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第三部第四話 別離



「うー。頭ががんがんするぅー」

 見事にシャインはクーグルにつぶされ二日酔いになってしまった。その倍以上飲んでけろりとしているのがクーグルである。

「うさばらしには酒が一番だからね」

 とさらりと前髪をかきあげる。いいかげんこの気障な行動も見慣れてしまった。

 そこへおえーとシャインがえづく。

「動くな。吐くのをがまんしろ」

 バースの無理な注文にアンメリーが笑う。その少女の笑い声にフェリアナの笑い声がかさなる。酒で忘れられるぐらいならいくらでも飲んで忘れたかった。それでもフェリアナのことは心の奥底に刻み込まれていた。

「まぁ、うわばみのクーグルと一緒じゃかわいそーだけどなぁ」

 豪快な笑いでバースがシャインの背中をばんとたたたく。それだけで吐きそうになってシャインは硬直した。必死に耐えているのがありありとわかる。

「人のことが言えるのかい? バース君」

 妖しく光る瞳にバースはうっと詰まる。

 あの二人から残されたバースたちに何かあったかは明瞭だった。アンメリーのバースを見る目が違う。憧れというか恋に落ちた瞳だ。バースもまんざらではないみたいだ。

「すくなくともお前みたいな奇術はつかわん」

「どうだかね」

「クーグル!」

「頼むから俺の近くで叫ばないで~~~~」

 シャインの情けない声とバースの大声と重なる。

「これではつかいもんにならん。それ相応に成長しておけばよかったな。コンナ状態ではフェリアナを助けられないぞ」

 その言葉にシャインは淡々とした表情で受け取って壁にもたれかかった。

「フェリアナはすぐに取り戻す。フェリアナは俺と一対なんだからな。どちらかがかけてもだめなんだ。で、あの古文書を俺以外に読める奴いるのか?」

 問われた三人はさぁ?と顔をかしげて見合った。

「そんなに難しいのか?」

 シャインがうなずくと嘘だろう?とバースがつっこむ。冗談だと思っているらしい。

「確かに疲れる作業だな・・・」

 クーグルが前回のことを思い出してはげんなりした声を出す。

 その様子にほら、みろ、といった表情がシャインの顔に浮かぶ。

「俺は行くよ。はいつくばってでも。そこに手がかりがあるんならなんだってしてやる」

 むきになってシャインは立ち上がった。まだふらふらしているが気合がこもっている。恋は盲目か・・・。奇しくもバースもクーグルも思ってしまう。若者の恋へのエネルギーにはもう二人は及ばない。

「頼むから吐かないでくれよ」

 不安そうにバースが言う。クーグルも相変わらず熱血少年だね、と小さくつぶやいただけだった。アンメリーは男三人のやりとりにはらはらしては顔を交互に見る。いつのまにかバースを中心とした組み合わせが出来ていた。フェリアナがさらわれて開いた穴をバースは見事にふさいでくれた。

 だが、とクーグルは思う。この綺麗過ぎる純粋すぎる組み合わせははたして幸運を呼べるだろうか。バースでさえいろいろ経験しているもの健全な体に健全な魂が宿る、風だ。クーグルは不安だった。今にもぼろぼろに傷ついていく仲間の姿が脳裏に浮かぶ。

 だが、そんなことは実際になってみないとわからない。クーグルは頭を軽く一振りすると考えを振り払った。もちろん前髪を気障に書き上げる癖もついていた。

「お前も二日酔いか? 底抜けの癖して」

 がははとバースは豪快に笑い柔和な表情でクーグルは軽く否定した。

 兵隊のマーチよろしく一向はぞろぞろと王立図書館に向かった。ここは一般人に公開されてはいない。なぜなら政治の公文書などが入っているからだ。民衆の反乱を防ぐためには必要な処置ではあった。大きな赤い門の脇に小さな門がある。そこから貴族達は出たり入ったりしている。大きな門はこの地域の奥まったところに住む王が儀式の時に使うだけだ。ほとんど飾り物である。そんなことはシャインにたちにとってはどうでもいいことである。要するに彼らは第四の聖具を探し出し、クーグルの兄の場所を割り出すことが専決だった。だが、その明らかに典型的な行動派クーグルの兄の思惑には待っていると感じていた。それでもそれに応じなくてはいたずらに時間を進ませるだけだ。みな、罠とわかっているくもの巣に向かっていった。

 だが、またここで困難があった。図書館に向かおうとした一行は扉の前で止められた。

「許可証をお願いします」

「クーグル」

 バースが振り返る。クーグルがさっと取り出してみせる。無表情な係員の顔が不吉なことをいうのではないかとシャインは一瞬思う。

「期間が切れています。改めて申請をお願いします」

 無情にも扉は閉ざされてしまった。

 くるりとクーグルはきびすを返して歩き始めた。

「もう一度申請しなおそう」

「そんな悠長なこと言っていていいのか? この間にもお前の兄さんが・・・!」

 バースが語気を荒げて抗議をするが、シャインは大丈夫、という。

「船長。こう見えてもクーグルはいい奴なんだ。やるといったからにはやりとげるさ」

 認めるのはしゃくだが、若さの代わりに知識を持っているクーグルにはシャインは及ばない。

「シャインまで何、悟ったようなこと言っているんだ? お前ら変だぞ。酒のんでおかしくなったんじゃないのか? こう妖しい薬でも入れられて」

 バースの心配げな声に思わず笑いそうになったシャインが答える。

「クーグルって結構いい奴だからさ。大丈夫」

 二人の会話は当然本人にも聞こえている。クーグルはひたすら歩いているが人にぶつかること数回。

 そしてついにクーグルは振り返った。にっこりと世の淑女ならば魅了されてしまうような微笑だ。だが、これは悪魔の微笑み。男でこの微笑を見てまともな状態になったことはないという・・・。

「君達のほめ言葉に酔っているほど馬鹿ではない。君達には我が家の文書を読む栄誉を与えよう」

 ありがたくない栄誉を受けてシャインはまたうへーとうなった。

 

 一方、フェリアナとカイルも文献を読んでいた。大半はカイルが処理していたが。

「よくそんな文字が見ていられるわね。頭の中が古代文字で行進しているわ」

 げんなりとフェリアナが言う。その言葉を聞いたのか聞いていないのかカイルは飲んでいた紅茶のカップを机に置いた。そのおき方といい優雅というには気障なそぶりがクーグルに酷似しているのをみてフェリアナはにやりと笑ってしまった。本の世界から戻ってきたカイルがどうしたのかと問う。

「いえ」

 フェリアナはすっとぼける。

「この私の前でとぼけるなど大仰なことが出来るね」

 そう言って前髪をさらりと上げる。もちろん優雅に気障に、だ。

 フェリアナはぷっと吹き出した。

「何か?」

 意味不明の行動にカイルがきつく尋ねる。

「クーグル・・・いえ、カイルといわなければならないわね。あんまりにもアベルと姿かたち仕草が一緒で思わず笑ったのよ。とくに気障なところがね!」

 フェリアナは口に手を当てて笑うのをこらえる。ここで爆笑したらカイルの名誉が壊れる。

「私には・・・」

 フェリアナを無視して言おうとした言葉をフェリアナがささっと奪い取ってしまう。

「弟はいない、でしょう? でも家族はいいものよ。時として邪魔だけれど」

 敏感にフェリアナの声に寂しさがまぎれていたのをカイルは言う。

「失礼だが、君には?」

「いないわ。両親も姉も伯母もみな・・・遠いところに行っているわ」

 フェリアナが遠い目をして故郷を思い出す。顔も覚えていない両親。兄弟。そしてもっとも愛情をそいでくれた伯母も病で去ってしまった。だが、フェリアナは瞳に強い光を取り戻した。愛すべき仲間のためにそして慕っている少年のために。

 かならず平和な未来を取り戻すわ。

「そうか・・・」

 フェリアナが考え込んでいる間にカイルはまた本の世界に戻っていった。


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