第三部最終話 銀のしずく 金のかがやき
図書館の文献はなし、さらに古い文献を伝えているクーグル家のものもだめ。シャインたちは頭を抱えた。
もう本の字などみたくはない、と思っているシャインがめんどくさそうにクーグルに問う。
「第四の聖具。すでにお前のにーちゃんが持っているんじゃないのか? アンの覚醒のとき俺の剣が共鳴してた。フェリアナもそうだと思う。たんにアンの聖杯に共鳴してアンを目覚めさせるだけではおかしいぐらいだった。黙っていたけれどねー」
シャインは軽く言うとかんきつ類の一片を浮かべた水を一気に飲んだ。
お前、とバースが頭をたたく。
「そういうことはもっと前に言え! よけいな時間使っただろうが」
「だってさー。俺だってわかなかったんだからしょうがないだろう。アンの聖杯に共鳴したのか四つがそろって共鳴したかなんかわからない。俺が今言ったのは憶測だ」
この際、とシャインは言う。
「にーちゃんと手を組んだらどうだ?」
「あほか」
バースがまたシャインの頭をぽかんとなぐる。
「やつはなんとか王国を作る気だぞ。んなもん作るの手伝って何がおもしろいんだ」
「それに兄の居場所がわかっても強過ぎる結界の中をさまよって野垂れ死にだな」
これまためんどくさそうにクーグルが言う。
「俺の剣で壊せないか?」
「却下」
あっさりとクーグルは言い捨てる。
「無理だ。兄の結界は神でさえ入れないというほどの完璧なものだ」
じゃぁさー、とのんびりした声でシャインは言う。いつのまにこんなにのんびりとするようになったのかはバースたちも不思議だ。あれだけフェリアナに執着していたのに。少年も成長するというところか。
「いっそのこと聖具を必要とするところに集まって待っているとか」
まさに飛んで火にいる夏の虫という提案にバースがまたぽかりと頭を殴る。
「そんなもんわかるわけないだろう? ばらばらにちらばっていたんだ。一箇所に集まるなんて誰が決めた?」
「俺」
ぽかん、今回四度目のたたきである。
「英雄アルクでも光の剣と安らぎの宝玉の話しか残ってないんだぞ。一箇所に集まる必要性などどこに書いてあるんだ」
「だけど、四つ集まれば千年王国が出来る。絶対に一箇所に集まるはずだ」
シャインは確信を持って言う。
「では、今度はその筋をあたるのか?」
げんなりとしてクーグルが言う。こんなにげんなりとしているのはシャインもはじめてみる。真面目になにかをすることは彼にとっては何年ぶりかのようだ。
「ま、ここで向こうが出てくるのを待っていたらいいんじゃない?」
シャインはのんびりと言う。
「そんなのんびりしていいのか?! フェリアナだって・・・」
フェリアナの名を出したとたんシャインのまなざしがきつくなった。視線で殺せるものなら殺してしまえとも言わんばかりだ。シャインはわざと軽く振舞っていたのだ。心の中ではフェリアナのことをひたすら想っていたのだ。くったくのなかったシャインに大人の片鱗を見てバースは黙った。
「俺の剣がラディス、フェリアナの安らぎの宝玉がハディス。聖杯がアルディス。残っている大陸はミディスとカディス。そこにも聖具があるのは考えられないよなー」
考えつつシャインが言う。半ばつぶやきの様だ。
「四つの聖具は大陸でそろった。残っているのはないだろう。すると残るは空か海?!」
シャインは自分の言葉に驚きながら言っていた。
一方、フェリアナとカイルはさらに古い文献を見つけていた。だが、あまりにも痛みがひどく読みにくい。さらに伝わっている古代語よりも形式は古かった。とても読める状態ではない。
「ここまで古いとどうしようもないな。修復もかなわないだろう」
ため息をついてカイルは古文書をあるべき場所に収めた。
連れ去られたもののクーグル特有の気障ったらしいところを覗けば弟のもの憂げさはなくさわやかで好青年だった。だが、アイリーンのことに関すると豹変してしまう。彼の心を取り戻すことは出来ないの? ちがう、とフェリアナは想う。
自分の凍った感情が優しい少年の心で溶かされたようにカイルの心も戻ってくるに違いない。それは誰かかということは分からないが。希望的観測に違わないがフェリアナは祈るような気持ちで思いなおした。
カイルが席を離れている間に古文書を手に取ったフェリアナは後世に残る古代文字と酷似するものをみつけた。
「これは空・・・で。これは海?」
フェリアナは即刻カイルに報告しに部屋を出て行った。
どこの海なのかそれとも空なのかあるいは双方ともにかかわるのか問題だった。世界は広い。海はどこまでも続いている。地球という惑星であり、丸いのだと知っているのはアンメリーだけである。彼女がその知識を披露して一周したら同じところに戻ると教えても彼らは納得しなかった。普段からポヤーっとしているアンメリーである。かつての自分が育った文明のすごさを話しても誰も相手にはしなかった。いや、バース以外は。そんな時手紙が届いた。短い文書である。
“フェリアナを返してほしくば魔の海に来い”
たったそれだけだった。
「罠、か?」
バースが考え込む。いや、とクーグルは首を横に振った。
「フェリアナのあの指の魔法で割り出したのだろう」
魔法?とアンメリーが問いかけるがそれは無視された。バースが後で教えると一言付け加える。
「バース」
アンメリーに話していたバースはにやり、と笑って親指を立てる。
「あいよ。魔の海に出かけられるのは俺しかいない」
バースは快く引き受けたのだった。
「この船もっと速くならないかなー」
今にも海に飛び込みそうなシャインがぶつぶついう。
「文句言うな。ほら、働け」
バースはシャインの尻をぴしゃりとたたいた。
最新の速船で来ているにまるで歩いているかのごとく遅い。アルディスはともかくその間にある魔の海もそれなりに遠いのだ。シャインはあせる気持ちをただ甲板掃除で紛らわせていた。
そして長い時間をかけて魔の海へと入った。ここからは不可思議な力と戦いながらのカイルとの戦いにはいる。
「気をつけろ。何しろあのカイルだからな」
バースはシャインに注意を呼びかける。彼はすらり、と鞘から剣をとりだした。淡く光っている。バースは舵を取って船を進ませる。ほぼ真ん中に来た頃、シャインの剣が強く光った。
「てめぇらがいるのはわかってる。さっさとフェリアナを返せ」
シャインが空に向かって叫んだ。空からすぅっとフェリアナとカイルの姿が現れた。二人とも浮いている。
「長い間、彼女を借りていて申し訳なかったね。剣と聖杯を渡してくれたら返そう」
「なに、茶番言ってるんだ。それならあの時点で俺達から聖具を終いだろうが。必要なのは継承者と聖具だ」
「茶番・・・と?」
カイルの瞳がすぅっと豹変した。
「継承者などその時代が決めたこと。いまさら意味などない。四つさえあれば事足りる」
言いながらカイルは片手を上げた。
「シャインよけて!」
フェリアナの声が届く。
カイルの手先からなにか炎の様なものがでてきてシャインを直撃しそうになった。バースがあわてて甲板に水をかけて炎を消す。
「船を遊び道具にするんじゃねー。こちとら大勢の人間の命を預かってるんだ。戦いならよそでしろ!」
バースがでかい声で叫ぶ。
「そうだね。四人がそろえば簡単だ」
カイルはそういうと呪文を唱え始めた。
「双転位!」
カイルの魔力がアンメリーとシャインを包んで上空へと導く。まるでなにか透明な球に包まれているようだ。
「これで平等といえるだろう」
カイルが妖しげに微笑む。そしてふっと優しい声音を出してまた別の顔を見せた。
「久しぶりだね。アイリーン」
その表情にシャインはなにかを垣間見た気がする。それがなんであるかはわからなかったが。
こいつ、こんな奴だったか? たんなるきちがいだと思っていたが違うのだろうか?
シャインの中で敵か味方かと考えが混乱する。だが、フェリアナを連れ去ったのもナイフを突き刺したのも確かだ。
こいつは悪い奴だ。
そう自分に言い聞かせるが以前、アンメリーが哀しい人と言っていたのを思い出す。どれが本当のカイルなのか分からず気が散る。
そこへナイフが頬を掠める。シャインは傷を片手でぬぐった。少し血が手につく。
「甘いよ。君は。考えていることがすぐに顔に出る。私は魂を売った男。そう覚えておいてくれたまえ。いや、そんな時間はないかもしれないがね」
カイルの静かなそして狂気のような殺意にシャインはどうしたらいいのかわからなくなった。
「シャイン、冷静になるのよ」
フェリアナの声でシャインは即断した。するり、と剣を抜いた。冷静に考えて敵、と判断したのだ。
「そっちがその気ならこちらからも行くぜ」
そしてフェリアナをとり戻す。
シャインはそこが空の上であることも忘れて光の剣をかざして走り出す。
「甘いな」
カイルは短剣で応対する。金属音が響く。次第にシャインの顔色が悪くなっていく。
剣筋は負けないが体力は大人のカイルのほうが上だった。
“戦ってはだめ。あなたたちが一つにならないといけないのよ。”
どこからか慈愛に満ちた声が聞こえてきた。剣の打ち合いが止まった。
「今の誰の声だ?」
シャインは声の主に問い返した。
声の主は答えた。
“あなた達が選ばれたのは世界の捌きへの問いかけ。決して戦ってはいけないわ”
やさしい声が四人を包み込む。カイルは呆然としから短剣を取り落としてしまった。そのまま四人は海へと落下し始めた。今まさに海に落ちてしまうかというときすさまじい光があふれ出した。
ずずっと地鳴りが響いてくる。
「何が起きるんだ?」
シャインも呆然と起きていることを見守るしかなかった。
四人とバース、クーグルたちの目の前で大陸が浮かび上がってきた。
「なんだぁー?!」
シャインが叫ぶ。大陸の中心には地下へ下りていく階段が見えた。
“さぁ、最後の審判よ”
女性の導く声で四人を包んでいた球体は大陸に到達した。地に着くと球体は自然とぱりっとはじけとんだ。
“中に入るのよ、私はここで待っているわ”
そう言って女性はそこにとどまっているようだった。カイルが切ない目をしている。シャインは不思議な気持ちになっていた。あんな瞳をするカイルは見たことが無かったからだ。そして似たような優しげな瞳をした女性がその後ろにいたのだ。誰だろうか。だが、そんなことを考えている暇は無かった。声のままに進むしかなかった・・・。
言われるままに彼ら四人は階段を下りていく。姿の見えないその女性の姿をすでにカイルは見つけていた。そして振り返り様につぶやいた。アイリーン、と。
万感の思いでつぶやいたカイルに女性は頷いた。カイルはそれをみると狂気の顔から青年の顔に戻り、階段を下りていった。
階段はどこまでも続く。地の底へよりも深いのではないかと思わせられる階段だった。一歩進むごとに壁にかけられた明かりが足元を照らしていく。
シャインはフェリアナの手をしっかりとつないでいた。久しぶりに感じる愛しい人の手のぬくもりにフェリアナは泣きそうになるのを必死でこらえていた。
いいかげん終わってくれよ、とシャインがつぶやきそうになったところで扉が前に現れた。四つの丸い手のひら形のくぼみがある。どうやらそれに触るらしい。カイルが言った道具さえ集まればいいわけではなかったようだ。触れるとずずずっと扉が開いた。中は天上高く聖域だと一瞬で感じられるような空間だった。それぞれの壁面に型がある。そこに聖具をおさめるらしい。
シャインは光の剣を。フェリアナは安らぎの聖具を。カイルは破壊の槍を。アンメリーは涙の聖杯をそれぞれあてはめた。
すべてがあてはまったその瞬間空間がゆがんだ。時空間とでも言おうか。まったく見知らぬ空間に四人は導かれていた。
「ここは?」
フェリアナがつぶやく。その一方でアンメリーは混乱した。
「い・・・いや。もう一人になるのはいやーっ!」
アンメリーの心の叫びが空間にこだました。出口を必死で探し回る。シャインが手を引いてなだめた。
「大丈夫だから。大丈夫」
シャインがまじないの様に言っているとアンメリーが次第に落ち着いてくる。
フェリアナは場所が場所でなければシャインを追い回しているだろうがそんな場合ではない。フェリアナもアンメリーの肩に手をかける。
「アイリーン。ここがどういう場所か知っているのね」
おびえた表情でアンメリーはうなずく。アンメリーという名前に変わったことはフェリアナとカイルは知らない。したがってアンメリーの名前とアイリーン混濁するがいたしかたがない。
「ここは夢のある場所じゃない。滅びの国」
必死にアンメリーは語る。
「滅びの? では千年王国の話は?」
「そんなものありません。千年王国を夢見る者はすべて滅ぼされるのです。私の国もそうでした。他の三人が私を逃がしてくれたのです。そして二度とこんなことがないように私をのちの時代に残しました。でも結局私は記憶を失ってまたこの地に・・・」
「ここが千年王国だというのか。アイリーンっ!!」
カイルがアンメリーの肩をわしづかみして揺さぶる。
「ちょっとやりすぎよ」
フェリアナが止めようとするが効果はない。アンメリーは痛さから顔をゆがめる。
「シャイン」
フェリアナが言うと、犬代わりに扱われるシャインはぽかりとカイルをなぐる。他にも人がいるとわかってようやくカイルは動きをとめた。すまない、とアンメリーに謝るが彼女からはおびえた表情しか伺えなかった。
「すまない。動揺してしまった。私の望みはただこんなものでなく、ただもう一度もう一度あの人と一緒にいたかっただけなのだ・・・」
カイルの悲痛な心からの言葉に三人はただ目を伏せて聞くしかなかった。
“おぬし達は千年王国を望むものか?”
ふいに野太い声が振ってきた。
「いいえ!」
アンメリーが強く反対した。
「私たちはあなた方を排除するために来たのよ。もうあなた達の手先にはならない」
アンメリーから話を聞いた三人とも今度はうなずくしかなかった。特にアイリーンと会えると思っていたカイルはこの思わぬ展開にうなずくしかなかった。
“そうか。ではついでに今の世界を見ておくのだな・・・”
映像が四人の前に出てきた。墓からどろどろとした物体が出てくる。いや、物体ではない死者だ。その死者が世界をつぶしていく。
“これがお前達のした所業。心して次の世代に伝えよ”
そんな言葉にシャインは反抗した。
「んなもん。お前を倒せばなくなるさ。とっととでてきて勝負しろ」
血気盛んなシャインも少々言いすぎだと思ったが、それぐらいの気持ちでないとやっていられない。威圧する者と対峙するためには勇気が必要だった。それにフェリアナを守るためだ。絶対に不幸せにはしない、階段を下りるときに自分に誓っていた。フェリアナを幸せにすると。
“あいにく私には体が無い。この空間自体が私だ。この空間を無事出ればお前達の世界を守ろう”
「そんなの無理だわ」
アンメリーが小さくつぶやき、座り込んでしまった。
“そうだ。絶望を私に与えよ。聖杯の乙女よ。そうすれば私はもっと強くなる”
「てめーの活気与えるために生きてるんじゃねー。俺は絶対にフェリアナを幸せにするんだっっ」
シャインはいつしか光の剣を持っていた。神々しい光の剣。そこには少年の一途な想いと聖なる力が備わっていた。一瞬闇の気配がひるんだように思えた。
“破壊は創造の証。思うようにしなさい”
別の声が振ってくる。
“やめろ。私を消滅させる気か?”
“さぁ? あなたはすぐに復活するわ。神の心は誰にでもあるのだから。でもこの少年達のように闇に翻弄されながらも懸命に生きている。そのことを前にしては大義名分も地に落ちるわね”
挑発するかのような声が降りてきて光が差し込んできた。
四人は何が起こっているのかわからなかった。闇の空間に光が?
これは救いなのか。罠なのか。光にすすめられるとおりに闇を破壊すればいいのか?
「うそばっかりいわないでっ。私のお父さんもお母さんも殺したくせにっ。何が聖杯よ。私たちはあんたたちに付き合ってる余裕なんてないのよっ」
アンメリーはいつしか手にしていた聖杯を投げつけた。光と闇の両方から悲鳴が上がる。
“やはり、癒しの神は役に立たないのよ。聖杯なんか持たせなくて良かったのよ”
光が言う。
「ずいぶん勝手な言い草ね。癒しの神はあなた達に捨てられて涙を流しているのに。このアイリーンのように・・・。今だってどこかで泣いているわ。私は彼女の気持ちのほうが分かるわね。家族を大事にしないとろくな人間にならないのよ。その事をよく考えて。どうせあなたたちはまた人間の命がほしいんでしょ? 一人分はあるわよ。どう? 滅ぼして手に入らないか一人だけもらってこの世界を続けさせるか」
光と闇は沈黙する。考え込んでいるようだ。
“それじゃ、一人だけもらうことにするわ”
“そうだな”
崇高なはずの神だが、人間以下になりさがった神が言う。
「フェリアナ?」
なにか嫌な予感がしてシャインが呼びかける。
ずいっと声をかける暇も与えずフェリアナは光と闇の間に出てきた。その間に薄暗い穴ができあがっていた。フェリアナはそれを確認すると身を投じた。シャインが止める暇もなかった。そこにはもうフェリアナの姿がなかった。残されたのは安らぎの宝玉のみ。それは銀色に輝き、まるでフェリアナの涙が寄せ集まったようだった。
「フェリアナーッ!!」
シャインは自分でもわけもわからずフェリアナの名前を叫んでいた。だが、答えは返ってこなかった。
「こんなもののためにっ」
シャインは光の剣を振り上げると宝玉に振り落とした。宝玉から銀色の光があふれ出し三人は光に包まれた。いつしか三人はバースの船の甲板にいた。
「・・・フェリアナ」
泣きそうになるのをシャインはこらえた。泣けばせっかくのフェリアナの気持ちが台無しになる。フェリアナは自分たちを救う道として身を投げた。使命は消えた。もう千年王国の伝承も消えていくだろう。自分たちがそれを消してまわればいい。
フェリアナ・・・とただ、がくりとひざを突いてシャインは海を見つめながら名前を連呼していた。バースたちはそのシャインの悲痛な姿に声をかけることも出来なかった。
“シャイン。その剣を空に向けて”
優しい女性の声が落ちてくる。四人を導いた声だ。
「誰なんだ? あんたは。あんたのせいでフェリアナはっ」
“私はアイリーン。そして癒しの聖具の継承者。前の時代の癒しの聖具の継承者がいるために私は命を落としてしまったのよ”
その言葉にクーグルたちは驚きのあまり体をこわばらせた。まさかアイリーンが癒しの聖具の継承者とは・・・。
神なんて・・・と思うもシャインは一縷の望みをかけて剣をかざした。四人を導いた彼女なら信じてもいいと思ったからだ。ぱぁっと金色の光が辺りを制した。ひときわ強まった後、やがて光が静まってくる。まぶしさにくらんだ目をぱちぱちさせているとちょうどそこにフェリアナの体が空中に横たわっていた。シャインが近づいて手を差し出すとどざりとフェリアナの体が落ちた。ひざまづいて抱えると軽くフェリアナの頬をたたく。うっすらとフェリアナはまぶたを開けた。
「え? もう天国?」
「とぼけている場合じゃないって」
シャインは涙声になってフェリアナを強く抱きしめた。
「しゃ、シャイン? え? ええ? ぎゃーやめてよ。恥ずかしいじゃないのー」
フェリアナがばたばたと手足を動かすがシャインはしっかりと抱きしめて離さない。
「いいさ。フェリアナは俺の未来の嫁さんだもん」
「いつそんなこと決めたのよ」
「今」
「バカ」
ぼかっとシャインの頭を殴る。
いつもと変わらない漫才にみな笑いを禁じえない。
そんななかカイルはクーグルに頭を下げていた。
「目を覚ましたよ。アイリーンはいつも私たちのそばにいる。今もずっと。だから私は幸せになる。彼女が喜ぶように・・・」
カイルとクーグルは一点を見つめた。そこには体の無いアイリーンの姿が見えていた。彼女は嬉しそうに微笑んでいる。さぁ、っとクーグル達の間に風が通り抜けた。そして彼女の姿は消えた。
「アン。無事だったのか?」
バースはアンメリーに近づくとぎゅっとバカ力で抱きしめた。テレ屋なアンメリーはばたばたとフェリアナと同じような反応をするがこれまた離してもらえない。しばらくしてバースはアンメリーを解放するとひざづいた。
「こんなあらくれでよかったら俺と結婚してくれ」
いきなりの展開に一同驚く。アンメリーは申し訳なさそうにカイルを見ると彼はうなずく。彼のアイリーンは彼女ではないのだ。そしてアイリーンにこだわらないとカイルとクーグルは決めたのだから止める理由は無い。
「・・・ですけれど」
「何?」
バースが問い返す。
「私、二重人格みたいですけれどいいですか?」
「ああ、もちろん!」
バースはまたアンメリーを強く抱きしめた。アンメリーの手がおずおずとバースを抱きしめる。感動的な場面に拍手が起きる。そこへ食欲だけの男シャインが雰囲気を台無しにする。
「今日はめでたいから宴会しよー」
「バカっ。そんな無駄なこと許しません!!」
「えー!! 腹減ったよー」
「セフィロトの杖を受けなさい。成敗!!」
いつもとかわらない少年少女の光景。
そのやりとりを三人の神々は微笑ましく見ていた。
“やっと独り立ちしてくれたわね”
“手のかかる世界だ”
“今回はもう大波乱ですね。もうこれ以上の無理は嫌ですからね”
静かに事の次第を見守っていた娘神のモイヤが言う。
“ああ”
神々は歩き出した人間界を見つめていた。もうこれからは神話の世界ではない。人間の世界になるのだ。すべて人間が導いていく世界。神々が望んでいた世界。
神々も少年少女たちも忘れないだろう。
大切なものをくれた日々を・・・。
銀のしずく 金のかがやき 完
これで本編は終了しました。サイドストーリーがあるのでまた乗せたいと思います。
よかったらまた読んでください。今までよんでくださってありがとうございました。




