↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『戦闘力ゼロのテイマー、なぜか神様に気に入られながら気づいたらギルド最強になってた』~ハズレ職だと笑われた俺、神獣を仲間にしてしまった件~  作者: akaike


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
102/114

第103話「世界のいちばん深いところ」

その夜、ログインの前に、柚希から電話がかかってきた。


「あのね、しばらく、休み取ったんだ」柚希の声は、少し照れくさそうだった。「最後の旅だもん。ちゃんと、最後まで見届けたくて」


「そっか」陸は、静かに笑った。「ありがとな」


「なに言ってんの。あたしが、行きたいだけ」柚希が、ふふ、と笑った。「今夜、行くんでしょ。あの、世界のいちばん深いところ」


「ああ」陸は、窓の外の夜空を見上げた。「行こう」


その夜の拠点は、いつもと空気がちがっていた。


宗介たちも、ガロードも、シィラも、みな世界樹のもとへ集まっている。七柱の神々まで、そろって顔を出していた。ノクスも、ガイアも、ゼフィロも。旅の終わりを、見守るために。


「……無事に、戻ってこいよ」ラドンが、腕を組んで、そっぽを向いた。「べつに、心配して来てやったわけではないからな」その尾が、落ち着かなげに、ぱたぱたと揺れている。荒ぶる雷神の面影は、もう、どこにもない。


「準備は、いいかい」ノクスが、静かに問うた。


陸が頷くと、世界樹がこたえるように、ざわりと枝を鳴らした。


そのときだった。ずずん、と地が揺れ、世界樹の根もとの地面がゆっくりと割れていく。太い根がみずから身をよじり、地の底へと下る大きな道を、つくりはじめた。


「この樹の根をたどれば、世界のいちばん深いところへ行ける」ガイアが、厳かに告げた。「いのちの源が眠る場所へ、な。だが、この道を開けるのは、この樹を育てた者――お前だけだ」


陸が根にそっと手を触れると、根はうれしそうに脈打ち、下へと続く光の道を照らしだした。


「行ってくる」


陸たちは、その根の道を、下りはじめた。


どこまでも、下へ。太い根が壁となり天井となって、一行を地の底へと導いていく。上を見あげても、もう、出てきた地上は見えない。下りるほどに空気があたたかくなり、かすかな鼓動のようなものが、足の裏から伝わってきた。まるで、生き物の体のなかを、下っていくようだった。


やがて一行は、途方もなく広い空洞へと、たどり着いた。


思わず、誰もが息をのんだ。


そこは、世界の、いちばん深い場所だった。見あげるほど高い岩の壁が、脈打つように、ほのかな光を宿している。どくん、どくんと、大地そのものがゆっくりと息をしているようだった。あたたかく、古く、生きている。誰ひとり、見たことのない場所だった。


「これは……」シィラが、かすれた声でつぶやいた。「世界の、根そのものだ。すべての生命が、ここから生まれ、いつかここへ還っていく……」


そのときだった。空洞のあちこちから、ちいさな光の粒が、ふわふわと集まってきた。


「うわっ」大和が身構える。「なんだ、こいつら」


だが、その光たちに、敵意はなかった。むしろ、陸のまわりに、うれしそうにまとわりつく。ほんのりとあたたかく、まるで久しぶりに会った友を、迎えるように。


「……なついてくる」陸が、目をまるくした。


「生きとし生けるものは、みな、お前を知っているのさ」シィラが、目を細めた。「お前が、いつだって、いのちに手を差し伸べてきたから。ここは、そういう場所だ。お前を拒む理由なんて、どこにもない」


光の粒たちは、陸の肩や手のひらの上で、うれしそうに跳ねた。柚希がそっと手をのばすと、その光は、彼女の指先にもちょこんと止まった。あたたかかった。触れているだけで、胸の奥がじんわりとほどけていくような、やさしい光だった。


光の粒に導かれるように、一行は、さらに奥へと進んだ。


空洞のいちばん底に、それはあった。


巨大な、光の塊。ゆっくりと、脈打っている。まるで、大きな、大きな心臓のように。近づくにつれ、あたりの空気が、どくん、どくんと震えた。鼓動に、合わせるように。それは、この世界のすべての生命が、そこから流れ出す大いなる源――生命の、みなもとだった。


だが、ガロードの顔から、血の気が引いていた。


「……主。この、奥だ」老騎士の声が、かすれる。「とてつもなく大きな、何かが……眠っておる」


陸が、そっと一歩、踏みだした。


その瞬間。


脈打っていた光が、ふわり、と大きくふくれあがった。眠っていた何かが、ゆっくりと、身じろぎする気配。そして――。


『……だれだ』


古い、古い声が、みんなの胸の奥に直に響いた。とてつもなく大きく、けれど、どこかひどく寂しげな声だった。


『わたしを……呼ぶのは、だれだ』


陸は、その声に、胸を突かれた。これまで出会ってきた、どの存在ともちがう。あまりに大きく、あまりに古い。だが、その奥にあるものは、いつもと同じだった。長い長い時を、たったひとりきりで過ごしてきた者の――底なしの、寂しさ。


その声とともに、大きな光がゆっくりと明滅する。まるで、長い長い眠りから、目を覚まそうとするように。


陸のまわりに集まっていた光の粒たちが、いっせいに、その大きな光のほうへ向きなおった。まるで、親の目覚めを待ちわびる、子どもたちのように。


「起きようと、してる……?」柚希が、息をのんだ。


だが、次の瞬間。ふっと、光がしぼんだ。まるで、まだ覚めきれない、とでもいうように。あたりを照らしていた光の道も、そっと、勢いを弱めていく。


「……今日は、ここまで、みたいだね」ノクスの声が、静かに響いた。「あれは、まだ、深い眠りのなかにいる。無理に起こしてはいけない。急いてはならないよ」


陸は、明滅する光を、じっと見つめた。あの寂しげな声が、まだ、胸に残っている。


「わかった。……また、来る」陸は、静かに告げた。「お前が、ちゃんと目を覚ませるように。今度は、俺たちが、そばにいる」


光が、ほんの少しだけ、あたたかくまたたいた気がした。


その夜も、めいめいが光の粒になって、溶けていく。陸も静かに目を閉じ、その輪郭を、脈打つ光のなかへほどけさせた。


開発室では、こはるが、モニターにかじりついていた。


「三浦さん……世界樹の根が、マップの、いちばん底を突き破りました」こはるの声が、震えている。「その下に……データの、ない場所があるんです。わたしたちが、作ってもいない、領域が。あの子たち、そこへ、潜っていって……」


「地図の、外か」三浦は、画面に映る脈打つ巨大な光を、じっと見つめた。「なあ、こはる。あの光は……たぶん、俺たちが作ったものじゃない。この世界が生まれたときから、ずっと、あそこにあったんだ」


三浦は、ふと、口をつぐんだ。


「……この世界の、心臓だよ」


その夜、観測者アルテのログに、これまで一度も記されたことのない、短い一文が刻まれた。


『目覚めのときが、近づいている。世界のいちばん深いところで、ずっとひとりきりで眠りつづけてきた、いちばん古いいのちの――』


ヘッドセットを外すと、部屋のなかは、しんと静まりかえっていた。陸の耳には、まだ、あの声が残っている。だれだ、と。わたしを呼ぶのは、だれだ、と。


ほどなくして、スマホが震えた。柚希からだ。


『あんな場所が、あったんだね』少し間があって、もう一通。『……あの声、すごく、寂しそうだった。早く、起こしてあげたいね』


『ああ』陸は、静かに返した。『あいつも、ずっと、ひとりだったのかもな』


窓の外の夜空を、陸はじっと見上げた。世界のいちばん深いところで、ずっと眠りつづけてきた、大いなるいのち。旅の終わりは、もう、すぐそこだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


いよいよ、最後の旅がはじまりました。世界樹の根をたどって、世界のいちばん深いところへ。たどり着いたのは、これまでのどの場所ともちがう――大地そのものが脈打つ、生命の源でした。


これまでは、忘れられ、傷ついた者たちが、陸を風で、闇で、拒みました。けれど、ここは正反対。生きとし生けるものが、みんな、陸を歓迎してくれる。だって、陸はいつだって、いのちに手を差し伸べてきたのですから。あの光の粒たちの、あたたかいこと。


そして、その奥で眠っていた、大いなるいのち。『わたしを呼ぶのは、だれだ』――とてつもなく大きくて、とてつもなく寂しいその声。ずっとひとりきりで眠りつづけてきた、この世界のいちばん古いいのち。……やっぱり、この子も、ひとりだったのですね。


「実装した覚えがない」力の正体に、開発室も、そして観測者アルテも、静かにざわめきはじめました。旅の終わりは、もう、すぐそこです。


星マークとブックマークで応援していただけると、とても励みになります。最後まで、どうか見守っていてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。