見上げた。世界のいちばん深いところで、ひとり眠る、いのちの母。次の夜、その長い孤独に、ようやく終わりを告げに行く。旅の、いちばん最後の一歩を、踏みだすために。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


世界のいちばん深いところで眠っていた、大いなるいのちの、正体が見えてきました。


それは、この世界のすべてのいのちを生んだ、はじまりの光。がらんとした世界を満たすために、自分の身を少しずつ分け与えて、緑を、獣を、人を生み出した――みんなの、お母さんのような存在です。けれど、力を使いはたして世界の底で眠りについたあいだに、子どもたちは広い世界へと散り、やがて、生んでくれた親のことを忘れてしまった。何千年も、何万年も。誰ひとり、迎えに来なかった。


いちばん深くて、いちばん古い孤独。それでも陸は、はっきりと告げます。「忘れられるわけがない。だって、生きてるものはみんな、お前の子どもなんだから」。神獣たちが、精霊が、そっと頭を垂れる場面――みんな、あの光から分けてもらった、ひとかけらのいのちなのですね。


そして、その目覚めとともに、世界そのものが揺れはじめました。ガロードが恐れていた「その先」が、いよいよ動き出します。次回、陸は、いのちの母の長い孤独に、ついに終わりを告げに行きます。


星マークとブックマークで応援していただけると、とても励みになります。旅の最後の一歩を、どうか見守っていてください。

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